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拡がるジェンダーニュートラルブランドとパッケージ

マーケティングの最も基本的な手法である市場細分化に再考が必要かもしれません。市場細分化はマーケティング発祥の時代から提唱されている基本視点です。マーケティングの偉大な先駆者であるフィリップコトラーはマーケティング戦略を立案するためのフレームワークとして以下の3つの観点から分析を定義しています。

・Segmentation(セグメンテーション:市場の細分化)
・Targeting(ターゲティング:細分化された市場のうちどのセグメントを狙うのかを決める)
・Positioning(ポジショニング:市場における立ち位置を明確にする)

市場の細分化の原点は性別や年齢、地域などのデモグラフィック(人口統計学)な指標で消費者を分類し、ターゲティングしていく手法ですが、今日SDGsの目標の一つにジェンダーの平等が定義されているように、すべての女性と女の子に対するあらゆる差別をなくすことが世界の目標として設定されています。日本でも男女雇用均等法が30数年前に制定されており、ある意味では女性の男性化が進んでいます。他方、最近の韓国ポップスの影響もあり、男性の化粧などが当たり前の時代にもなっています。このような時代背景の中で、男女の文化的、社会的な差をなくしていこうとするジェンダーニュートラルな商品開発が進んでいます。

ジェンダーニュートラルな商品開発

「性別を気にせず“だれでも”気軽に手に取れるコスメブランド。ポップなデザインで毎日の自己表現を楽しみに、もっと自由に」をキャッチフレーズにした『uuu-Ga』はクラウドファインディングサイトCampfireで目標金額の193%を実現しました。(2022年9月時点)。

uuu-Gaホームページより@https://uuu-ga.com/

コーセーコスメポート発のジェンダーレスブランド「Magnifique」からは、UVミルク「サンスクリーン」が発売されました。「Magnifique」は男性化粧品という位置づけですが、⼥性の美を研究し続けてきたコーセーコスメポートが、男性⽤だからこれで良いといった古い偏⾒を捨て、男性のビューティーケアアイテムを⼥性⽤と同じ⾼い品質基準で1から考えた商品と位置付けています。

薬用シャンプーSV(日本メナード化粧品)

日本メナード化粧品は2022年5月、オールジェンダーを対象にした「薬用シャンプーSV」を発売しました。同社のこれまでの毛髪研究では、髪の太さは、女性は30歳頃、男性は20歳頃をピークに加齢とともに細くなることが分かっており、性別に関係なく加齢により起こる頭皮環境の変化に着目し、オールジェンダーが使用できる頭皮用美容液とシャンプーを開発しました。パッケージデザインはシンプルな朱色で、ラベル表示もブランド名など必要最小限のミニマルデザインになっています。

日本メナードプレスリリースより@ https://corp.menard.co.jp/news/210521_MENARD_sv.pdf

より大きな市場をターゲットに

ジェンダーニュートラルな商品開発のメリットは市場のターゲットをより広くとらえることができることです。女性に限定せず、男性や性的マイノリティーにもターゲットを広げることができるのと、シェアドコスメのようにカップルの使用を想定した訴求も可能です。

ジェンダーニュートラル商品への切り替えや開発は、リブランディングを図る絶好のチャンスにもなります。ジェンダーにおけるニュートラルな考えを社内外にアピールすることで、企業やブランドイメージの向上やSDGsに親和的な企業としてのイメージアップにもつながります。加えて、ジェンダーニュートラルなパッケージデザインやクリエイティブへと舵を切ることで、ブランドが醸し出す世界観の刷新もなされます。

ジェンダーニュートラルの商品で採用されるデザインは中性的でシンプルなものが多く、現代人が好むミニマリズム志向ともマッチするので、結果的に現代の消費者にマッチした商品作りにつながります。

ジェンダーニュートラルブランド例

メンタルヘルスとセルフケアのサプリメントである Swanson W/I/O は、ファミリー ウェルネス製品のリーダー商品です。パッケージデザインを担当したデザイン会社Little Big Brands は、Swanson の新しい W/I/O サプリメント ブランドのパッケージを、性別に関係なくすべての人に焦点を当てたジェンダーニュートラルなデザインとしています。

パッケージデザインの傾向

株式会社プラグの「パッケージに関する好意度調査で」は累計8243商品におよぶ調査結果で、17年から21年までの5年間のデザイントレンドを振り返った結果、ジェンダーレスの傾向があることを指摘しています。

また、日経Xトレンドの「生活者1万人調査」でも、同性どうしの結婚、男性の妊娠、男性の化粧、など、現状の制約にとらわれない「ジェンダーフリーな社会」の実現願望の強さを見ることができます。

