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今日の食品のヒットに欠かせない食品デザインの力。

はじめに

昨年のスーパーでのこと、まだ人気継続中なのに売れ残ったのか割引シールの貼られた「マリトッツォ」を見かけました。もはや誰もが知る人気スイーツなのにこれはナゼ?

またその後にコンビニに出回ったのが同じイタリアスイーツで次の期待メニューとばかり登場した「カッサータ」。

このメニューはどうでしょう。「カッサータ」と言われても姿形のイメージは固定していないので見落としているのかもしれませんが、さほど盛り上がっているとは言い難いのではないでしょうか。

この二つの事象は、商品のデザインについて考えさせられるものです。前者の商品は「マリトッツォ」と表記はされていたものの、見た目は筆者が思うところの開いたパンの淵まですり切れ一杯に盛られたクリームではなく、中に行儀よく収まったクリームの姿でした。

これは「マリトッツォ」とは違うと消費者に受け止められたことであろうと思う。一方、「カッサータ」の方は皆さんの頭の中に明確な姿形のイメージがあるでしょうか。

丸や四角カットにドライフルーツが散りばめられているぼんやりした記憶といったところでしょう。これはあの「タピオカ」や「フルーツサンド」、「マリトッツォ」みたいに誰もがよく目にするというブームに乗りにくいと思えます。

共に明確な見た目の記憶に関わる問題ということになりそうです。今回はそうした食品商品のルックス=デザインについて話を進めたいと思います。

近年ヒットした食品は見た目(デザイン)が命

近年ヒットした食品商品を取り上げて、そのデザインを見てみましょう。

まず冒頭に登場した「マリトッツォ」は日経トレンディ「2021年ヒット商品ベスト30」の食品中最高位になり、「おうちごはん2021年 年間食トレンド大賞」(トレンダーズ株式会社)でも大賞を取り家庭で作るヒットメニューにもなったようです。

おうちごはん2021年間食トレンド大賞  (webメディアおうちごはんの発表画像より抜粋)

食トレンド大賞の記事では、ヒットの理由として“ひと目で覚えられる見た目”と評されています。上半期での入賞メニューでも「ウールロールパン」「折りたたみキンパ」などをして、ビジュアルが印象的なメニューが多数話題になっているとされています。

昨年は「ザージーパイ」、「フルーツサンド」、「丸亀うどん弁当」なども商品としてよく売れました。味品質や価格でのヒット要因はもちろんあるわけですが、いずれもなじみのある材料を見せ方を変えたところに頭を刺激するポイントがあることが共通しています。

皆さんも承知されていると思いますが、各々商品の特徴として、既成観念を超えた大サイズ、果実の萌え断、天ぷら具材で埋まるうどん、という特徴があります。

丸亀うどん弁当 (丸亀製麺HPより抜粋)

見た目に関するデータもあります。メニュー単位のグルメコミュニティサービス「SARAH(サラ)」の口コミデータを分析したFoodDataBankが配信している「外食トレンドニュース」2021年11月号で公開された「パストラミ*」についての興味深い分析を見てみたいと思います。(*パストラミとは、香辛料で調味した肉の燻製食品のこと)

人気度が2020年秋から右肩上がりになってきたという「パストラミ」。定番メニューに「パストラミ」を追加することで評価、人気が上昇しているという結果です。その投稿内容を見ると、パストラミの「見た目」に関するキーワードに注目が集まっていると報告されています。具体的には“ボリューム感”、“はみ出る”や“オシャレ”といったものです。

SARAH!「パストラミ」に関する注目度比較 (FoodDataBankサイトより)

FoodDataBankでは見た目が満足度向上のポイント!と解説されています。今や多彩なメニューが市場にあふれかえっている時代、美味しい味創りは当たり前となり、よりおいしく見せる、さらには気を引くルックスの時代に入っています。

このことは飲食店業界では以前より常識になっているでしょう。その例として、飲食専門支援サービスサイトの飲食店.COMでは、「行列のできる店から学ぶ『ヒットメニューの作り方』」という記事があります。その中からひとつ引用しますと、代々木上原のスイーツ店『エテ』に「Fleurs d’été(フルール・ド・エテ)」というフルーツデザート商品があり、それはフレッシュマンゴーの花束の如くデザインされており女性が歓喜するメニューとしてブランディングを確立させるヒットになったということです。

「Fleurs d’été(フルール・ド・エテ)」 (ete.tokyo HPより)

まさしくフルーツデザートの見せ方の勝利で、味覚の機能性を超えて情緒的価値の提供へと進められていると感じさせるものです。

これまで経営に関する賞も数々受賞している京都の人気飲食店「佰食屋」の看板メニューは「国産牛ステーキ丼」。

佰食屋「国産牛ステーキ丼」(佰食屋HPより)

この商品は独自の店舗運営スタイル(1日100食限定)や味品質と同時に一度見たら忘れられないその主張のあるルックスゆえに顧客の支持を集めていると言えそうです。

ファストフード店に目を向けると、コロナ禍においても成功した吉野家の「ポケ盛(ポケットモンスター丼)」は丼中身のデザインではありませんが、商品の見た目を強く印象付けるそのどんぶりデザインは中身と一体化して、おまけ付き企画とは言いながらヒットに不可欠であったろうと思います。

ポケ盛 (吉野家HPより抜粋)

