シンガポールにフレンチカルチャーを。「Merci Marcel Group」が伝えるフランスの食文化とエスプリ
至る所にカフェが並ぶシンガポール。そんなシンガポールのカフェ文化の中に、フランスのライフスタイルや食文化を持ち込んだ「Merci Marcel Group」という企業があります。シンガポールの人気エリアで多数レストランを運営する同社のコンセプトは、単に食べ物や飲み物を販売するだけでなく、リラックスできる空間やフレンチ文化の体験も提供すること。食事だけでなく、会話や時間を楽しむフランス的な食事のスタイルや概念を先駆的に持ち込んだ存在が、まさに「Merci Marcel Group」でした。
同グループには、「Merci Marcel」と「French Fold」という2本の柱があります。「Merci Marcel」はフレンチ、「French Fold」はガレットやクレープのレストランです。現在(2026年4月)、「Merci Marcel」はシンガポール島内に6店舗、「French Fold」は3店舗あり、続々と店舗を増やしつつも客足が途絶えることのない人気ぶりです。本稿では、そんな両店舗の魅力や経営の工夫についてご紹介していきます。
店舗ごとに構成されたメニューや空間
多くの人に同社のレストランが支持される理由の一つには、店舗によって異なる空間をつくり出していることが挙げられます。「Merci Marcel」の誕生は、アートショップが立ち並び、クリエイティブな街として知られるTiong Bahruに1号店を設立したことに始まります。その後、瞬く間に人気を集め、シンガポールの中心地に店舗を広げていきました。
店舗づくりの工夫として感じられるのが、エリアごとの需要を捉えている点です。例えば、ビジネス街に位置するClub Street店やTelok Ayer店では、仕事帰りの人々がワインや軽食を楽しむカジュアルなビストロのような雰囲気が漂います。一方、ショッピングエリアに位置し、買い物客で常に混雑しているOrchard店は、緑に囲まれたロケーションで都会の喧騒から離れた落ち着いた空間を意識しています。
また、Robertson Quayの店舗は、川沿いの景色を活かした開放的なテラス席が印象的で、リバーサイドのムードを活かしたつくりになっています。East Coast店は海沿いでレジャーやスポーツ帰りの人が多いこともあり、ソファ席を豊富にしたリラックスできる環境です。このようにエリアごとの客層の需要を考えて店の設計がされているのです。
グループが展開するもう一つのコンセプトブランドが「French Fold」。フランス各地で親しまれるガレットとクレープを主役にしたオールデイダイニングです。フランス産の食材を使用した本格的な味わいはもちろん、そば粉で作るガレットはグルテンフリーで、食の選択肢を広げたい人にも支持されていることが人気の理由の一つです。こちらも共通となるブランド感を保ちつつ、所在地ごとの特色を活かした雰囲気を設けています。
店舗ごとに内装や佇まいは異なるものの、どの店舗にもラタンやヴィンテージ家具、温かみのある照明、色鮮やかなお酒を並べたバーカウンター、植物などを散りばめることで、隠れ家感のあるフランスのビストロ+リゾートを思わせる東南アジアのムードをつくり出しています。
今回記事に使用させていただいたのは「Merci Marcel」East Coast(イーストコースト)店の写真。シンガポールの東部は海岸沿いに位置しているため、観光客だけでなくローカルの方もゆったり過ごしたい時に利用するエリアです。ジョギングや犬の散歩の合間に利用する方も多いので、アートやスタイリッシュな家具に包まれた店内に加え、開放感のあるテラス席も人気があります。



植物を多く置き、アートが所々に展示されている点は同様ですが、「French Fold」はよりシックで、こじんまりとした雰囲気です。(写真はTelok Ayer店)
「Merci Marcel」、「French Fold」ともにビストロ、カフェ、バーとさまざまなシチュエーションで利用できるよう時間帯によってメニューを変えており、その時々の目的によって使い分けることができます。朝のコーヒーから昼のブランチ、夜のワインまで、時間帯により表情を変えながら、人々が楽しめる工夫がされているのです。


