菓子業界のパッケージや販促PRに関する事例をご紹介する連載12回目。今回は、近年、クリスマスのアイテムとして人気が高まっているアドベントカレンダーを取り上げます。12月24日のクリスマスイブまで、毎日1つずつ引き出しや蓋を開けると、チョコレートやクッキーなどさまざまなお菓子が入っているという、何とも楽しい仕掛け。以前は海外のブランドが主流でしたが、最近は国内ブランドでも販売が増えてきました。その魅力や、2025年に注目の品をご紹介します。
海外ブランドによるクリスマスコレクションのアドベントカレンダー
欧米では、イエス・キリストの誕生日であるクリスマスまでの日々を数えつつ、準備しながら楽しみに過ごす習慣が根付いています。それは、クリスマスの4週前の日曜日からクリスマスイブまでにあたり、ラテン語の「到来(Adventus)」を語源として「アドベント(Advent)」と称される時期。
12月1日~24日を示す日付の数字が入った引き出しなどを開けると、中にさまざまなアイテムが入っているという「アドベントカレンダー」も、この時期の人気商品です。自家用はもちろん、ギフトとしてもよく求められます。
菓子店には、チョコレートやキャンディなどの砂糖菓子、クッキーなど常温で日持ちする菓子類を忍ばせたアドベントカレンダーが登場。特にヨーロッパの人気ショコラトリーやパティスリーは、クリスマスシーズンの統一テーマを掲げることが多く、アドベントカレンダーを含めた各商品が、テーマに沿ったトータルデザインで揃う様子は圧巻です。日本でも楽しみにしているファンが増え、数量限定販売のため予約開始からすぐに完売するケースも珍しくありません。

「ラ・メゾン・デュ・ショコラ」の2025年アドベントカレンダー「カレンダー パリ エテルネル」(195g入13,932円)※予約開始11月2日、受け取りは11月下旬以降を予定。
※中身はイメージのため変更になることがあります。
1977年に創業したパリの老舗チョコレートメゾン「ラ・メゾン・デュ・ショコラ」の2025年のクリスマスコレクション「パリ エテルネル(PARIS ÉTERNEL)」のギフトボックスは、パリを象徴する多彩な建築物からインスピレーションを得たもの。パリを拠点とするイラストレーター・デュオ「Alex & Marine(アレックス&マリーヌ)」によるデザインで、ブランドのシェフ・パティシエ・ショコラティエであるニコラ・クロワゾー氏の創作と、都市パリそのものから着想を得ています。
パリの街と言えば、エトワール凱旋門を中心とする広場から12本の大通りが放射状に広がる壮麗な景観をはじめ、オスマン建築やエッフェル塔が建ち並ぶ、まるで"光の都"のような街並みが特徴です。オスマン建築とは、19世紀半ば、ナポレオン3世がオスマン男爵に命じた大規模なパリの大改造によって生まれた建築様式で、装飾された石造りのファサードや錬鉄製のバルコニー、特徴的な勾配の屋根などを備えたエレガントな建物群です。
今年のギフトボックスは、そんなパリの歴史的建造物のファサードやドーム、橋、カカオポッドなどのモチーフが彼らの新しい視点で見事な調和を生み出し、フレスコ画のようなアートとなっています。
アドベントカレンダー「カレンダー パリ エテルネル」も、エトワール広場とそこから放射状に伸びる12本の通りに着想を得たデザインです。2つの回転する大きな円が凱旋門を中心とした街並みを表現し、24個の窓にはそれぞれショコラが入っており、24の数字が入った中心の窓に至るまで、クリスマスまでのカウントダウンを華やかに彩ってくれます。

「ラ・メゾン・デュ・ショコラ」の2025年クリスマスコレクションの1つ「ブシェ パリ エテルネル」(134g・6,966円)※11月2日販売開始。
他のクリスマスコレクションも統一されたデザインで、フランスで好まれる大きなサイズのプラリネ"ブシェ"は、箱はもちろん、中身もエトワール広場の壮麗な景観に着想を得た精巧なチョコレート細工に。アーモンドとヘーゼルナッツのプラリネに焙煎した日本米を加えてミルクチョコレートで包み、精巧な形のダークチョコレートとホワイトチョコレートを重ね合わせています。
このような美しいギフトボックス入りチョコレートを手にしたら、中身を食べ終わった後も飾っておきたくなるに違いありません。赤色と金色が華やかな祝祭シーズンをいっそう盛り上げてくれます。

