ニューヨークのノンアルコールバー「ゲッタウェイ」が生み出す、新しいソーシャルの場
2008年のリーマンショック以降、ニューヨーク市は「新しいテックスタートアップ、そしてエンジニアなどのテクニシャンを増やす」をという目標を掲げ、現在ではシリコンバレーに続くアメリカ第二のテックシティーとして新たなステージを迎えています。
この変化に伴って、「決まった概念にとらわれたくない」という意識の強いミレニアル世代も増え、人種の多様性だけではなく、より深い意味での「多様性」に富んだ土地に変化していると言っても過言ではないかもしれません。
そんなミレニアル世代の間で話題となっているのが「sobriety(ソベルティー)」の実践。日常会話で使われるソベルティーとは、完全な禁酒ではなく、健康面や様々な理由からお酒などを「基本的には取らない、ごく稀に楽しむ」ことを言うそうです。このようなソベルティーを実践する人のことを「Sober(ソーバー)」と呼び、ソーバーの増加が新たな社会現象として注目を集めています。
その一方で、「バーは第二のリビングルーム」と言う人がいるくらい、バーカルチャーが根付くニューヨーク。アルコールを飲めない人にとって、バーは行くことを躊躇してしまう場所でもあります。そんな中、お酒を飲まないソーバーも楽しめる場所として登場したのが「Getaway(ゲッタウェイ)」です。
ゲッタウェイは、ブルックリンのグリーンポイントという場所にあります。グリーンポイントはもともとポーランドの移民が多かった地域です。今ではその面影を残しながらも、おしゃれなカフェやバー、ベジタリアン専門のグローサリーショップからビュッフェスタイルのお店まで、健康志向の高い人たちの集まる場所に進化しています。ゲッタウェイは、そんな地域のメインストリートから入ってすぐのところにあります。
今回はお店を訪ね、オーナーのサムさんににショップ開業や運営のバック・ストーリーを伺いました。
バーがもつ独特の「ソーシャルの場」を、お酒が飲めない人のために
「お店を始めたきっかけは、ソバーブームを見越してではありませんでした。4年前、アルコールが飲めなくなった兄を見ていて思ったのは、断酒した人や下戸の人も気の置けない友人らと出かけて、夜を楽しみたいと思っているのだということでした」
サムさんは続けます。
「バーにはノンアルコールオプションもありますが、そのような場には大抵酔っ払いがいたりと、決して健康的と呼べるような雰囲気ではないです。また、コーヒーショップは夜遅くまでやっていませんし、バーのように隣の人に気軽に声をかけられるような空間ではありません。これがゲッタウェイを作る大きなきっかけになりました」
オープンで丸みのある雰囲気
小さなアパートの一階にあるお店の外観は、とてもミニマリスティック。小さな「0%」のフロントサインが印象的です。
中に入ってみると、ミレニアルピンク、グリーン、グレーを基調とした店内。中心にあるのはバーカウンター。「この長いバーカウンターをどうしても作りたかった」と、サムさんは言います。
「バーカウンターは、バーにおけるもっとも重要なソーシャライゼーション(社交)場だと思っています。バーに来て隣に座った人と会話が生まれるのは、このスタイルだからなんです。ゆえに長めのバーカウンターを作ることにはこだわりを持っていました」
「そして、どんなお客さんもウェルカムで気軽に来れる場所に感じてもらえるよう、装飾は少なめに、角のないインテリアにしたいとデザイナーさんに相談し、店内レイアウトのデザインを決めていきました」
アルコール入りカクテルにも劣らない、魅力的なノンアルコールカクテルメニュー
メニューは、お店の看板アイテムであるカクテル、シュラブス(ビネガーと炭酸、フルーツなどをミックスしたドリンク)、ソフトドリンク、おつまみ。一杯$13と強気のカクテルはどんなものかと思い頼んでみると、作り方も見た目もアルコール入りのカクテルと変わらないとてもおしゃれな一品です。
顧客はソーバーだけではなく、性別・年齢・目的も様々
ゲッタウェイに集うのはソーバーだけではないそうです。妊娠中や授乳中の女性、マラソンをする人、ダイエット中の人、宗教的に飲めない人、アルコールなしでデートを楽しみたい人、ただ禁酒を試したい好奇心の強い人など、実に様々。
今後の課題を聞いてみると、「お客さんの回転率の向上ですかね。お酒と異なり何杯も飲む人が少ないため、どうしても単価は低くなってしまいます。ゆえに今後はイベントの開催やフードメニューの充実などに力を入れていきたいと思っています」と、語ってくれました。
今回のインタビューを通じて、ソーバーの増加という社会現象は「深い意味での多様性を尊重しよう」という考えの拡がりと比例しているのかもしれないと感じました。プロダクトではなく、考え方・思想と言ったメッセージをコンセプトにしたお店が今後は増えるのかもしれません。
▼パケトラおすすめの関連記事
エシカル、ジェンダーレス、エスニックレス。サンフランシスコ生まれのコスメブランド「ザ・バーム」
移民大国フランスのシャンプーボトルから見る、美しさの多様性と共通点とは
北欧の「新世代」歯ブラシ。キーワードは多様性とサステイナブル?
このライターの記事
-
2020.04.01
外出禁止で急激に伸びる「オンライン・ショッピング」市場。ネットでの買い物も「ゴミを出さない」時代へ
-
2020.03.13
アメリカで拡大する「植物性ヨーグルト」市場。パッケージで「ブランド・アイデンティティ」を示す
-
2020.01.27
愛犬を守りたい——「ペット大国」アメリカ発、天然素材の防虫ブランド「ワンダーサイド」
-
2019.12.26
水も「紙パック」が主流になる?アメリカのエコフレンドリーなボトル事情
-
2019.11.18
ニューヨークのノンアルコールバー「ゲッタウェイ」が生み出す、新しいソーシャルの場
-
2019.10.16
ニューヨークのアイスクリームショップ「クール・メス」で買える、パーソナルな体験とは