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市場規模は6億ドル。アメリカで季節限定の「パンプキン味」が人気な理由を探る

日本では秋になると芋や栗など、旬の食材を使った季節限定商品がたくさん発売されます。このような限定商品が毎年楽しみで仕方がない…という人も多いのではないでしょうか。

季節限定商品が愛されるのは、アメリカも同じ。アメリカで秋の味といえば「パンプキン(かぼちゃ)」です。8月後半からクリスマス頃まで、あらゆる場所でパンプキン味の限定商品を見かけます。

Photo:パンプキン味のベーグル。包装袋やポップに、かぼちゃ、落ち葉、ドングリなど秋を連想させるイラストが描かれています。

しかしアメリカのパンプキン味商品市場は、日本と規模が大幅に違います。フォーブス誌の発表によると、2018年秋の市場規模はなんと6億ドル(約650億円)!そしてこの額は毎年驚くべきスピードで成長を続けています(2015年の市場規模は約500億ドルでした)。

アメリカでパンプキン関連商品がこれだけ人気なのは一体なぜなのか?この記事では、アメリカの季節限定商品事情を紹介しながら、日本でも参考にできる季節限定のプロモーションのアイデアを探っていきます。

アメリカの「パンプキン(Pumpkin)」とはそもそも何なのか?

筆者が「かぼちゃ」ではなく「パンプキン」と表現しているのには理由があります。日本語のかぼちゃは、ウリ科カボチャ属に属する果菜の総称です。つまり、日本のスーパーで売られている南瓜も、ハロウィンにジャックオランタンを作るオレンジ色の大きな野菜も、全て「かぼちゃ」というわけです。

しかし、アメリカではこの野菜のことをまとめて「スクウォッシュ(Squash)」と呼びます。米大陸が原産ということもあり、アメリカでは色・大きさ・形・味の全てにおいて多様なスクウォッシュが売られています。

Photo:ファームスタンド(農家の無人販売所)に並ぶ多種多様なスクウォッシュ。このうち、皮がオレンジ色で丸い形をしたもののみが「パンプキン」です。

つまり、パンプキンはスクウォッシュの1種類ということ。日本でよく食べられる南瓜は、厳密にいえば、パンプキンではありません(英語ではKabocha Squashと呼ばれています)。

人気になりすぎたパンプキンパイ

パンプキンは、独立革命以前からアメリカの秋の食卓に欠かせない食材でした。アメリカで一番人気のパンプキン料理はやはり「パンプキンパイ」です。パンプキンパイは感謝祭の定番料理。アメリカで栽培されるパンプキンの約43%が、パイ作りに使われるパンプキン缶に加工されています 。

Photo:生のパンプキンを1から処理するのはかなり面倒なので、ほとんどの人はパンプキン缶を使ってパイを作ります。オーガニックのものでも1ドル程度と、とても安いです。

しかし、このパンプキンパイ、20世紀に入って少し人気になりすぎてしまいます。なんと、1980年代には、アメリカ人のほとんどが「パンプキンパイ以外でパンプキンを食べたことがない」という事態に。パンプキン=パンプキンパイというイメージが定着してしまい、他にも様々な食べ方ができるということが忘れられてしまったのです。

アメリカのパンプキンの生産量は年間約68万トン 。「放っておいても育つ」と言われているほど、アメリカの土地は栽培に適しています。さらにパンプキンは食物繊維やビタミンAが豊富で、保存もきく便利な食材。これほどに使い方が限られているのはもったいないと、2000年頃から食品業界がパンプキンに再注目するようになりました。

「パンプキンスパイスラテ」は、もはや社会現象?

先手を切ったのはスターバックスです。2003年、スターバックスは秋の限定商品として「パンプキンスパイスラテ」を発表します。

Photo:スターバックスの「パンプキンスパイスラテ」(公式YouTubeチャンネルより)

当初のラテは、実はパンプキンを一切含んでおらず、パンプキンパイに使われるスパイス(シナモン、ナツメグ、ショウガ、オールスパイスのブレンド)のみを使ったラテでした。しかしこれが、古き良き田舎の家庭的な生活を彷彿とさせるためか、たちまち大ヒット商品に。今日までに約4億2400万杯を売り上げ、公式ツイッターアカウントや「解禁日」を予測する投票、さらにTシャツまで登場するようになったのです。ちなみに現在のパンプキンスパイスラテには、ちゃんとパンプキンで作られたシロップが入っています。