工夫の凝らされたメニューの数々
下記では、実際に試したおすすめのメニューについてご紹介します。
一つ目はハンバーガー。ビーフパテにパルメザンチーズ、カリカリに焼いたハム、オニオンのチャツネ、ハーブがのったハンバーガーは見た目も美しいです。ハムはフランスのバスク地方のバイヨンヌ(Bayonne) のもの、ハーブもメスクラン(Mesclun)というプロヴァンス地方発祥のハーブのサラダがのせられており、フランスの名産品を料理に使用するなどこだわりが感じられます。
お肉はオーガニックなので体にも優しく、肉の旨みがしっかりとつまった味わいです。柔らかく肉汁たっぷりのジューシーなパテと濃厚なソース、ふわっとしてバタリーなバンズ、各素材のおいしさが絶妙に溶け合い、格別のおいしさです。

2つ目はRavioles de Royansというクリームソースのラビオリのお料理。上にのった白いトッピングはテット・ド・モワンヌというチーズです。修道院で誕生したことから、"修道士の頭"(テットは「頭」モアンヌは「修道士」)と名付けられたチーズは専用の削り器で削って取り分けるため、花びらのような形になっています。ふんだんにチーズが使われているにも関わらず、軽くてペロリと食べられる一品です。

続いてはデザートのご紹介です。クロワッサン生地をワッフルメーカーで焼いたクロッフル(Croffle)に、キャラメリゼしたバナナとバニラアイスクリームを添えた本メニュー。同店のサクサクでおいしいクロワッサンは、焼くことで外はカリッと中はもっちりとした食感となり、また違った感覚で楽しめます。
フレンチバター使用のクロワッサンは風味よく、バナナとアイスとの相性も抜群。一緒にいただくと香りと味わいが増し、クロワッサン生地自体のおいしさも際立ちます。

コーヒーの注文も忘れてはいけません。どのドリンクも美味しいですが、特におすすめはホットモカです。ラテアートも美しく、可愛らしいデザインのチョコレートが添えられているのもポイントが高いです。日本で「チョコレート」というと甘いイメージですが、フランスのチョコレートはビターテイストが主流なので甘さ控えめ。モカからもチョコレートからも旨みが凝縮された濃厚なカカオの味わいを感じられます。

ここからは「French Fold」のおすすめをご紹介します。ガレットの中で特に好みだったのはフランスのサヴォワ地方で作られる、ルブロション(Reblochon)というチーズを使ったメニューです。このチーズはジャガイモ、ベーコン、玉ねぎと合わせてオーブンで焼いた、サヴォワ地方の郷土料理「タルティフレット」に使用されることで知られています。それに見立てているのか、こちらにもポテト、ホワイトワインで漬けたオニオンのピクルスを具材にし、バイヨンヌ(Bayonne)のハムが美しく添えられています。
濃厚なルブロションチーズが、ポテトやオニオンのピクルスと溶け合い、そこに質のよいハムや香ばしいガレットの生地が加わることでより深い味わいを生み出します。まさに気分はタルティフレットをいただいているようでした。筆者はタルティフレットが大好きなので、その味わいがガレットで再現されていることに感動を覚えました。

クレープからは、レモンバターのクレープをご紹介します。上にはバターとブラウンシュガーが散りばめられ、レモンが添えられています。バターは、お好みで無塩バター、有塩バター、レモンバターから選ぶことができます。(すでにトッピングにレモンが入っていたので筆者は有塩バターを選択。)生地はもちもちでレモンとシュガーの割合も丁度よく、バターも香りや味が上質でとても美味でした。

数多くの飲食店が存在するシンガポールで同店が支持されることには、単なる"食事をする場"ではなく、"ライフスタイル"を提供していることが理由の一つであるように思います。フランスでは、カフェやレストランは人々が集まり、会話を楽しむ社交の場として機能しています。食事の時間は一緒にいる人との時間を楽しむという文化がそこに根付いているのです。「Merci Marcel Group」はその考えをシンガポールに持ち込み、普及させていきました。
多国籍な人々が暮らし、多文化への理解も深いシンガポールですが、フレンチスタイルの食文化を提供する店はこれまでほとんどありませんでした。だからこそ、そうした概念を浸透させた「Merci Marcel Group」は稀有な存在なのです。「Merci Marcel」と「French Fold」ともに、時間によって提供する料理を変えているのも、さまざまな時間帯に訪問する楽しみです。シチュエーションごとに使い分けながら、ぜひ大事な方とゆったりとしたひとときをお楽しみください。
▼参考資料
Merci Marcel HP
https://mercimarcelgroup.com/fold/telok-ayer-singapore/
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