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2020年パリ国際ランジェリー展で見た、次世代「アンダーウェア」ブランドの傾向(前編)

モノを買う側も造る側も、これからの生活の柱ともなる重要なキーワードが「サステイナブル(持続可能性)」と「ダイバーシティ(多様性)」。環境保護をポリシーとした商品を選択する、という消費スタイルが広がる今、アンダーウェアブランド市場においても最先端の素材開発や染色方法など、さまざまな取り組みがスタートしています。

2020年1月18日〜20日の3日間、パリ15区にあるポルト・ド・ベルサイユ見本市会場では、世界各国からブランドが集結する「パリ国際ランジェリー展(SALON INTERNATIONAL DE LA LINGERIE)」が開催されました。下着関連の見本市としては世界一の規模です。

本年度は2019年12月5日から始まったフランス全土の交通ストライキの影響が少なからずあったようですが、世界中から集まったバイヤーやデザイナー、プレスで会場は熱気に包まれていました。

Photo:ダイバーシティ(多様性)を訴えるブースのPOP。「自分の体に自信を」「年をとってもセクシーで」と強めのヴィジュアルで訴える手書きの文字は、さながらパリで行われた「黄色いベスト運動」を彷彿とさせます。

Photo:ミニマリズムへのアプローチ「EXPOSED」の特設会場では、新進気鋭の40ブランドが集結しました。

日本在住時、ランジェリーショップでバイヤーとして勤務していた筆者は今年で来場5回目。5年の月日を経て、トレンドの方向性がどんどん変化しているのを目の当たりにしてきました。

従来、ファッションの一部として捉えられがちだった、見た目重視のアンダーウェアが、いかにして「サステイナブル(持続可能性)」を実現したのか?バイヤーから一転、ジャーナリスト枠で参加した本年度のパリ国際ランジェリー展でキラリと光ったNEXT COMINGなブランドをご紹介します。

ファッション業界の慣習を変えるパイオニア「Swedish Stockings(スウェディッシュ・ストッキングス)」

Photo:スウェーデン発、ミレニアル世代が造るリサイクル・レッグウェアブランド。

2014年、スウェーデン人のLinn氏は、ナイロン産業のダークサイド(製造過程が有害である、長持ちしない素材であることなど)を知ったことをきっかけに、環境に配慮したリサイクル素材を使用したブランド「Swedish Stockings(スウェディッシュ・ストッキングス)」を立ち上げました。

「LOOK GOOD, FEEL GOOD, DO GOOD」をテーマに、デザインや品質を落とすことなくサステイナブルは実現できるということを証明するため、日々開発に取り組んでいます。

Photo:リサイクル商品の概念を覆すクオリティとデザイン性。

ストッキングといえば、女性にとって秋冬のマストアイテムでもありますが、ほんの少しの摩擦ですぐ破損してしまうのが一番の欠点でした。スウェディッシュ・ストッキングスが一番力を入れているのは、既存製品のクオリティーアップ。「長持ちしないとそもそも問題」という考えです。

Photo:商品パッケージにも「世界でたった一つのサステイナブル・ホージェリー・ブランド」と明記されています。*ホージェリー=レッグウェアの総称

世界では毎年20億のストッキングが生産され、破かれ履き捨てられたそのままの状態で廃棄されているのをご存知でしょうか?そもそも、これから新しいナイロンを生産する必要性があるのでしょうか?

後者の答えは明確に「NO」であります。一部のアパレルの価格は数十年前とは比較出来ないほど安くなっていますが、低価格になればなるほど毎1~2シーズンで捨てられ、ゴミの埋め立て地にたどり着き、世界の環境を汚していくという悲しい結果に陥っていくのです。

では、スウェディッシュ・ストッキングスが取り組む具体的な生産過程には、どんなものがあるのでしょうか。そこには驚くほど徹底したサステイナビリティが存在しました。

①生産過程に必要なエネルギーは、工場が自社でまかなう太陽エネルギーとグリーン認定の自然エネルギーのみで生産

②生産工程(染色時も含む)で起きる水の汚染をなくし、使用した水は100%リサイクル可能にする

③環境に優しいヴィーガン染料を使用する

④使用する繊維のナイロン部分は、リサイクルナイロンを使用

⑤1~2回履いて捨てるという繊維汚染を防ぐため、長く履ける良質な商品の開発 

⑥リサイクルエラステインの使用により、原材料64%削減、エネルギー75%節約

⑦「Recycle Club(リサイクル・クラブ)」というリサイクルシステムを構築。古いストッキングを回収し、別の産業で使える素材にし、ストッキングがゴミの埋め立て地に行かないようなサイクルを構築

「ファッション業界の慣習を変えるパイオニア」と呼ばれるにふさわしい、素晴らしい取り組みの数々。なかでも特筆すべきは⑦リサイクル・クラブについてです。

スウェディッシュ・ストッキングスが積極的に行っているのが、ブランド不問のナイロン製品の回収活動。消費者からこれらを回収することによって、ゴミの埋め立て地に行くことを阻止し、素材を再利用することが目標です。商品だけでなく店頭のディスプレイ什器にも利用されたり、新たに家具にする活動を行なっていたりと、ゼロウェイスト活動まで一貫している稀有なレッグウェアブランドと言えるでしょう。

今の時点では「稀有」という言葉が当てはまりますが、数年後にはゼロウェイスト活動が当たり前の価値観となるのは言うまでもありません。

Photo:リサイクルかつ高品質な素材を選択。全体的に他社より強度があります。長く履けるよう、つま先も補強。

ミレニアル世代が発案するスウェディッシュ・ストッキングスのエコフレンドリーな活動は、まさに 「LOOK GOOD, FEEL GOOD, DO GOOD」のテーマを実現させた、世界が見習うべき企業であります。

