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触らない、近づかない。パリの最新カフェ事情

ロックダウン後のパリ。一番変わったことを挙げるとするならば、「カフェ・レストランの営業形態」と言っても過言ではありません。5月11日にフランス全土でロックダウンが一斉解除となりましたが、感染者の一番多いパリを含む首都圏は、しばらく厳戒態勢が続いていました。

特にカフェ・レストランと映画館は密状態が懸念されるため、6月1日より段階を踏んで営業を検討するとのこと。当初マクロン大統領からこの演説があった時は、私を含め、多くのフランス人が「カフェのないパリなんて!」と思ったことでしょう。

Photo:パリ左岸にある老舗カフェ、レ・ドゥ・マゴ。ピカソが足繁く通ったカフェとして有名です。(ロックダウン前)

パリのカフェと言えば、ピカソやヘミングウェイ、ココ・シャネルなど多くの芸術家が集まり、古くから文学や芸術が育まれてきた場所です。コロナが台頭する前は、観光客はもちろんのこと、地元住民にとってもカフェは憩いの場所でした。

そのパリ名物が3か月近くもの間クローズを余儀なくされたのですから、いくら休業補償があると言えど、経営側にとっては焦燥感に苛まれる期間でした。次々と小売店が営業再開するなか、最後の砦、パリのカフェが感染防止&集客の為に取った策とは?フランスならではの斬新なアイデアをご紹介します。

テラス席のみ営業を許された6月初旬のカフェ

マクロン大統領は、6月1日以降、パリ首都圏のカフェ・レストランの営業をテラス席のみ再開可能と発表。各飲食店では、店舗前の駐車スペースに臨時の座席を作ることが認められ、パリ市内で屋外席の増設が急ピッチで進められました。駐車スペースに増設されたテラス席の使用は、特例で9月まで認められるとのこと。

Photo:屋内の席のみだったカフェ店も、道路ギリギリまでテーブルを設置。

このニュースが流れたときは、「完全復活にはほど遠いな…」と思ったものでした。が、意外なことにお客さんも経営側からも「悪くない」との声が。もともとフランス人は夏の間、外食でも家庭でも外で食べることを好みます。何より地元客にとっては自炊からの解放感が味わえ、友人と久々の再開でおしゃべりに花を咲かせることができます。

Photo:土日の歩行者天国時には、道路前面にテーブル席を出す強者も。

私も感染が怖くて店内での飲食はちょっと難しいと思っていましたが、この増設されたテラス席ならばそこまで神経質にならずに楽しむことができました。閉じこもっていたストレスが解消されたのが、何より爽快だったのを覚えています。皆考えていることは同じなのか、パリのカフェはテラス席限定なのにもかかわらず連日盛況だったのです。

Photo:サーバーのマスク着用は必須。店頭にアルコール除菌ジェルを設置するなど準備も万全です。

テラス席がもともとない小さなカフェにとっては臨時の案。ですが、政府のお墨付きをもらって配達用駐車スペースいっぱいにテーブルを並べることができるので、どことなく気分転換になっているように見えました。

あのフランス人が口々に「働きたくてしょうがない」と言っているのですから、いかにロックダウンが苦痛だったか計り知れません。どちらかというと、「早く収益を取り戻したい」というよりは「早く元通りの生活を送りたい、常連さんとあの頃のように冗談を言い合いたい」という経営側の印象を持ちました(もちろん収益も大事ですが)。

コロナ前より心なしか、働く人が生き生きとした表情をしていたのは事実です。さて、ロックダウン前のフランスのテレワーク率が全体の7%だったのに対し、ロックダウン中は39%に上昇(2020年4月統計)。ロックダウン後もそのままテレワークを導入する企業が続出し、密状態を避けることに成功しています。

Photo:パリの交通機関では座席を一つずつ空ける新システムが搭載されました。よって、満員電車は解消されることに。

ただ、全てのカフェ・レストランが十分なスペースを確保できているわけではありません。

Photo:狭いスペースを有効活用するにはこんな工夫も。

クラスター防止のために仕切りを導入する店舗もあります。これはカフェに限らず、ロックダウン後のドラッグストアやスーパーマーケットでも日常となった光景です。仮に二度目のロックダウンとなれば、フランス経済は地に落ちてしまうでしょう。コロナの第二波を徹底的に阻止したいのと、経済の完全復活のはざまで揺れている、というのが現状です。

触らないレストラン

もう一つカフェ・レストランで変わったことといえば、「触らなくてよいシステム」です。まずカフェの入り口でギャルソンに出会いがしら、指で人数を伝えます。(双方マスク越しなので、ジェスチャーの方が早い。)店内のテーブルに目くばせで案内されると、そこにはQRコードが。

Photo:テーブルに貼られたQRコード(新メニュー)

思えば、従来のメニューは多くの人が手に取るものです。メニューに触れなければ、お客さんも安心してお茶や食事ができる、というわけです。

Photo:今までなかった発想のQRコード。なかなか便利です。

写真モードにした携帯を近づけると、メニューが自分の携帯に表示される仕組み。

Photo:フランス語のメニューがこちら。英語版の用意がある店も。

Photo:お年寄りの方や、軽食のみの利用者のために黒板も設置。

全店で従来のメニューは廃止され、QRコードもしくは黒板のメニューが一般的となりました。もちろん、これはカフェだけではなく、あらゆる商店などでも利用されることになります。

