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ここまでできる! オランダスーパーのプライベートブランド

スーパーやコンビニが独自に開発するプライベートブランド。

ひと昔前まではイオンの「トップバリュ」、西友の「みなさまのお墨付き」などのシンプルパッケージ&低価格帯のイメージが強かったですが、セブン&アイ・ホールディングスの「セブンプレミアム」が出てきた辺りから変化が生まれたと思います。

プライベートブランドのイメージに「おいしさ」も加わり、そこへ健康志向にこだわったBIO-RAL(ライフ)や、品質と価格のバランスで人気のある「万代選品」(万代)なども誕生し、価格帯はもはやひとつの軸に過ぎない印象です。

私の住んでいるオランダは、そんな日本より少し先を行っているかもしれません。というのも、「安くあげたい」「品質にこだわりたい」「オーガニックにしたい」という要望の他にも、「エコ」「アレルギー」「特産」「特別なディナー」などに応えてくれるプライベートブランドがあるのです。

そんなプライベートブランドを展開しているのが、オランダ最大手スーパー、Albert Heijn(アルバート・ハイン)です。1887年に創業、現在はオランダとベルギーを合わせて1,100店舗以上あります。形態も普通のスーパーの他、大型店(Albert Heijn XL)、コンビニ型(Albert Heijn to go)があり、オランダ国内のマーケットシェアで見ると35.9%(2022年1月自社発表)。他にもスーパーはあるのですが、駅にあるコンビニ型はもとより、主要都市の中心街はほぼアルバート・ハインが占めており、オランダ全土を席巻しているといっても過言ではありません。

そんな規模だからこそ、あらゆる方向でプライベートブランドが展開できるともいえるのですが、開発の切り口、アイデア、パッケージなどは参考になると思います。

それでは、Albert Heijn、略して「ah」が展開する8種類の「ah」の名前を使ったプライベートブランドと「ah」の付かないプライベートブランド8種類の合計16種類を紹介いたします!

BONUSとはアルバート・ハインのカードがあれば割引になるサービスのこと。

ahで8種類のブランド展開

ah

青いロゴが目印のブランド。手頃な価格帯に加え消費者調査も行いながら開発しており、その魅力は安さだけではありません。

1887年創業のアルバート・ハインが最初のプライベートブランドを開発したのは1910年のことだそうです。

プライベート・ブランドとともに成長してきたといえるスーパーならではの品質や信用もあります。いち消費者としての自分の行動を振り返ると、確かに「安い割にはよい」という理由から買っているように思います。

唯一、ネガティブな点を挙げるとしたら自分の生活圏内にはアルバート・ハインしかなく、これ以上暮らしをアルバート・ハインに浸食されたくないという抵抗感でしょうか。

アルバート・ハインのイメージカラーの青いロゴの瓶詰マヨネーズ。

オリーブオイル。エクストラヴァージン、調理用のクラシック、マイルドと種類も豊富。

ah prijs favorieten

以前は青いロゴの「ah」より価格帯を落とした赤いロゴの「ah basic」というブランドがありましたが、数年前に公表することなく終了し、青いロゴの中でも安くてお手頃な商品群をサムアップマークと共に「ah prijs favorieten」として打ち出しています。

ウェブサイトには「常に優良な商品を“選んでいる”」とあることから、時期などにより商品を変えているのだと推察します。その商品は1,500点以上。野菜、乳製品、食肉、缶詰、ベジタリアン、お菓子など幅広いカテゴリを網羅しています。

イースター時期になると出回るエッグチョコ。親指を立てたサムアップマークが目印。

ah Biologisch

オーガニックを意識した薄緑が目印のブランド。オランダのオーガニック製品認証機関のガイドラインに沿って栽培された生鮮食品のほか、合成着色料、香料を使用していない商品だけがこのブランドのロゴをつけることができます。緑の値札によって他と素早く見分けることができます。オーガニックも青いハウスブランド同様に、乳製品、野菜、果物、食肉、チーズ、ワイン、お茶など幅広い品揃えを誇っています。

ハチミツ。ぱっと見、右の青いロゴより価格は安いですが、350mg(左)と450㎎(右)と容量が違います。

黄緑の値札タグ、パッケージの色でオーガニック食品だということが一瞥できます。

ah Excellent

金色のロゴはプレミアムラインのブランドです。ハムなどの加工肉やステーキ肉などでこのラインが充実。オリーブオイルなどの調味料、ピザ、スープ、ワインなど、ほんの少しエクストラを払っても構わないと思える商品をプレミアムに据えているのがうまいなと思います。

