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アメリカのスーパーに並ぶレトロなパッケージデザインは、なぜ消費者の目を引くのか

上の写真は、キャンベル(Campbell Soup Company)のトマトスープ缶です。1962年に芸術家のアンディ・ウォーホルがポップアートの題材として取り上げて以来、この紅白デザインの缶は「世界で最も有名なパッケージ」であると言っても過言ではありません。

キャンベル社もこのデザインが既に人々の間で定着していることを理解しているようです。キャンベルは130を超える種類のスープを販売しており、そのほとんどがより現代的なデザインのパッケージを採用しています。しかし定番商品のトマトスープは、100年近くも変わっていないレトロなデザインを使い続けているのです。

アメリカのスーパーに並ぶ商品をよく見てみると、このトマトスープ缶以外にもどこかレトロな雰囲気が漂うパッケージがあることに気が付きます。日々見慣れている商品デザインとは大きく異なるため、思わず手に取ってしまうのは筆者だけでしょうか。

Photo:冷凍ピザのコーナーに並ぶこちらのトマトパイ。一般的なパッケージとの違いが伝わるでしょうか。

今回の記事では、ウォーホルやロイ・リキテンシュタインの世界をそのまま継承したような、レトロでアメリカン・ポップなパッケージデザインを紹介します。またその過程で、以下の疑問についても考えていきたいと思います。

・レトロをレトロたらしめる要素は何か?
・今日の一般的な商品パッケージとの違いは何か?
・レトロポップなデザインが持つ効果とは?

基本カラーは「原色+白・黒」

まず気が付くのが、赤・青・黄の原色を利用したものが多いということ。これに白と黒を加えた5色が基本カラーとなっています。

Photo:原色+白・黒のみを使った大胆なお茶のパッケージ。運動時のエネルギー補給を目的とした商品らしく、元気でパワーに満ち溢れたイメージが伝わってきますね。

Photo:こちらの冷凍プレッツェルの箱は、まるでアメリカのコミックのようなデザイン。黒の背景に原色で書かれた「スーパープレッツェル」の文字が目立ちます。

アメリカに限らず、スーパーの商品を見渡してみると、原色をメインに添えたものがいかに少ないか気が付くと思います。一般的に原色は「食べ物の色」とは言い難いためではないでしょうか。特にナチュラル志向が強まる今日においては、食品パッケージはより自然に近いトーンダウンした色を使い、商品内容を写真などで具体的に見せることがトレンドです。

では、一体なぜレトロパッケージは原色使いが多いのでしょうか?その理由は、印刷技術の歴史に隠されていました。

レトロデザインの代名詞「フレキソ印刷」

1930年代、アメリカではゴムや樹脂性の柔らかい凸版にインクをつけて印刷する「フレキソ印刷」という方法が普及しました。フレキソは「フレキシブル」の略で、その名の通り、缶や牛乳パック、箱、金属、フィルムなど多様な表面に印刷を施すことができます。これにより、これまで活版印刷では実現できなかったような自由なパッケージデザインが生まれるようになりました。

しかし、フレキソ印刷には細密な印刷ができないという欠点があります。言い換えれば、色を掛け合わせることが難しく、滑らかなグラデーションやリアルなイラスト・写真を使うのには向いていません。こういった事情があったために、1930~50年代の「レトロ」なデザインは原色と関連付けられるようになったのです。

Photo:シンプリシティが潔いアンチョビ缶のデザイン。

その後オフセット印刷やグラビア印刷など、より繊細なイメージを印刷することのできる技術が普及し、フレキソ印刷は下火になってしまいます。

しかしこのフレキソ印刷、環境に対する負荷の少ない水性インクを使うことができるため、欧米では再度注目が集まっているのです。さらに技術改良も進み、たくさんの色を使っても綺麗に印刷できるように。今日、欧米の食品パッケージの約6割がフレキソ印刷を利用しています。

日本でも環境意識の高まりに合わせて、フレキソ印刷のパッケージが増えてくるのではないでしょうか。そうなれば、フレキソ印刷の原点ともいえる原色使いのレトロデザインに注目してみるのも悪くないかもしれません。

背景をベタ塗りして消費者の目を引く!

