突然ですが、皆さん「カカオ」と聞いてどのような国々を思い浮かべますか?
多くの方が想像するのは、アフリカや南米大陸の国々ではないでしょうか。この質問に対し、カカオ=アジア諸国が結びつく方、マレーシアという国を連想される方は少ないように思います。今回はそんなイメージを覆す、マレーシアのカカオを使用したチョコレートのお話です。
注目すべきは、本製品が有名企業の手がける誰もが知る商品であるということです。その企業とはネスレです。ネスレが今回開発したのが、マレーシアのサバ州とサラワク州で栽培されたカカオ豆のみを使用した「KitKat® Dark Borneo(キットカット ダーク ボルネオ)」です。
ネスレマレーシアについて
周知の事実であるように、ネスレは世界最大の食品・飲料メーカーです。スイスに本社を置き、世界180カ国以上で事業を展開している大企業です。
マレーシアでは1912年にペナン州で設立され、その後は会社の成長と事業拡大を理由に1939年にクアラルンプールに移転しました。設立以来、高品質のブランドと製品を提供しながら多くの消費者に支持されています。グローバル企業であるネスレですが、各国によって製品のこだわりや違いがあると言われています。ネスレマレーシアが他国と大きく異なる点は、ハラール製品の製造に力を入れている点です。
「ハラール」とは、イスラム教の教えにもとづいて「許されているもの」という意味です。特に食品について使われ、イスラム教徒が食べたり飲んだりしてもよいものを指します。イスラム法にもとづき信者が消費・使用できるものを示すハラール食品は、イスラム教の教えに従い、安全で倫理的な方法で生産・加工されたものをいいます。
イスラム教について、豚肉を食べることや飲酒をしてはいけないということは広く知られているかと思います。それに加え、豚肉以外の肉に関してもイスラム教の戒律に従って加工された肉であることや、アルコール成分やラードを含むものは口にできないなどの細かい規定があります。
そのため、日本で言うとアルコールを含むみりん、料理酒、 醤油などの調味料を使用した料理や、市販のラーメンやお菓子、パン類にはラードが含まれることも多いため、イスラム教徒が食べられないものも多くあります。ハラールの基準を守っている商品には、「ハラール認証」というマークがついており、これがイスラム教徒にとって安心して口にできる指標となります。
東南アジアにおいてマレーシアは、インドネシアに次いでイスラム教徒の人口が多い国です。そのため、多くの製品にはハラール認証のマークが付けられています。
ネスレマレーシアでは、現在500以上のハラール製品が製造されており、この割合は世界に点在するネスレの中でも最大になると言われています。さらに同社のHPには、それらの製品がJAKIMというマレーシアのハラール認証機関により認証を受けた製品のみを製造・販売していることが明記されています。今回生み出されたキットカットも、もちろんハラール製品です。
カカオ農園復興から国の経済発展へ
ハラールかつマレーシア産のカカオのみを使った他にない「KitKat® Dark Borneo(キットカット ダーク ボルネオ)」。誕生の背景には、マレーシアのカカオ農家の経済向上と国の発展という目的がありました。
ボルネオ島の肥沃な火山性土壌と熱帯雨林気候で育ったトリニタリオ種のカカオ豆を使用し、入念な発酵と天日乾燥の工程を経てつくられた本商品は「KitKat® Dark Borneo(キットカット ダーク ボルネオ)」として発表されました。
発売イベントでは、サバ州とサラワク州の両方のカカオ農家の方々により、カカオの木の剪定とカカオ豆の発酵プロセスの実演なども行われました。この実演の模様は、カカオを生産することの苦悩や農作物生産のプロセスを知る非常に重要な機会であり、マレーシアのカカオの認識を高めることに繋がると地元メディアでも賞賛されました。
マレーシア政府は新たなカカオ農園プロジェクトとカカオ農場復興プロジェクトを実施するために950万リンギットを割り当てました。本資金でできた新しいカカオ農園は350ヘクタールの面積をカバーし、カカオ農園復興プロジェクトは2,126ヘクタールに及ぶと言われています。
農園・商品大臣のJohari Ghani氏は「彼ら(小規模農家)が植え替えプロジェクトから利益を得るようになれば、他国からカカオを輸入する必要がなくなるため、この国のカカオ輸出が強化されることを期待している。」と製品の発表会で述べました。
