私が日頃、取材をしている菓子業界でも、ここ数年でパッケージの「脱プラスチック」の動きが目立ちます。今回は、百貨店に店舗を展開する規模の大手人気和菓子メーカーによる、2021年~2022年にかけての包材変更の動きの一例をご紹介します。夏場は、透明なパッケージで涼やかに見せたい品が増えますが、見た目の美しさやデザイン性の高さを維持しつつ、プラスチック削減も実現したパッケージが登場しています。また、企業からのリリース発信や顧客への告知方法についても、学ぶべき点があります。
容器リニューアルでプラスチック使用量を82%削減
2021年5月滋賀県大津市に本社を置く1958年創業の和菓子店「叶 匠寿庵(かのうしょうじゅあん)」が夏場の代表的商品である「水羊羹」をはじめとする水菓子容器のリニューアルを発表しました。
それ以前、水菓子の容器には25年間にわたり竹を模したプラスチックカップを使用していて、年間250万個を売り上げる人気商品でした。しかし近年の社会問題を踏まえ、環境に配慮した菓子づくりのため新容器の導入に取り組んだのです。
まずは原料である樹脂の使用量を28gから5gにまで減量することで、年間250万個販売されたならば約55トンのプラスチック削減が可能となります。また、重ねて保管できる形状にすることで輸送頻度を10分の1に減らし、これにより樹脂製造時と輸送時のガソリンから発生するCO2排出量を1個あたり32.5g、250万個で合計81.25トン削減できるそうです。
「プラスチックごみの減少」という視点だけではなく、製造時や輸送時に排出されるCO2の削減目標についても具体的な数字を挙げて説明したのは意義のあることでした。
この内容は、リリースサイト「@Press」にも掲載されました。
【「叶 匠寿庵」のリリース】25年続く夏の看板商品「水羊羹」の容器を 環境に配慮してリニューアル!~日本古来の麻文様デザインの新容器導入でプラスチック使用量82%を削減~
リリースサイトは、今や多くの企業が情報発信に活用していて、プレス関係者が参照して特集などに繋がる可能性が広がるのはもちろん、多くのネットユーザの目にも触れます。掲載されたリリースを即時全文転載するネットメディアも複数あり、効果的なPRツールの1つと言えます。
新たな容器デザインは、日本古来の文様である「麻の葉」をモチーフに。同社の水羊羹に使用する天然糸寒天の製造では、凍らせることが重要な工程の1つであり、凍った氷の結晶からのインスピレーションであると共に、麻の葉柄に込められた無病息災・長寿といった願いや伝統美を表現したそうです。
水菓子類には、小豆の水羊羹の他、「抹茶水羊羹」や、果物の果汁を使った「濃果汁(こいかじゅう)」、梅の甘露煮を1粒閉じ込めた「郷の氷室(さとのひむろ)」といったバリエーションがあり、これらの品が並んだ2021年夏の店頭の様子は、新パッケージの多面体が光の反射でキラキラと輝き、シャープで涼やかな光景が印象的でした。
Instagramも活用した積極的な告知
さらにこの年は、「どーんと水羊羹総数10万個プレゼントキャンペーン」を実施。「叶 匠壽庵」の店頭に行くと、新たな水羊羹の魅力が綴られたリーフレットが渡され、その中のクイズに答えて正解すると、1人1個、先着順10万個で、新商品の水羊羹を貰えるというものでした。この“太っ腹”なプレゼントキャンペーンは、まずはリニューアルした水羊羹を知ってもらい、体験してもらうために、的確な内容だったと言えるでしょう。
「叶 匠壽庵」の公式Instagramでも、水羊羹パッケージのリニューアルや、10万個プレゼントキャンペーンについて告知。さらにInstagramのフォロワー限定のプレゼント企画も展開していました。
