生クリーム缶がまさかの日焼け止め?今、米国でトレンドの「Chaos Packaging」とは?
ここ数年、アメリカのパッケージデザインに新たな風が吹いているのをご存知でしょうか。その名も「Chaos Packaging(カオス パッケージング)」。
Chaosとは、ご存知の通り、混乱・混沌・無秩序という意味。転じてChaos Packagingとは、日用品や食品などの商品を、本来の用途とはまったく異なる容器やデザインでパッケージする、新たなマーケティング手法のことを言います。
少し前まではロゴを小さくし、色味を抑えたミニマムデザインが主流でしたが、その流れに逆行するようにカオスなデザインの商品がアメリカの店舗に並ぶようになりました。今、アメリカでどのような「Chaos Packaging」の商品があるのか、早速紹介しましょう。
Vacation「Classic Whip」:ふわふわ生クリーム缶のような日焼け止め

最初に紹介するのは、生クリーム缶のような容器に入ったVacation社の日焼け止め「Classic Whip(クラシックホイップ)」。
こちらの商品は、Z世代を中心に動画系SNSなどで「ホイップクリームにしか見えない日焼け止め」として、注目を集めたのがブレイクのきっかけでした。さらにアメリカセレブのキム・カーダシアンが自身のInstagramで「これに夢中!」と投稿したことから、店舗で完売が相次ぐ人気商品に。

私がこの日焼け止めを見つけたのは、スーパーの日焼け止めクリームのコーナー。チューブやスクイズボトルが多い日焼け止めの棚に、クリーム缶を思わせる容器が並んでいるのは否が応にも人目を引きます。
オフホワイトの下地に赤いキャップ、イラストの女性の手の上には、こんもりと盛られた真っ白なクリームと、どこかレトロな感覚の缶デザインに仕上がっています。また、香りもアメリカの“夏の思い出”を彷彿とさせるもの。ココナッツ、バナナ、プールのおもちゃの匂いは、アメリカ人の郷愁を誘うともいわれています。

蓋を開け、中身を少し出してみましょう。
シュッという音とともに、まるでホイップクリームのようなムース状の日焼け止めが出てきます。さっそく肌に塗ってみると、ふわふわとしたエアリーな触感で、広げやすく肌にさらりと馴染みました。
次に機能を見ていきます。SPF30、80分の耐水性付き。泳いでも80分間は落ちにくいウォータープルーフの日焼け止めという訳です。しかもヴィーガン系の原材料を使用し、動物実験なども行っていません。パラベン・硫酸塩などが使われていないのも嬉しいポイント。
まずは遊び心あるパッケージで注目を集め、使い心地、安全性などでリピーターを増やした画期的な商品といえるでしょう。
Supplying Demand, Inc.「Liquid Death」:ドクロ缶の中身はミネラルウォーター

次に紹介するのは、Supplying Demand, Inc.が販売するミネラルウォーター「Liquid Death(リキッド デス)」。
缶には派手なドクロが描かれており、一見するとビールかエナジードリンクかのようです。しかし、中身はアルプス山脈や米国内から採水されたミネラルウォーター。スーパーでは普通に“water”のコーナーに置かれており、透明感を活かしたデザインの水が多い中、ロックなドクロ缶は異彩を放って見えます。
ちなみにこの白い缶がフラットウォーターで、黒い缶はスパークリングウォーター。さらに、グリーンやパープルなど、炭酸や果汁を加えた商品も販売中です。

