その場所でしか体験できない独自のコンセプトを持つリテール店が世界で人気となっています。ニューヨークで今、最も勢いのあるお店の一つが、意外にも老舗のおもちゃ店です。ロックフェラーセンターに構える、ニューヨークの老舗おもちゃ屋「FAO Schwarz」は、単におもちゃを販売するショップではありません。訪れること自体が目的となる、まるでアトラクションのような体験が楽しめる店舗に変身しています。子どもはもちろん、大人までも惹きつける、面白いお店になっています。
また、おしゃれなデザイン雑貨やインテリアを扱うことで知られる、有名なニューヨーク近代美術館「MoMA」のデザインストアでは、近年人気となっている「食」をモチーフにした面白い雑貨を集め、グローサリーストアに見立てた「MoMA Mart」という面白いコンセプトのポップアップストアを開設しています。
そこで今回は、ニューヨークで話題になっているユニークなコンセプトのリテール店を紹介します。
おもちゃが大人にも人気に
ニューヨークを代表するおもちゃ屋と言えば、1862年創業の「FAO Schwarz」です。トム・ハンクス主演の映画「ビッグ(Big)」、ニューヨークを舞台にした映画「ホーム・アローン2(Home Alone 2:Lost in New York) 」などにも登場する、世界的に知られるおもちゃブランドです。しかし一時は経営破綻を経験し、セントラルパーク近くの五番街に構えていた象徴的な巨大店舗は閉店。その後、2018年にロックフェラーセンターに現在の店舗がオープンしました。
「FAO Schwarz」は、実店舗ならではの「楽しい」を体験できる個性的なコンセプトストアとなっています。近年、特にパンデミック以降のおもちゃ人気を受け、子どもはもちろん、「キダルト」と呼ばれる年齢に縛られず可愛いものを楽しむ大人たちにも大人気となっています。
アミューズメントパークのような世界観
店舗に到着すると、まず出迎えてくれるのが、おもちゃの兵隊に扮したスタッフたちです。これは「FAO Schwarz」の伝統のひとつで、店舗の場所が変わっても、この習慣は受け継がれています。まるでおもちゃの世界に入り込んだように、笑顔の兵隊たちに迎えられる体験は、訪れた人々を虜にしています。

「FAO Schwarz」は、夢のような世界観を演出するのがとても上手です。店内には巨大なぬいぐるみが並び、車に乗った大きなうさぎや、サファリを思わせるシマウマの親子など、思わず目を奪われる演出がさまざまな場所で見られます。

店内は、おもちゃ売り場というよりは、まるでアミューズメントパークのようです。おもちゃ屋のスタッフは、みんなパフォーマーのように振る舞い、スプレーをくるくると器用に操るパフォーマンスや、ブーメラン投げ、トランプの手品など店内各所でマジシャンのようにパフォーマンスを披露しています。
さらに、宙には、紙飛行機が飛んでいるかと思えば、次はドローンが飛んでくるなど、来店客は時間を忘れて、この世界観に引き込まれていきます。
これらはいわゆる実演販売ですが、このお店のスタッフは、決して物を売り込んできません。売ることよりも楽しませることを重視しており、遊びながらいろいろなことを教えてくれます。とても居心地のいいお店なのです。

ブランドの象徴
「FAO Schwarz」の店内には、インタラクティブに遊べるコーナーが点在していますが、中でも有名なものが「Big Piano」です。まるで自分が小人になったように、大きなピアノの鍵盤の上に乗って足で演奏することができます。映画『BIG』(1988年)のシーンで有名になり、今でも人気のアトラクションになっています。

「FAO Schwarz」のショッピングバッグは、一目見ただけでわかる秀逸なデザインです。「Big Piano」のピアノの鍵盤をモチーフにした、「FAO Schwarz」のブランドを象徴するデザインになっています。ショッピングバッグを手に街を歩く帰り道さえも、特別なギフトを選んだ幸せな余韻を楽しめます。

