菓子業界のパッケージや販促PRに関する事例をご紹介する連載4回目は、チョコレート業界で、従来は廃棄されてきたカカオの皮を活かしたパッケージの事例をご紹介します。
バレンタイン市場でも、近年は「ビーントゥーバーチョコレート」という言葉が定着しました。「Bean to Bar」とは、「カカオ豆(Bean)から板チョコレート(Bar)まで」という意味で、カカオ豆の選別や製造方法にもこだわり、チョコレート商品にするまでの全工程を自社で行うこと。2010年代には、アメリカを中心に、小規模生産のBean to Barクラフトチョコレートが世界的に大ブームとなりました。日本国内発のブランドもオープンし、現在は1つのジャンルとして根付いています。
そんな「ビーントゥーバーチョコレート」製造過程で問題となるのが、大量に出る「カカオハスク」(カカオ豆を覆う薄い外皮、殻)です。最近は、これを練り込んだ包材も見られ、さらに驚きの活用法も!チョコレートブランドの先進的な取り組みを取り上げます。
お洒落なパッケージや内装にも活かすビーントゥーバー製法のチョコレート専門店
「nel CRAFT CHOCOLATE TOKYO(ネルクラフトチョコレートトーキョー)」は、2019年2月、日本橋浜町にオープンしたホテル「HAMACHO HOTEL」の1階に併設されたチョコレート専門店です。「手しごと」と「日本らしさ」をコンセプトとして、ベトナムにある契約農家のカカオを主体に、世界各地の高品質なカカオ豆を農家から直接購入して使用。カカオ豆の選別、焙煎、コンチングなど一連の加工を、全てこの店舗の工房で行っています。自家製チョコレートは、タブレット(板チョコレート)としてはもちろん、ボンボンショコラや様々なチョコレート菓子に加工して販売。香り高い淹れたてのチョコレートドリンクやアイスクリーム、夏にはカカオのかき氷なども人気です。
内容量40gとやや小ぶりで、正方形のスタイリッシュなタブレットを包む包装には、チョコレート製造時に大量に発生するカカオハスクを練り込んだ紙を使用しています。
この「ブンチャプ ベトナム 75%」は「nel CRAFT CHOCOLATE TOKYO」を代表するタブレットで、ベトナムのブンチャプにある契約農園「タム農園」のカカオ豆を使用しています。シェフショコラティエを務める村田友希(むらたゆうき)さん曰く、しっかりと発酵が行き届き、ベリーのような豊かな果実味を持った豆のフルーティーさを活かせるように焙煎、コンチングを行ったとのこと。
お店では他にも、インドネシアやブラジル、タンザニア、ハイチ、ガーナなど様々な産地のカカオ豆からチョコレートを製造。さすがに、タブレットごとに、中身と同じ産地のカカオハスクを練り込んだ紙を使用するというのは難しいですが、カカオハスクの粒々の質感が、手作りの温かみを伝えると共に、カカオを丸ごと使っているイメージを膨らませてくれます。
さらに注目は、チョコレート類が並べられた正面のカウンター上に吊り下げられている3基の照明。カカオの実、「カカオポッド」をイメージした形ですが、これにもカカオハスクを練り込んだ紙が使われているのです。
とてもお洒落ですし、日々、大量に廃棄されるはずのカカオハスクを、このような形でアップサイクルする取り組みは素晴らしいですね。
アワードでも評価されたパルプモールドのパッケージ
2022年12月16日、京都発のカカオ・チョコレート専門店「dari K(ダリケー)」が、東京駅近くの複合商業施設「丸の内オアゾ」1階に新店舗をオープンし、話題となっています。
「Dari K株式会社」は2011年に創業。インドネシアの生産者とともにカカオの栽培・収穫から発酵・乾燥まで一貫して管理し、良質なカカオ豆を使用したチョコレートを届けてきましたが、2022年1月には、「株式会社ロッテ」が全株式を取得する形で、完全子会社となりました。代表の吉野慶一氏曰く、国内トップレベルのチョコレートメーカーのグループに参画することで、生産者・消費者・環境全てにとって望ましい「All-winな社会」の実現に、より早く、より確実に近づけると考えた結果の選択だと言います。
そしてこの2022年1月上旬より、トリュフや生チョコレート、オランジェットなどの主要商品のパッケージを順次リニューアルし、再生紙を主原料とするパルプモールド製の、環境負荷の少ないものを採用し始めました。
「パルプモールド」とは、古紙を主原料とする植物パルプを水で溶かし、金型ですき上げた後に、乾燥・プレスさせてできる紙の成形品です。もともと、主に緩衝材として使われてきましたが、近年の環境意識の高まりとともに、脱プラスチック素材として世界中で注目を集め始めていると言います。
