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パリの高級フレグランスメゾンが、キッズ向けのシャボン玉を開発した狙い——巨大な香水マーケットに挑む(後編)

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普段おもちゃ屋さんや量販店でしか見かけない、しかも安価に手に入るシャボン玉を、なぜ高級フレグランスメゾンが手掛けるのか?子供向けの商品を発売する狙いは何だろう?と疑問に感じ、専門ブティックにてお話を伺ってきました。

香りへ興味を持つきっかけに

Photo:見た目鮮やかなシャボン玉のサンプル

10坪にも満たない、こじんまりとした専門ブティックのメインディスプレイに「Les Bulles d'Agathe(レ・ビュル・ドゥアガタ)」は陳列されていました。「Les Bulles d'Agathe(レ・ビュル・ドゥアガタ)」は日本語訳で「アガタの泡」です。

まずこの名前の由来は、創業者フランシス・クルジャン氏の姪の名前「アガタ」からきています。自身が10代のころに調香師になることを決意したきっかけである、彼の姉(当時香水ボトルのコレクションをしていたそうで、弟のクルジャンは中身に興味を持ったそう)のお嬢さんへ向けた愛情表現でもあるそうです。

さらにフランシス・クルジャン氏はヴェルサイユ宮殿にも敬意を払っていて、ルイ14世が愛した5種類の香り——洋梨、ミント、ローズ、切りたてのハーブ、スミレ をシャボン玉に添えました。彼はフランスでもパリ・グラース・ヴェルサイユの3つしかない調香学校のうち、最難関であるヴェルサイユの学校を卒業しています。

Photo:ショーケースにある「Les Bulles d'Agathe(レ・ビュル・ドゥアガタ)」

気になるこの「Les Bulles d'Agathe(レ・ビュル・ドゥアガタ)」を発売した理由について、ブティックのマネージャーはこう語ります。

『「Les Bulles d'Agathe(レ・ビュル・ドゥアガタ)」のコンセプトは、

“Des bulles de savon parfumées à souffler, imaginées pour faire découvrir les odeurs aux petits et amuser les grands.

―香り付きのシャボン玉で子供たちに嗅覚の紹介を、大人は遊ぶ機会を―” です。

子供は嗅覚の目覚めが早い時期から訪れます。フランスには子供が多い。そしてシャボン玉を嫌う人はいませんよね?小さな子供に香水はまだ早いので、親と一緒に楽しめる香りを考えた時に、クルジャンは香り付きのシャボン玉を発見しました。フランスの香水は芸術作品だと思います。将来、子供達が香水に興味を持ってもらうようにと、私たちの願いが込められています。香水業界でも初めてでユニークなアイデアです。シャボン玉だけでなく液体石鹸としても使えます。またこの商品はパリ限定ですが、ギフトに最適です。』

Photo:ギフト仕様にして頂きました。フランスで商品購入時にギフトラッピングをほとんどしてくれないのが現状ですが、とても丁寧に対応してくださいました。

14ユーロ(およそ1680円)とシャボン玉としては少々高めですが、プレゼントにはとても嬉しい値段です。

嗅覚を鍛えることによって将来が期待される

 一般的に嗅覚は5歳ころから発達し始めると言われています。一説には、まだ目が見えない頃の赤ちゃんはお母さんの母乳の位置を嗅覚で探し当て、さらに思春期になるとピークに達し、女性は未来のパートナーを匂いで判断するそうです。

パリにあるパスツール研究所では、嗅覚を使ってアルツハイマーを治せないかという研究もされているほど。人間でも動物でも、嗅覚は五感の中で一番のスピード感と記憶力を持つ優れた感覚なのです。

香水のメッカ・フランスでは「Maison Francis Kurkjian(メゾン・フランシス・クルジャン)」のブティックマネージャーが言うように、香水の立ち位置が“芸術作品”と、非常に高いものとなっています。また嗅覚の分野においては科学的にも未知数の分野であると言えます。

Photo:洋梨の香りのシャボン玉。見た目も美しく、天然香料を使用しているとのことでリアルな洋梨の香りです。

調香師はフランス語で「le nez(ル・ネ)=鼻」と呼び、世界におよそ200人強しか存在していません。そのうちの50人ほどがフランス出身とされています。調香師への道は大変厳しく、自然界における5,000種類もの香りを嗅ぎ分ける能力が必要です。さらに調香学校では化学の知識を叩き込みます。

