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シンガポールの有名パン屋「チョンバルベーカリー」の取り組みからみる人々を魅了する店づくり

シンガポールの チョンバル(TIONG BAHRU)は雑貨屋さんやおしゃれなカフェが並ぶ地区として有名です。そのチョンバルを発祥として生まれたのが、本日ご紹介するチョンバルベーカリー(Tiong Bahru Bakery)。


創始者は日本にも支店を持つ、フランス人パン職人のゴントラン・シェリエ氏。東南アジアでもフランス式の本格的なパンを広めたいという思いのもと、2012年に店舗をオープンしました。
高温多湿の環境下にある東南アジアでは、それまでサクサクとしたパンの食感をつくることは難しいとされてきました。そのため、「パン」というと柔らかい食感のものが主流であり、フランス式のペストリーは人々には馴染みのないものでした。


しかし、そんな概念を覆したのがチョンバルベーカリー。店ができた当初、湿気の多いシンガポールでサクサクの美味しいクロワッサンが食べられることは革命的だと言われましたし、現在は他店でも当たり前のようにサクッとしたクロワッサンが味わえますが、そうしたパンをつくれると実証したのもチョンバルベーカリー。それほどに本店舗の存在は東南アジアのパン業界にとって革新的でした。

商品がおいしいというだけでなく、本店はブランディングにも力を入れています。2018年には世界的なファッションブランドのティファニーとコラボレーションし、シンガポールの中心地のオーチャードにティファニーブルーのブースを設置しました。本ブースでは無料のクロワッサンやコーヒーを配布。これらを受け取る条件は、本ブースやティファニーの店舗、配布のクロワッサンの写真などを撮影し、FacebookやインスタグラムなどのSNSにあげて拡散すること。当日は多くの方が配布の列に並んだそう。

本企画では主に2つの効果がありました。1つに世界的なブランドとのコラボレーションをする程、同店が知名度の高いベーカリーであることを多くの人々に認識させたこと。チョンバルベーカリーのクロワッサンは地元メディアでシンガポールで一番美味しいと賞賛された商品ですが、目玉商品のクロワッサンを配布したことで多くの人々にそのおいしさを伝えるきっかけをつくり、顧客増加に繋げたこと。こうした企画からも、より多くの方に店を知ってもらおうという努力や意気込みが感じられるように思います。

では、下記からはチョンバルベーカリーがどのような店舗かということを記載していこうと思います。本稿では島内に数店舗ある中でも筆者が最も好きなFoothills店についてレポートさせていただきます。

Foothills店は島内にある他の店舗といくつか違いがあります。その一つが店舗の近辺一帯でチョンバルベーカリーのプロモーションをしている点。Foothills店があるのはフォート・カニング・パーク(Fort Canning Park)の敷地内。フォート・カニング・パークは、シンガポールの中心部にある小高い丘の上にある緑豊かな公園です。自然を感じられ、良い景色を眺められるのはもちろん、19世紀に英国の植民地となってから軍の司令部が置かれた地でもあり、砦や大砲などが点在する歴史的な場所でもあります。
そんな公園を歩いていると「焼きたてのよい匂いがしたら右に曲がって」という看板が見えてきます。物語のワンシーンのようなお茶目な道案内の言葉に、お店に着く前からワクワクした気持ちになります。

「焼きたてのよい匂いがしたら右に曲がって」と書いてある看板

道案内通りにしばらく歩き、色鮮やかで可愛らしいクロワッサンの看板が見えると、お店に到着です。木々に包まれた店構えは目を引く佇まい。歴史的な公園内に目をひく看板や店を置き、店舗周辺一帯でプロモーションをする手法は他ではなかなか見ることができないように思います。

クロワッサンのイラストが可愛い看板

木々の中に現れる店

チョンバルベーカリーのロゴは中国語と英語で構成されています。これはシンガポールの主要3大民族の内、中華系が最も多いことや公用語として英語が話されていることに由来していると考えられます。※1こうした点にも多国籍国家のシンガポールで経営をする工夫が見られます。

中国語の看板

白い壁に緑の文字がシンプルでかわいい


店内は焼き立てのパンのいい香りとおしゃれな装飾に包まれています。Foothills店はフォート・カニング・パーク内に位置しているため、公園内で運動や散歩をしている方が多くいます。そのため、ランニングウェアや身軽な格好のお客様が多数いらっしゃるのも他店との違いです。

