こんにちは。紙の構造デザインです。
紙パッケージの企画・デザイン・設計に幅広く携わるパッケージエンジニアという立場から、デザインやマーケティングとは少し違う視点で箱を紹介していきます。
どんなパッケージで商品を届けるかを決めるのがパッケージデザインだとすれば、パッケージの製造方法を決めて具現化していくのがパッケージエンジニアの役割です。
無印良品の紙製パッケージ
今回は無印良品の紙製パッケージを観察スケッチしてみました。
無印良品は2019年頃から包装や陳列に使われるパッケージ資材の紙化に取り組んでいます。海洋プラスチックゴミが問題視されて間もない時期からパッケージの「減プラ」を進めており、日本のブランドの環境意識を牽引する存在と言えるのではないでしょうか。
紙製パッケージを解体してみる
フック:
クラフトチップボール(約2mm厚)でできています。チップボールは紙を何層にも重ねて厚くしたボード紙で原料のほとんどが故紙から再生した紙です。
形状はプラスチックフックの形状を踏襲しており、袋に開けられた穴に差し込み易くかつ抜けにくい形状です。ボード紙を型で打ち抜いて作っていることがエッジの丸みから分かります。
袋:
素材はクラフト紙とポリフィルムが貼り合わされたラミネート紙で、重量比で紙の割合が多いので紙マークが表示されています。
ラミネート紙は水分や油分に強く食品パッケージに多く使われる素材で、衣類のパッケージとしては新鮮な印象です。内側のポリフィルムが商品視認の窓になったり、熱圧着の際には接着剤の役割も果たすなど素材の特徴をうまく利用しています。
紙に分類されるラミネート紙ですがポリと紙を分離することが難しくリサイクルに向いておらず、実際には殆どが可燃物として処理されるかサーマルリサイクル(燃やしてエネルギーとしてリサイクルする方法)に利用されている現実もあります。
ラベル:
袋には直接印刷せず必要な情報はラベルを貼って表記しています。商品点数の多さや印刷コストを考えれば小ロット印刷しやすいラベルでの表記は理にかなっていると言えるでしょう。袋の封をするラベルにはICチップを埋め込んだRFIDタグを使用し、封かんと情報管理を兼ねた無駄のない資材設計です。
無印良品の企業姿勢が実現したパッケージ
無印良品は2030年までに「包材・資材の脱プラスチック100%」と目標を掲げていて既に多くのアイテムのパッケージが脱プラスチックを実現しています。
オリジナルで開発したと思われる紙製フックや紙製ハンガーも用途に応じて大きさや形状のバリエーションがある他、サイズ表記のラベルやタグの留め紐までも紙化する徹底ぶりです。
また2022年には家庭でゴミとして捨てられていた紙製フックや紙製ハンガーの回収を始めるなど、資材紙化の次の段階の試みも始まっているようです。
環境配慮の流れは世界的に広まっていますが、パッケージ素材の紙化はコストアップに繋がる場合も多く企業にとっても高いハードルです。今回観察した中でも紙製の陳列フックは日本でほとんど流通していなかったことから、導入には新商品の開発にも似た労力と時間がかかったと想像できます。
「持続可能な社会の実現に貢献する」と方針に謳う程の無印良品の環境意識がコストアップをしてまでパッケージの紙化を進める原動力になっていそうです。
紙はプラスチックに比べて環境負荷が少ない?
実は紙製品を作るためにはプラスチック製品より多くのエネルギーを使うと言われています。つまりパッケージ資材を紙化したとしても、使い捨ててしまえば環境負荷はプラスチックと変わらないかむしろ増えてしまう可能性さえあるのです。
紙パッケージの環境負荷が低いと言われる理由は、ひとつには製品リサイクルのしやすさです。紙を再生してもういちど紙を作る技術が確立されており、故紙も紙の原料のひとつとして流通しています。
もうひとつには主原料の木材が再生産可能な資源であることです。近年では管理された森林資源を原料に作られるFSC©︎認証紙も増えてきています。
パッケージや資材紙化が世の中の潮流となりつつあるのは環境にとって良い傾向ですが、同時に課題も見えてきます。
せっかくの紙パッケージも可燃ゴミとして捨ててしまったり、ラミネート紙などのリサイクルに向かない紙ばかりが増えると環境負荷はあまり減っていない可能性があることを売り手も消費者も意識する必要がありそうです。
無印良品のパッケージ紙化のまとめ
多くの企業が資材を紙化するねらいはプラスチック使用量を減らすことに主眼を置いている中で無印良品が明確な目標を設けて包装資材の脱プラスチックに取り組み、リサイクルのしやすさまで考慮しているのは先進的です。今後もさらに進化していくのではないでしょうか。
パッケージの受け取り手である私たちも紙パッケージを手にした際は開封後に故紙としてリサイクルに回すことをぜひ意識したいですね。
******
※スケッチの内容は個人の見解によるもので、実際のエンジニアリングとは異なる場合があります。また製造技術などの機密事項を探る意図はなく箱の楽しみ方の提案として描いています。
******
▼編集部おすすめの記事
大手人気和菓子店に学ぶ脱プラ・脱炭素の実践とリリース戦略
【パッケージコラムvol.5】エコなパッケージ