パリの高級フレグランスメゾンが、キッズ向けのシャボン玉を開発した狙い——巨大な香水マーケットに挑む(前編)
フランスといえば、世界的な香水の一大産地です。フランス料理・ワイン製造・高級ファッションブランドなど、様々な歴史的産物がこの国にはありますが、香水産業もフランス文化を語る上で無くてはならないものの一つです。世界の市場規模が90億ドル(約7,650億円)という香水業界ですが、今後も増加傾向にあるようです。
フランス国内における化粧品の市場規模はかなり巨大で、そのうち注目すべきなのは香水市場が化粧品全体の24%であることです。一年のうちで一番経済が活性化するクリスマスシーズンのプレゼントランキングには、毎年必ず香水がトップ5に入るほどです。
高級フレグランスメゾンが子ども用のシャボン玉を開発
幾多の香水ブランドのなかでも知名度が高く、天才調香師が率いるフランス発のブランド「Maison Francis Kurkjian(メゾン・フランシス・クルジャン)」が、2019年4月にキッズ向けの香り付きシャボン玉を発表しました。
大人を対象にした香水を作り続ける香水業界においてこのプロデュースは初の試みだそうで、今までにないユニークな商品です。実はそこには「Maison Francis Kurkjian(メゾン・フランシス・クルジャン)」の香りに対する愛情と、未来の香水業界に向けてのメッセージがありました。
フランスにおける香水の新旧の価値観も交えながらご紹介したいと思います。
フランスにおける香水の起源とは?
フランスの香水の起源は18世紀の南仏にあります。当時は上・下水道ともに整備されておらず、フランスの街は悪臭で立ち込めていました。南仏の小さな町、グラースで生産される革製品は質が大変良く、特に革手袋が裕福な上流階級の婦人達に人気でした。しかし革手袋の欠点は、その臭い。そこである職人が香水つきの革手袋を考え早速商品化したところ、それが大人気商品となったそうです。
もともと上質なジャスミンとローズの名産地であったグラースは、香水を製造する土地としてぴったりの場所でした。その評判はルイ16世とマリーアントワネットのいるヴェルサイユ宮殿まで届き、瞬く間に香水がトレンドとなったそうです。
しかしながら当時のヴェルサイユ宮殿では、1,000人の王侯貴族と4,000人の召使いが常時出入りしていたにもかかわらず、トイレの数が圧倒的に足りず、処分に困った汚物を庭や回廊に捨てていたということで、宮殿でさえ悪臭が漂っていたそうです。
香水の種類に「オードトワレ」がありますが、フランス語に直訳すると「洗う水」となります。文字通り、悪臭や体臭を消すために香水が重宝されていました。
上述のように少し恥ずかしい歴史からスタートした香水ですが、時を経て1900年代に入ると、ココ・シャネルなどの高級メゾンが香水を発表し、ファッションと香水は密接な関係性へと変わります。近代から現代のフランスにおいては、香水が自己表現の一環として、また異性へのアピールとして、日常生活における必需品となりました。
このように、フランス人には歴史的に嗅覚に耐性があったこと、湿度がなく乾燥していて気温が低いこと、肉食のため体臭が東アジア人に比べて強いこと、入浴の習慣がないこと、個性を重んじる文化であること、などの複合的要因が重なり、これほどまで香水産業が発達したのだと言えます。
スター調香師が率いる「Maison Francis Kurkjian(メゾン・フランシス・クルジャン)」
香水業界は大きく3つのカテゴリーに分かれます。
➀大手ファッションブランドが手掛ける香水
②海外のスターの名を冠した香水(化粧品会社と共にプロデュースしているものが多い)
③メゾンフレグランスと呼ばれ、香水のみを製造から商品化まで専門的に行っているブランドの香水
今回ご紹介するのは③のメゾンフレグランス、「Maison Francis Kurkjian(メゾン・フランシス・クルジャン)」です。
2009年創業、世界45か国で販売されているフランス発の高級フレグランスブランドです。現在「5本の指に入るスター調香師」と名高いフランシス・クルジャン氏は、若干26歳の時に世界的ベストセラーの「ル・マル(ジャン・ポール・ゴルチエ社)」を手がけました。以降次々とヒット作を飛ばし、一躍人気調香師となります。また、調香師ながら卓越したビジネスセンスを持ち、一代で大成功を収めた人物としてその活躍は業界でも抜きんでています。
「Maison Francis Kurkjian(メゾン・フランシス・クルジャン)」の香水の多くは高潔で知的な作品が多く、30代~50代の方に好まれる香りです。
もとより香水専門の記事を執筆していた筆者が目にとめたのは、この高級フレグランスメゾンが今年発表した「Les Bulles d'Agathe(レ・ビュル・ドゥアガタ)」なるキッズ向けシャボン玉です。
普段おもちゃ屋さんや量販店でしか見かけない、しかも安価に手に入るシャボン玉を、なぜ高級フレグランスメゾンが手掛けるのか?子供向けの商品を発売する狙いは何だろう?と疑問に感じ、専門ブティックにてお話を伺ってきました。
▼後編はこちら
https://pake-tra.com/marketing/5515/
▼パケトラおすすめの関連記事
「Unframe:型にはまるな」—— 日本のコスメブランドが、ニューヨークで伝えたブランドメッセージ
ニューヨーク発、大ヒットオンラインコスメ「Glossier」の戦略