デパートの食品売り場は日本より非日常的
前回はロンドンのスーパーマーケットにフォーカスしてみましたが、今回はデパートで扱っている食品について取り上げますね。
ロンドンのデパートと言えば、ナイツブリッジという高級エリアにあるアップマーケットな「ハロッズ」や「ハービー・ニコルズ」、幅広い層にアピールするトレンド志向の「セルフリッジズ」や、庶民派「ジョン・ルイス」に「デベナムズ」、またファッションやアクセサリーに力を入れているクラフト志向の「リバティ」やトレンド派「フェンウィック」、食品重視の「フォートナム&メイソン」などなど、彩り豊かなラインナップが揃っています。
こと食料品に関して言うと、ふだん利用するスーパーマーケットと、特別なものを探しに出かけるデパートといった感じに棲み分けされています。というのも日本のデパ地下と違って、イギリスでは庶民が日常的にデパートの食料品売り場で買い物をしたりはしません(ここで買い物をしているのは、ご近所さん=ロンドン中心街に住む昔からのお金持ちか、お土産を探している旅行者の皆さん)。ですから、デパートで売っている食品類は、おのずとスペシャル感を演出するため商品パッケージのクオリティは高めとなっているのです。
特にコーヒー、紅茶、チョコレートやビスケットなどの嗜好品は大半が贈答・土産目的であり、自宅用に購入するとしたら「自分へのご褒美」といった位置づけになるでしょうか。もらって嬉しいパッケージ、消費した後も「手元に残しておきたい」と思えるパッケージ。
その中でも、缶入りや瓶入りのものは再利用が簡単で当たり前なので、今回は紙を使ったパッケージにフォーカスしていきます。上記で挙げたデパートの中でも、比較的私が好んで足を運ぶ「フォートナム&メイソン」と「リバティ」の商品からご紹介しますね。
夢を見させてくれるフォートナム&メイソンのグラフィック力
フォートナム&メイソンはキッチン/ホーム雑貨やファッション・アイテムも多数取り揃えている総合デパートではありますが、イギリス人にとってそこは、ふだんはご縁のない高級食品がぎっしりと詰まった夢のフード・ホール。クリスマスやイースター時期はお土産を探す旅行者に混ざって、ロンドナーたちが祝祭期間用の特別な食料品をせっせと購入している姿もよくみかけます。1階で有名な紅茶やビスケット、ジャムやケーキなどを扱っていて、地下にはワインや高級缶詰、惣菜やチーズなどを置いています。
「とっておきたい」と思わせる紙パッケージ商品は、1階に数多くあります。まずは蓋で開け閉めする通常の箱型のもの。
こちらは上箱を下箱にかぶせるタイプではなく、がっちり硬い紙質の上箱を真ん中で合わせるタイプで、上箱を持ち上げやすいのが特徴。表面が布地風に加工された高級感あふれるデザインです。横から見ると上下シンメトリーになっていて厚みがあり、てんとう虫までとまっています♪ 商品ページを見ると分かりますが、内箱には美しい線画のボタニカル模様が描かれていて、細やかな気配りの行き届いたデザイン。再利用率がものすごく高そうなピース・オブ・アート、といった印象です。
下の写真は植物をテーマにしたブレンド・ティーのティーバッグが入った新商品パッケージです。全部で9種類もあり、カラーもデザインも明るくまとめたカジュアル・スタイル。上蓋が離れずに開くタイプで、こちらもジャケ買いならぬ、箱買い・パケ買いしてしまいそうな楽しさがあります。2種類以上そろえば別のものを入れてディスプレイしてもかわいいかも。
そしてスライド・タイプパッケージの究極のデザインはこちら、巨大マッチ箱風形状のパッケージに入ったチョコレート商品。このシリーズはわりと何年も前からある定番品なので、きっと人気なのでしょう。虫や動物を物語風にデザインしたグラフィックがとても個性的で可愛らしいので、日本へのお土産として重宝しています。中には3つくらい、箱に描かれている虫や動物の形のチョコレートが入っています。一つひとつのチョコレートは、思っているよりも大きいです(笑)。
そしてイースター時期になると必ず登場する季節商品が、卵を象ったもの。スーパーで売られている6個入り卵の紙パッケージを、そのままチョコレートのイースター・エッグ入れに利用したこちらも、面白いパッケージです。イギリスのどのスーパーでも見かける再生紙を利用した卵のパッケージは、プラスチックが主流の日本ではあまり見かけないのでここで紹介してみてはと思っていました。卵という郷愁感のある食材に素朴な風合いがマッチしていますよね。
フォートナム&メイソンから最後にご紹介したいのは、当店以外では見かけたことのない、究極の紙パッケージ。
上が開くタイプの円筒形パッケージはたくさんあると思うのですが、こちらは横がパカっと開きます。そして、童話を思わせる夢のあるイラストでフレーバーを表現。筒のパッケージ全体にわたって上手にイラストを配したグラフィックも秀逸です。
全てチョコレートでコーティングしているビスケット商品なので、火山、クジラの潮吹き穴、人魚が持ったホラ貝、レモン果樹園に佇む彫像から、それぞれチョコレートのリキッドを噴出させ、チョコレート商品であることを示した楽しいイラストにほのぼのとした気持ちになります。中が気になったので、一つ購入してみました!
