コロナ禍でホテルはどう生き抜くか?「ザ・ミラ香港」の柔軟なアイデアから見えるヒント【MIRATHON 2020】
コロナ禍にある2020年。多くの国と同様、香港の住民も海外旅行には出られません。観光客と出張客の激減にあえぐホテル業界の新たな収入源としての「ステイケーション」は、世界的な流れと同様に香港でも重要視されています。
国土の狭い香港では、日本のように多彩な国内旅行のデスティネーションがないため、さらに閉塞感がつのってしまうもの。特に香港ではコロナに対処する規制で、あらゆる学校が1月末から4ヶ月以上閉鎖になったため、小さな子どもがいる家庭でのストレスが問題になっていました。
夏休みも家族旅行で気分をリフレッシュできる選択肢がないという難しい局面にあり、ファミリー向けの需要を取り込むことは大きな課題だったのです。
各ホテルからさまざまなパッケージが提案されている中で、レストラン、バー、スパなどホテル既存の施設とスタッフを生かすプログラムは、大抵「一流シェフによる料理教室」「スパで自分を甘やかす」「お子様向けのプレイエリアやプール遊び」など、似たり寄ったりの内容になるのは避けられないもの。
そんな中、7月10日にメディア向けの発表会が開催されたミラ香港「SUMMER MIRATHON 2020 - Let’s Stay and Play」。「今までにないステイケーションを提案する」「夏休みに向けて家族全員がそれぞれ楽しめるプログラムを」というホテルのアイデアが詰まった、30種類を超える斬新なラインナップには驚かされました。
発表会の主役は、ウィル・スミスとの対談や、国連開発プログラム初のロボット大使への任命などで国際的に注目を浴びるAIロボット、ソフィア。彼女を開発したのは香港拠点のハンソン・ロボティックスで、ソフィアはサウジアラビアの市民権も獲得しているそうです。
ミラ香港では、ソフィアを毎週月曜日にホテルへ招き、ホテルスタッフとして館内を巡ってゲストと触れ合う「ミート&グリート」、ソフィアが司会を務めるプログラミングコンテスト「ハッカソン」などの開催を計画しました。
MIRATHONの主な内容は、館内の施設を生かしつつ、個性豊かな外部の業者を招いてのさまざまなワークショップやイベントの提案。ダーツのプロ選手としても活躍するシェフがダーツ教室を、ハウスDJはDJ教室を開催するなど、自前の人材も最大限に活用しています。
発表会当日は、密室での謎解き体験プログラム「LOST Escape Room」、蛍光ペイントアートやガラス吹きなどのワークショップ、大人も子どももはまる高級リモコンカーの操作体験などのブースがずらり。
他にも、クラフトビールブランド「友(YAU)」とのコラボレーション、最深水深2.5mというホテル内スイミングプールには珍しい設備を生かしてのダイビング教室、ソフィア関連のプログラムとして「ハッカソン」と呼ばれるプログラミングコンテスト、カラオケルーム、その他さまざまなミニゲームルームを揃えた、盛りだくさんのコンテンツが発表されました。
この日は一部のプログラムの体験型イベントでしたが、自粛生活が続いた後に久しぶりに他のメディア仲間と会い、一緒に楽しむことができたのも嬉しいボーナスでした。
その後、実際の設置はどのようになったのかを教えていただくために、8月後半にミラ香港を再び訪問しました。
まずはロビー階バーを期間限定で改装した、前述のクラフトビール「友(YAU)」とのコラボバーへ。SNS映えを意識した「香港レトロ」でポップなネオンサイン風照明をあちこちに配置して、カジュアルでスタイリッシュなビアガーデン風バーが完成していました。
なんと言っても圧巻は、17階の客室をすべて使ったMIRATHONフロア。1室ごとにさまざまなお楽しみがあります。
たとえば最高級スピーカーであるDevialet Phantomとのコラボによる最高音質で名画DVDを鑑賞する部屋、マリオカート、ダンスゲーム、ミニボーリング、ミニバスケットボール、カラオケ、謎解きゲーム、ダーツなどをそれぞれ楽しめる部屋、アートワークショップ専用部屋など、すべての部屋がテーマに合わせて装飾されていて、スナックやドリンクの特別メニューを注文することもできます。
「こんな時勢ですから、なるべくコストを減らすことも重要で、実はすべてホテル内のスタッフで模様替えや装飾を行ったんですよ」と、ミラ香港が属するミラマーグループのホテルとサービスアパートメントを率いるアレクサンダー・ワサーマン氏が教えてくれました。
ミラ香港は黒を基調にしたデザイナーズホテルで、インテリアからは派手な印象を受けますが、取材やイベントで訪ねる度に、現場のスタッフからマネジメントまでホテル全体からアットホームで暖かい印象を常々受けていました。
MIRATHONのフロアからは、自分の働くホテルの危機的状況を救いたいという願いや、ゲストに楽しい時間を過ごして欲しいという優しい気配りが如実に表れていました。
とはいえ大変残念なことに、これらの素敵な設備の多くが使用できない状況に陥ってしまいました。発表会直後の7月後半から突如新規感染者数が1日100人を超えてしまい、香港にとっての「第三波」が始まってしまったのです。
朝令暮改で規制内容がめまぐるしく変わったものの、主な規制としては、バー、カラオケ、ゲームセンター、スパなどが強制休業となる一方、グループでの集まりは2人までという規制とともに、レストランへの入場も1テーブルの人数が2人までと制限された上で、しばらくはランチ営業のみの18時閉店でディナーはテイクアウトだけ、という状態が続いていました。
MIRATHONはその影響をもろに浴びてしまい、8月中はせっかく作り上げた設備もほとんどが開店休業状態になっていたのは痛恨の極みでした。
「AIロボットのソフィアの訪問も、ある程度の人数が集まってソフィアと会話をする形でないと盛り上がりませんが、一度に集まれるゲストの人数が2人までという規制がネックとなり実施を延期中です。とはいえソフィアとのコラボは継続していくために、新たなプログラムを考案中です」とワサーマン氏。
「たとえばスイートルームの屋外テラスにテントを立ててのグランピングや、食事はそこにシェフが来てバーベキューを準備するなど、外のレストランでは2人ずつしか一緒に座れない状況でも、家族全員で楽しめる工夫が好評でした」とワサーマン氏が説明するように、コロナ禍だからこそのアイデアを練り続けたことで、ホテル施設の活用方法の幅がぐっと広がっています。
幸い9月初旬には徐々に規制が緩み、2名までというグループ人数の制限は変わらないものの、ダーツやバー、マリオカートなど、一部の施設使用が可能になり、スパも営業を再開することができました。
従業員が一丸となってゲストに最大限に楽しんでもらおうという意気込みと、厳しい状況下でできることを模索して次に繋げる心意気。ホテルにとって厳しい状況はまだまだ続きますが、ミラ香港のアイデアや舵取りの柔軟性には、ぜひ参考にしていただきたい要素がたっぷり詰まっていました。
MIRATHONフロアがゲストの楽しい笑い声で満たされる日が早く来ますように。
▼The Mira Hong Kong(ホテル ザ・ミラ香港)公式サイト
https://www.themirahotel.com
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