2020年トレンドの「植物由来」フード市場。すでにブームを終え一歩先を行くシンガポールでは?
かつての「ブーム」は完全に定着、そして「ノーマル」に
ネーミングと話題性で消費者の心をつかんだ「インポッシブル〇〇」ブーム。世界中のヘルスコンシャスな人々の間ではもはや常識となっている「プラントベースミート(植物由来肉代替食品)」。
2018年末、アメリカのファストフードチェーンHardee's(ハーディーズ)が「ミートレスミート」メニューを発表したことを皮切りに、ビヨンドバーガーやインポッシブルバーガーをはじめファストフード業界を圧巻してきました。
シンガポールでも「インポッシブル〇〇」と名付けられた商品は外食産業に大きなインパクトを与え、「インポッシブル・バーガー」をはじめ「インポッシブル・カツサンド」や「インポッシブル・マーボー豆腐」なるものまで登場。人気レストランは、こぞってそれぞれの「インポッシブルメニュー」をソーシャルメディアでプロモーションしてきました。
シンガポールの食文化背景
シンガポールは、日本の淡路島とほぼ同じ国土面積の小さな国です。土地及び資源が不足しているため必要な食材のほとんどを輸入に頼っており、消費されている合計の約90%をも輸入食品に頼っていると推定されています。そのため小売店やネットで販売されている食品は、世界中からの輸入品で構成されています。
また消費者も中華系、マレー系、インド系、その他外国人で構成されているため、それぞれのスーパーやマーケットごとに明確なターゲティングがされています(例えば、インド系食材を扱う市場、低価格帯スーパー、駐在者などの裕福な外国人をターゲットにした高級スーパーなど)。
そして、ヒンズー教や仏教のように宗教的な理由でのベジタリアンなど、多種多様な背景を持つ人々を擁する多文化国家のシンガポールでは、世界中から集まった種類豊富なベジタリアン用食品を手に入れることができます。
驚くことに、プラントベース・ファストフードの先駆者はシンガポールの企業でした。プラントベースミートブームが起こる今から10年近くも前である2010年に、サンフランシスコとシンガポールに店舗を持つ「VeganBurg(ヴィーガンバーグ)」は、世界初の植物由来100%のバーガーショップとしてシンガポールで設立されています。
今までのバーガーに対するジャンクなイメージを覆し、地球にも健康にも優しいバーガーを提供しています。このように、実はブーム以前からベジタリアン先進国でもあります。
植物由来ブームはファインダイニングにも
2018年末にスタートしたプラントベースミート・ブームは、一過性のものとして収束することはなく、その後ウルフバーガー、モスバーガーをはじめとするいくつものバーガーショップで定番メニュー化されました。さらにレストランでも植物由来の食材を積極的に取り入れる動きが出てきています。
シンガポールのランドマーク、マリーナベイサンズ内にある「Bread Street Kitchen」のインポッシブルバーガー「Impossible Wellington」や、開業以来毎年トリップアドバイザーでExcellence Awardを受賞し続けているインデアンファインダイニング「Punjab Grill」がビーガンバターチキンの提案をし、話題となりました。
このように、最終的にはファインダイニングのレストランの数々がメニューに取り入れるように至るまで、以前と比べてプラントベースミートの味は進化してきたようです。
ローカライズ化
世界的に活躍するシンガポール人料理研究家のバイオレット・オン氏が手がけるレストラン「National Kitchen by Violet Oon」のインポッシブルサテ(東南アジアの串焼き)や、人気レストラン「Prive」のHeura(スペイン発のプラントベーススタートアップ会社の商品)を使ったチキンライスなど、シンガポールのソウルフードも登場しました。
いつも多くの人で賑わうおしゃれなカジュアルカフェスタイルレストランPrive(プライブ)は、植物由来のメニューが充実しています。
メニュー名の右にある印「VG」が、ヴィーガンオプションに当たります。フィッシュレスバーガー(魚を使わないフィッシュバーガー)、インポッシブルバーガー、ビヨンドバーガー、カルボナーラ、スパゲッティミートボール、グリーンカレーなどが、肉、魚卵、乳製品を使わないヴィーガンオプションとして提供されています。またいくつかのノン・ヴィーガンメニューは、ヴィーガン向けにアレンジできるとのことです。
新たな時代の「大市場」が誕生
シンガポールでは、まさに未来の食文化の一躍を担うであろう植物由来のメニューが既に根付き始めています。今後ベジタリアンにとどまらず、多くの人にとってビーフやチキンを選択するのと同様に、植物由来の食事がごく普通の選択肢の一つとなるには、そう長くかからないのではないかと思います。
新たな時代の「大市場」が誕生していると言えるのではないでしょうか。
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