※「ル・ショコラ・アラン・デュカス」の2025年クリスマス限定品の予約開始は11月1日、販売開始11月15日~数量限定。
左)アドベントカレンダー「カランドリエ・ド・ラヴァン」(11,880円)
※オンラインブティックでは10月15日~予約開始。
右)「クラッカー・シュープリーズ」(3,240円)
2013年にパリにオープンしたチョコレート専門店「ル・ショコラ・アラン・デュカス」の2025年クリスマスコレクションのテーマは「魅惑のカカオポッド」。パッケージには、冬の夜空をイメージしたブルーのキャンバスに、サンタクロースやトナカイたちがカカオポッドをモチーフとしたオーナメントを飾り付け、クリスマスの準備をする様⼦が描かれています。
このブランドは、世界各地から厳選したカカオ豆を自社で仕入れ、自家焙煎してすり潰し、チョコレートそのものを作り出す工程から手掛けているため、原点であるカカオの実="カカオポッド"が描かれていることには、特別な意味が感じられます。
毎年人気のアドベントカレンダー「カランドリエ・ド・ラヴァン」は、今年はサンタクロースとトナカイ、白クマたちがクリスマスの準備をする様子を描いたデザインです。24個の窓に日替わりで特別なショコラが入っていて、アーモンドのプラリネ入りミニタブレット、カカオポッドの形をしたココナッツプラリネ、クマを模ったショコラなど、多彩な味わいが楽しめます。最後の窓からは、ヘーゼルナッツのプラリネが入った大きなクマのショコラが登場するというサプライズも仕掛けられています。
また、日本ではあまり見かけない「クラッカー・シュープリーズ」は、イギリスをはじめヨーロッパではおなじみの「クリスマスクラッカー」をモチーフにしたもの。キャンディー型の容器の中にさまざまなプレゼントが詰まっていて、両端を2人で引っ張ると、破裂音とともにプレゼントが飛び出すパーティーグッズです。
「ル・ショコラ・アラン・デュカス」のそれは、「シュープリーズ(驚き)」という名前のとおり、ショコラのサプライズがたっぷり詰まっています。カカオ75%オリジナルブレンドのビターチョコレートと、マダガスカル産カカオ45%のミルクチョコレートを使用。イタリア産ヘーゼルナッツとフルール・ド・セルのプラリネを詰めたクマ形の「ペピット・ウルソン」や、ココナッツプラリネを詰めたカカオポッド形「ミニカボス」、ツリーを模った「サパン」など、ショコラ8個が楽しめます。
デザインに込められたメッセージ

「ピエール・エルメ・パリ」2025年クリスマスのアドベントカレンダー“カランドリエ ド ラヴァン”のシリーズ。
左)“シニャチュール ノエル”(24種入16,720円)
※オンライン購入の受け取り期間11月5日~、店頭での販売開始は11月1日。
中央)“アンフィニマン グルマン”(28種入24,750円)
※公式オンラインブティック限定、オンライン購入の受け取り期間11月5日~。
右)“デクセプション”(33,000円)※青山店限定、発売開始11月1日。
「ピエール・エルメ・パリ」の2025年クリスマスコレクションのテーマは「アビス(深海・ABYSSES)」。環境活動家でもある陶芸彫刻家Courtney Mattison(コートニー・マティソン)氏とタッグを組み、深い海に住むサンゴやイソギンチャク、海綿類の世界を表現しています。
アドベントカレンダー"カランドリエ ド ラヴァン"のシリーズは3種類を発売。深海をイメージしたブルーの円形ボックスに、ショコラやサブレ、パンデピスなどが詰め込まれています。さらに、青山店限定の「カランドリエ ド ラヴァン デクセプション」には、コートニー・マティソン氏が制作した特別限定品のクリスマスボールが添えられます。一つ一つ丁寧に手作りされ、ナンバリングされたセラミック製のオブジェで、細い紐状の装飾を施し、サンゴ礁の様子を表現したものです。

「ピエール・エルメ・パリ」2025年クリスマスの「ブール ド ノエル」(2,268円)
※オンライン購入の受け取り期間:11月19日~店頭での販売開始は11月15日。
クリスマスツリーに飾るのにぴったりの「ブール ド ノエル」も、きらめく深海の光沢を帯びたかのような深い青色のボールの中にショコラやサブレ入り。このボールがプラスチック製ではなく金属製なのは、プラスチック規制の厳しいフランスのブランドらしいと言えるでしょう。
それにしても、クリスマスと深海というモチーフは、すぐには結びつかないかもしれません。しかし実はそこに、エルメ氏の深い思いが表れているように感じられます。
2023年1月にフランスで開催されたパティシエの世界大会第18回「クープ・デュ・モンド・ドゥ・ラ・パティスリー」のテーマは、「気候変動」("climate change")というものでした。日本チームは、風力発電による再生可能エネルギーや、環境問題の影響を受けている鯨などを作品のモチーフに取り入れ、通算3回目、2007年以来の優勝を遂げてニュースとなりました。2021年よりこの大会の会長を務めるピエール・エルメ氏は、日本のテレビの特集番組によるインタビューの中で、環境破壊による世界的な気候変動への危機感に触れ、パティシエという立場からできることを考え、行動していく必要性について語っていました。
クリスマスという幸せに満ちた時間にこそ、私達に恵みをもたらしてくれる自然とさまざまな生命体に思いを馳せ、感謝することを促し、無くしてしまわないようにと語りかけるようなコレクション。アドベントカレンダーも、毎日引き出しを開けるたびに、立ち止まって考えるきっかけになってくれそうです。
日本のブランドによるアドベントカレンダー
最近は、日本のブランドもクリスマスの時期にアドベントカレンダーを発売するようになり、注目度も年々高まっています。

