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創業100周年「中央軒煎餅」が考える未来とは?新商品やフードロス削減の提案

菓子業界のパッケージや販促PRに関する事例をご紹介する連載7回目。今回は、2023年に創業100周年を迎えた東京都板橋区の「中央軒煎餅」を取り上げます。

この5年ほどの間に、これまでの米菓の枠を超えた新商品を続々と発売してきました。個包装の一口おかき数種類をお洒落なパッケージや缶に詰め合せた「Kumitte(クミッテ)」シリーズ、イタリアの伝統菓子からヒントを得た新感覚のおかき「Risocotti(リゾコッティ)」、自分で完成させて楽しむアウトドア向けの「CAMP de OKAKI」、など。さらに、フードロス削減に力を入れ、割れ煎餅を原材料とした「食べるスプーン」を開発するなど、未来に向けた興味深い取り組みを行っています。

「中央軒煎餅」の歴史と100周年を迎えての挑戦

東京都板橋区東新町にある「中央軒煎餅」本店の外観

東京都板橋区東新町にある「中央軒煎餅」本店の外観

同社は大正時代の1923年、東京都荒川区で創業し、煎餅やおかきを作ってきました。やがて工場を拡張し、首都圏の百貨店や量販店などにも出店、認知を広めていきます。

2011年6月、東京都板橋区東新町に本社社屋を移転。10月には本店をオープンし、この頃から、新ブランドの立ち上げや海外に向けての展開など、さらなる挑戦に取り組み始めます。

2020年3月には、4代目に当たる山田宗氏が代表取締役に就任。商品の味や品質だけでなく、パッケージデザインや、ブランドのストーリーをどう伝えるかといったことも深掘りし、今の時代に合った新商品を続々と誕生させてきました。この頃から、社外のデザイナーの方にもご協力をいただくようになり、パッケージも変化していったそうです。

「中央軒煎餅」100周年記念サイトのトップページデザイン

「中央軒煎餅」100周年記念サイトのトップページデザイン( https://www.chuoken.co.jp/pages/100th

100周年記念特設サイトの中では、特に、煎餅作りの工程で生じるフードロス削減のための取り組みに力を入れて紹介。「ものづくりのメーカーから、笑顔づくりのクリエイター・チームへ」というビジョンを掲げ、これまで大事にしてきたものづくりの精神を継承しつつ、新たな価値創造を目指しています。

米菓のイメージを超える新商品が続々と登場

「きりのさか」ブランドの「玄米ちっぷす」各種

「きりのさか」ブランドの「玄米ちっぷす」各種

2011年の本店開業時、若い客層にも米菓の魅力を伝えるべく、新ブランド「桐乃坂中央軒」を立ち上げましたが、2018年に「きりのさか」としてブランドリニューアル。国産玄米100%の生地を米油で揚げた軽やかな「玄米ちっぷす」は、玉ねぎ・桜えび・パルミジャーノレジャーノの3種類が定番味。催事などでスイートコーン・トマト&ビネガー・柚子しょうゆといった限定味も登場する。

手に取りやすいスタンド袋と、缶に個包装入りの2パターンの展開です。植物柄が描かれたピンク色の袋や缶は、まるで海外の紅茶ブランドのようにお洒落で、若い世代の目にも止まりそうです。

「きりのさか」ブランドの「ライスパレット」

「きりのさか」ブランドの「ライスパレット」

「きりのさか」ブランドの商品は、催事中心に販売をしてきましたが、2022年4月、東京駅の「グランスタ東京」京葉ストリートエリア内に常設店がオープン。もち玄米のスティック状の生地にドライフルーツとナッツ、チーズとベーコン、ブラックペッパーをのせて焼いた「ライスパレット」は、見た目もお洒落で、ワイン会への差し入れにしたくなるような新感覚おかき。1つずつ手でトッピングした繊細な作りのため配送はしておらず、大量生産も難しいためグランスタ東京店の限定販売で、知る人ぞ知る人気商品となっています。

「Risocotti(リゾコッティ)」パルミジャーノ レジャーノ&ブラックペッパー

2020年に新発売された「Risocotti(リゾコッティ)」パルミジャーノ レジャーノ&ブラックペッパー(10個入1080円)

2019年3月には、イタリアの伝統菓子「ビスコッティ」をヒントに玄米で作った新感覚のおかき「Risocotti(リゾコッティ)」を発売。ゴロッとしたアーモンドとピーナッツ入りでコーヒーによく合う“2種のナッツ&バター風味”に続き、“パルミジャーノレジャーノ&ブラックペッパー”も登場。ボタニカル柄の個包装に、それぞれ、緑色のボックスと赤色のボックス。2種入りのアソートもあり、お酒のおつまみにもぴったりなので、辛党の相手への手土産にも向きます。

缶がお洒落な「Kumitte」

缶がお洒落な「Kumitte」6種×8個入2322円

2021年3月に発売された「Kumitte(クミッテ)」は、桜えびレモン・アーモンドメープル・トマトペッパー、胡麻ごぼうなど、“素材と素材を組み合わせた”個包装の小さなおかきの詰め合わせ商品です。

袋や紙管箱入りもありますが、36個入以上は、縁がゴールドで上蓋は丸みを帯びたフォルムの白い缶入で高級感があり、食べ終わった後も缶を再利用したくなります。原価の違いはあれど、洋菓子業界で大人気のクッキー缶と対比して、かなりのお値打ちと感じさせる価格帯です。

