ゼロ・ウェイストやオーガニックは「意識高い系」の話ではない。フランスの「オ・ボカル」から読み取るヒント(前編)
フランスの日常生活で「BIO(ビオ)=オーガニック」の文字を目にするようになって、かれこれ15年以上経ちますが、今やオーガニック製品は食品に限らず、日用品や洋服などあらゆる分野で当然のごとくあるチョイスのひとつとして存在しています。
パリやリヨンのような大都市だけでなく、小さな地方都市にも必ずオーガニック専門店があり、マルシェ(朝市)のオーガニック野菜、肉、魚、パンを売る屋台、ごく普通のスーパーでも立派なビオコーナーを構えるところがほとんどで、フランス人にとってもはやオーガニックは「意識が高い人だけのムーブメント」では決してなく、普通の暮らしに根付いた存在になっています。
そんな、エコ&オーガニック先進国とも言えるフランスで、さらにその先を見据えた活動としてここ数年注目を集めているのが、ゴミを極力減らす生活を目指す「ゼロ・ウェイスト(ノー・ウェイスト)」。
フランス西部の地方都市ナントの中心地にあるオーガニックショップ「Ô Bocal(オ・ボカル)」は、オープンから3年経った今もさらなる進化を遂げ、オーガニックやゼロ・ウェイストへの関心が薄い人たちをも惹きつける様々な試みを続けているお店。前編・後編の2回に分けて、「オ・ボカル」の魅力をお伝えします。
包装一切なし!好きな数、量だけ買える自由さをとことん追求
このお店のいちばんの特徴は、包装されていない商品を買えるということ。店内にはバラエティーに富んだ食品のディスペンサーがずらりと並び、お客さんが自前の空き缶や空きボトルを持参して、欲しい商品を好きなだけ入れて量り売りするスタイルです。
とはいえ、フランスのスーパーでは野菜や果物を袋詰めやパック売りにはせず、好きな個数だけ量り売り、マルシェでは肉や魚も量り売り、パン屋さんも大きく焼き上げたパンを切って売ってくれる場合もあり、フランス人にとって量り売りはごく一般的な習慣です。
その中でも、「オ・ボカル」が特別な理由は、普段お店ではパッケージに入って売られているオリーブオイルやビネガーといった液体調味料、小麦粉やお米の穀物類、衣類や食器の洗剤、フレーク状のマルセイユ石鹸など、あらゆる製品の量り売りが可能だから。その上、容器は自分で持ち込んだものを使い、パッケージの無駄を省きゴミを少なくできる気持ち良さが顧客をグッと惹きつけます。
かゆいところに手が届く品揃えとセンスの良さ
いざオーガニック生活、ゼロ・ウェイスト生活をしよう!と気合いを入れてみても、結局欲しいものが見つからないから普通のスーパーで調達せざるを得ない・・・よってゴミ削減活動への情熱も消化不良気味になり「ま、いっか」が増えていき徐々にテンションも下がってしまう、という経験をした人もいるのではないでしょうか。
この店では、日常生活で必要な大抵の製品が梱包無しの量り売りで揃っているので、「エコな生活をしたい」「なんとかゴミを減らしたい」というほのかな思いを手助けし、後押ししてくれます。
この店で販売している商品はなんと1200種類。彩り豊かな旬の野菜や果物、シリアル、グラノーラ、パスタ、米、ナッツ類、ドライフルーツといった乾物。小麦、米粉、蕎麦粉などの粉もの、塩、砂糖、スパイス、マスタード、たまり醤油、オリーブオイル、ビネガーといった調味料、チョコレート、クッキーなどのスイーツ、アペリティフ用の塩味系クラッカー、はちみつ、フレッシュクリーム、チーズ、ヨーグルト、紅茶、ハーブティー、コーヒー、ウォッカやラム酒、ウイスキーといったお酒類まで揃います。
その上、それぞれの食品のバリエーションも豊富でクッキーやクラッカーだけでも数種類のフレーバーがあったり、はちみつもいくつか種類があったりと、顧客の好みに応じて選べる幅広いセレクトも魅力です。
「この味は好みじゃないけど、チョコはこの1種類しかないから仕方ないか」と渋々買って、オーガニック&ゼロ・ウェイストを貫くのではなく、「このチョコの味が好きだから買いたい。しかも、オーガニックでパッケージもなくて嬉しい!」という普通の感覚で買い物をする喜びが得られる品揃えは、純粋にすごいなと思います。
生産地までの距離を表示して、身近さをアピール
棚に貼られている商品の金額を示すラベルには、3km、74kmといったような距離も記されています。これはお店から各商品の生産地までの距離で、地名や国名の記載とはまた違った面白いアプローチ。距離の隣に握手のアイコンが描かれているものは、生産者さんから直接買い付けている印です。
このハーブティーが、今自分のいる場所からたった10キロしか離れていないところで作られたのかと想像するだけで、生産者さんをぐんと身近に感じられ、買い物をする楽しみを高めてくれる・・・この店らしい工夫のひとつと言えるでしょう。
また、たくさんの情報が記載されていることで、好奇心旺盛なお客さんが質問をしたり、そこから会話がはずんたりと、コミュニケーションの糸口的な役割もになっています。
リターナブル瓶のデポジット制の普及をさらに後押し
アルコールやジュースなどのドリンク類、ジャムやペースト類は瓶入りの状態で売られていますが、空瓶をお店に持って行けば現金で返金してくれたり、その日の買い物代金から瓶代を引いてくれるシステムになっています。
瓶のラベルにロゴのスタンプが押してあるのは、「オ・ボカル」で購入したことを証明するため。最近はこういったリターナブル瓶やデポジット制を採用するお店がナントにも増えており、どのお店で買った瓶なのかがひと目で分かる工夫は消費者にとってありがたいものです。些細なことですが、このようにきめ細やかな心遣いが「オ・ボカル」を支持するファンが増える理由のひとつでしょう。
後編では、洗剤や日用雑貨に特化した新店舗「オ・ボカル ドログリー(雑貨店)」を紹介します。
Ô Bocal
3 rue de l’Hôtel de Ville 44000 Nantes
http://www.obocal.com
▼後編
ゼロ・ウェイストやオーガニックは「意識高い系」の話ではない。フランスの「オ・ボカル」から読み取るヒント(後編)
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