もちろんタバコ、アルコール、香辛料やコーヒーなど嗅覚を鈍らせる嗜好品は一切禁止されていて、芸術家のなかでも一番禁欲的な職業です。一日の実働時間はたった2時間とのことで、どれほど神経を使う職業か計り知れません。幼少期からの訓練も大切です。

しかしこの狭き門をくぐり抜けた、才能ある調香師たちの将来は確実に約束されたもであります。フランスでの調香師の社会的ステータスは大変高く、由緒正しい良家の出身でないと裕福になれないという、未だに階級制が色濃く残るフランス社会で躍進する希望でもあります。

芸術は国境や人種をとび越えて評価されます。

フランシス・クルジャン氏はアルメニアにルーツを持つ移民系フランス人です。というのも、現在フランスで活躍する著名な調香師は南アフリカ出身だったり、インドにルーツがあったりと様々な出自を持っています。その複雑な出自が反骨精神を生み、素晴らしい作品を生み出すのかもしれません。

そして、つい10年前まではフランス血統にこだわっていた調香師界の風向きが変わってきているのを実感しています。

そんな香水文化が深く根付いたフランスだからこそ、「Maison Francis Kurkjian(メゾン・フランシス・クルジャン)」は子供向けの香り付きシャボン玉を発表したのだろうと思います。幼少期より「香り=楽しいもの」という価値観を与えることによって、香りに興味を持ち、将来的にその道を志す子供が現れることでしょう。調香師にならなくとも、消費者として20年後、30年後の香水業界を担う存在でもあります。

Photo:孫のためにシャボン玉を練習する筆者の義父

今現在のトレンドを追う香水ブランドが多いなか、子供の将来を見据えて造られた「Les Bulles d'Agathe(レ・ビュル・ドゥアガタ)」は画期的な商品であるとともに、フランシス・クルジャン氏の香水に対する敬意と愛情が垣間見えるものでした。

Photo:大人の方が喜んでいます。シャボン玉の風景には幸福感があります。

フランスにおける香水業界の今後の展望

香水市場を牽引する動向として、ミレニアル世代(2019年現在、18〜32歳の人)からの需要の増加が期待されています。SNSの発達により、ミレニアル世代は中性的で美意識が極めて高いことで知られています。

香りのトレンドも変わりつつあり、主流はジェンダーレスなユニセックス商品です。女性用・男性用と香りを区別することがなくなったオープンマインドなフランスでは、香水業界の未来は明るく、今後さらなる成長が見込めると言えるでしょう。

Photo: 2019年3月オープンのギャラリーラファイエット・シャンゼリゼ店の広大な香水売り場。多くの男性客がいました。

フランシス・クルジャン氏においては、今日の香水業界のターゲット層であるミレニアル世代の先をも見越して商品を発表しています。2017年に業界最大手のLVMHの傘下に入ったことから、今後はクルジャンの時代が来るだろう、とも言われています。

世界一の名香として名高いシャネルの5番を発表した、デザイナーのココ・シャネル氏の名言があります。

「香水をつけない女に未来はない。」

ところが当の本人は強い香水を好まなかったそうで、無理やり5番の香りをコットンに浸みこませて下着の間に挟み、著名人との会食に足を運んでいたのだとか。このことから、飛びぬけたクリエイターであったとともに、インパクトのあるキャッチコピーを発しマーケティング能力に長けた人物と言えます。まもなくシャネルの5番が発表されて100周年を迎えます。100年もの長い間、世界中で語り継がれる商品もなかなか無いのではないでしょうか。

大の親日家でもあるフランシス・クルジャン氏は2016年、来日時のインタビューでこう語っています。「新しいフレグランスを生み出すにも時間が必要だし、またその価値を判断してくれるのも後世の人たち。時の流れというものを大切なキーワードとして考えている」。

彼もココ・シャネルと同様、先見の明のあるクリエイターのような気がしてなりません。

さいごに

高級フレグランスメゾン「Maison Francis Kurkjian(メゾン・フランシス・クルジャン)」が発表したキッズ向けの香り付きシャボン玉は、ただ斬新なだけでなく、未来のフランスの香水市場を見据えた素晴らしい商品でした。

前回の記事でも述べましたが、フランスの出生率は1.87と高い水準をキープしており子育ての環境も整っています。街のいたる所に子供のいる風景があります。そして子供の将来性を真剣に考える環境だからこそ生まれるアイデアがあると思います。

フランスで続々と発表されるニッチフレグランスの斬新さには驚かされるばかりです。これからどんどん大きくなるであろう香水業界に、今後も目が離せません。

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