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2023年小売店が変わる。米国の小売業の動向から

2023年はどんな市場を迎えるのでしょう。今回は、先行指標でもある米国の小売環境からトレンドを見通してみます。

インフレ経済への対応

米国の消費者物価は、2021年から急速に上昇しています。日本はこれに加えて急速な円高によって資材価格の上昇がオイルショック以来の様相を呈しています。このような背景から、消費者は価格に大変敏感になってきています。

セブンイレブンホールディングスの井阪社長は2023年2月期第2四半期決算説明会で「米国の長引くインフレに対して、プライベートブランド(PB)やストアブランド(SB)が非常に有効な手段となっている」と述べています。

7-Eleven,inc.では、商品粗利率は、プライベートブランド54%、ナショナルブランド32%です。プライベートブランドは価格競争力があり、粗利も高いことからインフレ経済下でも有力なツールになります。

ウォルマートのジョン・ファーナー社長兼CEOはインフレによる消費者行動の変化はすでに起きており、コスト意識の高い消費者がパッケージサイズの変更や、カテゴリー内でのより安い商品へのシフトをしており、商品品揃えでも対応を図っているとしています。

プライベートブランドはパッケージデザインにも主体性を持つことができます。バーコードを見つけやすいデザインに変えたり、Digimarkのようなスキャンしやすいバーコードに変えたりするだけで、レジ効率を飛躍的に向上させることもできます。

顧客エンゲージメントの獲得

2022年9月にラスベガスで開催された、「GroceryShop 2022」で指摘されたのが、「顧客とのエンゲージメントの確立」です。また、BtoB、BtoCを問わずサブスクリプションビジネスが拡大していることを受け、企業は「売って終わり」ではなく、新規の契約を獲得するよりも継続してくれる顧客を重視する傾向にあります。

商品・サービス単体の安さ・便利さだけでなく、接客やアフターサポートまで含めた総合的な視野から、顧客が感じる価値やメリットを向上させることが求められています。

店舗における購買行動がPOSなどのデジタル機器と、ポイントや会員制度が浸透してきたことで、デジタルで把握できるようになってきたことで、顧客の行動や購買実績が「見える化」されてきました。その結果、誰が自社にとって大切な客層か、どの層のロイヤルティーを上げると収益増につながるかが明確になってきました。

米国ウォルマートは年間98ドルのメンバーシッププログラム「Walmart+」の会員数が6,000万人(推定)を超えています。会員は、非会員に比べて、2倍の額の買い物をしており、顧客の収益率やLTV(顧客生涯価値)も数値化できるようになり、誰が自社にとって大切な客か、誰のロイヤルティーを上げると収益増につながるかが、明確化されました。

このような重要顧客へのアプローチとして活用されているのがQRコードやRFIDを活用したスマートパッケージです。QRコードや RFIDなどをパッケージに埋め込むことで、ソーシャルメディアを介したエンゲージメントに慣れている現代の消費者は、携帯電話でパッケージをスキャンするだけで、製品に関する詳細情報を取得できます。

クーポンをダウンロードしたり、キャンペーンや懸賞に参加したり、ゲームを楽しむことで、より大きなエンゲージメントとブランド インタラクションにつながります。

さらに、Walmart+に5.99ドルの追加で動画配信サービスのParamount+をみることができます。Walmartでは「Paramount+の追加により、エンターテイメントを安価に提供し、会員の節約と生活の向上を支援するとしています。

小売店の位置付け変化

米国の小売店はコロナの期間に大きく変化しました。消費者のオンラインショッピングへの急速なシフトが起こり、実店舗に対する人々の見方や利用方法が変化しています。 現在、より多くの買い物客がカーブサイドピックアップや店舗での受け取りを利用しています。

2022年第1四半期の終わりに、消費者の 86% が実店舗とオンラインの両方で 日用消費財を購入し、実店舗でのみ買い物をしている消費者は14%にとどまっています。

現代の購買行動はデジタルネットワークの利用が進み、消費者が情報を自ら探し、製品やサービスを評価し、購入を決定し、インタラクティブな方法で経験を共有しています。実店舗は購買の唯一無二のポジションから、オムニチャネルの1地点になりました。

オンライン購入商品の店頭受け取り「BOPIS(Buy Online Pick-up In Store)」や、オンライン購入商品の店頭返品「BORIS(Buy Online Return In Store)」、客が商品を駐車場で受け取る「カーブサイドピックアップ」など、さまざまな消費者のニーズに小売店は対応してきています。

この2年でオムニチャネルショッピングは当たり前となり、BOPIS/BORIS、カーブサイド、セルフチェックアウトなど多くのテクノロジーが導入され、組織や働き方にも大きな変化を起こしています。

このような変化の中でうまれてきたのが、フリクションレス・コマースです。デジタル、リアル両面で顧客体験を高めていくこと。具体的には購買プロセスの障害(フリクション)をなくし、顧客の好みに合わせて簡単に購買できる小売形態を目指したのがフリクションレス・コマースです。

代表的なフリクションレス・コマースとしては、ドイツを中心に食品宅配サービスを展開するGorillasが知られています。Gorillasは商品の受注、梱包・発送機能を担うフルフィルメントセンターを小型・自動化した施設をローカルに展開することで、顧客を待たせない“10分配送”が可能になりました。2020年に設立され、ヨーロッパ9カ国20都市でサービスを展開し、米国にも進出しています。

米国でもフードデリバリーのDoorDashが30分以内で配送する“配達するコンビニ”をコンセプトとするDashMartを米国8都市で展開。2021年6月には日本の仙台でもサービスを開始しました。生鮮食品や日用品・雑貨を扱うAmazon Freshも米国シアトルで2時間配送を実現。現在全米で28店舗展開し、2023年までに580店舗に拡大する予定です。

