ビジネスパーソンが読むメディア。マーケティング、セールスプロモーション、パッケージの企画・開発に役立つアイデアと最新の情報を、世界中から配信。

【ロンドン】おにぎりは、サンドイッチの代替品になるか?

パリに引き続き、ロンドンでも今、静かに「おにぎりブーム」です。パリでおにぎりに注目が集まり始めたのは、パンデミック前後から。2017年にパリ・オペラ地区で開業した日本の「おむすび権米衛」が火付け役となり、2023年頃からトレンドが加速しました。ロンドンで「おにぎり専門店」が登場し始めたのも、その頃です。

ただ、日本のコンビニで200~350円程度で購入できる日常的な軽食であるおにぎりが、ロンドンの専門店では平均3.50ポンド程度(約700円)と、かなりの高級品です。英国の定番のサンドイッチであるエッグマヨ・サンドがスーパーで2ポンド前後(400円)であることを考えると、まだまだ割高な軽食なのです。具材に工夫のあるものだと6ポンド以上(約1,200円以上)はするので、おにぎりは現時点で「嗜好品」扱いです。

ブームの素地はあった

注目の理由は、いくつか考えられます。
まず、日本や日本食を好む人々による、新たなB級グルメとしての受け入れが挙げられます。もともとイギリスでは日常的にバスマティ米のような粘り気のない長米を、カレーやその他のシチューなどと一緒に食べる習慣があり(外食でも家庭でも)、米食は決して新しいものではありません。だからこそ、寿司が簡単に受け入れられた背景があり、おにぎりはその手軽な派生形と捉えている人も多いと思います。

最近では巻き寿司をファストフードとしてブランド化した「SushiDog」(2018年創業)が大人気!さまざまな具材を巻いた太巻きを紙で包み、真ん中で切って食べる様子は、南米発のブリトーにそっくりです。手軽な米食という意味で、おにぎりに通じるものがあります。「ブームの素地」という意味では、日本のサブカルチャー人気から来る「日本文化への憧れ」も見逃せません。「三角形の見た目のかわいさ=SNS映え」といった理由も背景にあり、日本のクールな食文化の一つという認識からも注目が集まっているのでしょう。

SushiDog

太巻きを見事にファストフードにした「SushiDog」1本6ポンド~(約1,200円~)。投資を受けて2023年から事業拡大し、現在はロンドンを中心に13店舗を展開中。※写真は公式ウェブサイトから

ヘルシーな軽食として台頭

イギリスでは日本食は「ヘルシー」というイメージがあります。油脂をあまり使わない、海藻やサーモン、ツナ、発酵食品など、健康的なイメージのある食材を多用するためです。甘くない間食には、フライドポテトやフライドチキンなどの揚げ物が多いことを考えると、確かに手軽でヘルシーな軽食だと言えます。ただし最近は鶏の唐揚げや天ぷらを包んだりのせたりしたおにぎりも多いので、ヘルシーとは言い難くなっていますが、量もカロリーも少なめなおにぎりは、いずれにせよヘルシーなカテゴリーに入ります。

決定的な理由は、グルテンフリー

実は今回調べてみて、最も納得感のある理由として挙げたいのが、グルテンフリー・オプションとしてのおにぎりです。ヨーロッパでこれだけ寿司が浸透した理由として、小麦粉などに含まれるグルテンを避ける人や、摂取を控えたいと考える人が増えていることが挙げられるのですが、おにぎりもそのオプションになっています。

ロンドンにおける日系クラフト・ベーカリーのパイオニアとして知られる「Happy Sky Bakery」では、数年前からおにぎりを導入し、パンと並べて販売しているのですが、これが大ヒット!なぜパン屋なのにおにぎりなのかをオーナーに伺ってみると「グルテンフリーのパンの代わりなんです。皆さんに大変喜んでいただいていますよ」とのこと。寿司人気の背景に、小麦粉の代替品を求める人々の声があるのは確かです。そう考えると、おにぎりもかなり将来性のあるファストフードだと言えます。