3つパックで€5(約660円。1€=131.45円)のExcellentのハム。パッケージの色使いを黒と金でクラシックなイメージに。

ah Glutenvrij

グルテンフリーという商品説明さえもブランドに。クラッカーやパンなどの他、ミールセットも展開しています。

以前はvrij van (~フリー)というラベルでしたが、グルテンフリー(Glutenvrij)と具体的な名前になりました。

ah Culii

クリスマスなどご馳走が大切な時期に登場するカリナリーエクスペリエンスのブランド。「マデイラ風ステーキ」「トマトのタルタル、バルサミコ風味」「チキンのメダイヨンステーキ、ペストクリームソース」など、珍しい料理を作る素材がセットになっています。

季節限定のプライベートブランド。素材がセットになっているので珍しい料理も簡単に調理することができます。

ah ecó

リサイクル紙100%のトイレットペーパーやキッチンペーパー、エコ認証機関のラベルを取得した洗剤、ゴミ袋など、サステナブルを意識した日用消耗品シリーズ。

食器用洗剤。認証ラベルでエコを強調。プラ容器もリサイクルされた材料を一部使用しています。

ah Buitenbeentjes

「不揃いの野菜・果物」をキロ単位で扱うブランドとして展開。オンラインでは3種類の野菜・果物の季節ものをセットにして販売しています。Buitenbeentjesとはアウトサイダー/はぐれ者という意味です。

Buitenbeentjesを紹介しているウェブサイト。見た目が違うだけ、と訴えています。

バラエティを打ち出すパン

カフェのランチメニューはパンだけというくらい、オランダの人はパンをよく食べます。

アルバート・ハインでは、大型店ではインストアベーカリーもありトングで一つずつ選ぶスタイルから食パン一斤パック、バーガーのバンズ、全粒粉パン、ライ麦、雑穀入りなど様々な種類があります。

プライベートブランドとしては高級ラインのLiefde & Passie、パリッとしたクラストにこだわったBakkersbrood、健康を意識した雑穀パンのWaldkornがありますが、他社パンも置いていますし冷凍パン、家で焼くパンなどなど、とにかく種類がありすぎて、折角のプライベートブランドも埋没している印象です(ただし、バラエティが食パン系で、日本のように菓子パンや総菜パンにならないのが興味深い)。

食にあまりこだわりのないオランダ人ですが、ことパンに関してはブランドを際立たせるよりも「バラエティ」を見せる方が大切なのかもしれません。

アーティサンブレッド風のLiefe & Passie(左)、krokant(カリッとした)な食感を売りにしたBakkersbrood(右上)と、真面目さをパッケージで表したWaldkorn(右下)。

出身地をブランド名に

パンと同様チーズもオランダ人にとっては大切な食品です。アルバート・ハインがチーズのプライベートブランドZaanlanderを開発したのは約100年前の1919年のことです。Zaanとはアルバート・ハインが誕生した北ホラント州のザーン地方のこと。

この地方には風車や昔の街並みを再現したザーンセ・スカンスという観光スポットがあり、アルバートハイン1号店のミュージアムもあります。

牛乳、ヨーグルト、チーズも含むバターなどの乳製品はDe Zaanse hoeve(hoeveは農場という意味)というブランドで、青いロゴより低い価格で展開しています。

古き良きオランダチーズのイメージを大切にしているZaanlander。

ザーンセ・スカンスは風車で有名です。

ahを使わないプライベートブランド

アルバート・ハインをあえて使わず、独自ブランドで展開しているのがチョコレートのDelicata、ビールのBrouwers、コーヒーのPerlaです。

凝ったパッケージやデザインで、アルバート・ハイン色をまったく感じさせません。チョコレートではMilkaやLindt、ビールならハイネケン、コーヒーではネスカフェなど名だたる有名ブランドでがっちり固められている上、「安い」が消費者に響きにくい嗜好品ではahという名前では勝負が難しいという判断が働いたのかもしれません。

ネスレの下がPerla。パッケージ形状を似せているだけに価格差が際立ちます。

ビール醸造所をイラストに使ったBrouwers。

どちらもハーゼルナッツのミルクチョコ。左が青いロゴ(200g/€1.49≒195円)、右がDelicata(100g/€1.39≒182円)。どちらもアルバート・ハインですがイメージが全く異なります。Delicataも200gがあります。
€1.99(約261円)で、青いロゴのチョコレートとの価格差は¢50(約65円)。

オランダのプライベートブランドを通して

以上、簡単ですが16のプライベートブランドをご紹介しました。改めて調査してみて、プライベートブランドを展開するにあたり、大切なのはコンセプトではないかと思いました。

定義を広げすぎると他のブランドとの境界線があいまいになる危険性があり、狭くしすぎると先の展開が難しくなります。

ah Basicがなくなったのも、青いロゴの商品との価格差がつけにくくなったからかもしれません。しっかりしたコンセプトがまずあり、そこから商品を開発し、ロゴやイラストも含めたパッケージでその特色を分かりやすく訴求すれば、シェルフの位置などは自社商品だけに有利な場所を獲得できるわけですから、あまたある商品群の中から選ばれるのだと思います。

 

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