「買って!」とパッケージが言っている。顔のついたレタスが山積みになっている。このレタス、販売当日に完売した店舗が続出したとの話です(後の画像参照)。これは、2026年7月下旬より首都圏や関西圏の一部スーパーにおいて1万個限定で販売された味の素・JA全農長野共同の『「Cook Do」オイスターソース 藤原竜也の「買ってくレタス」』キャンペーンの展開商品です。
キャンペーンの狙いはレタスの消費事情における問題から、生産者への支援と家庭内でのフードロス削減という社会課題の解決を前提に、レタスと「Cook Do」オイスターソースの消費を促進するものです。パッケージに載せたQRコード※からレタスのレシピに導く仕掛けも奏功し対策は成功したということです。そうしたことを理解したうえで、筆者は顔のイラストがプリントされたフィルムパッケージに注目したいのです。
※QRコードは(株)デンソーウェーブの登録商標です。

「買ってくレタス」 味の素株式会社 ニュースリリース(PR Times)より
顔がデザインされたパッケージ商品は店頭での視線を捉える優位性があるということからです。今年3月に発売されて大ヒットしたサントリーの「ギルティ炭酸 NOPE(ノープ)」はパッケージの顔デザインが大きな役割を果たしています。
マス媒体広告、店頭大量配荷、仕掛けられた話題化戦略が効果あり、発売150日で累計出荷本数1億本を突破。発売わずか5カ月で異例の「認知率62%」を達成したという。顔がメインにデザインされたパッケージ。サントリー社の制作サイドでもその顔は“フェースアイコン”として設計されているということです。×目とベロクチはまさに商品コンセプトの“背徳感”を表すことに成功し、ブラック&マゼンタの周辺商品との差別化配色と合わせて、視線を引き一瞬直観で伝える秀逸なデザインとなっています。

「ギルティ炭酸NOPE」サントリーニュースリリースより
●顔のデザインに目が行くのには理由があります。
店頭には無数の商品パッケージが並んでいます。その中で来店顧客に見てもらえる商品の数は知れています。人の目は見ているようで見ていない。網膜には映っていても、全てを認知しているわけではありません。情報が多すぎるため効率的に選択されて認知しています。人がスーパー店内、そして棚前に入ると目は“視覚探索”という動作になります。前を一望し、知っているもの、目立つもの、変わったものに次々と無意識に目が止まって、全体を捉えるという具合です。皆さんも店に行かれたら例えば、「あ、知り合いを見つけた」「今日はこれが特売か」「(ポッキーが見えた→)チョコ菓子売り場だ」みたいな流れになっていると思います。
その視覚機能において“顔”は認知に引っかかるという実証研究が多くあるわけです。認知神経科学では、顔は人間にとって最も重要な視覚刺激の一つと考えられています。脳にFFA(紡錘状回顔領域)という領域があり、そこには実際に顔に選択的に反応する単一ニューロンが存在することも確認されています。さらに言えば、本物の顔だけでなく“顔らしいもの”も高速に検出するということです。顔は人間の生存やコミュニケーション上、敵か味方か、社会行動に直結するため、脳の特定領域が優先的に処理する「特異的視覚カテゴリー」とされています。
冒頭に取り上げました2商品のパッケージもまず顔に目が引き付けられます。販促施策で良い場所に大量陳列されていることも大きな要因ですが、来店顧客に間違いなく発見されてヒットにつながったのでしょう。
●顔のデザインパッケージは実際に目立って売れているのか。
こうした顔デザインで成功してきた商品はこれまでにもあるのでしょうか。思ったほど多くはありませんが、筆者が思いつく例として、不二家「ミルキー」、日本ケロッグ合同会社「プリングルズ」、ネピア「鼻セレブティッシュ」、カバヤ食品2016年「さくさくぱんだ」、東ハト「暴君ハバネロ」、日清食品「0秒チキンラーメン」などロングセラーが存在します。パッケージ画像を見れば納得いただけると思います。中でも「さくさくぱんだ」(2016年版)は、ブランドリニューアルデザインで売上が前年比で約150%(1.5倍)に跳ね上がる大ヒットとなったものです。
「ミルキー」や「暴君ハバネロ」をはじめ赤城乳業「ガリガリ君」などもそうですが、他にも人気のIPキャラクターものなら数多くあると思います。人気キャラという背景は置いたとしても意識的に顔を中心にデザインすることは、購買に優位に働くことに変わりないと言えます。パッケージ以外のデザインとして、ブランドマークに使用され目に留まり、強固にブランドを呼び起こす装置となっているものがあります。ケンタッキーKFC社のカーネルロゴはその代表ではないでしょうか。

