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エシカル、ジェンダーレス、エスニックレス。サンフランシスコ生まれのコスメブランド「ザ・バーム」

「毎日好きな自分と出会うために」——コスメ好きのマリッサ・シップマンさんがサンフランシスコで「ザ・バーム(The Balm)」を創業したのは、今から15年前。脱ケミカルの自然派リップバームを自分のアパートで作り始めたのがきっかけです。その後、コスメ作りに夢中になったマリッサさんは、次々と新しい商品を開発していきました。素材に拘ったキュートなコスメ、ありそうでなかった新感覚ブランドの誕生です。

6年前、初めての固定店舗、フラッグショップがサンフランシスコで最もトレンディなストリート、バレンシアにオープンしました。民族的、性表現の自由な文化を代表するこの地区で、「ザ・バーム」は幅広い層の顧客を魅了しています。そのブランディング戦略を探ってみました。

Photo:50年代のアメリカンポップのデザインで紙素材のパッケージで一世を風靡した

小さく始めて大きく育てる「スタートアップ」コスメ

マリッサさんは「ビジュアルだけではない、素材を重視した地球に優しいコスメ」を目指し、その独自のフィロソフィーを打ち出したウェブサイトを立ち上げました。リップバームからスタートした「ザ・バーム」は、彼女の発想力から次々と魅力的な商品を増やします。シンプルで可愛いウェブサイトでの販売で「B2C」戦略をしかけます。

アート系デザインでライトなパッケージ

「ザ・バーム」は、キュートな「アメリカンポップアート」と斬新な紙パッケージでブランディングを図ってきます。サステイナブルな紙パッケージは、サンフランシスコ発祥コスメの流行にもなっています。中にはバブルガム容器のようなアルミパッケージもあり、レトロなキャラクターには男性も登場し、ターゲット層を広げていきました。

やがて、ネットを通じて販路は世界に広がります。アパートのキッチンから始まった商品作りも、キッチン→倉庫→工場とステップアップ。しかしリスクを伴う店舗はしばらく持ちませんでした。

その代わりに、全米チェーンのファーマシー(コンビニのような薬局)の化粧品棚に、代表作のリップバームなど少量の商品を置くアプローチをしました。強豪のビッグブランドが並ぶ中、彼女のマーケティング力で商品を露出させます。一般消費者の目にも触れ、小売とネット販売で市場の動きに確実な手応えを感じます。

Photo:DIYで参加型のコスメ。紙パッケージもミラー付き

ついにフラッグショップをオープン

6年前、ついにフラッグショップがオープンしました。店内の装飾が通りすぎる人の目を惹きつけます。敷居の高いデパート内のコスメカウンターと違い、ストリート店ならではの入りやすい雰囲気があります。メイクアップサービスも気軽に利用できるのでコミュニケーションを図れるとともに、フレンドリーな店員さんの対応やファッションセンスもブランディングの一部です。

Photo:シャンデリアが可愛い店内

Photo:フレンドリーなスタッフが迎える

ナチュラル原料を使った「エシカル」ブランド

「ザ・バーム」の位置付けは「カジュアルコスメ」ですが、拘りの原料を使用したサンフランシスコならではの「本質主義」です。同ブランドが掲げる「3 Free原則」に賛同する顧客が増えています。

1. PARABEN FREE :「パラベン」と呼ばれる防腐剤成分の不使用でアレルギー問題を防ぐ。

2. CRUELTY FREE TALC-FREE:動物に苦痛を与える化粧品開発実験に反対するキャンペーンを行うと共に、動物系成分を使用しない商品作り。

3. TALC-FREE 多くの化粧品に使用される「タルク」と呼ばれる粉体基剤成分の不使用。中にはアスベストを含有するものもあり、安全性が疑問視されている。

また、パッケージの軽量化は物品輸送時の二酸化炭素排出削減にもつながり、「エシカル(環境意識が高いこと)」に魅力を感じる顧客も増えています。

Photo:LGBT文化をリードするサンフランシスコのショップらしい顧客のバラエティがあるフラッグショップ。犬も大歓迎

エスニックレス+エイジレス+ジェンダーレス

民族の多様性と性表現の自由な文化を持ち合わせたサンフランシスコの特徴が、コスメにも表現されています。

1. エスニックレス:人種の多様性に対応すべく「肌色」の配色を多く揃え、ポイントメイクもバラエティーです。

2. エイジレス:アンチエイジング成分配合に加え、古き良き時代のアメリカンポップなデザインは幅広い年齢層に受け入れられています。

3. ジェンダーレス:ショップにはジェンダーレスの客も見受けられます。彼(彼女)には、ポイントメイクやスキンスムーサー、リップバームが人気のようです。

「マイ・パレット」を作る楽しさ

Photo:マイパレット作りは、好きなデザイン・サイズから選べる

実際に商品を使ってみると、発色、滑りが良く、自分だけの「マイパレット」作りができる楽しさがあります。多種のパレットから好きなデザインを選び、アイシャドウ、チークなどをパレットの配列の数だけアレンジできます。しかもパレット単位の値段設定なのでリーズナブル。これが高級化粧品にはないカジュアルコスメの魅力です。そして紙製で軽いので、バッグに数品入れても負担にならないのが嬉しいポイントです。

Photo:色もカラフルでワクワクするDIYパレット作り

「ザ・バーム」は、ビジネスが成長した今でも個人企業にとどまっています。大企業より少量生産を好み、LGBT文化を受け入れるサンフランシスコらしいブランドです。

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