繊細なイメージの印刷には向かないフレキソ印刷ですが、一色でベタ塗りする箇所はムラなく綺麗に仕上がるのが利点です。そのため、フレキソ印刷によって形成されたともいえるレトロデザインは、背景を塗りつぶしたものが多くなっています。

Photo:背景の黄と青がまぶしいオレオのパッケージ。研究によると、人間の脳が最も速く認識する色は「黄色」だそう。多くの商品が並ぶスーパーで消費者の目を引きたいなら、黄色で背景を塗りつぶしてみるのが良いかもしれません。

3月24日に公開されたプレミアムレポート「第64回、米国軟包装協会「2020年パッケージング賞」発表!(後編)」では、背景を黒で塗りつぶすことで消費者に大きなインパクトを与えることに成功したトルティーヤチップスのパッケージが紹介されています。

第64回、米国軟包装協会「2020年パッケージング賞」発表!(後編) 

ミニマルなカラーパレット

次に、使われている色の数に注目してみます。レトロポップなパッケージのほとんどは、非常に限られた色のみを使っているのが特徴的です。

Photo:バーベキュー用シーズニングのパッケージ。この会社の創業当時から約60年間変わっていないデザインです。

このシーズニング缶が並ぶ風景は、そのままウォーホルの作品に出てきそうですよね。今日のパッケージは写真やイラストを使うことが多いので、どうしてもカラーパレットは広くなってしまいます。レトロポップな印象を作り出したいなら、色の数を2~3色に抑えてみると良いかもしれません。

限定された色使いはもちろん原色の利用と密接に関係しているものですが、原色以外の色でも応用可能です。

Photo:こちらのヤギのパウダーミルクの缶は、紫と緑、そしてアクセントに黄色を使用。

Photo:タヒーニ(ゴマをペースト状にしたもの)の缶。オレンジ×ブラウンという地味になりがちな組み合わせも、直線を多用してシャープな印象に。

このようなミニマリズムがレトロなデザインと関連付けられる背景には、1920~30年代に流行した芸術の潮流「バウハウス」の影響があると考えることもできます。バウハウスは1919年ドイツで設立された美術学校。ここから、不要なものを排除した合理・機能主義的な芸術が誕生しました。

バウハウスのデザインには、①ミニマリズム、②幾何学的なイメージの使用、③シンプルで力強い色使い、といった特徴があります。バウハウスは20~40年代に流行したモダニズムの基礎を作りました。そして当時の「モダンな」デザインというのは、現代の私たちからすれば「レトロ」な印象を帯びることになるわけです。

ハイコントラストの色を組み合わせる

Photo:洗濯用洗剤の大手「Tide」のパッケージ。ロゴを中心に大きく添えたデザインが非常に印象的です。(©Tide https://tide.com/en-us

バウハウスの影響を特に大きく受けたパッケージが、アメリカの大手洗剤ブランド「Tide」です。パッケージの中央に、オレンジ・黄色・青の眩しいロゴを大きく配置するというデザインは、1946年に初めて商品が発売された時からほとんど変わっていません。このロゴをデザインしたのは、当時の著名な建築家Donald Deskey。彼は20年代にドイツを訪れ、バウハウスに大きな影響を受けたと言われています。

Tideのパッケージの大きな特徴は、メリハリのある色遣いです。青とオレンジという、補色(色相環の反対に位置する色)同士を組み合わせることで、より鮮やかさが強調され、さらに消費者の目に残像としてイメージが焼き付くような印象を与えることができます。これは、多くの商品が並ぶスーパーにおいて非常に力強い戦略です。

Photo:ピンクと青のコントラストが目立つお菓子のパッケージ。大人でも手に取ってしまいたくなりますね。

さて、ここまでは、レトロパッケージに共通して見られる特徴的な色遣いについて見てきました。しかし、色以外にもう一つ、レトロデザインに欠かせないものがあります。それがタイポグラフィです。