その中でも、「株式会社竹尾」(本社:東京都千代田区)が手掛ける「ファインモールド®」を採用し、素材の選定や形状デザインを共同で開発。この原料素材として、製造工場で収集された古紙の他、「dari K」のチョコレート製造工程で発生するカカオハスクを使用。接着糊なども不使用であるため生分解性が高く、“土に還る”ほか、製造工程で使われる水も循環させながらリサイクルされていて、原料だけでなく製造工程においても環境に配慮されているそうです。
このパッケージは、「JPDA(Japan Package Design Association)」こと「日本パッケージデザイン協会」主催の「日本パッケージデザイン大賞2023」において、応募総数1060点の中から12点が選ばれる銀賞を受賞。アジアの洗練されたパッケージデザインに贈られる「TOPAWARDS ASIA 2022(トップアワードアジア)」も受賞しています。
その後、2023年のバレンタインシーズンに向けて、2022年12月より、パルプモールドの形はそのままで、1箱あたりのカカオハスクの含有量を増やし、ベースの色をナチュラルに明るくしたことで、よりカカオハスクの存在感が増すように調整した新パッケージが登場。「カシューナッツチョコレート」や、2023年バレンタインの新商品「カカオが香るチョコレートトリュフ」に採用されています。
カカオハスクの混ざり方や再生紙の染まり方が1箱ずつ異なる個性豊かなパッケージを、チョコレートと共に楽しんでほしいとのことです。
さらに広がるカカオハスク活用の可能性
また、「株式会社ロッテ」が2022年10月29日に渋谷エリアにオープンしたカカオ専門店「LOTTE DO Cacao STORE」も、注目すべき取り組みをしています。この店は、1964年にチョコレート事業を開始した同社が2015年から始めた新プロジェクト「DO Cacao PROJECT」の情報発信を行う新業態であり、カカオの新たな一面に触れられる魅力的な体験を提供し、カカオの可能性を広げる場として誕生しました。
ガーナ、パプアニューギニア、インドネシアなど、産地によって風味が異なるカカオを楽しめるホットドリンクや、生地やクリームやソースなど様々な形でカカオを楽しめるクレープなどのスイーツメニューを提供。それらの提供メニューの包材の一部にも、カカオハスクを使用した再生紙を使用しています。
さらに、店舗内装にカカオハスクを織り交ぜた壁材や、スタッフのユニフォームにカカオハスクで染色した生地を採用するなど、カカオに関するサステナブルで興味深い取り組みを行っています。消毒用に置かれたアルコールスプレーも、カカオハスクから生成したエタノールを一部使用しているというから驚きでした。
2023年1月12日より、この店舗やロッテオンラインモールにて数量限定販売開始となった「LOTTE DO Cacao PROJECT」の第二弾商品「DO Cacao chocolate」は、パプアニューギニアの地で育ったカカオのなかでも「品種」によって異なる味わいを体験できる2種アソート。このパッケージの外箱とトレー部分にも、カカオハスク入りの再生紙が使われています。
さらに、新たなカカオの可能性を追求する「LOTTE DO Cacao PROJECT」では、ロッテ浦和工場で作られるチョコレートの製造過程で出たカカオハスクを有効活用したアップサイクル商品を、異業種の外部パートナーとの共創により開発しています。
2022年に第一弾が発売され、第二弾となる今年は、昨年に引き続き、カカオハスクから染料を抽出しボタニカルダイで染め上げたネクタイ「CACAO TIE」を、デザイン、企画、生産まで全てを日本国内で行うネクタイ専門ブランド「giraffe」と共に開発。カカオハスクから染料を抽出し、日本古来の草木染めを進化させた独自の染色技術「ボタニカルダイ」で染めた絹糸を使用。京都の丹後で生地を織ってネクタイに仕上げたものです。これらは、「giraffe」の店舗やオンラインショップ、「LOTTE DO Cacao STORE」にて数量限定で販売されています。
また、今年の新たな試みとして、カカオハスクを使ったロッテ初となるクラフトジン「CACAO GIN」をマイクロブルワリーの「新潟麦酒」と開発。ロッテオンラインモールで数量限定販売されています。
このように、皮まで無駄なく活用しようと、パッケージを含めて、様々な分野でのアップサイクルが研究されているカカオ。環境にやさしく、消費者からの企業イメージのアップにも繋がりますし、チョコレート&カカオ好きな方へのプレゼントにも喜ばれるなど、様々なメリットがありますね。
最近は、カカオハスクを餌にした鶏が生む卵を使ったお菓子がクラウドファンディングのリターンとなったり、従来は廃棄されていたカカオ果実の果肉や皮も丸ごとアップサイクルしたチョコレートが開発されたりして、菓子業界の“サステナブル”なトレンド創出にも繋がっています。
柔軟な発想で、捨てられるものを活かせるような自由なアイディアや技術を育てたいですね。
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