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気付けばロコフード化?アメリカ式インスタントラーメン

アメリカでのラーメン人気は、日本でもバラエティ番組などで紹介されているので、ご存じの方も多いでしょう。でも「アメリカでインスタントラーメンを買う」と聞くと、「カップヌードルとマルちゃんのアメリカ版があるんでしょ?」という印象を持たれるのではないでしょうか。

確かに、イリノイ州の大学の学食や購買に行くと、マルちゃんのカップ麺を手にレジに並ぶ学生も多く、その様子は日本の大学とほとんど変わりません。しかも、彼らはそれらカップ麺の総称として「Maru-chan」と呼んでいるのですから驚きです。

しかしここ数年は、新興ブランド、健康志向、クラフト系などの新コンセプトが多数参入し、日本の影響下から"独り立ち"してローカルフードとして独自に進化中です。
今回は、イリノイ州で実際に買えるラインナップを中心に、現地からアップデートした情報をお届けします。

1.アメリカ的ラーメンヌードルの世界

まず最初に紹介したいのが、非アジア系ブランドが作るラーメンヌードルです。日本人としては「ラーメン」と「ヌードル」の意味、被ってない?と思わずツッコミたくなるのですが、アメリカでは"ラーメン"というひとつの料理名が完全に概念化した証拠なのかもしれません。

画像左はアメリカではメキシカン食品ブランドでおなじみ「OLD EL PASO」で、右は冷食ピザで定番の「Totino’s」(画像1)。この両ブランドが出しているのは、なんとファヒータ味(タコス風のメキシコ料理)とピザ味のラーメンヌードルです。

ファヒータ味とピザ味のラーメンヌードル

(画像1)

作り方は、カップに水を注いで電子レンジへ。パンチのある味に合わせて太麺なのが特徴で、まさに"アメリカの食の文脈の中で作られたラーメン"という雰囲気です。

2.健康志向・サステナ系の波はインスタントラーメンにも

ジャンクフードと思われがちなインスタントラーメンですが、アメリカではヘルシー&サステナブル志向の波が完全にこの棚にも到達しています。

●LOTUS FOODS(RICE RAMEN)

オーガニック食品コーナーの定番ブランド「ロータスフーズ」は、古代米、ブラウンライス、グルテンフリー米など、種類の違う米で麺を作り分けるこだわりぶりで、健康食としての佇まいはピカイチです。(画像2)

ロータスフーズのライスラーメン

(画像2)

公式サイトでは、ラーメンとして食べるだけでなく、茹でた麺を焼いて"パンのようにして野菜を挟む"という、ラーメンバーガーという自由すぎるレシピも紹介されています。独創的ではありますが、ラーメンの人気を考えればアメリカ国民食であるハンバーガーとの組み合わせは当然の帰結なのかもしれません。

●Ocean’s HALO

海藻系の自然食品ブランド「オーシャンズハロ」のラーメンのラインナップは、麺とスープを別売りで組み合わせる独自スタイル展開です(画像3)。

麺とスープを別売りで組み合わせるラーメン

(画像3)

オーガニックやヴィーガン対応のフレーバーが揃い、"自分の食ルールに合わせて選べる"設計は、制限が多くなりがちなヴィーガンの人にも嬉しい設計です(画像4)。
パッケージや世界観からしても、環境意識の高さが伝わるブランドです。

さまざまなフレーバーが揃っている

(画像4)

●IMMI

ローカーボ・高たんぱく・プラントベースを売りにする新興ブランド「インミ」は、インパクトのある黄色を基調にしたパッケージ展開です(図5)。個性的なシズルカットが目をひきます。健康系インスタントラーメンのブランドとして、今後存在感を増すのではないでしょうか。

インミのインパクトのある黄色いパッケージのラーメン

(画像5)

●Dr.McDougall’s

「ドクターズブランド」といえばコスメですが、インスタントラーメンにもドクターのお墨付きが(図6)。「ドクターマクドーガルズ」は、完全ヴィーガンで、オーガニック、オイルフリー、GMOフリー、グルテンフリーです。ここまで来るとだんだん「インスタント麺=ヘルスコンシャス食品」という位置づけになってきているような気配がしますね。

完全ヴィーガン向けのインスタントラーメン

(画像6)

3.クラフト系ラーメンという新ジャンルの登場

アメリカで特に勢いを感じるのが、クラフト系ラーメンです。その代表格ブランド「Mike’s Mighty Good」の、ラーメンバー品質を目指したというコンセプトはいかにもアメリカらしいです(図7)。日本で言うならラーメンの名店品質を目指した、と言ったような感じでしょうか。ラインナップも豊富で、袋麺タイプもカップ麺タイプも取り揃えています。