また、この2021年より、新商品の先行モニターや、特別なイベントへの招待などの体験をInstagramで投稿してもらう「公式アンバサダー」を毎年公募するようになりました。新パッケージになった水羊羹についても、早速試してもらい、公式アンバサダーの方々による投稿を“リポスト”で紹介していましたが、それぞれスタイリングも工夫に富んでいて写真も美しく、新パッケージやプレゼントキャンペーンについての説明も的確。食べ方のアレンジなど、「私もやってみたい」と思わせる内容で、「公式アンバサダー」の名に恥じぬ高いクオリティでした。Instagramを意欲的に活用し、ファンとの繋がりを育てている好例だと思います。
リサイクル率の高いアルミパッケージへの変更
一方、滋賀県近江八幡市に拠点を置く1872年創業の「たねや」も、ここ数年、「脱プラ、ごみ削減、CO2削減」などに積極的に取り組んできた和菓子店の1つです。2022年5月には、同年6⽉1⽇より、環境に配慮したお菓子づくりの一環として、定番人気商品の「たねや寒天」を新容器で販売することを発表し、自社サイトに加え、リリースサイト「PR TIMES」でも発信しています。
【「たねや」のリリース】プラスチック68%削減。寒天を増量しアルミ容器で6月1日より「たねや寒天」を新容器で販売
2009年に誕生した「たねや寒天」は、賽の目形の寒天に餡やソースをあわせていただく品で、従来は、細長いプラスチック容器によってカットされた寒天を引き出す形でした。新容器では、「アルミック缶®」の中に「井形」の枠を入れることで寒天が切れるしくみに変更。「アルミック缶®」はアルミと樹脂の複合食品容器で、「昭和電工パッケージング株式会社」の登録商標です。この新容器の使用により68%のプラスチック削減を実現しました。
従来の容器は、樹脂使用量38.3gで寒天容量90gでしたたが、新容器は、樹脂12.13g(+アルミ3.99g)で、寒天容量は105gに増量となっています。(※プラスチック容器、仕切り、フィルム総重量での比較。別添の餡フイルムは含まず。)
現在は、「再生プラスチック」などの開発も進められていますが、アルミ缶は「リサイクルの王様」と呼ばれるほど、他のゴミに比べてリサイクル率が高く、加熱融解によってもその特性を失いにくいため、再生率が高いことで知られています。「たねや」でも、プラスチック容器から、⾼温で溶かして何度もリサイクルできるアルミ容器に変更することで、資源の再生・有効利用につなげていく意図を挙げています。
さらに、新たな「たねや寒天」のパッケージには、環境に配慮した素材として、包装袋にセルロースフィルム、印刷にはバイオマスインキを使⽤したそうです。セルロースフィルムは、プラスチックフィルムとは異なり、⽊材パルプが主原料の植物由来素材のセロハンです。バイオマスインキは、種⼦や⽶ぬかなどの植物成分を原料の⼀部に使ったインキです。こうした環境配慮型の素材を使うことで、パッケージが破棄、焼却される際の有害ガス発⽣を抑えることにもなります。
環境保全へ取り組みの効果をお客様に伝える必要性
「たねや寒天」の取り組みはまだ初年度であり、実際の効果算定や店頭での声の集約は今後の課題となりますが、「たねや」および同グループの洋菓子ブランド「クラブハリエ」は、これまでにも、自社で取り組んできた環境保全活動について、「結果をお客様に伝える」ということをしてきた実績があります。
「たねや」グループでは、2021年5月15日より、紙手提袋の有料化を実施しました。2021年7月より、経済産業省の通達で、コンビニやスーパーでいわゆる「レジ袋」と呼ばれたプラスチック製買物袋有料化が実施されたことは、記憶に新しいと思います。
その際、特に自家需要に対しては、「マイバッグ」持参を呼びかけることで、ゴミを減らす効果を上げることに繋がりましたが、菓子業界では、これとはまた別の課題に直面していました。菓子はギフト需要も多いため、紙袋などの包材込みの価格設定を想定している店が多く、従来は、「お渡し用の換えの紙袋も含めて無料でお渡しする」という傾向が強くありました。しかし、従来ならばプラスチック製買物袋に入れていた品についても、「プラ袋が有料になるなら、代わりに紙袋に入れて。」とお客様から要望されたらどうでしょうか?
