エコ&サステナ先進国のフランスが、また新たな第一歩を踏み出しました。2020年2月に制定された、ゴミ削減とリサイクル促進を目標に掲げた法律「循環経済・廃棄物法」が、今年1月1日から施行され、ファストフード店におけるイートイン用の使い捨て容器の使用が禁止され、それに代わって、再利用可能なセラミックやガラス製の食器での提供が義務付けられました。ここで言う「再利用可能」は、リサイクルという意味ではなく、洗って使える食器を指します。実際のところ、施行から4ヶ月ほど経った現在、フランス国内のすべてのファストフード店が対応できているとは言い難い状況ですが、今回は、中でも最も対応が早かったマクドナルドとバーガーキングの食器と店内の様子を紹介したいと思います。
世界中のみんなが慣れ親しんだあのデザインを見事に再現
フランス国内に1500軒以上の店舗を持つマクドナルドは、2020年の法案決定を受けて、最も早くリユース可能な食器制作に着手した企業。パリのデザインスタジオ「eliumwork」と共に、2年という歳月をかけて生み出したイートイン用のテーブルウエアは、マクドナルドのイメージを最大限に活かした魅力あふれるデザインになっています。
eliumworkが選んだのはプラスチック樹脂の新素材「トライタン」。医療用器具の製造メーカーであるイーストマン社が開発した合成樹脂で、ガラスやセラミックのような透明度が再現できると同時に、落としても割れにくい強度を兼ね備えているという点が魅力。また、手触りや口当たりなど、感覚的に食材のクオリティーをそのまま楽しめるというところも、採用した理由の一つに挙げられています。
ポテト用コンテナーのギザギザの溝や、サンデーカップのお花のような形もレトロ感があってとても可愛いですよね。他には、チキンナゲットを入れる白いシンプルな蓋付きボウルやドリンク用の透明カップ、マックカフェで提供される白い陶器に似せたホットドリンク用のグラスも再利用可能な食器に切り替わっています。
給食を思い起こさせる懐かしい色合いと形の食器
シンプル&モダンなデザインのマクドナルドと打って変わって、バーガーキングはカラフルでにぎやかな印象で勝負。写真にあるように、イートイン用で注文すると、ハンバーガーやポテト、オニオンリングは紙袋で提供されますが、ドリンクやサラダ、サンデーなどはリユースできる食器で出されます。スタッフにその違いを聞いてみると、今のところ、食器の数に限りがあり、使い捨て容器を一切使わないのは難しいとのこと。ちなみに、カトラリーもスプーンは洗えるタイプで、フォークは木製の使い捨てのものでした。これから少しずつ食器で提供されるメニューが増えて行くのかもしれません。
今回写真を撮ることができませんでしたが、他にもサラダ用のベージュのボウル、チーズフライ用のオレンジ色のボウル、子供用の小さなピンク色のカップなど、カラフルで多種多様な食器が使われていて、見ているだけで楽しくなっちゃいます。ブランド名がバンズに挟まれたデザインのロゴは、2021年に刷新されたものですが、見た目は1969〜1999年に使われていたロゴとそっくりなので、とても懐かしい感じがしますね。このレトロなロゴにぴったり合う、ポップでカラフルな見事な食器デザインだと思います。
ゴミ分別コーナーもしっかりと対応
ゴミのコーナーにはそれぞれ食器用のボックスや投入口が設置されていて、「60℃で高温洗浄されます」と書かれています。食べ残しや飲み残しは決まった場所にきちんと捨ててから食器を入れる指示もなされています。リユース食器を使うことで、ゴミのコーナーや洗浄など様々なシステムも刷新する必要があるため、特に中小規模のファストフード企業が再利用可能な食器の導入に二の足を踏んでいるのも理解できます。ちなみに、店内用食器で提供していない店舗には、7,500〜15,000€の罰金が課される決まりになっていますが、対応できていないお店が少なくないため、フランス政府としても少し猶予期間を持たせている印象です。
最大の悩みは食器の盗難!!
店内用の食器が登場して以来、各店舗の1番の悩みの種は盗難。こんなに可愛いデザインだと、家に連れて帰りたくなっちゃう気持ちは分かります…が、盗みはいけません。1月の時点で、こうした盗難のニュースがたびたび報じられていましたが、4月現在、マクドナルドの食器の底部分には盗難防止用のシールが貼られていました。お店で販売すれば、きっと大人気商品になるのではないでしょうか。マクドナルドのポテト用容器はS、M、Lと揃えて、ペン立てに使いたいなぁと妄想しています。
フランスではどのお店もタッチパネルでのオーダーが主流ですが、バーガーキングでは支払いの直前に「この店舗では再利用可能な食器を使用しています。食事後に指定の場所に片付けてください」というメッセージが表示され、「わかりました」のボタンを押す仕組みが加わっています。マクドナルドではそのようなメッセージはありませんが、メニューの写真が店内用食器のものになっています。
ドリンクのディスペンサーやポテトのフライヤー周りの風景も少し変わりました。今までは、サイズ違いの紙製容器が並んでいただけでしたが、そこに、リユース可能な食器も仲間に加わっています。ここ数年で、プラスチック製ストローとドリンクカップのフタの廃止、ボックス型の紙製容器から袋や包装紙への移行など、様々なエコロジーへの取り組みがなされてきました。バーガーキングのこちらのページ(仏語)(https://www.burgerking.fr/page/la-planete)では、今までの取り組みをまとめて紹介していますので、興味のある方はぜひご覧ください。
今年の1月に法律が施行されたばかりで、実際に対応している店舗数もそう多くないため、利用者の中にはこうした新しい食器が導入されていることに、さほど関心がない人もいるようです。また、ゴミの削減という利点はあれど、食器の洗浄に費やされる大量の水やエネルギーを考えると、環境に優しいとは一概に言えないのでは?と疑問視する人たちがいるのも事実です。再利用可能な食器がどれだけの効果を生むかは、時間をかけて判断していくしかありませんが、「なるべく使い捨てをしない」という意識が、子供から大人まで、ファストフード店に訪れる多くの人たちに刻まれるのは良いことではないでしょうか。
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