「銀座・和光アネックス ケーキ&チョコレートショップ」が2025年に発売する「和光アドベントカレンダー」(箱サイズ33×24×厚み7.5cm、19,440円)。
予約開始は10月15日~、受け取り&配送期間は11月26日~11月30日。
東京・銀座の「和光」は、1988年にチョコレート専門店をオープンして以来、日本におけるショコラトリーの先駆けとしてトレンドを発信してきました。そんな伝統を受け継ぐ「銀座・和光アネックス ケーキ&チョコレートショップ」では、少なくとも10数年以上前から、クリスマスの風物詩としてアドベントカレンダーを販売しています。
今年は、人気イラストレーターのルイス・メンド氏によるデザインで、「和光」を象徴する時計塔でクリスマスを楽しむさまざまなシーンが描かれています。

「和光アドベントカレンダー」は、日付入りの小箱をひっくり返していくと、最後に1枚の絵が完成する。
12⽉1⽇から24⽇までの小箱の中には自家アトリエ製のチョコレートや焼菓子が入っていて、毎日小さなサプライズを楽しめるだけでなく、⼩箱をひっくり返すと表側とは違う絵が現れ、24⽇を迎えると⼀枚の絵が完成するという仕掛けも遊び心に富んでいます。

「カフェタナカ」2025年のアドベントカレンダー「レガル・ド・チヒロ アドヴェント 2025 ~Secret de São Tomé~」(12,420円)。※店頭受け取りの予約開始は10月20日、受け取り11月15日~30日。オンラインブティック販売開始11月1日、受け取り&配送期間は11月27日~11月29日。
自家焙煎珈琲店として創業し、1995年よりパティスリー併設のカフェとして人気を博す名古屋の「カフェタナカ」は、2024年に初めてアドベントカレンダーを発売しました。
2025年の「レガル・ド・チヒロ アドヴェント 2025 ~Secret de São Tomé~」は、中世の洋書をイメージした箱を開けると、西アフリカ・サントメ島のクリスマスのファンタジックな世界が広がります。そのテーマは、西アフリカのサントメ島で古代より行われる儀式「カカオ栽培と収穫」。パッケージデザインには、前年と同様、フランス人イラストレーターのジャン・ヴァンサン・セナック(Jean-vincent Sénac)氏が描き下ろした特別なイラストを使用しています。
1日から25日までの小窓があり、中には人気のクッキーやボンボンショコラに加えて、新作のビーンズ・ショコラや紅茶なども入っています。今回のアドベントカレンダーには数字探しゲームなどのお楽しみもあり、昨年以上に楽しめそうです。

「レガル・ド・チヒロ アドヴェント 2024 ~Secret de São Tomé~」には、カカオの実るサントメ島の夜明けに、妖精達が「カフェタナカ」のお菓子で塔を築く様子がファンタジックに描かれた。
2019年、この島に「カフェタナカ希望の有機カカオ農園」が開園しました。「カフェタナカ」グランシェフパティシエの田中千尋シェフは、サントメ島カカオの原種を守りながら、荒れた農園の再生と現地女性の自立を支援するサントメプロジェクトを遂行しています。
2024年のクリスマスに初登場したアドベントカレンダー「レガル・ド・チヒロ アドヴェント 2024 ~Secret de São Tomé~」は、箱を開けると西アフリカ・サントメ島のトントゥ(妖精)達による、クリスマスのファンタジックな世界が広がるデザインでした。

「レガル・ド・チヒロ アドヴェント 2024 ~Secret de São Tomé~」の箱裏面にはサントメ島と田中千尋シェフとの絆の物語の序章が記された。
箱の裏面には、サントメ島を舞台に、現地の女性たちと"日出る国"から来た1人の女性パティシエとの出会いと絆の物語がフランス語で記されていました。
2025年のアドベントカレンダーの箱には、その物語の続きとなる第1章が記されています。このように強いメッセージ性を持ち、世界観と物語が続いていくアドベントカレンダーというのも、毎年欠かせない楽しみになります。これらの箱も、永久保存版にしたくなることでしょう。
各ブランドが趣向を凝らしたクリスマスのアドベントカレンダー。華やかさや楽しさが感じられることはもちろん、約1か月間、毎日眺めて向き合うものだからこそ、ブランドの取り組みを伝えるメッセージをより強く印象付けることにも繋がります。
最近は、1週間分の短めのアドベントカレンダーも見られ、やや手頃な価格で楽しめるため、ギフトや自分用に求めるファンも増えているようです。24日分のアドベントカレンダーになるとかなり贅沢な品となりますが、7日分であれば、店側でもトライアルを兼ねて販売しやすそうです。11月中の早い時期から動き出すクリスマス商品として、今後も増えていくのではないかと注目しています。
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