2019年夏にフランスで誕生した「Bonpied(ボンピエ)」は、これまでになかった斬新なコンセプトを打ち出す靴下ブランド。「ボンピエ」の靴下を1足購入すると、自動的にもう1足がホームレスに無償で贈られるという、従来の寄付とは異なる新時代の奉仕活動のスタイルと言えるもの。
スタートして1年足らずの小さなブランドとはいえ、テレビや雑誌等の様々なメディアで紹介され、フランス国内で注目を集めています。
きっかけはボランティア活動での「ある気づき」から
立ち上げメンバーは、サンドリーヌ、ドミニク、カトリーヌの友達3人組。それぞれ本業を持っており、サンドリーヌは起業家のための資金調達を請け負うファイナンシャルアドバイザー、夫婦のドミニクとカトリーヌは共に子供服ブランドのデザイナーとして異なるブランドで働いています。そこに、ウェブを担当する学生のコームが加わり、現在は4人で「ボンピエ」を切り盛りしています。
ブランド立ち上げのきっかけを作ったのは、普段から様々なボランティア団体を手伝っているサンドリーヌ。パリのホームレスを援助する活動をしていた際、大量に届く古着の中には、コートやジャケット、パンツ、Tシャツはたくさんあるものの、必要不可欠である肌着類が圧倒的に少ないことに気づきました。
特に靴下は、履き古したものを寄付する人などおらず、かと言って新品を寄付しようと考える人も皆無に近く、慢性的な靴下不足の問題を抱えている現状でした。
ホームレスは寝場所を探したり、無料で食事ができるセンターに移動したりと想像以上に長距離を歩くことが多く、清潔できちんとした靴下を履いていないと足が疲れたり怪我をするリスクが高まります。また、寒い季節に裸足同然で屋外の生活を送っていると、重大な病気にかかる可能性もあります。
健康を保つためにも、足元をきちんと温め守る習慣が大変重要であることを、サンドリーヌはホームレスたちとの交流の中で初めて実感したのです。
そこで、アパレル業界に長年勤める友人のドミニクとカトリーヌに相談を持ちかけ、顧客が自分のために靴下を1足購入すると、自動的にもう1足がホームレスに届けられるという新しいシステムを編み出しました。ある程度の数量がまとまると、パートナーシップを結ぶ3つのボランティア団体にその都度発送しています。
フランス製にこだわった靴下の品質をまずは見てほしい
「ボンピエ」が販売する靴下は、一律18ユーロ。為替レートで換算すると約2000円になりますが、フランスで暮らしている肌感覚では1800円程度と考えて良いでしょう。寄付うんぬんよりも先に、靴下のデザインや品質に惚れ込んだ人が「買いたい!」と思える価格帯に設定すべく、フランスにいくつかある靴下専業ブランドと比べ、同等か少し安い値段にすることを心がけたそう。
まずは「ボンピエ」の靴下そのものを好きになってほしいと強く願う3人は、メイド・イン・フランスにこだわりました。フランス国内に数軒しか残っていない靴下専業のアトリエを訪ね、少量のミニマム数でも受けてくれる1軒を見つけ、編みから縫製まですべてフランス製の靴下を提供することに成功しました。
また、国内輸送だと配送料が抑えられるだけでなく、ガソリンの量も少なく済みエコである点も、フランス製にこだわった理由の一つでした。
普段「3足1000円」といった海外で作られた安価なソックスを購入している客層にとって、「ボンピエ」は高級ソックスの部類に入ってしまいます。
しかし、18ユーロで自分用の靴下を1足、そしてホームレスのためのもう1足の合計2足分を購入したことになること、そしてメイド・イン・フランスの品質の高さと、自国の産業の活性化にも繋がることを考えれば、決して高い金額ではないことを理解してもらえるはずだと3人は考えています。
靴下のデザインは、メンズ用をドミニク、レディース用をカトリーヌが手がけています。誰にでも履いてもらえるように奇抜なデザインは避け、クラシックなドット柄やグラフィカルなモチーフをメインに、さりげなくオシャレなソックスを目指しています。