また、ネスレの最高経営責任者(CEO)Juan Aranols氏は、今回の立ち上げは現在サバ州とサラワク州に拡大しているネスレマレーシアのファーマー・コネクト・プログラムを通じ、地元産かつ持続可能な調達を推進する取り組みの一環だと語りました。カカオの生産にはアグロフォレストリーや間作などの再生型農業の実践が含まれており、長期的な土壌の健全性を確保するとともに作物の収穫量や地元農家の収入増加を目的としています。
カカオ産業は国の経済に高い収入をもたらす大きな可能性を秘めており、「KitKat® Dark Borneo(キットカット ダーク ボルネオ)」は地域社会に前向きな変化と経済発展をもたらす一つの要因になると言われています。これらのことからも、本商品が単なるお菓子ではなく、カカオ農園復興や国の発展を目的としてつくられた大々的なプロジェクトであることがわかります。
チョコレートのパッケージや味わいについて
自然豊かなボルネオ島では多くの野鳥が見られることから、パッケージには色鮮やかな鳥とラフレシアの花の絵が描かれています。ラフレシアは主にマレーシアとインドネシアのボルネオ島とスマトラ島、その周辺の島でのみ生息している世界最大の花を咲かせると言われている寄生植物です。
袋の裏面にはボルネオの地図やカカオや土地についての説明が記載されています。こうした点にもカカオ農家の方々への敬意やカカオについての認識を広めようという努力が感じられます。
小分けの袋の中にはオリジナルのキットカットより少しダークな色合いのチョコレートが入っています。
食べる前にまず驚いたのが香りです。包みをあけると漂うフルーティで芳醇な香りから、カカオの品質の良さを感じることができます。パキッというキットカット独特の心地よい音と歯応えを楽しみながらいただくと、ビターでコクのある味が口一杯に広がります。カカオの濃縮された旨味がつまったチョコレートは、まさに上質な味わいです。
パッケージに記載されているように、製品に含まれるカカオの含有量は52%です。カカオをふんだんに使いながらも、ビターすぎない程よい味わいに大人も子どもも楽しめるよう想定して作られていることが感じられます。キットカットがどの国でも多くの方に好まれていることには、万人が「おいしい」と感じる味わいを意識して製造していることが大きな要因のように思います。
グローバル企業のネスレとコラボレーションし、マレーシアのカカオ産業の発展と国の経済発展を目的に作られたキットカットはまさに国の有望株です。上質なカカオで作られたチョコレートは品質も良く、パッケージも素敵なのでお土産にも最適です。今後より一層人気が出て、マレーシアの経済発展に欠かせない商品となることでしょう。
▼参考資料(URLは外部リンクへ飛びます)
Nestle HPより
https://www.nestle.com.my/media/pressreleases/kitkatdarkborneo
Nestle Malaysia STATEMENT(Nestle HP内)
https://www.nestle.com.my/sites/g/files/pydnoa251/files/asset-library/documents/pdf/halalassurancepolicy.pdf
Azanis Shahila Aman ”Malaysia to undertake new cocoa plantation & cocoa farm recovery projects Johari Ghani [NSTTV]“, New Straits Times, May 6, 2024
https://www.nst.com.my/business/corporate/2024/05/1046980/malaysia-undertake-new-cocoa-plantation-cocoa-farm-recovery
Statista ”Agriculture in Malaysia - statistics & facts” Statista
https://www.statista.com/topics/10680/agriculture-in-malaysia/
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