ビジネスパーソンが読むメディア。マーケティング、セールスプロモーション、パッケージの企画・開発に役立つアイデアと最新の情報を、世界中から配信。

視覚障がい者の買い物を支援するパッケージ。欧米で広がる取り組みの今

パッケージは商品を包むだけでなく、ブランドの顔であり、消費者にとって重要な情報源でもあります。
デザインや機能性が求められることはもちろんですが、「何が入っているのか」「消費期限はいつか」「栄養素やアレルギー情報はどうか」といった基本的な情報を伝える役割も欠かせません。ところが、視覚障がいを持つ人々にとって、こうした情報にアクセスするのは容易ではありません。点字が印刷されたパッケージも存在しますが、情報源の多くは視覚に依存しているのが現状です。しかし近年、こうした「情報の壁」を克服しようとする取り組みが世界中で注目を集めています。

ナビレンスが視覚障がい者向けパッケージの未来を切り開く

特に欧米を中心に、視覚障がい者支援のためのスマートフォンアプリ「ナビレンス(Navilens)」を活用した取り組みが大きな広がりを見せています。ナビレンスはスペインの企業と大学が共同で開発したアプリで、特殊な正方形のコードをアプリで読み取ることで、利用者は素早く音声案内を受けることができます。最大20メートル先からでもコードを読み取ることができ、その方向を知ることもできるため、位置情報の把握にも役立ちます。

ケロッグ社のシリアル。パッケージ左下にナビレンスのコードがある。

ケロッグ社のシリアル。パッケージ左下にナビレンスのコードがある。

シリアルのパッケージの背面。

シリアルのパッケージの背面。

つまり、パッケージにナビレンスのコードを印刷することにより、視覚障がい者は商品名や内容物、消費期限、栄養情報などを音声で知ることができるだけでなく、スーパーなどでその商品の位置情報も確認することができる画期的なサービスです。

アプリで読み取ると音で方角を教えてくれる。

アプリで読み取ると音で方角を教えてくれる。

さらに、ナビレンスは40カ国以上の言語に翻訳が可能で、どこにいても自分の母国語で音声案内を受けることができます。そのため、視覚障がい者や弱視者だけでなく、外国人への言語支援ツールとしても活躍が期待されています。

英語の商品であっても、日本語で読み上げてくれるので便利。

英語の商品であっても、日本語で読み上げてくれるので便利。

ケロッグの自動翻訳の内容

こちらは自動翻訳の内容です。

点字が読めない人にも。広がる欧州での導入

アメリカでは、ケロッグ社が2020年に初めてナビレンスを導入し、現在では同社のすべてのシリアル製品にナビレンスのコードが印刷されています。その他にも洗剤ブランドALLなども導入を始めていますが、ヨーロッパでは、コカ・コーラ、アリエール、パンテーン、ニベア、ネスレなど、多くの企業がナビレンスを採用しています。

特に導入が進んでいるイギリスでは、医薬品のパッケージに点字で医薬品名を表示することが義務付けられているという背景もあり、表示のないその他の食品パッケージなどへのアクセシビリティ促進に役立っているようです。また、点字を利用している視覚障がい者はわずか10%に過ぎないというデータ(英国王立盲人協会(RNIB)調べ)もあり、点字を読めない層への代替ツールとしても活躍しています。

パッケージはユニバーサルデザインの時代へ

こうしたサービスは定着することが重要になってきますが、利用者が特定の層に限られると、大規模な普及につながりづらいこともあります。ナビレンスが世界中で普及した背景には、その画期的なサービス内容だけでなく、さまざまな人々が利用できるユニバーサルデザインである点も大きな要因です。

ナビレンスは、視覚障がい者以外の人も使用できるVR(拡張現実)を使った「Navilens GO」というアプリも開発しており、このアプリでナビレンスと同じコードを読み取ると、さまざまな視覚情報を得ることができます。例えば目の前の棚に並ぶ商品を、アレルギー成分など特定の条件でフィルターをかけることができ、消費者は自分に適した商品を素早く選ぶことができます。

特定の食物を避けたい人にとって、スーパーで多くの商品から選ぶことは時間がかかり難しいですが、この機能を使えば簡単に見つけることができ、買い物の選択肢が広がります。多様な用途に使えることからその汎用性の高さもこのアプリの大きな魅力で、ナビレンスはパッケージだけでなく、交通機関や病院、ショッピング施設などでも利用されています。

「Navilens GO」イメージ

「Navilens GO」イメージ

▼「Navilens GO」説明動画はこちら
https://www.youtube.com/watch?v=Qg6ao3M3Hgc
VRを使ったフィルタリング機能。どの商品に何のアレルゲンがあるかすぐにわかります。

おわりに

2023年のWHOの調査によると、世界には少なくとも22億人が視力障がいを抱えていると言われています。日本では、厚生労働省の「生活のしづらさなどに関する調査(全国在宅障がい児・者等実態調査)」によれば、2022年時点で視覚障がい者は27万3千人にのぼるとされています。今後、このようなサービスはますます必要とされるでしょう。

日本でもナビレンスは全国の多くの施設に導入されており、2025年の大阪・関西万博でも採用されたことで注目を集めました。しかし、日本ではまだパッケージへの導入は進んでいません。こうしたパッケージデザインの進化はインクルーシブな社会を実現するために不可欠であり、日本での広がりにも大きな期待が寄せられています。

▼編集部おすすめ記事

アクティブでインテリジェントが拓く近未来のパッケージ

このライターの記事

Top