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愛犬へのまなざしはデザインにも。アメリカのドッグフード事情

私の住むイリノイ州では、犬と暮らす人を本当によく見かけます。週末の公園では、ドッグランの芝生の上をボールを追って走る犬たちと、それを見守る飼い主さんたちの笑顔。コーヒー片手にのんびり談笑する姿は、まさに「犬中心の休日」といってもいい光景です。

スーパーやドラッグストア、カフェでも犬を連れて入店する人が多く、最初は驚きました。日本だと店の外につなぐイメージがありますが、アメリカでは一緒に買い物するのも当たり前です。たとえ入店禁止の店でも、入口前に犬用の水飲み皿が置いてあり、「Welcome,dogs!」と書かれていることもあります。

さて、そんな飼い犬天国アメリカでは、ドッグフードも実に多彩です。日本のように「安心・安全」を重視する傾向はありますが、それに加えてデザイン性とストーリー性も非常に重視されています。

モダンでナチュラルなプライベートブランド:「Kindfull」

まず紹介したいのは、全米チェーンのスーパー「Target」が展開する自社ブランド「Kindfull(カインドフル)」です。獣医の監修のもとで開発されたペットフードブランドで、価格はお手頃でも品質は折り紙付きです。しかも「食べなかったら返金します」という潔さで、大手チェーンならではの自信が感じられます。

もちろんパッケージも見逃せません(画像1)。オフホワイトのマットな質感に、切り絵のようなチキンやビーフのイラストがあり、配色も控えめで大人っぽいかわいさです。たくさんのペットフードが並ぶ棚の中にいても、一目で「ちょっと意識が違うな」と感じるセンスです。「うちの子にも、ハイセンスなものを」と思う飼い主さんたちの心をつかんで離さない、そんなデザインです。

Kindfullのペットフードパッケージ

(画像1)

ポップでユーモラスなペットサプリメント:「Native Pet」

次にご紹介するのは、サプリメントブランドの「Native Pet(ネイティブペット)」です。こちらは犬の健康をトータルでサポートする高品質ブランドで、腸内環境を整えるもの、皮膚や関節の健康を守るもの、さらにはメンタルに働きかけるストレスケアまで。人間顔負けのラインナップです。

パッケージデザインもご覧の通り個性的です(画像2)。犬のイラストはどれも愛嬌があり、ユーモアが細部にまで効いています。たとえば画像の中の一番右、プロバイオテックサプリのロゴ「native」の"i"の部分をよーく見ると、…犬のフンが!そんな遊び心も、このブランドの人気の秘密です。

サプリなのに生活雑貨のようにおしゃれで、キッチンに置いてもインテリアを損ねません。むしろ飾っておきたくなるかもしれません。

Native Petのペットフードパッケージ

(画像2)

このブランドのおしゃれさはパッケージデザインだけにとどまらず、散歩のお供に使えそうなキャップやトートバッグなどのアパレルグッズにも展開されています。

ペットにも環境意識を:「Portland Pet Food Company」「Shameless Pets」

アメリカでは「環境にやさしいペットフード」も注目を集めています(画像3左)。
たとえば「Portland Pet Food Company(ポートランドペットフードカンパニー)」は、人間用の高品質食材のうち、形が不揃いだったり少量過ぎたりして販売できなかったものをアップサイクルして犬用ビスケットにしています。

さらに地元のクラフトビール醸造所と提携しており、使用済み穀物を活用しています。栄養豊富で無駄がないだけでなく、地域経済の循環にも一役買っているわけです。
シンプルなクラフト感あふれるパッケージも、カラフルなペットフード売場の中で、逆にひときわ目立ちます。

もうひとつ、「Shameless Pets(シェイムレスペッツ)」も同じアップサイクル系ブランドです(画像3右)。
「恥知らずのペットたち」という大胆な名前ですが、パッケージの犬たちは堂々とした笑顔。「恥知らず」なんて言いながら、実は社会問題の解決に貢献していて誇らしげな犬たちがなんともチャーミングです。
どちらのブランドも秋にはパンプキン味を出すなど、シーズン商品もまめに販売しています。まさに「飼い主さんと一緒に季節感を味わう」発想が素敵ですね。

