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ノルウェーの街に3000個以上設置された「赤い箱」が、国民のリサイクル参加をここまで簡単にした

無理なく簡単に、環境に優しい生活をするためには?そのヒントを、ノルウェーの「赤い箱」から考えてみたいと思います。

「Fretex(フレテックス)」とは

ノルウェーで暮らしていると、どこかで「Fretex(フレテックス)」と関わりをもつことになります。モノを廃棄せずに、必要としている人に届ける。面倒な手順をできるだけ省いて、低価格で他の人に販売する。1905年にスタートしたフレテックスの活動によって、現在のノルウェーでのサーキュラーエコノミーの基盤ができたといっても過言ではないでしょう。

Photo:オスロ観光で立ち寄りやすい店舗、カール・ヨハン通りからすぐ

フレテックスは、物がなくて困っている人を助けようと、オスロ中心部で始まりました。1971年に、第二の街ベルゲンに1店舗目がオープン。現在は全国各地に40店舗以上あり、売り上げの10%は社会活動に寄付されます。

Photo:店内の商品は頻繁に変わります

3000個以上の赤い箱が、リサイクル参加を ❝超❞ 簡単にした

Photo:©Fretex

ノルウェーでは、全国各地の人々が行き交う場所(駅周辺など)に「赤い箱」が設置されています。その数は3000個以上!まるで、交差点に行き交う人々と自然とすれ違うように、赤い箱とはどこかで巡り合います。

市民は不要になった衣服、テキスタイル、ベッドカバー、ベルト、カーテン、靴などを袋に入れて、この箱に無料で寄付します。家具など大きめの物も入れられます。

ノルウェーでは、この赤い箱や、同じ機能を持つ他社の緑の箱を、どこかで目にします。それほど至る所に設置されているのです。毎日の通り道に、いらなくなった衣服をぽいっと入れるだけ。市民の忙しい日常生活のなかで、リサイクル参加をこれほど簡単にしたシステムは、あっぱれというしかありません。

自宅付近に箱がないという場合は、近くの郵便局にフレテックス専用の袋があるので、郵便局経由で郵送することも可能です。

穴が開いた靴下、破れたストッキングもOK

再度利用できそうな状態のものは、フレテックスの店頭で低価格で販売されます。そして、使えない状態のものを寄付しても構いません。例えば、穴が開いた靴下やセーター、破れたストッキングなども提供して良いのです。

ノルウェーでは本来、布やテキスタイルなどは普通ゴミとしてゴミ処理場にまわすのではなく、フレテックスなどのリサイクル団体にまわすことが推奨されています。破れたストッキングなどはゴミ処理場の機械に絡まり、機械の動きを止めてしまうこともあるからです。

寄付されたそれらは、国内や発展途上国で新たに売るか、修理してから売るか・寄付するか、廃棄するかなどを、フレテックスや類似団体が判断して処理されます。もう使えない状態のものは、布を切り取ったりして、エコバックや小物入れなどに新しく作り直します。売れない状態の古本は、表紙をメモ帳のカバーとして作り直します。

提供された服の69%は再利用され、25%は素材を切り取るなどで、新しい商品として命を吹き込みます。5%はサーマルリサイクル(焼却の際に発生するエネルギーを回収・利用)され、1%が廃棄されます(全ての素材に価値はあるとして、廃棄は2019年で終了)。

フレテックスの店舗で見つけられるもの

Photo:古本もたくさん。画家ムンクの絵画集なども見つかります

Photo:好みはそれぞれですが、私はセカンドハンドショップでは、テキスタイルコーナーが大のお気に入りです

Photo:ノルウェーはアウトドアの国なので、質の良い冬の防寒着やスポーツウェアをたくさん見つけることができます

Photo:男性服や子ども服も豊富

Photo:ファストファッションから高級ブランドまで揃います

Photo:2018年には2万トン以上の衣服が寄付されました。ノルウェー人1人あたりが3キロの衣服を寄付していることになります

Photo:昔の家具や家電製品なども。現地ならではの北欧家具に出合えます

Photo:フレテックスで手作りしているキャンドル

Photo:寄付されたテキスタイルで、小物入れや湯たんぽカバーを手作り

Photo:古いテキスタイルで作られた小物

Photo:「この商品は素材を再利用し、社会に戻る道の途中にいる人たちの手によって作られました」というタグ

Photo:日本では高値で売られている北欧食器も

Photo:プラスチック素材をできるだけ使用していない洗剤やブラシなども販売

Photo:買いたいものが何個も見つかる日もあれば、ピンとくるものがない日も。それがセカンドハンドショップの楽しみ

 

Photo:数年前のフレテックスのイベントで、古本をノートにするワークショップに参加した私(右)。とても楽しい体験でした

Photo:冬に暖炉であたたまるのが大好きな国民。火をつけやすくするために、新聞紙にステアリン酸をしみこませたスティック。これがあれば暖炉で火もぱちぱちと燃えやすい

また、フレテックスは、さまざまな困難を抱えてきた人を積極的に雇用し、社会に復帰できるお手伝いもしています。上の写真のスティックは、フレテックスの労働環境サポートの一環で作られています。

「あなたが要らない服に、価値を見出す人がいる」

数年前に公開された動画なのですが、今でも私が印象深く覚えている1本です。

建物の屋根に植える植物の下に敷くマットには、壊れた衣服の素材を使用。高齢者や刑務所にいる囚人との交流。子どもたちと自然の中で遊ぶ活動。路上生活をする人々の看護支援。お腹が空いた人へ食べ物を提供し、孤独感を減らすために、市民で一緒にご飯を食べるイベントの主催。求職中の人のためのキャリア支援。社会活動は幅広く行われています。

Photo:オスロでの夏の音楽祭オイヤにて。エコなフェスとしても定評があるため、来場客はここで古着を買います

ドゥーグナード文化の土台に

ノルウェーには、「Dugnad(ドゥーグナード)」という独特の言葉があります。「ボランティア」と混合されやすいのですが、多言語に翻訳しにくい言葉です。

「ひとりで無償労働活動」の場合はボランティアともいいます。反対に、ドゥーグナードは、ひとりでというよりも、「個人ひとりではできないようなことを、近所の人や他の人たちと皆で、地域や社会のために何かを無償ですること」を意味します。ドゥーグナードは強制されるものではありません。

典型的なのは、近所の人たちとのゴミ拾いや、雪が溶けた後の大掃除、植物の手入れなどです。難民申請者がノルウェーに大勢やってきた年には、首相が全国的なドゥーグナードを国民に呼びかけ、市民は来たばかりの人の支援に参加しました。

フレテックスに要らなくなったものを寄付したり、店頭で何かを購入することで、市民は自然と社会貢献の輪に参加していることになります。市民としての社会的責任を果たしやくしている構造は、ドゥーグナードにも近いといえるでしょう。

大量生産と消費の繰り返しは、地球環境を壊します。「サステイナブルなファッションや小行動とは何か」という議論が高まる今、「古着をもっと着よう」、「今まで使っていたものを大切にしよう」という風潮は今後より高まるでしょう。

とても簡単に市民がリサイクルや社会貢献に参加できる仕組みのヒントを、フレテックスはたくさん提供しているような気がします。

公式サイト:https://www.fretex.no/

Photo&Text: Asaki Abumi

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