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街に活気を呼んだ伝統と歴史を重んじる再開発プロジェクト

シンガポールに住んでいると訪れることも多いお隣の国マレーシア。本日はそんなマレーシアについての記事です。マレーシアの首都であるクアラルンプールはツインタワーや高層ビルが立ち並ぶ大都会。近代的な都市には新しいものばかりが並ぶイメージですが、昔からの伝統や歴史などを活かしたことで近年多くの人々の心をつかみ、話題となった場所があります。それが観光地としても有名なチャイナタウンです。

連日多くの人々で溢れているチャイナタウンですが、過去には治安が悪いとされてきた時期がありました。チャイナタウンの治安が一時悪くなってしまったことには、労働力を増やすために多くの外国人がマレーシアに入国してきたことが原因だったと言われています。それにより犯罪が増え、治安は悪化。活気があったチャイナタウンは訪れる人も減少し、次第に廃れていきました。しかしながら近年、そんなイメージを払拭し、街を活性化させようという動きが見られるように。本日はそんなクアラルンプールのチャイナタウンにスポットライトをあて、街の人気店や集客のためになされた取り組みについてご紹介していきます。

街を活性化させたストリートアート

チャイナタウンが以前の輝きを取り戻すためになされたのが、2019年から行われた「鬼仔巷計画」(Project Kwai Chai Hong)という政策。活動の一つとしてつくられたのがチャイナタウンのメインストリートであるプタリンストリートから一本隣のLorong Panggunという通りにつくられた「鬼仔巷」と呼ばれるアートスペースです。本計画ではかつての街を再現したアートを設置し、人々にチャイナタウンについての理解を深めてもらうことで地域経済を活性化させ、商業活動を推進することを目的としています。アートは壁画をメインとしており、「黄金の時代」といわれる1960年代のチャイナタウンの日常を描いています。

「鬼仔巷(Kwai Chai Hong)」と書かれた門をくぐり、赤い橋を渡るとそこはまるで別世界。1960年代のチャイナタウンが「黄金の時代」といわれる所以は当時中国の入植者たちによって商業が盛んに行われ、経済的に上昇していったため。壁画は歴史的な情景を描いているとともにとてもフォトジェニック。訪れた際も多くの方が壁画とともに写真を撮っていました。壁画の横にあるQRコードをスキャンすると簡単な解説が表示されるという工夫もされています。

鬼仔巷と書かれた門をくぐる人たち

門の柵にも鬼仔巷の文字が

壁に埋まっている橋の手すり

壁画

多くの絵に本物のランプが取り付けられているのは1900年代にクアラルンプールに初めて電化製品が誕生し、普及した時代背景に基づきます。このようにかつての状況を厳密に再現したことには、その情景を知っている人々には記憶を思い出し語り継いでもらうために、当時を知らない世代の人々には歴史に関心を持ってもらい学んでもらいたいという願いがあります。描かれた絵を見ながら歩いていると当時を知らずとも歴史を感じ、昔のチャイナタウンにタイムスリップしたような気分を味わうことができます。

女性が窓から手を振る様子が描かれた壁画

人がその場にいるような壁画

子どもが遊んでいる様子の壁画

街には次第に活気が戻り、今や地元の方だけでなく世界中から観光客が集まる場所となりました。そこにはいくつかのポイントがあるように思います。中でも大きいのは、この場所が無料で誰でも気軽に訪れることができる点、歴史的な場所を写真映えするウォールアートで表現した点です。

それを裏付けるのがSNSの存在。本都市計画が開始されてから数年経つ今も「鬼仔巷(Kwai Chai Hong)」には連日多くの人々が訪れ、SNSでの投稿も衰えることがありません。フォトジェニックかつ、誰もが気軽に訪れることのできる場所という点が観光客や地元の特に若い層を呼び込む大きな要因になったのだと考えられます。こうした取り組みは、日本の過疎化がすすむ地方都市の町おこしや人口減少の問題解決の糸口にもなるように思います。

