香港で食に関する記事を13年書いてきて実感するのが、お膝元である広東料理を初めとする中国料理のレベルの高さと幅の広さです。
もともと香港では、漢方薬としても使われる食材をたっぷり使った広東スープなど、健康維持を意識した昔ながらの食習慣が根付いています。20年ほど前からは、これに現代的な健康意識が加わり始めました。
例えばレストランでも、多用していたラードなどの動物性油脂をオリーブオイルなどの植物性に切り替える等の変化がありましたし、最近ではプラントベースの代替肉を使ったメニューを取り入れるレストランが増えています。
ここ1年ほどで、世界的な傾向と同じく「サステイナブル」「ベジタリアン」「ビーガン」への関心の高まりが顕著になっています。さらにこの数ヶ月は、新型コロナ肺炎の世界的流行で「免疫力向上」を意識した食へのニーズが高まるなど、「健康」は常に香港の食業界のキーワードなのです。そして昨年の反政府運動から始まった食業界の不況で、カジュアルでお得感のある価格帯であることも、新しく登場する飲食店の前提条件になっています。
健康以外での食業界のトレンドとしては、「フレンチの調理技術」「日本の食材」など、海外の食文化からの影響と、「伝統メニューをモダンな盛りつけで」「スタイリッシュなインテリア」などビジュアル面の刷新が6~7年ほど前から始まって、今ではすっかり定番に。
今回は、最近試食にうかがった中で、そんな香港の食業界でのトレンドを強く打ち出していて印象に残った3軒をご紹介します。
1. ポップでモダンなベジタリアン中国料理店「ミス・リー(Miss Lee)」
2019年12月にオープンした「ミス・リー(Miss Lee)」。完全ベジタリアンの中国料理店は今までもありましたが、ここまでトレンドと若い女性客を意識している、ポップでカジュアルレストランは今までにありませんでした。見た目を重視しながら、味のバランスが良くしっかり美味しいところに好感が持てます。
たとえば「点心」ではなく「カナッペ」スタイルの前菜として登場した「Flower Bouquet」は、キュウリの酢漬けや椎茸の天ぷらなど、風味や食感にバラエティを持たせた様々な野菜を、花束に見立てて春巻きの皮に包んだもので、ビーガン対応。
「Pearls on Lotus」と名付けられた美しいカナッペは、シュリンプクラッカーの上に蓮根やビーツをのせたもの。こちらはグルテンフリー、デイリーフリー対応です。
セサミソースを効かせた棒々鶏を思わせる「Misty Veil」や酢豚のような「Fire Balls」は、エリンギを使ったビーガン&グルテンフリーな一品。食べているうちに、これが茸であることをすっかり忘れるほど、満足感のある味わいでした。
海老を塩漬け卵の黄身で包む伝統料理のアレンジは、カリフラワーを使った「Golden Flowers」。カボチャのピューレと茸を敷いて味のバラエティも豊か。卵の黄身を使っているのでビーガンではありませんが、濃厚でカロリーが高すぎる伝統料理のライト&ヘルシー版という位置づけです。
香港の建物の外壁に多く見られる、少しくすんだパステルカラーを生かしたレトロ&ポップなインテリアも、スタイリッシュながら敷居が高くなくて魅力的です。
自社開発のプラントベース代替肉を使用したメニューもあるそう。「ヘルシー」ばかりを意識せずに、美味しく食べられて体にも優しい料理が揃っていました。
2. ビーガン対応のヌードルやドリンクも揃えた「キキ・ヌードルバー(KIKI Noodle Bar)」
一流企業が多数入居する高層オフィスビル「IFCのショッピングモール」に昨年夏オープンした「キキ・ヌードルバー(KIKI Noodle Bar)」。台湾発で、油や塩を控えめにした四川風ヌードルで有名なブランドです。香港では広東料理の名シェフがいるレストラングループと手を組んで、独自のメニューも展開しています。ランチタイムには、近隣のオフィスから多くの人が集まる人気店です。
最新メニューとして発表されたばかりなのが、ビーガン対応のヌードル。和食や中国料理では、一般的にスープベースに魚や肉が使われるためビーガンには不向きでしたが、こちらはトマトのコンソメを使用しています。椎茸などではなく、ポートベロ―・マッシュルームを使って、少し西洋色を強めた風味にまとめています。
ヘルシーメニューとして人気があるのが、ナマコとシイタケのヌードル。すっきりした麺とアワビのスープに、しっかり風味が引き出された具が添えられて、あっと驚く美味しさです。コラーゲンたっぷりの高級美肌食材であるナマコを使った贅沢なヌードルが手頃に食べられるのは、香港ならではの有り難さ。
ヘルシードリンク類も充実。タロ芋をタピオカ風にした桃ウーロン茶や、ビーガン対応のパイナップル・グリーンティーなど、ひと工夫されたメニューが揃います。
3. モダンにアレンジした香港ローカル食も健康志向の「リー・ローメイ(Lee Lomei)」
オープンして3年ほど経つ「リー・ローメイ(Lee Lomei)」。香港ローカルレストランの名物料理を、モダンかつ高品質にブラッシュアップするというのがオープン時からのコンセプトです。
特に今年3月に始めたランチセットは、健康を強く意識した食材選びや調理法を揃えた内容になっています。香港産のフリーレンジチキン炒めや、椎茸とカボチャ入りライスなどのセットに、オプションでチキンと冬虫夏草のスープなど、美味しく栄養を補給できるように工夫されています。
香港ローカルの要素をポップでキッチュなセンスで表現するインテリアコンセプトはそのままに、2019年後半に大改装。以前は流行の要素をひたすら詰め込んだ印象だったのが、たとえば新たに描き直されたウォールアートは「リー夫妻がデートのために待ち合わせて食事をするまで」というストーリー仕立てに統一されているなど、とても素敵な仕上がりに。こなれた居心地の良さが生まれていました。
店の入れ替わりが激しい香港で、このように店が進化して個性を固めていく姿を見られるのは嬉しいことですね。
香港でも新型コロナウイルスの影響で飲食店は厳しい状況ですが、健康が何よりも大切と誰もが実感している中で、作る人の優しさが滲むようなメニューを手頃な価格で提供しているお店を、これからも応援していきたいものです。
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