Photo:触らないけどやはりおしゃべり好きなフランス人。

触るモノのなかで一番コロナウイルスを貰いやすいのが、コインや紙幣と言われています。フランスでは少額でもカードで支払いができるのですが、カードを店の端末にかざすだけで支払いが終了。

「サン・コンタクト(コンタクトなし、の意)」を呼ばれ、PINコード入力やサインが不要なシステムなのですが、ロックダウン前まではこの方法で20ユーロが上限でした。ロックダウン解除後、お金の受け渡しを避けるため50ユーロまで上限がアップされました。つまり、双方が接触することなく店に出入りすることができる時代になったのです。コロナ以前の世界では考えられないことでした。

Photo:営業形態は変われど、フランス料理の美味は健在です。

触らなくてよいシステムを導入することで、感染する確率をグッと減らしたのです。次々と発明される「触らない」習慣に一抹の寂しさを覚えたものですが、慣れてみるとこちらの方が断然便利で時間の無駄がありません。触らなくてよいのはお互いの体の一部だけで、心まで離れる必要はないのですね。

みんなを笑顔にするヒーローの登場!

日本人と比べて、ボディタッチがかなり多いフランス国民。コロナウィルスの拡大当初、「欧米でのハグやキスの習慣が原因ではないか」とまことしやかに囁かれていました。それは紛れもない事実で、特に西ヨーロッパ、フランス、スペイン、イタリアのラテン3国は人と人の距離が一段と近いのです。

現在では、日常的に見られたビズ(頬と頬をくっつける挨拶)の習慣はなくなりました。ところが、“フランスらしさ”がウィルスによって奪われてしまったようで、コロナ前を懐かしむ人々も多く存在します。そこで皆を笑顔にするべく立ち上がったのが「レ・ヌヌス・デ・ゴブラン」達です。

Photo:味気ないソーシャルディスタンスに可愛いヌヌスがいることで雰囲気が一変。ヌヌス達が出現した店はたちまち満員に!(レ・ヌヌス・デ・ゴブラン公式インスタグラムより https://www.instagram.com/p/CCRM6izAZfY/)

「レ・ヌヌス・デ・ゴブラン」とは「ゴブラン(地域)のぬいぐるみ」の意味で、もとは2018年10月、パリ13区の本屋、薬局、カフェ店、ワイン店の店主らが地域振興のため発案したキャラクター。日本で言うところのご当地ゆるキャラのような存在でしょうか。

Photo:最近再開となった映画館にも出没。(レ・ヌヌス・デ・ゴブラン公式インスタグラムより https://www.instagram.com/p/CBv5eD7AjbH/)

地元でじわじわと人気者となっていたヌヌス達ですが、ロックダウン中のパリで大活躍することに。

Photo:厳しい外出制限中、たくさんの人に笑顔を届けました。(レ・ヌヌス・デ・ゴブラン公式インスタグラムより https://www.instagram.com/p/B-_uMs0AnAy/)

彼らの知名度は一気に広まり、フランス政府からもお褒めの言葉が届いたほど。現在では13区に留まらず、ユーモアのある姿でそこかしこに登場するようです。フランス人たちに愛され、子供からお年寄りまで皆のヒーローになりました。

Photo:コーヒー一杯と、友人とのおしゃべりは、パリになくてはならないもの

これからしばらくはウィズコロナの時代となり、もはやソーシャルディスタンスを守る姿勢も一般的となりました。テレワーカーが増え、ほとんど家族としか会わない、もしくはたった一人で生活している人もいることでしょう。

ロックダウン後、古い価値観を捨てざるを得ない環境に無理やり引き込まれたようでしたが、いくら再起動したとはいえ“人の絆”はより太くなったように思います。物理的な距離が生まれたことで心理的な余裕ができる。ということは、かつてないアイデアが生まれたり、今まで自身に向かっていた想念を外に向けるチャンスでもあります。

レ・ヌヌス・デ・ゴブラン達の活躍から、心の温もりを貰えた人は多いはず。アメリカの心理学者、クリストファー・ピーターソンは「他者との関わりやつながりは、人生の幸福度に大きな影響を及ぼす」と伝えています。

一説には他人を幸せにすると自分の幸福度も数%アップするとか。「幸せ」と言ってしまうと大げさになりがちですが、少なくともたくさんの人に笑顔を届けたレ・ヌヌス・デ・ゴブランの発案者たちが一番嬉しかったのではないでしょうか。

文明は変わっても文化は変わらない

6月15日にはパリ首都圏でこれまでテラス席のみであった営業形態を解除、屋内席も含め全面的に営業できるようになりました。同じく15日からEUからの入国制限も解除となり、徐々にフランスに入国できる他国の数も増えています。

Photo:屋内席に再び人が戻ってきました。

世界を自由に飛び交える日が再びやってくるのはまだまだ先ですが、今後は国内の経済回復力を高めることが重要になる、とマクロン大統領は演説で語っていました。外食産業が活発なのは、国の経済が健全な証拠だと思います。暗かった街の雰囲気が一転、ぱっと明るくなったことで、いかにパリのカフェが皆に愛されていたかが分かりました。

ウィズコロナの時代を経て、世の中はものすごいスピードで変わっていくでしょう。増殖や所有が「夢」だった時代は過ぎ、これからはミニマリズムが台頭してくると考えます。しかし、どの時代も「心の余白」となる空間や時間は必要だと思います。100年以上も続くパリのカフェ文化は、フランス人が死守したいものの一つとして間違いありません。

世界中から観光客が戻ってきた時。アップデートされた、パリの新たなカフェ文化が楽しめることでしょう。

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