ホリデーシーズンの買い物の早期化、通年化とオンラインとの連携

ホリデーシーズンの買い物のスタートが年々前倒しになり、期間も数カ月にわたるようになってきました。この傾向は 2022年のホリデーシーズンも続くと予想されます。 6月には、米国の消費者は、すでにホリデーシーズンの買い物をスタートさせています。また、 2022年1月の調査では、37%がホリデーシーズンにはもっと早くから買い物を始めておけばよかったと回答しています。2022はインフレの影響もあり、早めにスタートするものと思われます。

米国でのアンケート調査では87%の人が製品についての最もクオリティの高い情報はYouTubeと答えています。また、日本を含む16カ国の調査では、消費者の40%以上が、実店舗あるいは EC サイトで購入する予定の製品を検索するためにGoogle を使うと答えています。小売店はGoogle、YouTubeなどとのタッチポイントの形成が重要になります。

大手小売りがローカル展開

コロナ禍による在宅勤務の影響で、徒歩15分圏内での買い物が増えています。化粧品店を中心にタッチアップ(接客)のニーズが根強く店頭回帰も起きています。この2つの要因が重なり、大手小売りと化粧品専門店が協業してショップ・イン・ショップを出店する動きが加速しています。

百貨店の米Kohl’sと、仏LVMHグループ傘下の化粧品専門店Sephora、大手ディスカウントチェーンの米Targetと、化粧品専門店の米Ulta Beautyが該当します。Sephora がショップ・イン・ショップ形式の出店を推し進めるのは、BOPISのスポットを増やす目的があります。化粧品は単価の割に配送料が高く、商品をピックアップできる拠点が求められています。

老舗高級百貨店の米国百貨店Nordstromは旗艦店のあるニューヨークの外れに小型のローカル店舗を出して、BOPISの拠点を作っています。

ローカル店舗は、オンラインで注文した商品のピックアップや試着、洋服の仕立て直し、ギフトラッピングなどの接客サービスや返品などを扱っています。

ウォルマートのピックアップカウンター

小売の広告メディア化

ボストンコンサルティンググループ(BCG)は、米国のリテールメディア市場が今後5年にわたって年平均25%の成長率で拡大し、2026年には1,000億ドルに達すると予測しています。

さまざまな小売業態でリテールメディアネットワークが立ち上がっています。リテールメディアとは、顧客の購買データ、あるいは行動データといった小売業が独自に収集・所有するデータ、いわゆる「ファーストパーティー・データ」を活用して広告を配信する手法です。「メディア(広告媒体)」となるのは、店舗やスマホアプリ、ECサイトなど小売業が従来持っている「顧客接点」です。

リテールメディアが従来メディアと異なるのは、実際の購買情報がデーターに含まれていることです。米国でも、コロナが拡散する前には消費者の81%が食料品をオンラインで購入することはありませんでした。しかし、今や、実店舗が事実上のフルフィルメントセンターに変わりつつあります。

実店舗の雄、ウォルマートは23年第1四半期(2~4月)に広告費収入が前年比で30%増加しています。全米でコロナウイルスが猛威を振るい、日本の数倍も多い死者を出した米国で、じつは小売企業のウォルマートは驚異的な成長を遂げています。食品や消費財の宅配プラットフォームの「オンライングローサリー」の急増にともない、ストアピックアップと配送のサービスが2020年度第一四半期に300%も成長しました。このような流れを受けて日本でもセブン‐イレブン・ジャパンが2022年9月1日に「リテールメディア推進部」を新設しています。

持続可能性への対応

持続可能性への対応は、メーカーだけでなく、いまや小売店に求められている最重要課題になっています。プライベートベートブランドの導入はトレーサビリティを可視化していくための有効なツールになってきています。

ボストンコンサルティンググループ(BCG)が米、英など、世界8カ国3000人以上を対象に実施した2020年7月の調査では「環境問題を健康問題と同等もしくはそれ以上に懸念している」「コロナ禍からの経済復興において環境対策を優先すべきだ」という意見が大多数でした。また、約40%が「サステナビリティ(持続可能性)に配慮した行動を実践する」と表明し、その具体的な行動として、「リサイクルの推進」、「廃棄物の抑制」、「サステナビリティに配慮した商品の購入」などをあげています。

小売大手25社の90%は上述したような水産物を持続可能なものに切り替えるという調達に関する方針を掲げて実践したり、国際的なイニシアチブに参加したりすることで水産物のサステナビリティを向上しようとしています。

ウォルマートは2005年に人と環境に配慮した製品を販売するプログラムを開始しました。2009年には評価システム「Sustainability Index」を発表、現在は北米、カナダ、ブラジルなどのウォルマートや他ブランドのSam’s Club、ASDAで販売する水産物について2つの目標を掲げています。

具体的には2025年までに世界のマグロの研究者や企業、環境NGOにより構成される組織International Sustainable Seafood Foundation (ISSF)が定めた基準を満たす方法で獲られたマグロに全て切り替えるということです。

北米最大のオーガニック、自然食品を扱う小売企業Whole Foodsは、小売企業の中でも最も早く水産物のサステナビリティに取り組んできました。1999年にアメリカの小売企業では初めてMSCとパートナーシップを組み、2010年にはサステナビリティをレーティングするプログラムSeafood Watchとも提携しています。

今後の店舗機能の変化について

米国小売業はコロナ禍でも変革を成し遂げ成長を遂げています。経済産業省によれば、2020年の国内物販系EC市場は12.2兆円で前年比21.7%の増加を示しています。基本米国小売業と同じような傾向にありますが、自動車社会の米国とは異なる様相を持つ日本でどのような進化を遂げるか、テクノロジーの進化、持続可能性への対応、法規制の変化など今後の展開が注目されます。

 

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