フレーバー展開も充実しています。「ポーク豚骨」味という、これまた日本人的には「意味、被ってない?」と思う表現もありますが、それだけ"TONKOTSU"が英語圏でも通じるフレーバー名称になっているとも言えます。クラフトビールやクラフトチョコレートと同じ文脈で語れるようなクラフト系の流れ、まさにアメリカ的進化形インスタントラーメンと言えるでしょう。

クラフト系ラーメンのパッケージ

(画像7)

4.日系ブランドは"アメリカ仕様"へ変身中

最後に、日系ブランドの代表ブランドの一つ、「カップヌードル」の今の様子を押さえておきましょう。単なるアメリカ向け輸出版ではなく、アメリカ市場に合わせた商品企画が進んでいます。

●カップヌードル(3連パック)

日本と同じようにカップ単品の商品もあるのですが、私の住む街のスーパーではスリーブ入りの3連パック(図7)の方がよく売れている印象があります。アメリカではまとめ買い・箱買いが基本なので、単品よりも"ファミリー向けのストック前提"の形が支持されているのだと思います。

そしてパッケージには、電子レンジ調理対応・紙カップ・MSG不使用といった特徴が、ロゴや調理シーンと同じくらい大きく配置されています(画像8)。
ここがアメリカの消費者に刺さるポイントであると、かなり明確に分析した上での訴求なのでしょう。

カップヌードル(3連パック)

(画像8)

また、日本食をイメージさせるからか、アメリカのインスタントラーメンのシズルカットでも箸が写っている場合が多いのですが、このアメリカ版ではフォークが主役です。日本でもカップヌードルといえばフォーク、というイメージがあるのですが、ここは自然にアメリカに馴染んだ形ですね。
ロゴの雰囲気も含めて、"日本ブランドのアメリカ版"というより「アメリカのラーメン商品」として受け取られているのでは…と感じるほど、完全にローカライズされた印象です。

●カップヌードル・プロテイン

高たんぱく訴求はアメリカでは圧倒的に重要となっています。高タンパクシリーズのカップヌードルは日本にも売られていると思うのですが、より直接的に押し出しているのがアメリカのマーケットにフィットしていると思います。
日本では、スタンダードな商品に対してプレミアム版に金を使うことが多いと思いますが、こちらは惜しみなくプロテインシリーズに使っていますね(画像9)。

カップヌードル・プロテイン

(画像9)

今回はカップヌードルブランドの展開をご紹介しましたが、マルちゃんブランドもアメリカ独自の商品展開で成功しており、日系ブランドは「オリジナルの輸出」ではなく、"アメリカ市場で戦うための再構築"をしているのが実際のところのようです。

5.日米で分かれる"辛さ"の見せ方

カップヌードルではありませんが、同じ日清から最近アメリカのスーパーに並び始めた「檄(GEKI)」は、日本で「ポックンミョン」として売られている企画品と同じ流れのものだと思われます(画像10)。

日本版が"韓国風"の世界観を分かりやすく押し出しているのに対し、アメリカ版ではその部分をあえて前面に出さず、「ガツンと強い辛さ」と「濃い味の満足感」という、こちらの市場で受けるポイントにぐっと寄せて仕上げている印象があります。シズルカットも日本とは違う調理例になっているのも面白いところです。

つまり、元の企画をそのまま輸出するのではなく、アメリカの棚で"何が刺さるか"を丁寧に読み取った上で、ブランドの見せ方ごと作り直しているわけです。
それにしても、日米共通で登場しているこの謎のキャラクター、視線が妙に気になります…(笑)。

アメリカのスーパーに並ぶ、檄(GEKI)

(画像10)

6.最後に

いまアメリカで広がっているインスタントラーメンは、この国の生活に溶け込みながら、多様な方向に伸びているカテゴリーだと感じます。ここから先の進化は日本の後追いではなく、まったく別の地平に向かうのではないでしょうか。

特に健康志向やヴィーガン対応、機能性の強化など、イメージを塗り替える方向に伸びつつあるのは、アメリカらしい潮流です。
そのうち、アメリカ発のインスタントラーメンが日本に逆輸入されて話題になる日も来るかもしれませんね。今はちょうど、その前夜のにぎわいを売り場で観察できる貴重なタイミングなのだと思います。

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