スターバックスの成功を受け、アメリカ中でパンプキンスパイスを使ったコーヒーや紅茶が売られるようになりました。フレーバーコーヒーは、今日でもパンプキン関連商品の中で最大のシェアを誇っています。

Photo:パンプキンパイ味のクリーマー。コーヒーに混ぜるだけで手軽にお店のパンプキンスパイスラテの味を再現できると人気です。秋になると、コンビニやガソリンスタンドのコーヒー売り場にも、必ずパンプキン味のクリーマーが置かれるようになります。

多様なパンプキン商品

飲料の次に食品業界が目を付けたのはスイーツ市場です。やはりパンプキンパイのイメージが強いので、アメリカではパンプキン=スイーツと考える人が少なくありません。そのため、スーパーなどで売られるようになった最初のパンプキン関連商品は甘いものが中心でした。

Photo:パンプキンクリームでコーティングされたチョコレートムース。

Photo:パンプキンスパイスマドレーヌ。パンプキン関連商品は、外装のオレンジ色で一目で判別できます。

Photo:パンプキンパイ味のアイスクリームは特に人気の商品です。

しかし近年では、パンプキンはスイーツの枠を超えて愛されるようになっています。この人気の拡大は、健康志向の高まりに比例しているということも予想できるでしょう。

Photo:パンプキンバター。ジャムと同じ感覚でパンなどに塗って食べます。

Photo:ギリシャヨーグルトもパンプキン味に。自然な甘さは子どもにも人気です。

Photo:パンプキン味のシリアル。

Photo:こちらはパスタソース。「秋の収穫」というキャッチコピーは、アメリカ人にとってどこかノスタルジックなものがあります。

Photo:上記のパスタソースには、かわいいかぼちゃ型のパスタを合わせて。食材としてだけでなく、イメージとしてのパンプキンを売り込むマーケティングがなされていることが分かります。

Photo:メキシカンにもパンプキン!トルティーヤチップスは、パンプキンピューレ、パンプキンの種、そしてシナモンやナツメグなどを使っています。

アメリカのパンプキン市場の大きな特長は、商品の多様性です。日本の季節限定商品は、スイーツやスナック菓子などがほとんどですが、アメリカの事例は、必ずしもそうである必要はないということを教えてくれます。言い換えれば、季節限定商品をあらゆる分野の食品に拡大することもできる、ということ。栗味のヨーグルトや、さつまいもでできたパスタなどがあったら面白いですよね。

また、いきなり多種多様な食品を売り出すのではなく、スパイスラテから飲料、スイーツ、そしてその他の食品へと、アメリカ人のコンフォートゾーンを少しずつ広げていったことも成功の秘訣と言えるのではないでしょうか。

Photo:さらにこんなものまで!犬用のおやつもパンプキンです。

実は、アメリカで最も急速に成長しているパンプキンの分野はドッグフードです。パンプキンは犬の消化に良いだけでなく、栄養も豊富で、そして何よりも安い。そのため、パンプキンを使ったドッグフードの市場は毎年倍増という、驚異的なスピードで拡大しています。

しかし、人気の理由はこれだけではありません。アメリカでは、パンプキンはしばしば感謝祭と関連して考えられます。感謝祭は家族が集まり、食卓を共にするイベント。大事な家族であるペットも、一緒に同じものを食べるというイメージが、最近のアメリカ人に受け入れられているのではないでしょうか?

アメリカのパンプキン市場から学べる事とは

アメリカの食品マーケティング業界によって、パンプキンの可能性が再発見されて約20年。今では、秋にアメリカのスーパーマーケットを訪れると、驚くほど多様なパンプキン商品を目にすることができます。

これだけの成功の背景には、アメリカ人の「ノスタルジア」に焦点をあてた、ストーリー性のあるマーケティングがあるのではないかと筆者は考えています。感謝祭の日におばあちゃんが作ってくれる甘いパンプキンパイは、例え実際にこのような経験のないアメリカ人にとっても、どこか温かい気持ちに気持ちにさせてくれるもの。消費者がパンプキン商品を買う時に得られるのは、こういったノスタルジックな温かみなのではないでしょうか。

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