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パティシエ達も注目!クリスマスの働き方改革も実現する、デコレーションケーキの新包材!

ホールケーキが2う並んだ写真

菓子業界のパッケージや販促PRに関する事例をご紹介する連載10回目。今回は、最近、パティシエ達の間で話題となりつつある、ホールサイズのクリームデコレーションケーキ用の画期的な包材を紹介します。単に見た目を整えたり破損を防いだりするだけではなく、働き方改革の実現にも繋がるもの。そして、食べる側にとっても嬉しい機能を備えています。一年で最もショートケーキが売れるクリスマス時期にも、大いに効果を発揮しそうです。

クリスマスの強い味方となる、デコレーションケーキ用フィルムとは?

「アステリスク」の2023年クリスマスケーキ

「アステリスク」の2023年クリスマスケーキには、定番人気の「ガトーフレーズ」が装い新たに登場

東京・代々木上原にある「アステリスク」は、世界コンクールにも複数回出場し、日本を代表するパティシエとして知られる和泉光一氏がオーナーシェフの人気パティスリーです。

そのInstagramに、2023年のクリスマスケーキ予約の告知が出た10月下旬、多くのファンから支持される苺ショートケーキ「ガトーフレーズ」の画像に、思わず目を止めました。その側面に、初めて見る、オリジナルデザインのフィルムが巻かれていたのです。

クリスマスと言えば多くの店で一番人気の苺ショートケーキですが、周りに生クリームを綺麗に塗る「ナッペ」は、鍛錬を必要とする職人技。しかし、最後にこのフィルムを巻くならば、多少経験が浅くても仕上げ作業に参加できる戦力を増やせそうです。近年は、クリスマスだから仕方ないと夜遅くまで残業することを避けるべく、経営者達も様々な工夫をしています。このような包材もその助けになるに違いありません。

しかも、丁寧に仕上げて完成させたケーキでも、冷蔵庫やショーケースから取り出す時や箱詰めする時に、うっかり破損してしまう事故がたまに起きますが、このフィルムでそれも防げそうです。

「ガトーフレーズ」5号・4号

2023年12月、「アステリスク」のショーケースに並んでいた「ガトーフレーズ」5号・4号

それ以前、コンビニエンスストアのクリスマスケーキなどで、キャラクターコラボ絵柄入りフィルムを巻いたものは見たことがあり、ややお子様向けのイメージがありましたが、店のオリジナルデザインにすると、お洒落で高級感も感じられます。

その後、実際に「アステリスク」でフィルムを巻かれた「ガトーフレーズ」の5号と4号が店頭に並んでいるのも見ましたが、ショーケース内でも違和感が無く、(他にも採用する店が出てきそうだな。昨今の働き方改革の例として取り上げる機会があるかもしれないな)と記憶にとどめていたのです。

トークショーの様子

トークショーにて、菓子店の働き方改革について自店の事例を紹介する和泉光一氏

2024年6月、製菓問屋主催の展示会内で和泉氏のトークショーがありましたが、まさに働き方改革への取り組み例として、このフィルムのことも紹介されました。そこで、「生クリームがつかずにつるんと綺麗に取れるし、しっとり感が保たれて、いい状態が長く続くと感じる」という評価を伺い、その機能性に非常に興味がわきました。

その頃、同じく都内の人気パティスリー、世田谷区用賀の「リョウラ」でも、このフィルムを巻いた苺のショートケーキ「シャンティー ア ラ フレーズ」を見て、オーナーシェフの菅又亮輔氏に尋ねたところ、「アステリスクのInstagramを見て、これはいい!と思って、すぐに和泉シェフに連絡して真似させてもらいました!」と教えてくれました。