Portland Pet Food CompanyとShameless Petsのペットフードパッケージ

(画像3)

飼い主さんとティータイム?こだわりスイーツ:「Three Dog Bakery」「Frosty Paws」「Dogsters」

「Three Dog Bakery(スリードッグベーカリー)」は、まるで街で評判のカフェのスイーツのような犬用お菓子ブランドです。カラフルなアイシングやサンドクッキーは、思わず「え、これ犬用?」と二度見してしまうほどのかわいらしさです。
なかでも人気のクッキーサンドは、全米で愛される「オレオ」を思わせる見た目で、飼い主さんが自分の好きなお菓子を、愛犬と一緒に楽しみたいという気持ちが感じられます(画像4)。

Three Dog Bakeryのペットフードパッケージ

(画像4)

さらに驚かされるのが、犬用アイスクリームの存在です。私の近所のスーパーでは、人間用アイスと同じ冷凍棚に並んでいて、うっかり間違えてしまいそうなほど自然に棚に馴染んでいます。
「Frosty Paws(フロスティ・ポーズ)」のパッケージには、大きくプリントされた犬の写真が目を引きます。そのため、一見キャラクター商品にも見え、人間用アイスと見分けがつかないほどです(画像5)。フレーバーはバニラ味で、もし間違って食べてしまっても意外とおいしく感じそうです。

Frosty Pawsのペット用アイスパッケージ

(画像5)

そしてもう一つ、個性的なのが「Dogsters(ドッグスターズ)」です。こちらはなんと「チーズ&ベーコン味」のアイス!
犬にとってはごちそうのような味ですが、人間から見てもアイスのフレーバーとしては珍しく、どんな味なのか試してみたくなる興味を引きます(画像6)。

Dogstersのペット用アイスパッケージ

(画像6)

おやつ感覚でおくすり飲んでね:「Pillbuddy Naturals」

最後に紹介するのは、ちょっとユニークな「Pillbuddy Naturals(ピルバディ ナチュラルズ)」。日本にも似たような商品があるので、想像がつく方もいるかもしれません。これは薬そのものではなく、柔らかいクッキー状のおやつで、薬を中に入れて犬に食べさせるためのものです(画像7)。

投薬が苦手な犬でも、おやつだと思ってパクッと食べてくれるという仕掛けです。こうした「お薬に近い」商品のパッケージというと、少し健康寄りの表現が定番ですよね。しかし、この商品は犬用とは思えないようなチキンの丸焼きのシズルカットが入っているのが面白いです。アメリカのペットフードのパッケージデザインでは、まず飼い主さんの食欲をそそるのがポイントかもしれません。さらに、「とうもろこし・小麦・大豆不使用」と、アメリカの食に関する健康志向をそのまま反映しているのも特徴です。人間が避ける食材は、ペットにも避けさせたいという、徹底したこだわりが感じられます。

そしてもう一つ、ドッグフードに限らない話なのですが、アメリカならではの小ネタを紹介させてください。パッケージ右上にある「New Look Coming Soon(新デザイン近日登場)」のマークにご注目ください。「中身ではなくて、パッケージだけが変わりました」という表示は日常的によく目にしますが、こちらの商品はわざわざ念入りにパッケージリニューアルの「予告」まで印刷して伝えたがるところが面白いです。日本ではあまり見かけない表現で、そんなところにもお国柄やブランドの考え方の違いが感じられます。

Pillbuddy Naturalsのペットフードパッケージ

(画像7)

おわりに

アメリカのドッグフードを見ると「食べさせること」だけでなく、「どう暮らすか」、「どう一緒に楽しむか」まで考え抜かれているのがよくわかります。健康・環境・デザイン、そして飼い主さんとの絆。そのすべてを大切にしている姿勢が伝わってきます。
日本でも愛犬に向ける愛情の深さは同じだと思いますが、アメリカのドッグフードには、「愛犬と、どんな時間を過ごしたいか」を重視しているのが、パッケージにも商品づくりにも、しっかりと込められているように感じます。

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