面白いアイデアのパッケージですよね。食べ終わったあとも、何を入れようかなとワクワクしています ^^
リバティ:ルーツに根ざしたグラフィック展開
リバティは、日本では小さな花柄のリバティ・プリントで知られる老舗デパートですが、ロンドンではナチュラル系のビューティー・コスメと、19世紀のアーツ&クラフツ運動から脈々と続いている洗練のファッション・アイテムを扱っていることでも知られています。チューダー朝の建物をリバイバルした外観はもとより、木材を多用した内部の構造にもアーツ&クラフツを代表する装飾が随所に見られ、歩き回るだけで特別なイギリスを体験できる場所です。
建物の裏側1階部分に、小さいながらもスイーツなどを扱ったミニ・フード・ホールがあり、リバティ・ブランドの商品もいくつかあります。中でも商品棚をカラフルにディスプレイされて目を引いたのは、「ファッジ」と呼ばれるイギリス伝統の砂糖菓子のパッケージ。ファッジは基本的に砂糖と練乳とバターの塊で甘〜いお菓子ですが、フレーバーを工夫できることから現代ではいろいろな味があります。リバティのものはもしかすると、現代風にアレンジされた甘さ控え目レシピなのかもしれませんが・・・。
こういう箱、捨てちゃう人も多いかと思いますが、コレクション対象にもなりそうなシリーズもので、ディスプレイしてもおしゃれですよね。それからイギリスでよく見かける紙パッケージに、こんな形のものがあります。
正方形の底面を持つ、縦なが長方形の箱。グロス仕上げで高級感があり、文字はきらきらの箔押しというのが定番です。高級ブランドのトリュフ・チョコレートなどが入っていることが多く、このリバティの商品は一つはチョコレートですが、もう一つの黒いほうはホット・チョコレートのフレークが入っているみたいです。
そして、この路線のパッケージで有名なのは、故ダイアナ元妃も愛したというチョコレート・ブランド、プレスタット。
最後におまけ・・・リバティ・ブランドのショートブレッドのパッケージ。リバティではレトロ感のある人物などをグラフィックに取り入れたパッケージ・シリーズも多く出しています。この写真の形はイギリスで高級市場向けのビスケットを入れる最も一般的な形で、紙素材筒型ボディ+メタル蓋タイプを組み合わせたパッケージ。
さて、いかがだったでしょうか。「フォートナム&メイソン」と「リバティ」。両者ともに古きよきイギリスの「らしさ」を失わないよう、自社ブランディングし続けている18世紀/19世紀創業の老舗です。パッケージ素材の質感で表現しているクオリティの高さや、レトロでアナログなグラフィックに込めたアイデンティティは、時代がどんどんデジタル化しても変わらない気がします。
今回、食品の紙パッケージを見ていて思ったのですが、自分自身、食べ物に関してはジャケ買いしていることが多いなと・・・中身は大切ですが、やはり魅力的なパッケージには抵抗しがたいものがあります。思わず手に取ってしまう、そしてインテリアの一部としても機能するから。楽しいパッケージに出会えるのを、今後も楽しみにしたいと思います。
更に深掘り!プレミアムレポート(2019年7月18日追記)
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これまでの茶葉専門店のイメージを見事に覆したのが、ベルリンのPaper & Teaです。とにかく店舗もパッケージデザインもスタイリッシュ。
— パケトラ (@Pake_tra) 2019年6月5日
「店内プロモーション×パッケージで固定概念を覆したベルリンの茶葉専門店」
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