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「チョコレートから奴隷をなくす」——シリアスなメッセージをポップに伝える、トニーズ・チョコロンリーの挑戦

はじめまして、ライターのマローン恵です。ハワイ州のオアフ島に約10年住み、2018年末にアメリカ合衆国オレゴン州に引っ越してきました。

今回は、オレゴン州ポートランドにアメリカ支局を持つチョコレート会社、トニーズ・チョコロンリー(Tony's Chocolonely)についてご紹介します。「チョコレート産業におけるModern Slavery(現代の奴隷制度)の撲滅」というシリアスなテーマを、ポップでハッピーなパッケージングで伝え、ポジティブなインパクトを世界に与えているオランダ発の会社です。

「搾取によって生まれたチョコレートを食べた罪」で自分を訴える!?

トニーズ・チョコロンリーは、オランダ人ジャーナリストTeun van de Keukenさん(英語名Tonyさん)の活動によって始まった会社で、本部はオランダのアムステルダムにあります。チョコレート産業は年間1,000億ドルと言われる巨大マーケットですが、原料となるカカオの栽培を行う農業従事者に正当な賃金が支払われていないことが、たびたび問題視されています。

Photo:”Our Mission” Tony's Chocolonelyウェブサイトより

なかでも世界のカカオ生産量の約60%を占める西アフリカのガーナやコートジボワールのカカオ農家では、児童の強制労働が行われ、人身売買の温床になっている——その事実を知ったTonyさんは、この問題を世界に知らしめるため、2004年、なんと「児童の強制労働によって生産されたチョコレートを食べた罪」で自分自身を提訴したのです。

この訴えは不起訴処分となったものの、Tonyさんはめげませんでした。欧州の大手チョコレートメーカーに労働者を搾取しないカカオを使用してもらうよう働きかけますが、どの会社も聞き入れてくれず、ならば自らがチョコレート産業のお手本になろうと、2005年にトニーズ・チョコロンリーを立ち上げました。現在、本国オランダではチョコレート市場のリーダー的存在に成長し、その影響力はヨーロッパ全体に広がりつつあります。

2015年、トニーズ・チョコロンリーはアメリカに進出。食産業においてのサステナビリティに対する考えが浸透したポートランドにオフィスを構え、アメリカ全土への「布教活動」を行っています。

この度、USオフィスを訪ね、スタッフのニコライさんにお話を伺いました。

Photo:トニーズ・チョコロンリーUSオフィスのニコライさん

農家への配当が25%も多いのに、なんでこんなに安いの?

2005年、創業者のTonyさんがまず行ったのは、農家に正当な賃金が支払われるフェアトレードのカカオを使ったチョコレート作り。フェアトレードとは、生産者と仕入れ業者が対等な取引を行うことで労働者の搾取をなくす仕組みのことを言います。これ自体は素晴らしいものですが、中間業者のマージンが発生するために労働者に利益が還元されきらないといった問題も、指摘されています。

トニーズ・チョコロンリーでは、中でも搾取の激しいガーナとコートジボワールに仕入れ先を絞り、定期的に現地を視察。信頼できる現地の協同組合から直接カカオを仕入れることで、中間マージンが発生しない仕組みを採用しました。ところが…。

「調べてみたところ、フェアトレードで規定されている労働賃金では、実際に暮らしていくための収入としては十分でないことが分かったんです。そのため、私達のチョコレートでは規定の平均価格よりも25%多い料金をカカオ農家に支払う❝トニーズ・プレミアム❞という制度を実施しています」(ニコライさん)

Photo:ポートランドのパール地区にあるUSオフィス。天井にミラーボールが!(笑)

原料が25%も値上がりすれば、ビジネス的には大打撃、商品価格も上げせざるを得ない…と通常ならば考えるところですが、なんとトニーズ・チョコロンリーのチョコレートバー(180グラム)は5ドルほどの価格で販売されています。ビーン・トゥ・バーの他社製品が通常8~10ドル前後なので、その約半額ほどという安さ。

なぜこの価格が実現できるのか?と不思議に感じてしまうこと自体が、「既存のチョコレート産業が搾取の上で成り立っている証拠」とニコライさんは語ります。

「私達のゴールは、100%スレイブフリー(奴隷なし)を実現させること。私達が作るものだけでなく、世界中のチョコレートがスレイブフリーになることが目標です。そのために、手頃な価格であることは必須条件。私達の競合は、高級ブランドではなく、スーパーマーケットやドラッグストアで売っているもの。みなさんが普段食べるおやつのチョコレートなのです」

Photo:オフィスのテーブルには「Crazy about Chocolate, Serious about People(チョコレートには熱狂的に、人には真剣に)」のスローガン

いくら崇高なミッションを掲げていても、割高商品を買ってくれる人は限られてしまいます。大手お菓子メーカーと大きな開きのない安めの価格帯でも、ちゃんとスレイブフリーを実現できるということを体現しているわけですね。