そして、一般の販売用とホームレスへの寄付用のデザインが異なる点は、「ボンピエ」のコンセプトに根幹に関わる大きな特徴の一つ。無地に3本ラインが入ったホームレス用靴下は、太い糸を用いた厚手の生地で、爪先とかかとは二重に補強されています。「足元からホームレスの健康を守る」という考えに基づき、デザイン性よりも機能性を重視しています。
ブランド立ち上げ当初は、汚れが目立たないようグレー地のものだけ作っていたのですが、一般の顧客からホームレス用の厚手の靴下も購入したいという要望が多く、白地に青や赤のラインを入れたデザインを増やしました。
気負わずに参加できる「ボランティア活動」
現在はオンラインショップのみで販売しています。老若男女問わず様々な年齢層がオーダーしてくれますが、テレビや雑誌を見てコンセプトに興味を抱き、ホームページを訪れてくれた人がほとんどです。
クリスマス前には、子供、孫、姪っ子、甥っ子など家族みんなにプレゼントしたいと大量に購入したムッシューがいて、「自分が買うことで奉仕活動に繋がるという喜びはもちろんのこと、この靴下を贈る際にボンピエの活動をまだ知らない人たちに伝えられるのが楽しいじゃないですか」と語っていたそうです。「物語のある品物」に価値を見出し、ストーリーを語ることでプレゼント以上の何かを与えられると考えた結果生まれたエピソードですね。
寄付金を振り込んだり、古着を届けたり、料理を無償で提供したりなど、従来のボランティアは、ひと手間もふた手間もかかることが必須でした。しかし「ボンピエ」の方式だと、普通にネットショップでお買い物するだけで自動的に寄付ができるので、さほど気負うことなく社会に貢献できるのがポイントです。
ボランティアに興味はあるけど、どういう手順でしたら良いのか分からないという人にとっても、良いきっかけになることでしょう。
名前とロゴに込められた想いとは
大きな目が印象的なロゴと、ブランドのキャッチコピーである「Les chaussettes bienveillantes(親切な靴下)」は、周囲の人たちにも目を向け、自分よりも苦しい環境に暮らす人たちのことを少しでも気にかけてほしいという気持ちでドミニクがデザインしました。
また、それぞれの靴下には、エドモンドやジョゼフ、クロディーヌ、コレットといった名前が付けられています。「ホームレス」とひとくくりにして考えるのではなく、一人一人が名前のある人間であることを忘れないでほしいという願いが込められているのです。
これからの課題は
スタート当初からブランドが抱える最大の問題は、今のシステムを続ける限りほとんど儲けが出ないこと。現状はボランティアと変わらず、各人が本業を持っているからこそ成り立っているビジネスです。
この問題を打破するためには、オーダー数をぐんと増やし製造の単価を下げること、PR活動に力を入れてより多くの人にコンセプトを知ってもらうこと、靴下本来の魅力をアップすべくデザインを改良し、「ボンピエ」らしいブランドカラーを打ち出すことなど、様々な課題があります。
スタートしてまだ1年も経っていない若いブランドですが、今までなかった魅力的なコンセプトを生み出した独創性と、それを実現する力量が素晴らしく、今後どのような広がりを見せてくれるのか楽しみです。
私がこの原稿を書いている現在、1362足の靴下がホームレスに届けられたとホームページに記されています。「新品の靴下を履けるのは本当に嬉しい」と心から喜んでくれたホームレスの言葉がいつも胸にある、とサンドリーヌさんは言います。
「自分が今履いている靴下とペアで寄付されたものを、どこかの街のホームレスが履いているんだな・・・」とふと思うことで、彼らの存在を気にかけるきっかけに繋ればと、ボンピエは願っています。
Bonpied公式サイト:https://www.bonpied.eu
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