「Happy Sky Bakery」2号店の外観

中心部にある「Happy Sky Bakery」の2号店。日本人オーナーが2008年に西ロンドンで創業しました

メニュー表

1つ3.50ポンド、2つで6ポンド、飲み物とセットで10ポンドというリーズナブルな値段設定

手作りの油揚げを使った稲荷おにぎり

手作りの油揚げを使った稲荷おにぎりは、本当に美味しかったです。香ばしい白胡麻がたっぷり入った一品は、見た目よりも食べ応えがあります。フィルムパッケージは上から開くタイプです

同様に2024年秋に、グルテンフリーのシフォンケーキを主力として東ロンドンで創業した日本人経営のベーカリー「Japonica」もおにぎりを提供しており、じわじわと人気を獲得しています。グルテンフリーだけでなく、ベジタリアンやヴィーガンに対応しやすい、カスタマイズしやすいなど、その汎用性の高さもおにぎりの人気のヒミツだと思います。
▼「Japonica」Instagram
https://www.instagram.com/p/DCPrnnjIIyd/

ロンドンのおにぎりのクオリティは?

ロンドンのおにぎり専門店として最古参と言われているのが、2023年秋に西ロンドンで誕生した「SOSAKU ONIGIRI」。庶民的な地元マーケットの中に常設の店舗を設置し、日本人オーナーが日本米を使って軟水で炊き上げるというこだわりで注目を集めました。
▼「SOSAKU ONIGIRI」Instagram
https://www.instagram.com/p/DIEU4T9oti4/?hl=ja

2024年以降はオープンラッシュでした。Zen Musubi(東部・屋内マーケット内)、Onigiri Kome(南東部・日本酒バー内)、Tokyo Onigiri(中心部・ジャパン・センター内)、Nara Japanese Cafe(東部・屋内マーケット内)などの専門店が次々と立ち上がっており、日本人以外も参入し、競争も活発になっています。

中でも話題になったのは、英国最大級で在英日本人の拠り所となっている日系スーパーマーケット「ジャパン・センター」の併設店として2025年末にオープンした、「Tokyo Onigiri Produced by おむすび処 ほんのり屋」。日本の"駅ナカのおむすび屋"として2002年に創業した「ほんのり屋」が、JR東日本グループのバックアップを受けてロンドンに出店し、北海道産「ゆめぴりか」を使用、軟水を使用して炊く、炊き立てをホカホカのまま手で結ぶなどの工夫で、日本と同じ品質を再現しているところが注目されています。

ピカデリー・サーカス近くにある「ジャパン・センター」

ピカデリー・サーカス近くにある「ジャパン・センター」

通りに面した好立地にあるキッチン

通りに面した好立地にあるキッチン

メニュー表と職人のおにぎり

職人のおにぎり。美味しいです!

とびきり美味しい明太子おにぎりを結んでくださった女性に、どんな具材が人気か聞いてみたところ、ダントツはチキン唐揚げという答えでした。昆布や梅、おかかなどの伝統的な具材を食べられる店もある一方で、実は地元ロンドナーたちが「日本食」と聞いてイメージするのはラーメンやカツカレー、鶏の唐揚げ、ドラゴン・ロール(鰻の蒲焼とアボカドの巻き寿司)、お好み焼きなど、とんかつソースやピリ辛味噌ソースなどを楽しむ料理がほとんどです。

そんな嗜好を理解しているのが、東ロンドンの屋内マーケットに出店している「Nara Japanese Cafe」というブランドです。今回おすすめ&人気だという「スパイシー・サーモン」をいただいてびっくりしました。サーモンの刺身、ピリ辛ソース、フライド・オニオンなどが表面を覆い尽くしていて、それらを海苔がしっかりとまとめ、商品としてかなりうまく仕上げています。好印象だったのは、日本産米を使ったご飯のクオリティです。変わり種のおにぎりではありますが、基本となるご飯のおいしさもしっかり感じられました。ローカルマーケットを熟知している韓国系のオーナーさんのお店です。

「Nara Japanese Cafe」のメニュー表と店内

観光客の多いBrick Laneという通り沿いにある屋内マーケットに出店している「Nara Japanese Cafe」

スパイシー・サーモンのおにぎり

スパイシー・サーモンのおにぎり

日本人経営の基本を押さえた良店から、味も見た目もインパクトの強いアジア系のお店まで、徐々に個性豊かな店が出揃ってきた感じはします。

英系スーパーの「Onigiri」は酢飯だった!

