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「ポスト・ミルク世代」——スウェーデン発、植物性ミルクブランド「オートリー」が新たな市場へ踏み出した

Photo:オーツ麦を使ったミルク。スウェーデンのオートリ―社にその背景を聞く ©Oatly

北欧諸国では、牛乳ではない植物性ミルクが急激なスピードで普及中。豆乳、アーモンド、米、ココナッツなどの中で、特にぐんぐんと人気度が上がっているのが、オート麦からできたオーツミルクのブランド、スウェーデン発祥の「オートリー(Oatly)」です(日本語ではオーツ麦、オーツミルクとも表記)。

オートリーのパッケージは可愛いデザインで印象に残りやすく、北欧旅行中にカフェなどで見かけた方も多いのではと思います。

Photo:オートはスウェーデン語で「Havre」©Oatly

私も数年前からオートリ―が気になっています。その理由は「植物性ミルクだから」というよりも、「気候変動や排出量をも主題にする、ユニークで記憶に残るマーケティング戦略と、コーヒー業界で働くバリスタたちにターゲットを絞っているから」でした。

私は牛乳を飲むとお腹がゴロゴロする乳糖不耐症でもあるので、安心して飲める植物性ミルクが増えているのは嬉しくもあります(アジア人の90%以上は乳糖不耐症とも言われているそうです)。

Photo:ノルウェーのスーパーで買ったチョコレートプディングに、オートリーのバニラソースをかけてみましょう

Photo:バニラソースの裏側には、「よく混ぜてね」というメッセージ。日本の商品パーケージのデザインとはかなり違いますね

Photo:おいしいデザートが簡単にできあがりました

選挙会場で「オートリ―」が使用される意味

出張で北欧各国を回る時、私はAirbnbという民泊サイトを使って現地のご家庭に泊まり、冷蔵庫の中を見せてもらいます。すると、必ずと言っていいほど牛乳だけではなく、植物性ミルク、オーガニックミルク、オートリ―のミルクなどが並んでいます。

選挙の取材でスウェーデン、デンマーク、ノルウェー、フィンランドに行った時も、各政党がコーヒーを無料配布する際には(右派・左派は関係なく)植物性ミルクを使用することがあります。「どういった食品を選ぶか」も政治的な意味を持ち、北欧各地では選挙運動中に飲食物の無料配布が許可されています。

Photo:フィンランドの投票会場でもオートリ―を発見

なぜ植物性ミルクを好むのか?

北欧で、特に若い人たちが植物性ミルクに手を出し始めている理由は、「気候と環境のため」「ヘルシーそうだから」という理由が大きいでしょう。牛のげっぷなどから出るメタンガスの問題点が、北欧では日本以上に市民の間で認知されています。そのため、市民が肉や牛乳の消費を完全にやめなくとも、消費量を今よりも減らすだけで排出量を抑えられるとされています。

とはいえ「牛を育てる農家の人の立場はどうなる?」という議論も出てはきますが、植物性ミルクの拡大は今後も進むのではないかと思います。

Photo:ミルクだけではなく、調理用クリームなども販売中 ©Oatly

オートリ―は2001年にスウェーデンで初めてリリースされました。現在は30か国以上で販売中。スウェーデンの植物性ミルク市場の52%が、今やオートリ―という人気ぶりです。しかし、日本では販売ができないヨウ素化塩が製品に含まれているため、日本市場では現時点では入手不可能です。

今回はオートリー広報のリンダ・ノールグレンさんにインタビューをしながら、オートリ―と植物性ミルクの魅力を考えていこうと思います。

オートリ―の狙いと戦略は?

SNSや公共の場でのプロモーション、気候変動を気にかける人へのメッセージなどが印象に残りますが、どういう狙いや戦略なのでしょうか。

リンダさんはこう答えます。「私たちは、自分たちがいいなと思う直感に従っているんです。シンプルであることにもこだわっていますね。市場リサーチ、顧客グループの定義、効果的な目標などには縛られていません。代わりに、市民の声に耳を傾けて、今の社会では何が起こっているのかを気にしています。サステイナブル、ヘルシー、信頼性が、核となる価値観ともいえます」

Photo:SNSでは自転車やエコバッグなど、エコ世代のシンボルと商品をうまく組み合わせた写真が印象的 ©Oatly

オートリーを支持している層は?

オートリ―はどのような層の人達に購入されているのでしょうか。

「バリスタシリーズの商品は、コーヒー業界で人気ですね。コーヒーとの相性が最高になるように仕上げているんです。『Hey Barista』という専用のインスタグラムアカウントまで作っちゃいました。特に40歳以下の消費者からの支持が大きいです。加えて、アレルギーという理由、倫理的な理由(動物愛護の観点から)、宗教的な理由、健康的な理由、環境的な理由と、様々な理由で選ばれています」

Photo:「ヘイ バリスタ」シリーズは、ブラックコーヒーとの相性が抜群

ポスト・ミルク世代(Post Milk Generation)とは?

2012年後半まで、オートリ―のブランドイメージは他の食品企業と同じようなものでした。しかしCEOが交代してから、ブランドイメージを一新し、新戦略としてライフスタイルのブランドになろうと決めたそうです。

すると、代替ミルクのニッチなプレイヤーから、健康とサステイナブルの精神を心に秘める、意識が高い都市の市民をターゲットにするプレイヤーへと変わりました。

「❝ポスト・ミルク世代❞という言葉をつくり、冷蔵庫にオートリーのオーツミルクを入れていることが、個人の信条の声明になるようにしたんです」と、リンダさん。

Photo:フェスや交通機関などで、巨大な広告を使用したプロモーションを北欧諸国ではよく見かけます。「ポスト・ミルク世代」と、ミルクの新世代であることをメッセージに ©Oatly

「農家の人が好きであること」をまずは伝えたい

「批判も来ます。西洋のこれまでのミルクの規範を変えようとしていますからね。私たちは、農家の人たちが『大好きである』ということを、まずは強調しておきたいです。オートミルクは、スウェーデンの農家が育ててきた作物からできています。生物多様性も農業も、大事だと思っています。」

「同時に、この土地とどう共存していくか、新しい働き方を見つけなければいけない段階にもきています。今の動物生産では、気候にネガティブな影響を与えてしまいますから。1リットルの牛乳の生産過程で出る排出量の80%を、オートミルクなら減らすことができるんです」

リンダさんは続けます。

「私たちの企業にとって、気候は優先課題です。植物ベースの食生活に貢献することで、気候にポジティブな影響を与えられると信じています。現在の農業システムを見直し、生産と消費の輪に変化を起こせるようなインスピレーションを与えることができれば———しかしそれは、私たちだけの活動で、一晩で変えられるようなことではありません。サステイナブルな植物ベースの農業に移行するためには、ミルク農家を支援するなど、政治的な対策も必要です」

これまでの市場を変えようとすると、最初は反発もあるかもしれませんが、若い世代はこれまでとは異なる価値観で買い物をし始めているのです。勇気ある一歩を踏み出すヒントを、オートリーは与えてくれるかもしれません。

北欧デザインや北欧ならではのマーケティングに興味がある方は、オートリ―のインスタグラムも要チェック!

Text by Asaki Abumi
Photo by Oatly, Asaki Abumi

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