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医薬・ヘルスケア商品、「選ばれる工夫」に注目!

アメリカの大手ドラッグストアは薬だけでなく、本やおもちゃなども棚に並び、日常のあらゆるニーズをカバーする街のインフラ的な存在です。とはいえ、本業の「薬局」としての役割も健在。市販薬の品揃えの充実ぶりは、日本とはまた違った魅力があります。

今回は、そんなアメリカの医薬品コーナーをのぞきながら、健康に対するニーズと、それに応えるメーカー側のアイデアを探ってみたいと思います。

サステナブルな医薬品パッケージの未来像「CABINET」

「CABINET」は、その名の通りキャビネット(戸棚)に常備することを前提とした医薬品シリーズで、最大の特徴は、環境負荷を抑えたパッケージにあります。
壊れにくいガラス製のボトルは詰め替え可能で、繰り返し使える仕様です。環境に配慮しながら長く愛用できる仕組みがユニークです。さらに外箱には窓がついており、消費者が購入前にガラスの質感を直接確認できるというこだわりようです。

外箱に窓が付いているCABINETのパッケージ
詰め替え用のパウチも生分解性素材で作られ、環境負荷を最小限に抑えています。

CABINETの詰め替え用パウチ
また、ロット番号や使用期限が記載されたマグネット付きラベルが同梱されており、ボトルの蓋に装着することで、詰め替えと同時に情報を更新できる仕組みです。このパッケージのアイデアは環境配慮から生まれたものです。常備薬は使用期限が来たら新しいものに取り替えるのが一般的ですが、この詰め替え方式は消費者にとっても受け入れやすい仕組みかもしれません。

医薬品パッケージは本来、内容物の保護と使用者の安全性を最優先に設計されるべきものですが、「CABINET」はその基本を押さえた上で、環境への配慮という新たな価値を加えています。これからの医薬品パッケージの一つの理想形を示していると言えるでしょう。

中身より救急箱が欲しくなる「Johnson&Johnson」「welly」

頭痛薬や胃腸薬などの内服薬も置き薬として必須ですが、絆創膏や軟膏などの外用薬も救急箱に欠かせませんよね。日本では木製の重い箱が定番ですが、さすがはビッグブランド「バンドエイド」を擁する「Johnson&Johnson」。彼らが手がけると、救急箱もこんなにポップでカジュアルなケースになるのです。

Johnson and Johnsonの救急箱
さらに、ユニークなキャンペーンも定期的に実施されています。専用棚に並んだ製品を3つ購入すると、ポーチが特典としてもらえるのです。このポーチに収める形で、3つと言わずすべてをファーストエイドキットとして揃えてしまえば、次に買い足すときも自然と同じ商品を選ぶ流れが想像できます。最初に自社の製品で揃えてもらうことで、その後のリピート購入につなげる戦略になっているのでしょう。

それにしてもこのポーチがまたおしゃれで目を引きます。正直「薬を入れるため」と言いつつ、ポーチ欲しさに必要のない薬まで買ってしまいそうになるのです。

購入特典のポーチ
絆創膏ブランドでは「Johnson&Johnson」の競合にある「welly」は、さらにデザイン性に力を入れ、「バンドエイド」との差別化を図っているようです。
上二段は「バンドエイド」、下二段は「welly」ですが、こうしてみると2社のデザイン戦略の違いがはっきりとみて取れるのではないでしょうか。

バンドエイドとwellyの陳列
「バンドエイド」商品は紙の箱が基本で、ロゴで共通性を出しているのに対し、「welly」のパッケージは缶で、とてもカラフルでグラフィックのバリエーションも豊富です。「welly」が提案するファーストエイドキットには多彩な柄が施された絆創膏などが詰まっており、怪我をして落ち込んだ気分を少しでも明るくしてくれるようなデザインです。

wellyの商品パッケージ
「使うときの気持ちまでケアする」というコンセプトが感じられる、気の利いたプロダクトで、見た目だけでなく、機能性と心への配慮も詰まったキットです。