ますます気になり、販売元の「株式会社オザキ」の方に、詳しいお話を伺うことにしたのです。

超撥水・超撥油コーティングフィルム誕生と認知拡大の背景

「シャンティー ア ラ フレーズ」5号・4号

2024年7月、「リョウラ」のショーケースに並んでいた「シャンティー ア ラ フレーズ」5号・4号

取材では、このフィルムの製造元「大和製罐株式会社」の方々にもお話を伺いましたが、なぜ製缶のメーカーさんがフィルムを?と一瞬、意外に思いました。缶の外側や内側に様々なフィルムを貼り付けてきた技術と実績を活かして、2018年頃から、フィルム開発の新事業をスタートされたそうです。

これは、「大和製罐株式会社」が商標を持つ「Aquaglide®(アクアグライド)」という、超撥水・超撥油コーティングフィルム。厚さ40ミクロンのOPPフィルムの内面(ケーキ側)に片面加工。超撥水・撥油性コーティングでナノレベルの凹凸膜を形成しています。接触面積も最小限になっていて、水や油をはじくそうです。特許製法であり、もちろん、食品衛生法に適合しているのでケーキにも安心して使えます。

いただいた資料に掲載された比較画像を見ると、ホールケーキを巻くフィルムで、コーティングしたものとそうでないものとでは、クリームの剥がれ具合が全く違う。これはすごい!と思いました。微細な凹凸が光を乱反射するため、何も印刷していない状態のフィルムは、少し白っぽく半透明に見えます。

コーティング有無の比較写真

「Aquaglide®(アクアグライド)」のコーティングなし(上)とコーティングあり(下)のフィルムの比較例
※参考)大和製罐Aquaglide®(アクアグライド)https://www.daiwa-can.co.jp/product/aquaglide.html

「大和製罐」のホームページの会社沿革を見ると、2020年に、「洋菓子向け撥油フィルムを開発、商品化」と記載されています。これが実際に菓子店で使われるようになった経緯を伺うと、「アステリスク」の和泉氏から「クリスマスの働き方が効率化するような包材はないか?」と相談を受けて、「オザキ」の営業担当者の方が色々と調べられたそうです。そこでこのフィルムを発見して、コンタクトを取られたのだそう。すぐれた技術がニーズに合った製品化に結び付いたのは、素晴らしいことですね。

私も、どのくらい綺麗に剥がれるのか体験しなくては!と「アステリスク」と「リョウラ」、さらにこのフィルムを導入していることがわかった東京・江東区のパティスリー「エクラデジュール」にご連絡し、ホールの苺ショートケーキで実際に試すことにしました。

本当にクリームが剥がれないか、試してみると…

ホールケーキ3つ並んだ写真

「Aquaglide®(アクアグライド)」のフィルムを巻いた「アステリスク」「リョウラ」「エクラデジュール」のホールの苺ショートケーキ

3店舗それぞれのオリジナルフィルムは、やはり生クリームのイメージで白を基調としつつ、ラベンダー色や水色やグレーの淡いトーンでロゴマークや店名などを印刷しています。

「アステリスク」の「ガトーフレーズ」と「リョウラ」の「シャンティー ア ラ フレーズ」の高さはほぼ同じで、幅75mmのフィルムの数mm下で収まるくらい。「エクラデジュール」の「ショートケーキ」は、もう少し低めです。実際にフィルムを剥がしてみると…

フィルムがきれいにはがれた様子

クリームがほとんどくっつかず、フィルムを綺麗に剥がすことができる

確かに、クリームがくっついてこない!

もちろん、フィルムを巻かない状態と比べると、多少の跡は付きますが、この程度ならば気になりません。

お子様がフィルムについたクリームを思わずぺろんと舐めて、お行儀が悪い!と大人から叱られるということもなさそうです。

ホールケーキが2つ並んだ写真

従来のフィルムと比べて、クリーム表面の剥がれは気にならない程度

聞いていたとおり、ストレスなくつるんとフィルムを外せる印象で、クリームの表面が荒れるということも、あまり気になりませんでした。これは画期的です!

