ブランディングで広がるパッケージの可能性。ハンガリーの美しく小さなギフトショップのお話
はじめまして!フォトグラファー+トラベルライターの鈴木文恵です。雑誌やガイドブックを中心に撮影、寄稿をさせていただいています。20世紀の終わりに日本を出発、ハンガリーの首都、ドナウ川のほとりにある美しい古都ブダペストを拠点に、今でも中東欧をウロウロしている旅人でもあります。アートと機能性を兼ね備えたデザインが大好物、初回は甘く美しいギフトボックスのお話です。
古都ブダペストの小さなギフトショップ
ハンガリーの首都ブダペスト、国立オペラ座やブティックが立ち並ぶにぎやかなアンドラーシ通りと並行して伸びる細い通りに、四角い箱を模した看板を掲げた小さなギフトショップ「CINQ FILLES」があります。
花柄の壁紙とモノトーンの床の組み合わせが印象的な店内で、目に飛び込んでくるのは棚に積み上げられているカラフルなギフトボックス。この店ではまず箱を選び、その中に入れるスイーツをピックアップしてオリジナルのギフトを作ることができるのです。
すべての箱には「Budapest」と店名の「Cinq Filles」の文字が印字されています。一番小さいギフトボックスは手のひらサイズで丸い箱と四角い箱があり、両方とも中央のリボンが可愛らしく、シンプルながら上品で美しい化粧箱です。隣の棚にはチョコレートやドラジェなどのスイーツがギフトボックスに収まるサイズに袋詰めされて並んでいます。中央にあるテーブルには試食用のスイーツが各種置かれているので、味見をしてから箱に詰めるものを決めることができます。
向かいの棚に並んでいるのはあらかじめスイーツが入っているギフトボックス。空港のショップなどでも販売されている、ちょっとおしゃれなブダペストみやげです。箱の側面にはどんなスイーツが入っているのかが写真入りでタグづけされていて、開封しなくても分かるように工夫されています。
こちらもすでに中身の入っているギフトボックス「シシィ・コレクション」。シシィはオーストリア=ハンガリー帝国時代にハンガリー女王だったエリーザベトの愛称です。シシィのトレードマークだった紫色を使った箱には、彼女が好きだったというスミレの砂糖漬けやチョコレートが素敵なイラストと一緒に入っています。
店名、そしてブランド名でもある「サンク・フィユ(Cinq filles)」はフランス語で5人の女の子という意味。1858年に創業したブダペストの老舗コンフェクショナリー「ジェルボー」を築いたジェルボー・エミルの5人の娘に由来しています。
コンセプトはモダンクラッシック、エレガントでタイムレスなスーヴェニール
サンク・フィユを立ち上げたジョルトさんは、2009年からジェルボーのパッケージデザインを担当、洗練されたモダンなパッケージは19世紀から続く老舗店のブランドイメージに新鮮な印象を与えました。他にもワインなど飲食業界を中心にデザインやブランディングを経験し、そのノウハウを使って自社ブランドを展開できるのではないか?と思うようになり、アイディアを形にしたのが「サンク・フィユ」なのです。
コンセプトはモダンクラッシック、エレガントでタイムレスなスーヴェニール、美味しいものを詰め込んだギフトボックス。ブランド設立当初からインターナショナルなマーケットをターゲットにしていたので、ブランド名は国外ではあまり馴染みのないハンガリー語に固執せずフランス語で「サンク・フィユ」に。2011年に設立して空港などで販売を開始、2017年に現在の場所にショップをオープンしました。
箱のデザインやイメージはそのまま、形とサイズは各種取り揃えていて、色の組み合わせも自由自在。名前や企業名などを印字できるので、コンファレンスやイベントの記念品、ウェディングのギフト、また個人のプレゼントとしての発注も多くあります。
中に入れるスイーツは常時40種類以上、ショップはショールームも兼ねていて、クライアントと相談してオーダーメイドのギフトをデザインできます。箱はすべてハンガリー国内で生産しており、中身のスイーツはハンガリーをはじめドイツ産、イタリア産などバラエティーに富んだセレクションが揃っています。
ギフトボックスをブランディングするという発想はありそうでなかったと言えるでしょう。現在ではサンク・フィユのギフトボックスにインスパイアされたジェルボーからも発注がきたり、ブダペストだけでなくウィーンやプラハのラグジュアリーなホテルからもギフト製作の依頼がきています。
オーダーメイドのギフトボックスにはサンク・フィユのブランド名はそのまま、それぞれの町やホテルの名前が印字され、クライアントのイメージに沿ったスイーツが詰められます。
ショップではギフトボックスだけを買うこともできます。箱の作りはしっかりしているので、中身を入れなくても、また食べてしまった後でも、小物入れなど様々な使い道がありそうです。ブダペストの思い出が美しい箱と一緒に残る、時代を超えたギフトボックスのコンセプトにつながるのです。
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