昨今のブームに触発されてか、英系のスーパーマーケットでも「Onigiri」商品が2~3ポンド程度(500円前後)で出始め、注目している在英邦人も増えているようです。しかし、「Waitrose(ウェイトローズ)」、「Sainsbury’s(セインズベリーズ)」、「Marks & Spencer(マークス&スペンサー)」など中堅以上のスーパーでちょくちょく見かけるOnigiri商品…今回初めてどんなものか調べてみると、なんとご飯は酢飯でした。

通常彼らが扱っている寿司商品シリーズの延長のようで、「おにぎり」そのものに対する根幹的な知識のなさが露呈されてしまっているように感じました。

「Waitrose」の商品

「Waitrose」の2品。「Taiko」という和食製造ブランドに委託

「Sainsbury’s」の商品

「Sainsbury’s」は寿司チェーン大手の「Yo! Sushi」との提携でこちらを提供

「Marks & Spencer」の商品

「Marks & Spencer」では「Kando Sushi」というブランド名で寿司展開しており、これはその一環

スーパーの「Onigiri」に酢飯が使われていると、地元の人々に誤解が生まれる可能性は高いですが…仕方ないですね。

今後の展開は?

「ロンドンのおにぎり」といえば、韓国系の日本食ファストフード・チェーン「Wasabi」(2003年創業)でブーム以前から取り扱いがあり、10年以上前からコンビニ風のおにぎりは販売していました。しかしクオリティが追いつかず、日本の本物のおにぎりの美味しさが、パリ経由でロンドンにやってきた流れがあります。日本人として700円のおにぎりにあまり興味がなく、注目してこなかった筆者ですが、今回の取材でいくつかの店舗を試してみて、日本と変わらない本物の美味しさに心打たれました。ほぼ全ての専門店が日本産米を使っていることも見逃せません。

作り方においていくつか書いておきたいのは、型を使う店と、そうでない店があること。炊き立てを手で結んでくれる店と、冷ましてパッケージに入れている店があることです。いずれにも、それぞれの良さがあるように感じます。型に関しては「誰でも作れるように」という配慮から使っているようですが、あまり角張った印象にならず仕上がっているのには驚かされます。

ロンドンにおけるおにぎりは今、まさに「社会による受け入れ」の途上にあり、そのうち寿司やカツカレーのように知名度を獲得し、定着していくのかもしれません。その中で「酢飯のおにぎりは認めない」と言い続ける日本人がいたとしても、そうした商品もやがて「日本のおにぎり」として受容されていくのでしょう。それはカツなしの「カツカレー」が日本のカレーとして定着してしまったように、海外では十分に起こりうることなのです。

さて、タイトルで挙げた命題「おにぎりは、サンドイッチの代替品になるか?」ですが、英国における寿司人気の高さを考えると、いずれそんな時代も来るかもしれません。英国では今、Z世代はもちろん、α世代も寿司に夢中です。そのため、おにぎりが英国のスーパーに常備される未来も、そう遠くないかもしれません。実はそんな風景を、つい最近パリで見てきました。サンドイッチと同じくらいのスペースで、おにぎり用の売り場が設けられている風景です。

北駅に入っているスーパーのモノポリにて

北駅に入っているスーパーのモノポリにて

日本のおにぎりが、英国の日常風景になる日も、そう遠くないのかもしれません。

▼編集部おすすめ記事

"便利"から"魅せる"へ。パリのテイクアウトBOXが進化中

日本食が恋しくなったら黒いパッケージを探せ!フランスにおける日本のイメージとは?

このライターの記事

Top