(上段左から)「ミルキー」株式会社不二家ホームページより/「プリングルズ」プリングルズオフィシャルウェブサイトより/「ネピア鼻セレブティッシュ」ネピア株式会社公式オフィシャルサイトより
(下段左から)「0秒チキンラーメン」日清食品グループウェブサイトより/「さくさくぱんだ」2016年パッケージ「ウォーカープラス」東京ウォーカー(画像提供=カバヤ食品株式会社)より/「暴君ハバネロ」株式会社東ハト ニュースリリースより/ケンタッキーKFCのブランド看板(筆者撮影)
当「パケトラ」でも2026年7月のTabiライターのレポート『ドイツのBIOスーパーで見つけた!「おしゃれドリンク」3ブランド比較』の記事中にも顔パッケージ商品が紹介されています。炭酸飲料ブランド「fritz-kola(フリッツ・コーラ)」で創業者2人の顔の似顔絵ロゴのデザインです。カフェやおしゃれなバーなどで多く見かけるということです。

「fritz-kola」
パケトラ 『ドイツのBIOスーパーで見つけた!「おしゃれドリンク」3ブランド比較』より
目を世界に向けてみましょう。世界的権威のあるパッケージデザイン賞であるPentawards(ペントアワード/ベルギー)を見てみてください。過去歴代の入賞作品(市販商品、創作作品)にも顔デザインが多く見られます。いくつか画像を選んでいますが、どう感じられますか。それらは商品として売れたかどうかの販売実績は不明ですが、間違いなく審査員(選考委員)の目を奪った結果として上位入賞を果たしているわけです。
2024年ゴールド賞受賞のポーラ社「コスモロジー」はスキンケアのチューブ容器です。チューブには二つの水玉状の点とUの字型の絞りだしクリップがついていて、それが目と口や眉毛に見えます。使っているとその表情が常に変化していくことが評価されているというもの。コンセプトの“宇宙発想のスキンケアブランド”をリアルな顔を使うことなく、宇宙人と思しき顔を思わせる象徴的パターンに昇華して表現されています。これも私たちは顔と認識してしまい毎日鏡の横のチューブを見てしまうことになるでしょう。
並べた受賞作品達を見ていると、顔というモチーフを使って消費者に経験価値をもたらす新しいパッケージのアプローチに気づくことができます。

(上段左から)「コスモロジー(Cosmology)」株式会社ポーラ ホームページより/PENTAWARDS 2024 GOLD賞 POLA COSMOLOGY Japan/PENTAWARDS 2024 NXT-GEN賞 Student Concept China/
(下段左から)PENTAWARDS 2021 GOLD賞
lidao China/PENTAWARDS 2021 GOLD賞 De Nariz Spain/PENTAWARDS 2016 GOLD賞CONCEPT Oskar Kids Sauce.Belarus/PENTAWARDS 2013 GOLD賞 Poilu. Canada
顔に反応するニューロンを見事に捉えた高度なデザイン。
皆さんは普段目にするもので、何か“顔“に見えてしまったということが多くあるのではないでしょうか。例えば自動車のフロントデザインが顔に見える、あるいはコンセントが顔に見えてしまう、家の窓が目に見えてしまうこと。一旦そう思うとずっと顔に見えてしまいます(パレイドリア現象)。