シンプルな店内

レジ上の写真が素敵

賑わう店内

チョンバルベーカリーでは、パンをモチーフとした商品を販売するなどグッツにも力を入れています。中でも目を引くのはクロワッサンが描かれたTシャツやエコバックなど。エコバックの裏面にはお店のコーヒーのメニューがプリントされていたり、Tシャツは大人用サイズだけでなくキッズサイズも作られていたりと商品開発の工夫が感じられます。手の込んだデザインや豊富なバリエーションというポイントに加え、日本未上陸のお店なのでお土産にもおすすめです。

グッズ売り場にはたくさんのグッズが

可愛いイラストのエコバッグ

クロワッサン柄のTシャツ+

自社のコーヒーも出しています。コーヒー豆はシンガポールの有名カフェのCommon Man Coffee Roastersから取り寄せています。

オリジナルのコーヒー豆

店内では、パンの製造を見ることもできます。他店舗では厨房を見ることはできないので、こうした貴重な瞬間を見ることができるのもFoothills店のメリット。
「私達のクロワッサンは2時間おきに焼いています。」と暖簾に書かれているように店舗では常にフレッシュな製品を提供することを心掛けています。

厨房が見えるようになっている

クロワッサンを始め、パン・オ・ショコラ、アーモンド・クロワッサン、クイニーアマンなどパンのバリエーションも豊富。飛ぶように売れていく商品ですが、2時間おきに焼いていることもあり、ショーケースに絶えず美しい製品が並んでいる点もポイントが高いです。

ショーケースにならんだパン

バゲットサンドやクロックムッシュ、クロワッサンサンドなど具沢山の食べ応えのあるサンドイッチ、エクレアやレモンタルトなどのケーキ類も人気です。

サンドイッチたち

ケーキも販売している

クロワッサン

訪問時にいただいたのはFoothills店限定のサワードウ クロワッサン(Sourdough Croissant)とカフェラテ。クロワッサンはミルクとナッツのクランチがついており、お好みで添えられたプラリネクリームをつけていただきます。

クロワッサンとカフェラテ

筆者自身も大好きで何度も購入している目玉商品のクロワッサン。その最大の魅力は外はサクサク、中はモチッとした生地。そのクロワッサンにヘーゼルナッツとミルク風味のクランチを加えた本商品は、生地の旨みに香ばしいナッツやカリカリとしたミルククランチが加わり、食感とおいしさの両方を楽しめるメニュー。付属のプラリネクリームをつけていただくと高級感のある深みのある味と香りがプラスされ、また違った味わいになります。少しビターな味わいのカフェラテとも相性抜群でした。

クロワッサン

上記はFoothills店限定の商品ですが、Foothills店に訪れるのが難しい方におすすめなのは下記写真のアーモンド・クロワッサン。アーモンド・クロワッサンは筆者が最も同店でリピートしているお気に入りのメニューです。
ふんだんにアーモンドスライスとクリームを使用した商品は、一口いただくごとに歯触りのよいアーモンドや香り高いアーモンドクリーム、バタリーで上質なクロワッサンの生地が絶妙なバランスで合わさり格別のおいしさ。本商品は全店舗で販売しているのでどの支店でも購入が可能です。※2

アーモンドスライスがのったクロワッサン

東南アジアで本格的なフランス式のパンをつくることを実現させ、今やシンガポールで知らない人はいない人気店のチョンバルベーカリー。
他ブランドとのコラボレーションや店舗によって限定商品をつくるなどの工夫に加え、目をひくクロワッサンの絵を看板やグッズに使用しパッケージ化することで「クロワッサンといえばチョンバルベーカリー」という印象を人々に与えていることは同店を有名にさせた要因の一つだと言えるでしょう。こうしたマーケティングやプロモーションの手法はもちろん、常にフレッシュでおいしい商品を提供するというこだわりや情熱が多くの方を魅了する最大の理由のように思いました。

参照情報

※1, 統計については下記Ministry of Foreign Affairs of Japa(外務省)のデータを参照
https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/singapore/data.html

※2,店舗情報詳細については下記HPにて記載
https://www.tiongbahrubakery.com/

訪問店舗情報
Tiong Bahru Bakery Foothills
70 River Valley Rd, #01-05, Singapore 179037

 

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