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デジタルが拡げるパッケージの未来

パッケージは典型的なアナログ製品ですが、世の中のデジタル化は急速に進んでいます。パッケージ分野でも、製造面ではデジタル印刷機が活用され、コカ・コーラのマイネームボトルキャンペーンが話題を呼び、ロッテのキシリトールガムでは2つとないパッケージデザインを演出しました。

最近ではグラビア印刷に代わって本格生産に使えるデジタル印刷機も出始めています。また、販売面ではパンデミック下でECのシェアが拡大し、小売・流通面ではPOSをはじめとしたデジタル技術が浸透しています。ではパッケージ本体のデジタル技術がどのような変化を産み出しているのか、具体例を中心に紹介します。

顧客エンゲージメントの拡大

顧客エンゲージメントとは「企業と顧客の信頼関係」です。マーケティングは商品の購入で終わるのではなく、 商品、サービスの購入から利用、廃棄などのサイクルを通じて熟成される消費者のニーズや欲求を取り込んでいく必要があり、顧客エンゲージメントは注目の課題です。

現代の消費者は多くの情報を自ら収集し、比較検討して購入の意思決定をするようになってきています。膨大な情報の中にあっても顧客に選んでもらえるよう、企業は顧客が情報を得る前に接点を持つことや、強い信頼を持って選ばれる関係を構築していくことが求められています。

QRコードで顧客エンゲージメントの確立

ORコードは日本のデンソーが開発しましたが、日本より米国、中国などで、早くから注目されていました。バーコードが横方向にしか情報を持たないのに対し、QRコードは縦横に情報を持っているので、格納できる情報量も多く、数字だけでなく英字や漢字など多言語のデータも格納できます。また3隅の四角い位置検出パターンによって360度読み取り可能、汚れなどがあっても正確に読み取れるように、誤り訂正などの機能を持っています。

パッケージは商品によってはサイズが小さく、必要な情報を詰め込むことができなかったり、小さな文字で読みにくいことがあります。それらを補完するためにQRコードを使って、消費者との接点作りが試みられています。

チョコレートの老舗ハーシーはキスミルクチョコレートで、QRコードを利用して成分情報やアレルギー情報、人工甘味料などを告知するランディングページにユーザーを誘導し、必要があればブランドの代表者にアクセスできるようにしています。

コカ・コーラもQRコードを使って、顧客エンゲージメントの向上をはかっています。QRコードをスキャンするたびに顧客に特別な体験を提供する新しいコンテンツに誘う動的QRコードも導入し、アレルギー情報の提供やブランド担当者に直接連絡ができるようにしています。

QRコードは購入後を含む購入・利用サイクル全体を通じて、小売業者やブランドが顧客とのつながりを維持するのに役立ちます。 また、ポイントプログラムやクーポン、割引などの顧客維持プログラムを設定できます。もちろんレシピや製品に関連するビデオなど、製品の使用に関する情報や、再購入の場合の最も近い購入店舗の案内などの情報なども提供することができます。

QRCODEより

AR技術で異次元空間を演出

パッケージから鳥がとびだしたり、ボトルラベルがスロットマシーンに変身したり、驚きの映像が飛び出すAR技術は見る人を引きつけます。フィンランドのスタートアップ企業が開発したスマートフォンアプリArilynを通じてパッケージをみると、ユーザーをまったく別の映像世界に導きます。言葉では表現しづらいので、以下のYouTubeをご覧ください。

映像で見るARパッケージ

CCLのconnective package:https://m.youtube.com/watch?v=xAv0AZHBK2s

Zappar: https://www.zappar.com/solutions/packaging/

SWIGR:https://swigr.com/

CCLのconnective packageは、既存のデザインや装飾に直接実装でき、特別なイベントやプロモーションに関連するキャンペーンなどをすぐに作成できるので、食品、飲料の原材料や生産、プロモーションビデオなど、製品のパッケージに追加情報を統合するのに最適です。

Graphic packaging internationalホームページより

2021 年 10 月、テキーラメーカーの Otaca tequilaはNFC(近距離無線通信) によるスマート パッケージングを市場導入しました。 ボトルの上部に取り付けられたNFC タグは、ブランドの歴史や品質を訴求し、再購入へユーザーを取込みます。Otaca は、テスト段階で5,000 本以上のテキーラをデジタル化し、2023 年の第 1 四半期にはさらに 50,000 本を生産する予定です。

OTACAホームページより

Otaca tequilaは、2022 スピリッツ ビジネス アワード ゴールド、テキーラ、メスカル マスター部門など多くの賞を受賞しています。NFC テクノロジーにより、ユーザーは製品やブランドと対話できます。消費者とのやり取りはブランドアイデンティティを形成し、消費者の信頼を築くための重要な手段になっています。 

適正な飲酒行動に向けた消費者啓蒙

Pernod Richard は、2022 年 7 月にデジタル ラベル ソリューションのヨーロッパ パイロット プログラムを開始しました。Pernod Ricard ブランドのボトルは、背面ラベルに独自の QR コードを搭載し、スマートフォンでスキャンすると消費者は、各製品の関連情報にアクセスできます。