私も「Yahoo!ニュース」2020年3月の記事でこの問題を取り上げていますが、紙袋の仕入れ価格は、プラスチック袋の2-3倍程度になるのが一般的であり、菓子店のコスト増にも繋がります。
進むレジ袋有料化!「ケーキ箱や焼き菓子を入れる袋は?」~苦悩する菓子店
そして、プラスチックごみにしても、紙ごみにしても、減らしていく必要があるということには変わりありません。紙を無駄に使い廃棄することで、森林伐採やCO2増加の悪循環が進みます。
このような状況を踏まえて、プラスチック製買物袋と同時に、紙袋の有料化に踏み切った菓子店は数多く見られました。Twitterなどの消費者の反響を見ると、「紙袋有料化は義務化された訳ではないのに、便乗値上げではないか」という声も無かった訳ではありません。しかし、2019年10月に消費税が10%に変わった時も、包材や保冷材などは10%の新税率適用価格で仕入れることになったのにも関わらず、食品は軽減税率8%の対象であったため、お客様に対しては値上げを言いづらい状況があり、負担増加分を抱え込んだ店が多く見られました。このようなジレンマを解決するためにも、「プラスチック製買物袋有料化」のタイミングは、社会が抱える課題解決の1つの手段として、「紙袋の有料化」への理解を得るのに、又とない機会であったと言えます。
私もその後、「プラ袋・紙袋を有料化したことによるクレームや売上減少を感じたか」と、菓子店の個人オーナーや菓子メーカーにヒアリングしてきましたが、「それは無かったと思う。仕方ないね、という雰囲気はあっても皆様に理解していただけたと思うし、快くマイバッグを持参してくださるお客様も増えた」という声を耳にしています。
「たねや」グループでも、手提袋の無料配布を終了し、2021年5月15日より有料化を実施。そして、そこから約6か月間の効果実績をまとめ、自社ホームページ上でリリースすると共に、店頭でも掲示をしました。2019年の6-11月には、紙袋212.1トン(559.5万枚)が消費されていましたが、2021年6-11月には 79.3トン(160.1万枚)と、62.4%の削減を実現したそうです。
私はこの掲示を見た際、全ての企業で、環境保全のための様々な取り組みを「やります」という宣言だけでなく、「やった結果、こうなりました」という報告まで、積極的にしてほしいと強く思いました。当初は、「紙袋まで有料にしなくてもいいのに・・」と思っていたお客様も、このような具体的な結果を見ることで、「有料になったから、皆が不要な紙袋を使わないようになって、ごみ削減に繋がったんだな」と実感することができ、協力しようという気持ちが高まるように思います。
消費者側は、目に見えやすい「ごみ削減」「プラスチック削減」などについては、日々の生活の中でも意識しやすいですが、「カーボンニュートラル」や「脱炭素」といった話は、正直なところなかなか実感しづらく、「具体的にどうしたら貢献できるのか?」についてもイメージしづらいように思います。そんな中で、「この商品を選んで買えば、自然と環境保全に貢献できる」という選択肢は、“エシカル”消費のニーズに合致し、ありがたいものです。そのためにも、「私は選んでこの品を買いたい」と思えるような情報発信と、「この品を買ってよかった」「私も貢献した」と満足できるような効果の報告は、とても大切です。
ごみ削減の課題は、これからも長期スパンで、メーカーと消費者が協力し合って実現していなかなくてはなりません。何よりも、消費者の参加意識を高めることが重要で、そのためにインターネット上のリリースサイトやSNSを効果的に使うことも含め、今後ますますの情報発信が必要になっていくと思います。
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