世界で一つのぬいぐるみ作り
取り扱い商品の中でも特に多いのはぬいぐるみで、「FAO Schwarz」ブランドをはじめ、世界のプレミアムブランドの商品が揃っています。
体験型で有名なアメリカの人気ぬいぐるみブランド、「Build-A-Bear Workshop」のコーナーもあります。「Build-A-Bear Workshop」は、自分の選んだぬいぐるみを、目の前で作ってもらうことができます。ぬいぐるみの綿を詰めるところから始まり、出来上がるプロセスも体験として楽しめます。

仕上げの工程では、思いを込めたハートや声なども一緒に詰めてもらうことができ、目の前で世界で一つだけのぬいぐるみが出来上がる、心に残る体験をすることができます。さらに、洋服やアクセサリーを選び、ぬいぐるみをより自分らしく仕上げることができます。

コラボで楽しいダイナー体験
さまざまな体験ができる「FAO Schwarz」で今一番ホットなアトラクションとなっているのが、「Jellycat Diner」です。「Jellycat Diner」は、「FAO Schwarz」とイギリス発のぬいぐるみブランド、「Jellycat」のコラボの体験型イベントで、アメリカらしいダイナーを模したインタラクティブな体験を楽しむことができます。

「Jellycat Diner」は、完全予約制で、発売と同時に予約が埋まってしまうほどの大人気アトラクションです。
パンケーキやハンバーガー、ミルクシェイクなど、ダイナーをイメージしたメニューの中から好きなものをカウンターで注文します。スタッフが目の前で調理を進める中、お客さんも一緒に参加しながら料理を完成させていきます。インタラクティブな体験が面白く、ちょうどSNSの短い動画と相性がよいため、拡散され、注目を集めやすく、さらなる人気を呼んでいます。
「Jellycat Diner」では、パンケーキやハンバーガー、ピンクのミルクシェイク、チーズケーキなど、入手困難な「Jellycat」のぬいぐるみを購入できます。さらに、限定の紙袋やピン、シールといった特別なアイテムを用意することで、ここでしか体験できない特別感を演出しています。

「Jellycat Diner」と同様のコンセプトの体験は、ロンドンの「Selfridges」での「Jellycat Fish & Chips Experience」や、パリの「Galeries Lafayette」での「Jellycat Patisserie Experience」、さらに上海と北京での「Jellycat Cafe」など、世界各地で行われており、人気となっています。
SNSなどで人気が高まっている「Jellycat」は、1999年にイギリスで創業した、ぬいぐるみを中心とするおもちゃブランドです。クマやウサギをはじめとする定番の動物シリーズに加え、プレッツェルやピーチなど日常のあらゆるものをぬいぐるみとして表現する「Amuseable」と呼ばれるシリーズも展開しています。
可愛い多様なデザインのプレミアム感のある商品に加え、話題性のある体験イベントの開催や、限定商品の発売、品薄感を出すなど、ファッションブランドに近いマーケティングを行っているのも特徴的で、このようなブランド戦略により、コレクター心理を刺激され、子どもだけでなく若者層を中心に大人にも人気となっています。ぬいぐるみの価格は1つ30~50ドル前後で、コレクタブルとしては比較的手頃な値段帯なのも人気の秘訣です。
また「Jellycat」は、最近の人気を受けてニューヨークでは「FAO Schwarz」など、パートナーとする小売ブランドを厳選しており、ブランドごとに異なる商品や限定品を展開し、それぞれのブランド価値を高めるコラボを行っています。
「FAO Schwarz」では、「Jellycat Diner」に加え、「Jellycat」専用のコーナーがあり、さまざまなぬいぐるみやバッグチャームなどが販売されています。「FAO Schwarz」はオンラインストアもありますが、「Jellycat」の多くの商品は店舗限定で販売されており、来店を促すきっかけとなっています。さまざまな商品が頻繁に入荷され、特に人気商品は回転が早いため、足繁く店舗を訪れる「Jellycat」ファンも多くなっています。

一足早い子どものビューティ体験
「FAO-Abulous Boutique」では、子ども向けの特別なビューティ体験を提供しています。大人のメイクアップスタジオを思わせる本格的な体験ができるコーナーで、子ども用のメイクセットも用意されています。子ども向けでありながら演出に手を抜くことなく、キラキラ感のあるスターのような気分が味わえる素敵な空間になっています。

