2025年のスーパーボウル(スーパーボウルLIX)は、世帯平均視聴率が41.7%、世帯シェアが83%を記録し、ストリーミングメディアも含めると平均視聴者数は1億2340万人で、米国最大のスポーツイベントとなりました。
パッケージ分野の調査機関Design Analyticsによれば、スーパーボウルのコマーシャルは、ブランドデザイン(パッケージと特徴的なブランド資産)が、広告画面時間の41%を占め、一部のブランドは画面時間のほとんどをブランドデザインに割り当てていると分析しています。今回は、そんなパッケージが彩るスーパーボウルのコマーシャルを取り上げてみました。
2025年のスーパーボウルの30秒のCM放映料は、約12億円(800万ドル)と過去最高額を記録しました。食料品やアルコール類を含む飲料品が業界カテゴリーとして最多を占めています。特にスナックやチョコレートを含むお菓子メーカーのCMが多く、Pringles(プリングルズ)、ドリトス、オレオ、Reese's、M&M'sチョコレートなどの定番ブランドが参加しています。さらにBUD LIGHT(バドライト)、Michelob Ultra(ミケロブウルトラ)、スクエアスペース、ターボタックス、T-モバイル、ユニバーサル・ピクチャーズ、ヘルマンズ、Eトレード、スケッチャーズなどの常連組が出稿しています。
2025年は女性視聴者数が増えたこともあり、ロレアルグループのNYX CosmeticsとCeraVeが初登場し、Doveが18年ぶりに復帰しています。
第1位 Budweiser(バドワイザー)「First Delivery」
米国唯一の全国紙USA Todayは毎年スーパーボウルの広告を、消費者を含めたパネラーの投票により「USA TODAY Ad Meter」としてランキングしており、今年の1位はBudweiserが選出されました。
昨年のBUD LIGHT(バドライト)とDylan Mulvaney(ディラン・マルバニー)のプロモーションで、トランスジェンダーのソーシャルメディアインフルエンサーの顔が印刷された缶が使われたことで、保守的な消費者、著名人、評論家からの反発がボイコットに繋がり、大きな損失を招いたことから、今回の映像にはお馴染みの缶をあえて登場させませんでした。

BUD LIGHT sales
Budweiserの歴史をアピールしたCMが見事に「USA TODAY Ad Meter」による好感度トップになりました。まだ配送に馬車が使われていた時代に、1頭の仔馬が思わぬ事故で取り残されてしまい、ビール樽を運ぶ様子が描かれています。
第2位 Lay's(レイズ)「The Little Farmer」Taika Waititi
2位にランクインしたのはPEPSICOグループのスナックLay'sで、アカデミー賞受賞者Taika Waititi監督による感動的な物語です。
1930年代のテネシー州で誕生し、100年もの間アメリカや世界の人々に愛されているブランドで、今では北米大陸に点在する100以上の契約農家からじゃがいもを仕入れているLay'sは、事実上アメリカやカナダの農家を支えています。そんなLay'sの地域密着ぶりを描いたCMが視聴者の共感と好意的な反応を呼びました。
家族経営の小さなじゃがいも農家の女の子を主役に、ある日じゃがいもを地面に埋めて、収穫まで育てあげる様子が紹介されています。「アメリカ中の家族経営の農家によって育てられた、本物のじゃがいも」というキャッチフレーズでまとめられたCMからは、Lay'sのポテトチップス作りへの熱意だけでなくアメリカの農業全体を支えたいという強い信念が感じられます。
Lay'sは環境問題にも積極的に取り組んでおり、2024年4月にはカリフォルニア州サンタアナに、米国初となるレイズ・リプレイ・フィールドをオープンしています。これはレイズの使用済みポテトチップスの袋から作ったサッカー場で、これまでも、南アフリカ、ブラジル、英国、イタリア、メキシコの5つの国に設置しています。
第3位 Michelob Ultra(ミケロブウルトラ)「The ULTRA Hustle」
軽やかな味わいと低カロリーで、多くのアスリートからも支持される人気ビールブランドMichelob Ultra。その広告クリエイティブは、しばしば広告賞を獲って話題を呼んでいます。
今年のスーパーボウルのCMは、大人気ベテラン俳優のWillem Dafoe(ウィレム・デフォー)とCatherine O'Hara(キャサリン・オハラ)が出演し、さまざまなプロアスリートに勝負を挑み、彼らからMichelob Ultraを奪い取る様子が描かれています。
勝負を挑まれるアスリートも豪華で、元NFLのRandy Moss(ランディ・モス)、バスケットボールのSabrina Ionescu(サブリナ・イオネスク)、オリンピック砲丸投げ3連覇のRyan Crouser(ライアン・クラウザー)が登場しています。