2022年にリニューアルした「Kumitte 夏」、「Kumitte チョコレート」

2022年にリニューアルした「Kumitte 夏」、「Kumitte チョコレート」

「Kumitte(クミッテ)」はその後も、季節限定の「Kumitte 夏」や、「Kumitte チョコレート」などがパッケージをリニューアルして登場。おかきとは思えないポップな柄のパッケージが鮮やかで目を引きます。

食糧自給率アップやフードロス削減への取り組み

クラウドファンディングで限定販売された「ARARE Jumpin!」

クラウドファンディングで限定販売された「ARARE Jumpin!」3種

さらに、壮大な目標も見据えています。従来のおやつの枠を超えて、朝食や軽食、おうち時間やアウトドアなど、様々な時間やシーンで楽しめるおかきづくりにチャレンジ。おかきの主原料である国産もち米の消費量を増やすことで、日本の食糧自給率をあげることを宣言。第一弾として、子育てママを応援する「ARARE Jumpin!(アラレ・ジャンピン!)」という“スープに合うあられ”を開発。パンやシリアルに代わる“朝食の新定番”として、2021年7月に初めてクラウドファンディングに挑戦し、「Makuake」での販売を実現しました。

体験参加型商品の「CAMP de OKAKI」3種

体験参加型商品の「CAMP de OKAKI」3種

第二弾として、コロナ禍にアウトドアやキャンプで楽しいおかきづくりが体験できる「CAMP de OKAKI(キャンプ・デ・オカキ)」を2021年9月に商品化。焼き工程前のおかきやあられ生地をパックしたもので、Panfry(揚げ焼き)・Roast(煎り)・Grill(網焼き)の3つの製法で作る、プレーン・オニオン・ブラックソイビーン(黒豆)の3つの味があります。焚火を囲んで自分だけのおかきづくりを体験してほしいとの思いを込めたそうです。

10数種類のバリエーションがある「Kakecco(かけっこ)」

10数種類のバリエーションがある「Kakecco(かけっこ)」(1袋80~100g入297円)

また2020年10月より、フードロス削減のために、製造工程の途中でどうしても出てしまう欠けたおかきをパッケージングして「Kakecco(かけっこ)」という名前でシリーズ商品化。「Kakecco」は「欠け」と「エコ」を掛け合わせた造語で、ロゴに筆記体を用いることで、“欠けで未来へ笑顔のバトンをつなぐ”という意味を込めているそうです。

そして、SDGsへの取り組みとして、この売上の3%を、国際NGO「ワールド・ビジョン・ジャパン」を通じて「水と食糧のための募金」に寄付。累計支援金額は、2023年10月10日時点で2,126,844円に及びます。

およその目安として、「Kakecco」6袋が売れることで、ご飯茶碗約4杯分(約520g)のフードロスを減らし、飢餓に苦しむ子供1人分の1日の食糧支援(約50円)に該当する寄付金を捻出可能とのこと。

2022年に勃発したウクライナ紛争への緊急支援寄付にも一部を充てているそうです。

イベントで量り売りをした「GRAM Kakecco(グラムかけっこ)」

イベントで量り売りをした「GRAM Kakecco(グラムかけっこ)」(100gあたり324円)

さらに2023年11月には、「GRAM Kakecco」と称し、本店で「Kakecco」を量り売りするポップアップ販売を開催。好きな味を好きなだけ気軽に購入でき、容器持参や瓶を利用すればゴミを減らせるということを実感できるイベントとして注目され、多くのお客様が来場。約71kg分のフードロスを削減することができ、8月のプレ開催時の約27kgと合わせて、合計100kg近い削減効果があったそうです。

「みらいスプーン」

製造工程で欠けてしまったおかきを原材料として開発された「みらいスプーン」

また、同じタイミングで、“たべる アップサイクル”を謳う「みらいスプーン」をお披露目し、試食体験会も開催しました。

2023年6月、コンビニエンスストアの「ミニストップ」が、ソフトクリーム用のスプーンをプラスチック製の使い捨てから「食べるスプーン」に変更し、話題となりました。これに対して「中央軒煎餅」の「みらいスプーン」は、製造工程で欠けてしまった醤油味のおかきをアップサイクルすることで誕生したもの。国産野菜でできた食べられるスプーン「PACOON」の開発・販売を手がける「株式会社勤労食」(愛知県刈谷市)と共同で開発したもので、フードロス削減も実現しているという点で、いっそう“未来”に貢献していると言えます。

みらいスプーンで食べる楽しさ

醤油おかき味の「みらいスプーン」で食べることで、味わいが変化する面白さも

“醤油おかき”風味の食べられるスプーンなので、これを使ってソフトクリームを食べると塩味で甘さが引き立つと、試食会でも話題になったとか。ヨーグルトやバニラアイスクリーム、プリンなどと合わせても面白そうです。現在はまだ、販売される段階には至っていませんが、将来的に、キッチンカーの屋台飯とのコラボの可能性などもあるかもしれませんね。プラスチックごみとフードロスを減らす取り組みとして、他の食品メーカーや菓子店から注目されそうです。

 

100周年を節目の一つとして、積極的に新しいことに挑戦している「中央軒煎餅」。

新コンセプトの商品デザインについては、「Kakecco」は自社、「CAMP de OKAKI」は別のデザイナーさんだそうですが、それ以外は同じ方にデザインしていただくことで、統一感も出しているそうです。

これからも、110年、120年と歴史を重ねながら、未来のお煎餅・おかきのスタイル、その楽しみ方を提案してくれることでしょう。

 

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