世界中から400以上ものブランドが集結したパリ国際ランジェリー展。バイヤーとしてではなく、ジャーナリスト目線で会場をくまなくチェックして感じたのは、確固たるメッセージがあるブランドしか記憶に残らないということ。

だからといって必要なのは奇抜なデザインなどではありません。最新テクノロジーから生まれるアンダーウェアならではの機能や素材、肌に触れて初めて感じる心地よさ、そして小手先ではない信念のある製造方法。スウェディッシュ・ストッキングスはこれら全てが当てはまるブランドの一つでした。モノが溢れる今、そうした要素に魅力を感じるのは消費者も同じなのではないでしょうか。

Photo:広大な会場。デザイナーやバイヤーにとって重要な商談が行われる展示会です。

アンダーウェアの本場フランスが取り組む、ストレスフリーなビオコットンショーツ

さて、開催国でもありランジェリーの起源とされる国、フランスのアンダーウェア市場は世界一の規模を誇ります。諸説ありますが、18世紀に「コルセット文化」が定着したのが下着の始まりと言われていて、ランジェリーとして女性たちが「魅せるもの」に変化させたのが1920年代です。

フランスの全人口は約6500万人で、日本の約2分の1ほどしかありません。それにもかかわらず、デパートやスーパーにおけるアンダーウェア売り場の面積は日本と比べ物にならないほど広大です。

このように、世界で最もランジェリー好きと言われるフランス。ランジェリーブランドの数の多さにも驚かされます。

長年ランジェリー業界に身を置いた筆者ですが、本場フランスのトレンドであった「ビジュアルで惹きつける」ランジェリーから、「エシカル、コンフォート、ストレスフリー」なコンセプトを持つブランドが次々と台頭しているのが印象的でした。

Photo:環境保護を兼ねているブランドのブース。

Photo:ストレスフリーなラインナップが目立ちました。

■「Germaine des pres(ジェルマン・デ・プレ)」のGOTS認定を受けた100%オーガニックコットンショーツ

Photo:全40色、同じ形のショーツのみの展開という潔さ。

Photo:ギフト用のボックスもリサイクルのもの。

「Germaine des pres(ジェルマン・デ・プレ)」の創業者であり、フランス人デザイナーのパスカル・グランサーニュ氏は、「私のモットーは、少ないほど実りあるということ。スローファッションのファンで、新しいものに全く興味がない。」と言い切ります。

GOTSとは、繊維製品で最も要求の厳しい認証です。有機農法の綿、有毒成分を含まない染料、倫理的で生産者に敬意を払った労働条件が必要です。GOTSラベルには、最高のトレーサビリティを保証するライセンス番号が記載されています。

Photo:GOTSラベルを見せていただきました。

シンプルさ、新鮮さ、柔らかさを兼ね備えたフェミニンなアンダーウェアコレクションの「Germaine des pres(ジェルマン・デ・プレ)」。 流動性のある使いやすいカット、旅行中のインドからインスパイアされたというカラフルなショーツは、デイタイムだけでなく就寝用としても使用可とのこと。2000年代初頭、ファッション製造において主流であった合成素材を一切排除したエシカルなアイテムです。

■「henriette H(アンリエッテ・アッシュ)」

Photo:パリ発、コンフォートとビジュアルの良さを兼ね備えたハンドメイドブランド

流行に敏感なパリジェンヌからも注目されているのが「henriette H(アンリエッテ・アッシュ)」。シンプルな生地に刺繍だけ、という素朴なデザインが「エフォートレス」な着心地を実現させました。

実は着心地やコンセプトが「エフォートレス」なだけではありません。フランス人デザイナーのサラ・スタリアーノ氏が掲げるブランドヒストリーにも注目すべき箇所があります。

過去、女優業の傍らデパートで店員として働いていたサラ・スタリアーノ氏はファッションについて何も知らなかったそうです。彼女はパリジャンでも裕福でもなかったそうで(※貧富の差がいまだに色濃く残るフランスでは、生まれつき裕福な家庭でないとブランドを一から立ち上げ成功させるのは非常に難しいのが現状です)、ランジェリー業界で成功することに特に期待していなかったとのこと。

単純に「どのテキスタイルが女性にとって一番のエロティシズムか?」を考えた時に、それが「綿素材」であることを見出したそうです。そして、パリのとある老夫婦が着こなしていた白地に赤い刺繍のワンポイントのシャツに感銘を受け、シンプルな白いショーツとブラを造り始めました。

時には個人的に好きな男性の刺繍を入れて商品化した(!)そうです。「エフォートレス」を地で行くサラ・スタリアーノが手がける「henriette H(アンリエッテ・アッシュ)」は、その自由な発想に加えてそれほど商魂がなく、肩に力が入っていないところが現在のパリジェンヌにうけたのでしょうか、今やパリのファッション最先端地区であるマレにアトリエを構えるほどです。

Photo:ビオコットンで製造された女性用ショーツ。

Photo:同じくビオコットンの男性用ショーツ。カップル用コーディネートとしての販売。

いつの時代もトレンドを発信し続けるフランス。それもそのはず、この国が掲げる精神理念は「言論の自由、平等、博愛」です。良いものは良い、興味がないものには興味がない、と日常でもはっきりと伝えます。

Photo:自由なディスプレイ。堅苦しくないのが逆に目を引きます。

エコフレンドリーという時代の流れを敏感にキャッチしながらも、あえて「それだけが私たちの文化ではありませんよ」と、遊び心も忘れないのがフレンチブランドの持ち味と言えるでしょう。

▼後編はこちら

2020年パリ国際ランジェリー展で見た、次世代「アンダーウェア」ブランドの傾向(後編)

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