古き良きマレーシアを再現した写真映えする老舗カフェ

「鬼仔巷(Kwai Chai Hong)」と同様に、かつてのチャイナタウンの雰囲気を味わえることで人気を集めたお店があります。それが何九海南茶室(Ho Kow Hainam Kopitiam)という老舗カフェ。コピティアム(kopitiam)というのはローカル式のカフェの名称。早朝から営業している店が多く、定番の朝食メニューに始まり、様々なローカルフードやドリンクを楽しむことができます。

コピティアムは各店によって特徴があるため、旅行などで訪れる際は自分のお気に入りの店を見つけるのも面白いです。従来は客層の大半はご年配の方でしたが、近年マレーシアでもレトロブームが起こり、若者の中で老舗店が人気のスポットとなってきました。こうした点は日本の喫茶店ブームとも類似しているようにも見えます。アートスペースから程近い場所にあるお店には連日大勢の人が列をなしています。

何九海南茶室の看板

店名の「何九(Ho Kow)」はオーナーさんのお名前。海南は中国の海南島のことを指します。かつて海南島からマレーシアへやって来た人々のこと海南人と言い、彼らが広めた料理を海南料理と言います。

賑わっている店内の様子

お店のメニューが昔の新聞に見立ててつくられているのも工夫が凝らされていて面白いポイント。中には商品のことだけでなく、チャイナタウンやお店の歴史についても記載されています。食事は定番の朝食メニューの他、点心やチキンライス、ナシレマ、ラクサなどマレーシアを代表するローカルフードがたくさんありました。ドリンクもバリエーションが多いため、どの時間帯に行っても満喫できるお店です。

新聞のようなメニュー

店内は二階立ての構造になっており、二階にはかつてマレーシアで使われていたものや看板を展示してあるコーナーもあります。駄菓子屋さんやコーヒー屋さん、お茶屋さんなどを再現したブースもあり、当時の雰囲気を感じることができます。

駄菓子屋をイメージさせるような店内の様子

店内の様子

訪問時にオーダーしたのは、お店の看板メニューであるカヤトーストと冷たい海南茶。

カヤトーストは、トーストしたパンにカヤジャムというジャムとバターをはさんだマレーシアやシンガポールの朝の定番メニュー。「カヤジャム」はパンダンリーフ、砂糖、卵、ココナッツミルクが原料のスプレッドです。カヤトーストと一言に言っても様々なタイプがあります。例えば、使用されるパンは食パンのようなものから分厚いもの、薄くてカリカリしたものからふわふわな食感のもの、トーストしたものから蒸したものまで店により異なります。本店でもパンは何種類かあり、自分の好きなものをセレクトすることができました。筆者はお店の方がおすすめしてくれた厚めのバンズをトーストしたものをチョイス。

カヤトースト

こちらのお店のカヤトーストには、ジャムとバターの他にオリジナルで砕いたピーナッツも入っていました。

パンは炭火で香ばしく焼かれており、カヤジャムとバター、ピーナッツがたっぷり挟まれています。カヤジャムとバターが染み込んだふわふわのパンに食感の良いピーナッツが合わさり、一口食べるごとに思わず笑顔になってしまうおいしさです。

カヤトーストの断面

海南茶は、Kopi(コピ)という砂糖とコンデンスミルクを入れたローカル式のコーヒーと紅茶を混ぜてつくったドリンク。海南茶はマレーシアではChamとも呼ばれています。香り高いコーヒーと紅茶が混ざり合い、コクのある味わいが美味しい一品でした。

コピ

新しいものが多く生まれ注目される一方で、古き良きものや場所が廃れていくことも多々ある現代。そうした中、古いものをなくすのではなく新たなかたちで作り変え、多くの人に歴史や伝統に関心を持たせるような取り組みは学ぶ点が多く、他の地域でも応用できることがあるかと思い、今回ご紹介致しました。読者の方々にも本記事で当時にタイムスリップした気分になっていただき、マレーシアの歴史や伝統に少しでも関心を持っていただけたら嬉しいです。

 

■鬼仔巷(Kwai Chai Hong)

Lorong Panggung,50000 Kuala Lumpur Malaysia

公式ページ:https://www.kwaichaihong.com/

 

■何九海南茶店 Ho Kow Hainam Kopitiam

公式Instagram:https://www.instagram.com/hokowhainamkopitiam/

 

 

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