実はこれらの3種のショートケーキ、せっかくなのでと、知り合いのパティシエの方々と一緒にフィルムを剥がして試食したのですが、「クリスマスの超多忙な時に、仕上がったケーキをうっかり破損してしまったとは、なかなか言い出せない雰囲気。売場から厨房に戻ってこようものなら、空気がぴりっとしてしまいそう・・。あれが無くなるのは助かります。仕上げができるスタッフも増えていいですよね」と話してくださいました。仕上げ中、巻いたフィルムがずれてしまったりしても、これだけ綺麗に剥がれるならば巻き直すことも可能で、クリスマスのプレッシャーや緊張による失敗が少しでも軽減されるのではないかと思います。

フィルム単体の写真

「エクラデジュール」で使っているオリジナルフィルム

3店舗のフィルムとも、上下逆さにしても使えるデザインで、店舗名のロゴも両方向から入れたり全体に散らしたりしている点は共通していました。

同じ柄を繰り返すエンドレス印刷で、1ロットの中で、直径12cmの4寸・15cmの5寸・18cmの6寸用の長さを、好きな数量で切り分けられるそうです。制作にかかる時間は、時期にもよるそうですが、「Aquaglide®(アクアグライド)」の原反の在庫があれば、1-2ヶ月ほどで納品の目安だそうです。

別注品となり、サイズは融通が利くそうですが、菅又氏や「エクラデジュール」オーナーシェフの中山洋平氏に伺ったところ、「当初、クリスマス用だけのつもりでオーダーしたけれど、万枚単位で納品されるので、普段のホールのショートケーキケーキにも使っています」とのこと。

菅又氏に、普通のOPPフィルムと価格を比較してどうか尋ねたところ、「最初に印刷用の版を起こすので、その料金はかかりますが、それを除くと1枚当たりの単価は1.5倍くらいという感覚で、費用対効果を考えると現実的な範囲だと思います」とのこと。「リョウラ」で使っているのを見て、かつて修業した地元の師匠の店でも導入を検討しているそうです、とも。パティシエ同士の口コミで、少しずつ広まっていきそうですね。

AGコートデコフィル

2024年9月発売となった「AGコートデコフィル」

「オザキ」にも、今夏頃から問い合わせが増えているそうで、職人不足や破損による食品ロスなどの課題への対応策として注目されつつあるようです。

ただ、何万枚も納品されるのでは、使いきれない店も少なくないのではないか?と思ったところ、反響を受けて、少量ロット販売の既製品を作ることが決定。クリスマスを意識し、雪の結晶模様の白とひいらぎ模様の赤の2種の柄物と、無地の3種類のパターンがあり、4寸・5寸用は400枚単位、6寸用は300枚単位で発注可能。「AGコートデコフィル」という名前で9月下旬より発売開始となったそうです。

このフィルムは、お店にとってのメリットも大きいですが、食べる側にとっても有益です。生クリームのデコレーションケーキを箱から取り出す時、うっかり表面を傷つけてしまうこともあります。綺麗な状態で写真を撮ったり、SNSに投稿したりしたかったのに…と歯噛みした経験のある方もいらっしゃると思いますが、そのような事故も減るでしょう。

さらに、焼き菓子のパッケージなどにも応用できないか?と期待が膨らみます。

昭和時代に流行り、平成時代に再び注目され今でも人気のある「レモンケーキ」は、上にアイシングやチョコの上掛けをして仕上げることが多いです。しかし、これをOPP袋などに封入すると、袋の裏側にべったりと表面のコーティングがくっついて、開けた時に剥がれてしまうことがよくあるのです。そんな残念なことも無く、作り立てとほとんど変わらない綺麗な状態で見て楽しみ、味わうことができたら、嬉しいことこのうえありません。

包材には、まだまだ新たな課題解決の可能性があると感じられた事例でした。

現場でお菓子を作り販売する方々、店舗で購入して持ち帰り食べる方々からのリアルな声は、今の時代に求められるヒット商品開発に繋がる、大きなヒントとなることでしょう。

 

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