さっそく白い缶を試してみましょう。飲んでみると軟水のミネラルウォーターで、とてもまろやか。改めてパッケージとのギャップに驚かされます。

「Liquid Death」の売り出しは2018年。1,500ドルという超低予算でスタートし、当時は缶もなく、中身もなく、ドクロ缶のイメージ画像があるだけでした。そして創業者がその動画系SNSに投稿したところ、300万再生を記録。この実績をもとに投資家に売り込み、製造・販売にこぎ着けたといいます。
また、創業者の斬新な広告手法が注目を集め、2025年売上高は約3億4,000万ドルに達しました。世界最大級の興行会社とも提携し、音楽ライブやフェス、クラブなどでは圧倒的な人気を誇っています。
…とここまで読むと、挑戦的な企業、というイメージが湧くかもしれません。しかしSupplying Demand, Inc.は、環境問題にも力を入れている企業なのです。リサイクル可能なアルミ缶を採用したり、売上10%をプラスチック汚染対策の非営利団体へと寄付したり。
環境問題を真面目に伝えるのではなく、「Death to Plastic(プラスチックに死を)」という過激なメッセージで若者世代に伝えたのがこの会社らしいところ。会社のコンセプトまで「Chaos Packaging」と言えるのかもしれません。
Bite「Toothpaste Bits」ラムネ?錠剤?ビンに詰められた歯磨き粉

こちらは、小瓶に詰められた人気の歯磨き粉、Bite社の「Toothpaste Bits(トゥースペイスト・ビッツ)」。歯磨き粉とはいうものの、従来のペースト状ではなく固形タブレットなのが特徴です。また、パッケージも透明な容器、銀色の蓋と、まるで薬の小瓶のような形状で販売されています。
こちらの販売方法は、一部店舗で売られているものの、メインはオンライン。

口コミをメインに顧客を増やし、定期販売するというサブスク方式を採用しています。HPはオンラインショップを兼ねており、全体的に清潔感ある仕上がりです。アメリカのTV番組などで取り上げられ、「Bite」は広く知られることとなりました。
商品を手にとってみましょう。透明なビンに、白いラベルと清潔感のあるデザインとなっています。

中身を取り出してみると、一粒の大きさは6mm程度で、見た目はラムネや小さめの錠剤によく似ています。使い方は非常に簡単で、この粒を1つ口に入れて奥歯で噛み砕き、泡立ったら歯ブラシを使って磨くというもの。
タブレット状なので詰め替えも簡単、外装を捨てないサステナブル商品といえます。
さらに、安心・安全な成分も注目したいところ。ラウリル硫酸ナトリウムという石油系の発泡剤を使わず、ヴィーガン成分のみで作られています。植物由来の成分がホワイトニング機能ももたらすとされており、Z世代やエコ意識の高い層を中心に幅広い人気を集めています。
またBite社も、Supplying Demand, Inc.と同じく2018年創業。非上場のプライベート企業のため正確な売上高は発表されていませんが、およそ600万ドルと推定されています。「ゼロ・ウェイスト(ゴミを出さない)」意識の高まりから、チューブなどのゴミを出さないタブレット型歯磨き粉は高い成長性が見込まれています。日本ではまだ馴染みの少ないタブレット型歯磨き粉ですが、商品のクオリティは確か。近い将来、日本でも一般的になる日がやってくるかもしれませんね。
なぜ今、Chaos Packagingがトレンドなのか?

なぜ今、アメリカで中身と外見が異なるパッケージの商品が増えているのでしょう。背景には、パッケージデザイン業界が長年たどってきた「引き算」の歴史があります。
例えば、Apple。白地にグレーの小さなりんごという、ロゴをシンプルにし色数を抑えたミニマムなデザインは、洗練・オシャレといったイメージを纏ってきました。これに追随するよう、多くのメーカーがミニマムデザインを採用。その結果、似たようなシンプルなデザインのものばかり店頭に並ぶようになり、個性を感じにくくなっていきました。
「Chaos Packaging」は、ある意味この流れに逆行するものです。大手メーカーのような広告予算を持たないスタートアップ企業は、とにかく目立つデザインで市場に食い込もうとしたのです。Supplying Demand, Inc.も、Biteも、創業してまだ10年も経たない企業。目立つパッケージと確かな品質という商品を世に出し、成長してきました。
一方で「Chaos Packaging」というパッケージの手法は万能という訳でもありません。2026年に発表されたある研究では、型破りなパッケージは商品の視認性を高める一方で、商品そのものへの信頼感や購入意向をかえって下げてしまう場合があることが指摘されます。
奇抜な容器でありながら、中身が優れたものであるのは、今回紹介した3つの商品に共通するものです。商品のコンセプト・クオリティ・パッケージが筋の通った形でつながっているかどうかが、支持の明暗を分けているといえるでしょう。
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