心と脳に配慮したサプリメント「OLLY」「NEURIVA」

サプリメントといえば、通常はナチュラル志向や機能性重視のデザインが多いですが、「OLLY」はカラフルで親しみやすく、楽しさを感じさせるデザインが特徴です。

日本でもサプリメントで効果を商品名にしている例がありますが、「OLLY」も同様のアプローチを取っています。「集中力アップ」「ストレス軽減」「睡眠の質向上」など、体の健康だけでなくメンタルケアに特化した商品が多く、アメリカでも高い需要があることが伺えます。

OLLYの商品パッケージ
特に「睡眠の質向上」系の商品は『OLLY』に限らず多くのブランドが展開しており、専用の売り場があるほどです。これにより、アメリカでの睡眠の質に対する関心の高さがわかります。また、各社のデザインを見ると、アメリカでは「睡眠改善」のイメージカラーは紫が一般的であることがわかります。日本ではブルーが一般的なようです。

睡眠改善のイメージカラーが紫
ちなみに「OLLY」では子ども向けの「睡眠の質向上」商品も販売しています。このように、子どもの睡眠改善を目的としたサプリメントも取り扱っています。子ども用のイメージカラーはブルー基調となっています。

Kids sleepのパッケージ
「NEURIVA」は、脳の健康をサポートするサプリメントシリーズです。「ブレインヘルス」というテーマを掲げ、集中力や記憶力をサポートすることを目的とした商品が特徴です。パッケージには脳や利用シーンを想起させるイラストが描かれており、どのような場面で使用するかを消費者にわかりやすく提示しています。これは、新しい健康ニーズを引き出すための工夫でもあります。

ブレインヘルスのパッケージ

日常の健康ニーズにきめ細やかに対応する「Boiron」

こちらはサプリメント売り場ですが、手前に少し異彩を放つコーナーがあるのにお気づきですか。フランス発のブランド、「Boiron」の自然療法製品が並んでいるのです。

このシリーズは主にナチュラル志向やホリスティックケアに関心のある層に支持されているのですが、自然派の健康食品店だけでなく普通のスーパーやドラッグストアでもよく見かけるので、わりと一般的な存在なのかもしれません。

売り場のBouronコーナー
面白いのはこの販促ツールの見せ方です。日常のちょっとした不調に対応する製品が中心になるため、症状や状況をイラストで具体的にわかりやすく表現しています。
そのイラストの裏に、対応する試験管型パッケージの商品が収納されており、下から取り出す仕組みになっています。このイラストが楽しいので自分のお悩みにぴったりの製品がないか、ついつい探してしまいます。

不調をイラストで表現しているパッケージ

胃もたれや胸焼けに役立つ「TUMS」と「WONDER BELLY」

日本では、胃もたれに対しては太田胃酸などの粉末タイプが一般的で、その効能が強調されるイメージがありますが、「TUMS」はカラフルなラムネのような見た目が特徴です。噛んで食べるチュアブルタイプであり、フルーツ味やミント味など、さまざまな種類があります。ホリデーシーズンには限定フレーバーが発売されることもあり(下図 右)、まるでお菓子のように楽しむことができます。

TUMSのパッケージ
「Wonder Belly」も同様に、胃もたれや胸焼けに対処する製品を展開しています。「早く効く、美味しい胸やけ薬」というキャッチフレーズで、ストロベリーシェイク味やトロピカルフルーツ味などが提供されています。さらに、パステルカラーのパッケージが視覚的にもシズル感を強調しています。

Wonder Bellyのパッケージ
胃もたれや胸焼けの際には、一般的に食欲が減退することが多いですが、これらの製品は美味しい食べ物のように楽しめる点が特徴です。美味しい味と魅力的なデザインにより、気分を明るくすることを目指しているのかもしれません。アメリカらしいアプローチで、食べて治すというコンセプトが取り入れられています。

最後に

メンタル系サプリが日本より充実しているかなというくらいで、健康や症状に対するニーズ自体は日米で大きく変わらない気がします。ただ、アメリカでは医療保険制度の違いから病院や医者にかかるハードルが高いからか、市販薬を活用する傾向が強いのかもしれません。その分、表現やアプローチのバリエーションも豊富で、日本よりも選択肢が広い印象を受けます。
もちろん、法律の違いもあるので日本がそのまま真似できるわけではありませんが、「思わず手に取りたくなるパッケージづくり」「繰り返し買いたくなる売り場づくり」のヒントは、こうしたアメリカのドラッグストアにたくさん隠れていそうです。

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