アートなグローサリーストア風ポップアップ
ユニークな世界観を演出するコンセプトストアのもう一つの例が、ニューヨークを代表する美術館の一つ、ニューヨーク近代美術館の「MoMA Design Store」です。
デザイン性の高い雑貨やインテリアを販売するデザインストアでは、現在スーパーマーケットをモチーフにしたポップアップ「MoMA Mart」が開催されています。

ニューヨーク近代美術館でもおなじみのアーティストたちの作品、アンディ・ウォーホルのキャンベルスープや、クレス・オルデンバーグのソフトスカルプチャーのハンバーガーなどに代表されるように、日常の何気ないモチーフをアートにしてしまうポップアートが20世紀中頃に流行しましたが、近年、そんなポップアートに影響を受けた食品など日用品をモチーフにした雑貨が数多く登場し、人気になっています。
「MoMA Mart」では、さまざまな食品やパッケージを模したポップで面白いデザインの雑貨が並び、まるでグローサリーストアにやって来たようなユニークな体験を楽しむことができます。

食のデザイン雑貨をキュレーション
まるで本物のような野菜やフルーツは、全てキャンドルでできています。
他にも、パンや牛乳、チーズ、缶詰、ケーキやお菓子などさまざまな食品を模したぬいぐるみやアクセサリー、容器、ポーチ、キッチン用品、靴下、傘、さらにはランプや椅子まで面白いアイデアの雑貨が店内に並んでいます。

ここでも特に人気となっているのが、「FAO Schwarz」でも登場していた、「Jellycat」の食べ物をモチーフとした「Amuseable」シリーズのぬいぐるみです。トウモロコシやブロッコリーなどの野菜をはじめ、タコスやケーキなど、思わず手に取りたくなるような愛嬌のある食べ物のデザインの商品がいろいろ並んでいます。ぬいぐるみの他、バッグチャームやキーホルダーなどの商品も置かれています。

ピクルスやカマンベールチーズのパッケージの中には、それぞれの食品をモチーフとしたデザインの靴下が入っています。これらは、食品や食品パッケージをモチーフとした面白いデザインの靴下で知られる、スペイン・バルセロナ発のブランド「Eat My Socks」の商品です。

かわいらしいスイーツの世界観を演出しているのが、「Jelly Beans」のポーチです。キャンディのパッケージデザインをモチーフにした商品です。
雑貨といえば、日本製は海外でも有名ですが、実は「MoMA Mart」にも日本企業・丸眞が展開する商品ライン「yup!(ヤップ)」の商品が登場しています。この「Jelly Beans」のポーチもそのひとつです。

そして「MoMA Mart」でのグローサリーショッピング体験にぴったりマッチしているアイテムが、こちらのショッピングバッグです。写真の左側にあるような従来のプラスチック製レジ袋の典型的なデザインをモチーフにした、ニューヨークのエコバッグブランド「BAGGU」によるMoMA限定のショッピングバッグです。

「MoMA Mart」では、まるでグローサリーショッピングのように、思わず手に取りたくなる面白いデザインの雑貨が集められ、買い物が楽しめるようになっています。グローサリーショッピング用のバッグをはじめ、スイーツやフルーツ、ベーカリーアイテムまで、日常の食卓やお買い物のシーンに自然と溶け込み、楽しい気分にしてくれる雑貨が揃っています。

近年、SNSにより同時に世界的な流行が生まれやすくなっていますが、ニューヨークでは、そんなSNSを意識した実店舗ならではの個性的な体験を提供する面白いお店を目にする機会が増えています。アメリカらしいダイナー体験を模した「FAO SchwarzのJellycat Diner」、グローサリーストアを模した「MoMA Design StoreのMoMA Mart」など、遊び心あふれる意外性のある小売コンセプトが今注目を集めています。
最近では、SNSでバイラルになることで、瞬く間に世界的に知られる存在となることも増えており、流行中のコンセプトショップが日本市場にやって来る日も近いのではないかと思います。また急成長を狙う小売ブランドにおいては、コンセプト、商品、店舗デザインなどに、多くの人が思わずシェアしたくなるような特色を演出し、SNSでバイラルとなる可能性がある導線を設計することがより大切になっています。そんな背景もあり、今後も消費者にとって、より楽しいリテール体験に触れる機会がさらに増えていくと思われます。
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