Anheuser Busch(アンハイザー・ブッシュ)は、Michelob Ultra PURE GOLDのパッケージに「太陽光発電による100%再生可能電力で醸造」というシールを導入しています。
第4位 Stella Artois(ステラ アルトワ)「David&Dave」
ベルギー生まれのビールブランドStella Artois。競合ひしめくアメリカ市場では「違いがわかる人向けのブランド」として知られています。同社がスーパーボウルで放映したのは、欧米を代表する大スター同士のコラボCMでした。
主人公はサッカー界のスター、David Beckham(デビッド・ベッカム)がある日両親に「実はお前には双子の兄弟がアメリカにいて、名前もお前と同じDavidだ。ただ、区別するためにThe Other David呼んでいた」と告げられて、居ても立ってもいられずにアメリカに向かいます。渡された住所を訪れると玄関の向こうから現れたのは、Matt Damon(マット・デイモン)扮するもう1人のDavidでした。
第7位 BUD LIGHT(バドライト)「BIG MEN ON CUL-DE-SAC」
5位、6位はNFLのコマーシャルなので外して、7位はお馴染みのBUD LIGHTです。人気コメディアンのShane Gillis(シェーン・ギリス)、元アメフト選手のPeyton Manning(ペイトン・マニング)、そして人気ラッパーのPost Malone(ポスト・マローン)という豪華キャストが一堂に会しています。住宅街で開かれたパーティーにShane GillisとPost MaloneがBUD LIGHTを大砲のように打ち込み、パーティーが大盛況となるアメリカらしい楽しいコマーシャルです。
Anheuser Busch(アンハイザー・ブッシュ)は自社製品にUS Farmedラベルを貼る最初の企業となりました。米国の農家への支援を示す新たな「米国産」認証シールで、消費者は自分が選んだ製品がアーカンソー州や全米の農家を支援していることを知ることができます。
第8位 Uber Eats(ウーバーイーツ)「Century of cravings」
アカデミー主演男優のMatthew McConaughey(マシュー・マコノヒー)が、スポーツを食べ物と関連付けてうんちくを説明しています。この広告では、McConaugheyが歴史をタイムトラベルし、ゲームのあらゆる場面を、食べ物を中心としたひねった解説を加えています。
Uber Eatsは独自の視点で持続可能なパッケージを導入しています。100%天然海藻コーティングを使用したNotplaのパッケージは生分解性で完全に堆肥化可能なパッケージです。フランスでは天然の葉っぱを原料としたReleaf Paperで食品配送を行っています。
第9位 Hellmann's(ヘルマンズ)「When Sally Met Hellmann's」
スーパーボウルのCMで常連のHellmann'sが懐かしの名場面を模したCMを放映しました。今年の主演を務めるのはMeg Ryan(メグ・ライアン)とBilly Crystal(ビリー・クリスタル)というお馴染みの名優です。
どこにでもありそうなレストランで提供されたサンドイッチの味に満足しなかったMeg Ryanが、たまたまテーブルにあったHellmann'sのマヨネーズを使うことで、おいしさを伝えるコミカルでオーバーな演技を繰り広げます。そこに居合わせたテレビドラマ「EUPHORIA(ユーフォリア)」の主演女優Sydney Sweeney(シドニー・スウィーニー)が思わずHellmann'sを注文します。
Hellmann'sのパッケージは内容物を残らず利用できるスクイズボトルで、消費者の満足度の向上と、食品やパッケージの廃棄物削減を目指しています。
【番外】21位 Pringles(プリングルズ)「The Call of The Mustaches」
「Nobody Wants This」のAdam Blondy(アダム・ブロンディ)がPringlesのCMに登場。最初から最後までパッケージが登場します。
【番外】28位 RITZ(リッツ)「RITZ Salty Club」
同じスナックメーカーのRITZのコマーシャルも、パッケージや商品が全面に出ています。
まとめ:真面目路線からコミカル路線にシフト
昨年まで、社会性や環境問題など真面目な取り組みが多かったスーパーボウルのコマーシャルも、今年は本来のファンキーで楽しい路線にシフトしました。その中で、パッケージのブランド資産がうまく使われています。
たった1日のためだけに作られる高額のコマーシャルは紅白歌合戦のように各社のコマーシャルづくりの博覧会でもあります。しかし、たった1回のために豪華な配役を揃え、コマーシャルを作成するパワーには圧倒されます。
▼編集部おすすめ記事
タイの電車とインパクトのある広告
ニューヨークで見かけたクリエイティブ広告