本離れが懸念される現代。私が暮らすフランスでも、その傾向は例外ではありません。実際に、メトロの中では電子書籍を読んでいる人を大変多く見かけます。しかし、フランスの書店に一度足を運べば、「このデザインならぜひ自宅に持ち帰って読みたい」と思わせる本に、いくつも出会えるのです。
今回は、そんなフランスの書籍デザインに注目してみました。小説・実用書・レシピ本など、さまざまなカテゴリーから一挙にご紹介します!

フランスの書店の本棚
小説

フランスの書店、「ベストセラー」のコーナー
フランスでまず特徴的なのは、出版社ごとに視覚的アイデンティティがきわめて強いことです。とくに、近年の若年層向け書籍はかなり戦略的。ロマンス・推理・ファンタジー・ティーン向けの小説などは、明確に「手に取らせる」という強い意図を感じます。

フランスの大衆小説

フランスの大衆小説

フランスの大衆小説
そうした書籍の装丁で目立つのは、グラデーションやネオンカラー、強めのタイポグラフィ、そして絵画のような装いです。色のバリエーションも非常に幅広く、カラフルで鮮やかなものが目立っていました。

ティーン向け小説

歴史小説
これらの装丁は、いわば「本棚映え」や「SNS映え」を意識した設計をしています。フランスでも、"ジャケ買い市場"が確実に存在していると言えるでしょう。
これは日本と近いところですが、少し異なるのは、「○○のおすすめ」「○○賞受賞!」といった「帯」がフランスの小説には少ないことでしょうか。帯があったとしても非常にシンプルで、表紙自体の雰囲気でその魅力を伝える比重が高いと感じます。
中には、写真のように「これがミステリー小説なの?!」と驚かされるデザインに出会うこともありました。

フランスのミステリー小説

フランスのミステリー小説

フランスのミステリー小説
一方で、フランスの「純文学」小説は、まったく別のロジックで動いています。 こちらは装飾が皆無で、クリーム色の背景に赤文字だけ。こちらはフランスが世界に誇る出版社、「ガリマール社(Gallimard)」からの書籍です。

2025年フェミナ賞を受賞した小説

マルセル・プルーストの小説。パリの図書館所蔵
装丁のデザインは、ガリマール社が創設された1911年以降、基本的なフォーマットはほとんど変わっていません。100年以上同じ見た目で売られ続けているのは、デザイン史の観点から見ても珍しい事例といえそうです。
なお、同じ装丁で刊行された作家には、マルセル・プルーストや『星の王子さま』のサン=テグジュペリ、ヘミングウェイ(翻訳作品)なども含まれます。フランスの純文学に関しては、このように本というよりむしろ「文化遺産のパッケージ」であると感じました。
ファッション・建築・アート

イヴ・サンローラン、ジバンシィの自伝本
さて、ファッションやアート関連の装丁では、「さすがフランス」と思わせるデザインが揃っています。
フランスといえば、ファッション雑誌の『ELLE』が生まれた国。そのため、ファッションの本も雑誌文化の延長線で、ビジュアルを最重要視しているものが多くありました。
シャネル、ディオール、エルメス、イヴ・サンローランといったフランス発祥のブランドに関する書籍では、とくに顕著です。 また、本そのものに圧倒的な存在感があるのも印象的です。

エルメスの書籍

ル・コルビジェの書籍
建築本やアート本に関しては、もう完全にオブジェだと言えるでしょう。大型・小型・ハードカバー・紙質重視など、"読む"より"所有する"といった側面が目立ちます。

音楽に関する書籍

水彩画に関する書籍
さらに、一部は「置いた時にいかに美しいか?」が意識されていて、インテリアに溶け込むようデザインされている本もあります。フランスではこうした書籍に、読者が期待する"美のフォーマット"が確立されていると感じました。
料理・レシピ本

料理本の棚
一方で、とても興味深いのがフランスの料理本・レシピ本です。アート関連の書籍と同様にこだわりが強く、「さすが美食の国フランス」と思わせる完成度。中には写真集なのか美術書なのかと見間違う佇まいもあって、書籍コーナー全体に華やかさを添えていました。

「卵料理」に関するレシピ本

「家族のための健康食」に関するレシピ本

「ココット料理」に関するレシピ本。リアルな木の装丁が印象的
たとえば、装丁に文字が一切なかったり、表紙に紙ではなく木材が使用されていたり、一般的な料理本のイメージを裏切る工夫が、至る所に見られます。
料理本といえば、食欲を刺激する写真が前面に出るものという印象がありますが、フランスの料理本はむしろ抑制的で、ミニマルであったり、素材感によって存在を際立たせているところに潔さを感じます。

メキシカン料理の1ページ

さまざまな料理本
加えて特徴的なのは、「レシピの羅列」にとどまらない編集方針。料理人の哲学や、食への向き合い方、テーブルコーディネートまで含めて一つの世界観として表現されています。レシピだけでなく、"どのように食べて、どのように過ごすか"までを提案する構成は、フランスの食文化そのものを映し出しているようでした。

イワシ料理に特化したレシピ本

日本料理を紹介する本も
フランスで根強い人気を誇る日本料理についても、「焼き鳥」や「モチ(大福)」といった一品に焦点を当てた書籍が目立っています。 内容はレシピ集にとどまらず、それぞれの料理がどのような歴史を持ち、どのような場面で食されてきたのかといった背景まで丁寧に掘り下げられており、全体としてドキュメンタリーのような構成になっていました。
ちなみに、フランス国外の料理に関しては、装丁に繊細なイラストが多く採用されていて、魅力的に見せるほか「一瞬で何の料理か判断できる」ように仕上げられていると感じました。
趣味(DIY・園芸など)

実用書のコーナー
最後に、実用書のデザインをご紹介します。DIY・園芸などの書籍は、実用性と分かりやすさ、そして美しさのバランスが取れたデザインです。
色使いが柔らかく、生活に馴染むデザイン。加えて、著者の写真が表紙に多く用いられていることが印象的です。「この人が書いている」という信頼性が生まれますし、専門的な内容だからこそ、手に取りたくなる一要素として機能しているのではないでしょうか。
フランスのちょっとした「装丁トレンド」
表紙以外でも実は、最近のフランスで増えている仕様に、「小口(ページの断面)への装飾」があります。

フランスのロマンス小説

側面にも装飾が!
写真のように、ページ断面には、いちご・クマ・パンケーキの印刷が…。これは、「本を閉じた状態でもかわいい」「床に積み重ねてもOK」「コレクション欲を刺激する」という、 所有体験をデザインした要素だといいます。
同小説のジャンルとしては、軽めの恋愛フィクションです。つまり、読者の対象が若年層や女性なので、読む楽しさ+持つ楽しさの両方を重視しているのだと考えられます。ギフト需要もあるとのことで、内容だけでなく「手に取った瞬間に世界観に入れるか」が設計されているのでしょう。 もはや雑貨と言っても過言ではないロマンス小説です。
最後に

おしゃれな装丁デザイン
このように、フランスでは表紙と背表紙、側面まで含めて一体のデザインとなっている装丁が多くありました。
とはいえ、クラシックはクラシックらしく、純文学としての格式を崩さず。代わりに現代の書籍に関しては、普遍的な価値をどう今に表現するか?に重きを置いています。本そのものを"プロダクト化"する傾向も強く、「手元に置きたい」と所有欲を刺激するものが大変多くありました。
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