顔に見えるType Bのコンセント(AI Geminiによる生成画像)/顔に見える家(AI Geminiによる生成画像)
先のポーラ社の「コスモロジー」もそうですが、顔に見えるわけです。目のその特性を生かす手もあります。
最近の上手い例を挙げると、パッケージ自体ではありませんが、ミスタードーナツの「もっちゅりん」です。あのドーナツも中央の三角穴が口となりかわいい顔に見えないでしょうか。2025年6月発売で需要が供給を上回り各地で品切れになり、今年6月に限定再発売になったあの「もっちゅりん」です。広告グラフィックのドーナツ写真に顔キャラクターが添えられているので、狙った意図が明確です。
この「もっちゅりん」ですが、当パケトラのシンガポールからのSaveurAmiライターのレポート『ミスタードーナツ シンガポールで味わう、話題の新食感ドーナツ「もっちゅりん」。』(2026年8月) でも紹介されています。ここでは、個包装容器に「もっちゅりん」キャラクターの顔が大きくデザインされています。

シンガポールの「もっちゅりん」
パケトラ『ミスタードーナツシンガポールで味わう、話題の新食感ドーナツ「もっちゅりん」。』より
そして2023年の不二家洋菓子店の新VIに基づくパッケージデザインはどうでしょう。ペコちゃんの舌をモチーフにした「スマイルマーク」を軸にリニューアルされています。お口しかないロゴマークですが、顔に見えてしまいます。道で人が持っていたらこのパッケージに目が行くのではないでしょうか。しかもペコちゃんの顔が浮かぶ。洋菓子店の業績は2024年8月には前年同期比1.8倍に急成長するなど大成功しています。
この新VIは「2024年度グッドデザイン・ベスト100」も受賞しました。こうしたアプローチのもっとも有名なものは、Amazonの「スマイルアロー」ですね。全てのもの“a→z”を表す矢印と笑う口を上手くミックスしたロゴは段ボール箱を一気に顔に見せます。

不二家洋菓子店の新VI(2023)
株式会社不二家ニュースリリース(PR TIMES)より
その手があったか。顔だけではない特異的視覚カテゴリー。
顔の話をしてきましたが、同様に“手”も脳が優先的に処理する視覚カテゴリーとなっています。手・指だけにより強く反応する領域が存在することがわかっています。これも自分の行動を顧みれば思い当たることですが、人は相手を見ると、まず(1)顔、(2)手を確認しています。(1)「顔=相手は誰か」、(2)「手=相手は何をするか」を同時に解析しています。それゆえ、手も視線を引き付けます。そして道具や商品に付随して手が描かれていると「自分がその商品を使う場面」のシミュレーションを促しやすいと考えられてもいます。
従って手・指のデザインも有効に使えるものですが、時にこれは人に不快感、恐怖感を感じさせることもあり、注意を要します。中で一つ上手くデザインされた事例がありますので見たいと思います。当パケトラで2023年4月に掲載された矢野竜広ライターのレポート『「鳥取を前面に出さない」。日本初ノンアルビール専門ブルワリー、CIRAFFITIのPR戦略』において紹介されている低アルビール「CIRAFFITI(シラフィティ)」です。そのボトルは手をモチーフにボトルを持ったような3様の表情風にデザインされています。“楽しそうで、日常的で、手工芸(クラフトビール)”という想いがデザインされているということですが、誰もがそれを感じ取ることでしょう。
まさに「自分がその商品を使う場面」の仮想体験を促してくれます。そしてビール商品が多数並んでいる売場があったら、真っ先に目が行くだろうことは想像に難くないことと思われます。