最近では、ハンバーグレストランのビックリドンキーやメガネショップのJINSが制服をジェンダーレス化しています。

構造的課題に対する創造的解決策

多くのリサーチ結果をみると、女性向けと宣伝されている商品は、同等の男性向け商品より高価に価格設定がなされています。ここではブランディングやパッケージデザインがある意味では不均衡な価格構造を作り出しています。このような課題に対する創造的な解決策としてもジェンダーニュートラルなブランド開発が進んでいます。

性別に中立なジェンダーニュートラルデザインは社会の多様性への対応です。ドン・キホーテが2022年6月8日に発売した、オリジナルの新スキンケアシリーズ「GENECOS」は、「贅沢(ぜいたく)をもっと身近に」というコンセプトの下、先行乳液「モイスト プレミルク」、美容液「モイスト セラム」、化粧水「モイスト エッセンス ローション」の3種類をラインアップし、ジェンダーレスな20代から40代をターゲットに、価格も従来製品に比べ廉価に設定しました。

購買行動の変化

ショッピング行動の変化も、性別に中立なパッケージを促進しています。消費財の購買は歴史的に、女性中心でした。そのため、従来のパッケージのデザインは女性向けのビジュアルとメッセージをデザインする傾向がありました。しかし、このステレオタイプの考え方は、今日の状況にそぐいません。購入の決定に男性が関与することも増えているため、性別に特化したパッケージデザインから始める必要性はありません。

挑戦的なブランドにマッチ

ジェンダーニュートラル商品は挑戦的な商品ブランドに多く見られます。ジェンダーニュートラルにターゲットを設定することによって、ターゲットが狭まることなく、より大きな市場にアプローチできることと、ある意味でジェンダーニュートラル商品の新しさが話題をよびます。パッケージ デザインの調査会社であるDesignalyticsの CEO  Steve Lamoureux はジェンダーニュートラルなデザインは、成熟したブランドよりも、挑戦的なブランドにとって大きなチャンスだと語っています。

ジェンダーニュートラルな取り組みは、イギリスでも話題になっています。イギリスの音楽番組Brit Awardsは、性別ごとのカテゴリーを廃止することを発表。英国航空(BA)や英鉄道会社LNERは、紳士の国イギリスならではの機内アナウンス“Ladies and gentleman”という呼びかけがノンバイナリーに対する差別に当たるとして、代わりに“Everyone”などに変更することを発表。高級スーパーチェーンM&Sは、店員の名札の下に、本人が希望する三人称代名詞(he/him/his、あるいはshe/her/her)を添えて、買い物客や同僚に見た目でなく、名札の表記で判断することを促しています。

M&Sの名札

ジェンダーニュートラルなパッケージデザインの特徴

それではジェンダーニュートラルなパッケージデザインとはどのような特徴を持っているのでしょうか。あくまで主観の評価ですので、こうあるべきとは言い難いのですが、当然、デザインコンセプトに女性とか男性といったイメージづけを排除しています。

ジェンダーニュートラルなパッケージやブランディングの考え方の基本は性別ではなく、購入を促進するメッセージとビジュアルに焦点を当てています。したがって、性別を意識させるような人物写真などを使いません。結果的に文字中心のミニマルデザインが多くなります。

具体的には性別の色のステレオタイプの使用は避けます。良く使われるのは、グリーンやイエロー、ベージュ、グレイッシュなどの、やや淡い色彩や、主張の少ない無彩色の白や黒です。

文字にはHelveticaがよく使われます。世界でもっとも使われているスッキリとシンプルな書体なので、性的なイメージを感じさせないのでしょう。控えめなサンセリフ体も良く使われます。

The Ordinarym/fSam Farmerなどのブランドは、シンプルで性別を問わないパッケージを通じて、成功を収めています。そのパッケージはミニマリルデザインで、控えめなザインは薬局で見られるような信頼できるパッケージを思い起こさせ、フォントの選択と余白の使用が効果的です。

まとめ

今後の経済の中心となるZ世代はジェンダー意識も高く、デジタルネイティブで、情報収集力にも秀でています。「モノ」を欲しがる従来の消費行動が減少し、体験を重視した「コト消費」や、ブランドの価値観や考え、社会貢献度への共感を重視した「意味消費」が、Z世代の消費行動の特徴です。ジェンダーニュートラルなブランドやパッケージに対するニーズも高くなるものと思われます。セグメンテーションがデモグラフィックスからライフスタイルへとシフトしてきたように、消費者の捉え方も新しい枠組みが必要かもしれません。

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