Pernod Richardによると、この情報には、ヨーロッパのワインとスピリッツの協会と提携している各製品の原料と栄養成分のリストが含まれます。デジタルプラットフォームは、飲酒に関連する健康上のリスクに関する情報や、飲酒を避けるべき人に関するガイダンスなど、政府が発行した飲酒ガイドラインも提供しています。

AIPIAニュースレターより

食品ロスに対応

英国スーパーのMark & Spencerは、300 を超える果物と野菜製品のラベルから「賞味期限」の日付を削除し、スタッフがスキャンして鮮度と品質をチェックできる新しいコードに置き換えました。「賞味期限」の日付をなくすことで、家庭での食品の廃棄を減らすことを目指しています。

米国コーネル大学の牛乳品質改善プログラムの取り組みで、一般的な食品の「賞味期限」と、QRコードによる賞味期限の比較をしたところ、顧客の 60% 以上が QR コードで牛乳を購入しており、この新しい技術の使用にかなりの関心を示しています。QR コードを使用することで、動的な価格設定が可能になり、賞味期限が近づくと価格値引きが行われることもプラス要素になり、食品廃棄という課題に対処する革新的な方法になり得ることが明らかになりました。

コンサルティングサービスを提供するイギリスのロイドレジスター(Lloyd’s Register Group Services Limited.)が、食品サプライチェーンにおける消費者の信頼性を高めることを目指したコンソーシアムの発足を7月29日発表しました。

このコンソーシアム「SecQuAL(Secure Quality Assured Logistics for Digital Food Ecosystems:デジタル食品エコシステムのための安全な品質保証ロジスティクス)」ではブロックチェーンを活用し、食品の安全性を高め、廃棄物を減らし、消費者が購入・消費する食品に対する信頼を強化するために、フードエコシステムをデジタル化することを目的としています。

「SecQuAL」は、IBMとIBMが主導する食品トレーサビリティコンソーシアム「IBM Food Trust」や英国食品基準庁など、テクノロジー、ソフトウェア、システム、食品生産、サプライチェーンの規制と保証を運営する英国の企業11社で構成されています。

同コンソーシアムは食品に貼り付けた「スマートラベル」により、消費者に対し食品の産地情報の提供や、温度管理の監視、保存期間の正確な予測、消費者から生産者への直接のフィードバックなどに応用することができ、サプライチェーンにおけるボトルネックの特定も明らかにします。

技術を食品包装に追加することで、温度や湿度などの条件を測定して製品の状態を動的に判断できるようになり、小売業者や消費者は製品の使用を拡大することができます。

F&D Technologyニュースレターより

農産物の真贋判定

シャインマスカットが海外に不正に流出して、日本農産物の被害状況が報道されたことは記憶に新しい出来事ですが、同じような例は他にも多数存在します。オーストラリアのタスマニアのサクランボ生産者の Reid Fruits社は、アジアのプレミアムチェリーの偽造問題で、悩んでいましたが、シドニーのLaava社とデジタル印刷のPeacock Bros社が協力して開発した Smart Fingerprint によって、アジアへの過去 3 年間の輸出シーズンで製品の偽造を劇的に減少させました。

いわゆるQRコードは自動化のために設計されたもので、認証のために設計されたものではないため、偽造品も作りやすくなっています。また、消費者は読み取ったQRコードが正規のものであるかどうかを識別する方法がないことから偽造に対しては脆弱です。 Fingerprintsは、ピーコックブラザーズによってデジタルラベル印刷および仕上げ技術を使用して印刷されます。各ラベルは、個々の製品ごとに個別に生成された画像を使用し、独自の光学スキャン技術を使用しているため、QR コードよりも安全性が高くなっています。

Lavaホームページより

リサイクルを促進するスマートパッケージ

ウィンブルドンテニストーナメントで、エビアンはReward4Wasteと提携して、QRコードを利用したリサイクル奨励プロジェクトに取り組みました。

パッケージのQRコードをスマートフォンでスキャンすると消費者は、各製品の関連情報にアクセスできるサイトに誘導されます。

飲用後、観客はリサイクルポイントのQRコードをスキャンし、エビアンパッケージのバーコードをスキャンしてリサイクルすることで、抽選でウィンブルドン2023女子決勝のチケットを獲得することができます。

evianホームページより

スマート QR コードによるカップリサイクル促進

包装メーカーのHuhtamaki は、英国でカップのリサイクルを増やすための活動を実施しています。自動販売機のカップなどにスマート QR コードを配置し、ユーザーをランディング ページに案内します、英国全体で増加しているカップのリサイクル サイトとスキームの詳細が提示されます。 カップの QR コードは、ユーザーのリサイクル意識を高め、英国のすべてのリサイクル計画を認知させることができました。英国では4,500のリサイクルポイント(マクドナルド、スターバックス、地方自治体など)が設置されているので、効果的でした

パッケージの未来

スマートパッケージは今回主にご紹介したコネクテッドパッケージに加えて水分制御などの機能を提供するアクティブパッケージングや、商品の状態を示したり製品の変更やその他の情報を伝達したりするインテリジェントパッケージングなどがあります。この分野の動きは非常に早く進化していますので、改めてご紹介したいと思います。

 

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