コンペティターは、大手お菓子メーカー。ですが、他社をつぶすことが目標ではなく、ゴールは一貫して「チョコレート産業における100%スレイブフリーの実現」。トニーズ・チョコロンリーは労働者を搾取しないチョコレートビジネスのあり方を他社にも推奨し、現在では大手お菓子メーカーVerkadeがこの意思に賛同。少しずつではありますが、業界が変わり始めています。

シリアスなメッセージを、ポップなパッケージで伝える

フェアトレードの規定よりも25%割増料金で原料を仕入れ、安価な販売価格で大手お菓子メーカーに対抗する。と同時に、フェアトレード商品にありがちな、メッセージ性の強すぎるパッケージを排除。ポップでカラフルなパッケージデザインは、お菓子売り場でひときわ目を引く存在です。

Photo:ブランド立ち上げ当時、チョコレート産業の奴隷廃止を訴えたのがTonyさんだけだったことから、Lonely(孤独)を含んだ「Chocolonely」と名付けられました

パッケージには、フェアトレード認証マークすらありません。ブランドとしては一番の押しどころである「世界のために頑張ってます」アピールは一切なく、唯一あるのは左上にある鎖を断ち切った図と、極小フォントで書かれた「together we make chocolate 100% slave free(みんなでチョコレートを100%スレイブフリーに)」のスローガンだけ。

チョコレートとは、甘くてリッチな幸せの味。心躍るごほうびスイーツ。そんなハッピーなイメージをめいっぱい表現したパッケージですが、包みを開くと、中面ではしっかりとミッションが説明されています。

Photo:ミッションの説明も、あくまでポップに。インフォグラフィックを用いて、子供でも分かりやすく、楽しいデザイン

「私達だけでも100%スレイブフリーのチョコレートは作れます。でもみんなと一緒なら、世界中のチョコレートを100%スレイブフリーにできます。ですから私達はただチョコレートを作って売るだけでなく、この活動を広め、賛同してくれる仲間を増やすことに力を注いでいます」と、ニコライさん。

Photo:不ぞろいな割れ目は、労働者が搾取される現在のチョコレート産業の不平等さを象徴しています

トニーズ・チョコロンリーのウェブサイト(https://tonyschocolonely.com/us/en)では、さらに詳しいミッションの説明があるだけでなく、これまでの歴史とタイムライン、達成した成果などが公開されており、すべて商品パッケージと同様のトーン&マナーで統一されています。

また、128ページにもわたる年間レポートをまとめた冊子が無料で配布されているほか、全ページのPDFをウエブサイトにて閲覧することができます。

Photo:Tony’s Chocolonely Annual “FAIR” Report 2017/2018

ビープビープ!チョコトラックが全米をゆく

Photo:バーモントへ向かうチョコトラック(Tony's Chocolonelyウェブサイトより)

トニーズ・チョコロンリーのミッションをアメリカ全土に広めるため、真っ赤なチョコトラックが全米ツアーに出ています。じつは私がこの会社について知ったのも、このチョコトラックと出会ったことがきっかけでした。

お菓子のおまけみたいな、かわいらしい真っ赤なワゴン車の内部は小さなミュージアムになっており、チョコレート産業における問題やトニーズ・チョコロンリーが目指すミッションが、グラフや模型を用いて説明されています。

Photo:歯車を回したりボタンを押すと表示が変わる、仕掛け絵本のような車内

Photo:ウエブサイトでは、チョコトラックのルートがリアルタイムで表示されています(Tony's Chocolonelyウェブサイトより)

チョコトラックではチョコレートの試食も行っているのですが、興味深いのが、商品を販売していないところ。試食してみて気に入ったら、ぜひお近くのスーパーで買ってくださいね、とのこと。

「チョコトラックの目的は、私達のミッションを広め、賛同してくれる仲間を増やすこと。トラックがいる時だけ買ってもらっても意味はありません。近所のお店で継続的に買ってもらい、お店の人にも『このチョコレート、注目されているんだな』と思ってもらうことで、ポジティブなインパクトを残すことができます」(ニコライさん)

Photo:原料のカカオ豆もカカオバターも、100%トレーサブル(追跡可能:どこで栽培されたものかが分かる仕組み)

2018年のレポートによると、同社の全体売り上げのうちUSが占める割合は、まだ7%。しかし、以前はナチュラル系スーパーマーケット中心の取り扱いだったのに対し、最近では食料品店だけでなく雑貨のセレクトショップ、アウトドア共同組合REIでも販売されるようになりました。

優良企業に与えられるBコーポレーションの承認も受け、ますます注目度が高まっているトニーズ・チョコロンリー。アメリカの大手お菓子会社と肩を並べる日も、そう遠くはないかもしれません。

Tony’s Chocolonely
https://tonyschocolonely.com/us/en

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