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香港の最高級料理店「ダドルス」が、本店のDNAをカジュアルな空港支店へ見事に継承させた

台北1時間、バンコクやマニラに2時間、シンガポールや東京に4時間。香港で暮らしていると、アジア各地との交通の便が良く、人の往来もとても多いため、改めてアジアのハブだなと実感します。

何事も効率の良さを好む香港らしく、動線の無駄が少ない香港国際空港は、世界の空港ランキングでも上位常連。さらに最近は空港内のレストランが刷新されていて、美食の街にふさわしいラインナップになっています。その新顔の一つが、2019年10月にオープンした「ダドルス空港支店」。

最高級料理店である「ダドルス(Duddells)」が、どのように本店のDNAをカジュアルな支店に落とし込んだのか、空港店のために製作されたオリジナルアイテムを中心に見ていきましょう。

アート色の強い「ダドルス本店」

「ダドルス本店」は、2013年に中環(セントラル)にオープンし、ミシュランの星を長年維持している最高級の広東料理店です。

Photo:中環にある本店のレストラン席は、クラシックな中国アートの展示がされることが多い。食器類のセレクトの素晴らしさでも知られている。

元々、本店オープンのきっかけは、香港が世界最大級のコンテンポラリーアートイベント「アートバーゼル」のアジア開催地として選ばれたこと。香港有数のアートコレクターでもあるオーナーたちが、「香港のアート業界人やパトロンが集まれるサロン的存在が必要」という願いを込めて、下の階は本格レストラン、上の階は会員限定の部屋を備えるバー兼サロンとしてオープンさせました。

Photo:本店レストランの個室。スタイリッシュなモダン広東レストランの先駆けにもなった。

レストランやサロンには、一流キュレーターが手がけた意欲的なアート展示がされていて、ギャラリーとしての機能も果たしています。ですから、そのセンスの良さは筋金入りなのです。

Photo:本店では、コンテンポラリー墨絵の先駆者、アイリーナ・チョイの回顧展を開催中。この作品に合わせて、ギャラリースペースの壁の色を塗り替えたそう。

Photo:本店のレストランとサロンをつなぐ大理石の階段スペースは、それ自体がアートのような美しさ。ギャラリースペースとしても機能している。

本店のデザインを手がけたのは、ロンドンのイルゼ・クロフォード。キャセイパシフィック航空のビジネス&ファーストクラスラウンジのデザインを香港や日本で手がけていることで知られていますが、実はこのダドルスのデザインがきっかけになって、キャセイパシフィックからの依頼に繋がったのだそう。

本店のDNAを継承した空港支店と、パッケージデザイン

空港支店は別デザイナーによるもので、もちろん本店よりぐっとカジュアルですが、大理石を多用した本店の雰囲気を継承する工夫がされています。

Photo:本店と似た大理石とコパーカラーを使用。市内と違って広東料理の知識がほとんどない顧客が多いため、すべてのメニューに写真をつけた。

今回ぜひご覧いただきたいのが、この空港店のために製作されたオリジナルアイテムの数々。中国料理に関係するデザインというだけで、お膝元である香港でさえ個性的なものは珍しい中、はっと目を惹くオリジナリティーあるデザイン。スタイリッシュかつ香港らしさが溢れ、見事なのです。

たとえば店内用の食器類。空港のレストランには様々な制約があります。例えば食器は割れにくい素材しか使えない中、安っぽさをまったく感じさせず、そのまま販売して欲しいような仕上がりです。

Photo:空港に出店を申請する時点で、空港側にデザイン見本を見せる必要があるほど、安全性には厳しい。こちらはメラミン製で中国の業者に発注。

広報担当のロレインさんは、「もともと本店の設定が『大富豪のアートコレクターであるダドルス氏が、コレクションのアートを飾った私邸のダイニングでゲストをもてなす』というもの。美術オークションで使われるハンマーを顔にしたダドルス氏のイラストがキャラクターです。今回はこれをモチーフにした、新しいキャラクターをいくつか作りました」と言います。

また、ダドルス空港支店には、様々なテイクアウト用のパッケージが用意されています。デザインはすべて、c Plus cというデザイン会社が担当。

Photo:点心や叉焼豚、一品料理などのボックスやドリンク用のカップ。

Photo:お子様向けの組立式飛行機型のボックスには、料理用トレイ2つとオモチャが入る。

香港ではサステナビリティを考慮したパッケージや使い捨てプラスチック排除を掲げている会社が多く、ダドルスでもプラスチック使用は最低限に抑えられています。お土産にぴったりな自家製XO醤も、ガラス瓶に木製の蓋を使ったパッケージデザインになっていました。

Photo:「金钩海米」と呼ばれる中国の最高級干しエビと、北海道産「宗谷元貝」のコンポイ(干し貝)を使った自家製XO醤を使えば、自宅の炒飯もぐっと本格的に。

Photo:ティーポットを顔にしたキャラクターが描かれたボトルは、飲み終わってから保存したくなりそうなデザイン。ガラス瓶を使用し、環境にもやさしいです。

ドリンクのラインナップは、香港スタイルのミルクティーや、インヤン茶(コーヒーと紅茶をミックスさせた地元の定番ドリンク)、水出し鉄観音茶、バラとプーアール茶のブレンドなどが揃い、よく練られた内容になっています。

一番人気は「空飛ぶローストグース」のボックス

最注目アイテムが、広東料理の華、ローストグースのテイクアウト用パッケージ。昔から、帰国する際にローストグースを購入し、飛行機で持ち帰る人が多かったためにつけられた「空飛ぶローストグース」という通称を生かしたレトロデザイン。

Photo:レトロな香港らしいフォントやイラストを用いています。

ダドルスで使用するグースは広東省佛山産で生後90日の雌と大きさが決まっていますから、この箱にぴったり収まるのです。

Photo:ローストグースのサイズは1羽と半羽から選べますが、ギフトボックスを使えるのは1羽の場合のみ。半羽の場合は、下に出てくる一品料理用の箱に入れられます。

「真空パックにすることも考えたのですが、ローストグースの命はパリパリの皮。シンナリしてしまっては台無しなので、空港のキッチンで作り立てをビニールでラップし、販売しています。冷蔵庫に入れず、購入後12時間以内に召し上がっていただくのがお勧めですから、日本の方にはぴったりですね」とロレインさん。

レシピは本店のものと同じで、抜群の美味しさでした。ローストグース自体の質はもちろんですが、このパッケージに入っていることでお土産としての価値がぐっと高まりますね。

Photo:グースに合わせるために、醤油系ソースと甘酸っぱい梅ソースの2種類入り。味を落とさず再加熱するお勧め手順が記されたカードも一緒に。

伝統的なデザインが多い分野でも思考を停止させずに、エレガントでスタイリッシュなブランドの個性を生かしたカジュアルなパッケージの開発。購入者本人はもちろん、購入者が持って歩いているのを空港内で見かけた人や、お土産として渡された人も「次回香港に行ったら本店にも行ってみたい」と考えてくれることで、宣伝効果がじわじわと波及するのではないでしょうか。

ダドルス:https://www.duddells.co/home/en/

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