「CIRAFFITI」
パケトラ『「鳥取を前面に出さない」。日本初ノンアルビール専門ブルワリー、CIRAFFITIのPR戦略』より
●パッケージデザインに科学を活用して成功させる未来。
顔や手が主役のデザインが有効という話。店頭で競合の激しい商品パッケージにおいて、買ってもらうための第一歩は来店顧客に発見してもらうことです。いくら美的センスに優れているデザインでも目に留まらず、素通りされてしまっては意味がありません。店頭では消費者は数秒という短時間で商品を見ています。その際、脳は意識より先に「生物学的、社会的に重要な刺激」を優先処理します。
このような人の認知特性や購買消費行動に関する科学実証理論をデザインや売り場の開発に用いることは必ず有用となります。筆者の知るところでは日本でこうした科学的視点を持ってデザインを語られた書籍のはしりは、山田理英著「広告表現を科学する」(日経広告研究所 1998年)あたりではなかっただろうかと思います。
ヒットしたり話題になった商品デザインは興味深く参考になります。次のヒットを狙う、成功率を高めるために、こうした科学的な視点を持って売れた要因を探り出し活用することは有益なことと考えます。
そして続きがあります。売り場で目を引き付けられるから売れるとは限らないということもしかりです。筆者の方でも過去に仮説売場で店頭陳列を再現し、メーカー商品の模擬購買テストやアイトラッキング(視線計測)調査を数多く行いました。事後の被験者インタビューにおいて、特定の商品を見せてその記憶度合を測定した場合、その商品は「見かけなかった」、「記憶にない」という答えが多くあったことが印象にあります。そして大事なことも多くわかりました。その模擬購買テストで目立って選ばれた商品やインタビューで「発売されたら買います!」と言われた商品も必ずしも成功にはならなかったという問題です。
先の例に挙げた「NOPE」も当初は炭酸飲料カテゴリーで販売ランキングの断トツ首位(日経POS情報)でしたが、2026年8月時点では16位に落ち着いています(日経クロストレンド2026/9/18記事より)。健闘されている水準と思いますが、リピート購入強化を望みたいところです。 この先はパッケージも含む製品の機能性や体験価値などへと話は移っていきます。またこの場を通してお話ししていければと思っています。
ところで、皆さんも思われているのではないでしょうか。それなら顔のパッケージがどんどん増えて多く並んでくるとどうなるのかと。はい、もちろんその効果は減少します。そうなると目は周りの商品と違う色や形、あるいは怖い顔など注意を引くものに向かうでしょう。それは次段階の打つ手があるということですね。人の視覚、頭脳は想像以上に効率的に動いていますので、その機能特性を利用すれば、「目を引く」、「記憶に残す」、「購買に結び付ける」は設計できるということに他ならないと言えます。
▼参考記事・文献
・味の素株式会社ニュースリリース(PR Times) 2026年7月21日
6割以上の人が経験する夏場のレタスのフードロス問題!“藤原竜也さん顔面協力”による1万個のレタス販売と、新レシピで購入と消費を促進『「Cook Do®」オイスターソース 藤原竜也の「買ってくレタス」』
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000181.000092524.html
・サントリーニュースリリース2026年9月2日
「ギルティ炭酸 NOPE」出荷1億本突破! サントリーの飲料新商品で令和史上最速
https://www.suntory.co.jp/softdrink/news/pr/article/2026/SBF1732.html
・日本顔学会(編)(2014). 『顔学への招待』, 岩波書店
・ペントアワーズ公式サイト
https://pentawards.com/live/ja/page/home
・パケトラ 『ドイツのBIOスーパーで見つけた!「おしゃれドリンク」3ブランド比較』 2026年7月28日
ドイツのBIOスーパーで見つけた!「おしゃれドリンク」3ブランド比較
・パケトラ 『ミスタードーナツシンガポールで味わう、話題の新食感ドーナツ「もっちゅりん」。』 2026年8月20日
ミスタードーナツシンガポールで味わう、話題の新食感ドーナツ「もっちゅりん」。
・パケトラ 『「鳥取を前面に出さない」。日本初ノンアルビール専門ブルワリー、CIRAFFITIのPR戦略』2023年4月14日
「鳥取を前面に出さない」。日本初ノンアルビール専門ブルワリー、CIRAFFITIのPR戦略
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