食品のデザインと言っても良い、食品サンプルに関する日経ビジネスオンラインの記事も目にしました。

麻布十番の「福島屋」という老舗おでん店ではコロナ禍対策でテイクアウトのお弁当を販売し始めたのですが、売行きが思わしくなかったと言う。そこで店頭の見本展示を劣化してしまう現物商品から見映えする食品サンプルに変えたら一気に動き出したというものです(該当記事はこちら)。その違いは何なのか一考を要しますが、視覚情報が売行きを左右したことに間違いがないことは変わりません。

店頭での食品の見せ方で歴史があるのは、スーパーの鮮魚売り場の花形である「お刺身盛合せ」。中身の色つや鮮度はさることながら、そのトレー容器の形、下地の彩色絵柄と盛付け方が相まってのデザインが購入意欲をそそります。

そして新たな見せ方の登場です。イオンダイエーで展開され始めたチルドのスキンパック総菜(真空包装)は、食卓に出すお皿の盛付けそのままの姿が目に飛び込んでくる調理仕上げデザインが売りです。食品販売における視覚情報はますます重視される方向にあると言えます。

スキンパック惣菜 (イオンフードサプライ HPより)

人が受ける情報の8割は視覚と言われる

明確に根拠のある説ではありませんが、人間の五感による知覚の割合は、視覚83%、聴覚11%、嗅覚3.5%、触覚1.5%、味覚は1%という話があります。

人間が受け取る情報のうち、8割は視覚からの情報であるならば、食品製品の見た目は人間の感覚上、非常に重要ということになります。疑似的な商品ゆえに見た目を大事にしているメーカー、商品は多いです。

歴史的な例でいえば、株式会社スギヨが生んだ「カニカマ」は究極の本物らしさを追求しています。フードテックの最新動向で言えば、プラントベース(植物性)の肉、ミルク、そして卵の製品は疑似産物ゆえに全て本物と見えるようにデザインがされています。それは味覚に大きく影響すると考えられているからです。

以前、介護食を製造する現場で話を聞いたことがありますが、嚥下対策のやわらか食でもなんとか元の材料に見えるよう工夫すると美味しく食べていただけると思うとのことでありました。こうした食品デザインの役割を発展させる技術がお目見えしています。

最新のフードテックでますます注目されてくる食品デザイン

最近ニュース記事で見かけたのですが、イスラエルの新興企業プランティッシュが1月、本物と見まがうばかりの「植物性サケの切り身」を発表しました。プラントベースの素材がサケの切り身そのものにデザインされています。内容は写真にてご確認ください。

プランティッシュの植物性サケ (PRNewsfoto / Plantishより)

味覚は本物のサケを目指すわけですが、この視覚情報が脳に「これはサケだ」と伝えて、脳が味覚神経を調整してサケの味として感じ取ることに一役買うわけです。視覚からの情報が他の感覚器官からの情報よりも優位に働き、実際とは異なる判断をしてしまうということがこれまでの認知科学研究で明らかになっています。(「脳は味覚より視覚の情報を優先する『クロスモダリティ効果』とは何か」ハーバード・ビジネス・レビューより)

食品の視覚情報の今後を考えさせる動きとしてフードプリンターの話題を最近よく目にします。

山形大学が開発を進める3Dフードプリンター。これは3Dプリンターの出力材料を食品素材にすることで自由な見た目デザインの食品製品ができるというもの。ブレンダー素材でフィギュアのような食品ができたり、AI(人工知能)で創出した美味しい形、色のお菓子も作れます。

3Dフードプリンターの恋鯉ゼリー  (山形大学公開画像より) 

3Dフードプリンターの寿司  (山形大学公開画像より)

また明治大学の味覚メディアシステムの研究では、インクジェット方式さながらパンやご飯のベースにピザ具材やふりかけ具材の絵(写真)を可食色素印刷しますが、味提示装置で味や香りを噴霧することで絵のメニューの味がするというものです。皆さんどう思われるでしょう。従来にはなかった形で食品のデザインという概念を広く捉えなければならないという気がしてきます。

味覚メディアシステム (明治大学宮下研究室 フードプリンター×TTTV動画より抜粋)

食品中身のデザインで大事なこと

食品中身、盛付けのデザインもプロダクトデザインとなりますが、食べてなくなり形に残らないゆえに、まとまった評価や学術の対象になってきませんでした。それでも料理やスイーツの創作コンテストにおいては見映えは重要な要素であることとして今日に来ています。

注目度が高まってくる中、食品のデザインを創るうえで大事なことが3つあると筆者は考えます。

  1. 作者(調理・製造者)の製品に込めた言いたいこと(コンセプト)が“わかるように”表現されているか。
  2. 消費者の頭の中で記号化される要素(他との違い)があるか。
  3. 味のイメージを増幅させるか、すなわち美味しそう食べたい!と直感させるか。

冒頭に登場のスイーツ「マリトッツォ」の開いたパンの縁の擦り切れ一杯に盛られたクリームの主張が1.2.3を物語っていますね。特に2の記号化についてはどうでしょう。
パンのクリームサンドというもの自体は全くありふれたものなのに、そのルックスは人に説明できるように記憶に残るものです。

多くの料理がそうであるようにその良さは料理中身それ自体の味パフォーマンスが主役であるが、皿など器が中身をどれほど盛り上げるかは、皆さんがよくご存じの通りです。フレンチで言えば大きなお皿の中央にささやかな一品、まさに空間をデザインしての貴重度の強調。バルで言えば、スキレット(食器になる鋳鉄製フライパン)で出てくる料理は調理ライブ感を持って素材イメージを増幅します。皿や器の他、機能は異なりますが、パッケージも食品のデザインをよくするための道具として重要な役割を果たすので有効に活用したいものです。

 

 

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