タイポグラフィにこだわる

タイポグラフィとは、一言でいえば「文字をいかに見せるか」という意味です。可読性、視認性、そして美しさを達成するために、書体や文字の配置などを考えるのがタイポグラフィであると言えます。

パッケージをデザインするにあたって、文字は不可欠なもの。そのため、パッケージのデザイナーなら必ずタイポグラフィにも携わっていると言っても過言ではないでしょう。しかしレトロなデザインにとっては、タイポグラフィがより一層重要な位置を占めるのです。

Photo:何十年も変わっていないデザインのチューインガム。イラストなどを一切使用せず文字だけを配置したデザインは、今日では珍しいですね。

レトロなパッケージを見ると、文字がいかに多いかが分かります。上で紹介したチューインガムやアンチョビ缶など、文字以外の要素がほとんど無いものも少なくありません。これにも、イメージを刷るのには不向きなフレキソ印刷が関係していると考えられます。

Photo:カバノキの樹皮から作られた炭酸飲料バーチビアのボトル。原色使いのの背景に凝ったフォントの文字が並ぶ。

このBirch Beer(バーチビア)のラベルはもちろん、記事内で紹介した商品はどれも特にフォントに強いこだわりがあるのが共通点です。そして、通常であれば一緒には使わないような異なるテイストのフォントを、大胆にミックスしているのが面白いところ。例えば、セリフ体とサンセリフ体の掛け合わせや、イタリック体、太文字などの使い分けは参考にできるところが多いのではないかと思います。

中には「文字を多用する」デザインを、次のレベルにまで持ち上げたユニークな商品も。ドクター・ブラナー(Dr. Bronner)という石鹸ブランドのパッケージは、まるで新聞のように文字で埋め尽くされています。

Photo:ドクター・ブラナーの看板商品は、スペインの伝統的な「キャスティール石鹸」。オリーブオイルをベースに、自然由来の成分のみを使用。(©Dr. Bronner’s)

青色の背景部分に並んだ文字は、あまりに小さくて解読困難。拡大画像で読んでみると、なんと聖書の教えや世界平和を願う祈祷文など、商品とは直接関係のない内容が並んでいます。実際に読んでもらって内容を伝えることよりも、余白を埋めてパッと見たときのバランスが良いように配置していることが分かります。これは極端な例ですが、アイデアはとても新鮮です。

上の画像では、ラベルデザインの変遷も見ることができます。大まかなデザインは変わっていないものの、フォントや細かい配置などのタイポグラフィ、そして背景の色に若干の変化があることが分かります。レトロな雰囲気を醸し出しながらも古臭くなく、現代の消費者に選んでももらえるような工夫を凝らしている証拠ですね。

まとめ ~現代×レトロのパッケージ例~

最後に、この記事で見てきたレトロなデザインの特徴を見事にくみ取り、現代風に応用させた優れたパッケージの例を一つ紹介したいと思います。シエラ・ネヴァダ・ブルーイングカンパニーのビール「Hazy Little Thing IPA」です。

Photo:缶1ダース入りの箱。表面には中身である缶のイメージが大きく印刷されています。

ご覧の通り、メインカラーはターコイズとイエローの2色。原色に近いながらも、ブランドイメージを際立たせるために絶妙に選ばれた色であることが分かります。もちろん、コントラストも大きいので一瞬で目を引き、可読性・視認性共に抜群。実際のビールのイメージはありませんが、あまり色の濃くない爽やかな味であることが想像できます(そして実際その通り!)。

Photo:箱が積み上げられた様子は、まるでアンディ・ウォーホルの作品のよう。

缶のイメージがプリントされてはいますが、それを含めてもこのビールのデザインの中心は文字にあることが分かります。文字を多用しているからこそ、タイポグラフィも秀逸。大きくデフォルメしてみたり、フォントをいじってみたりと遊び心にあふれていますね。

このビールのデザインは、まさにポップアートの継承であると筆者は考えます。単に商品の情報を提供するだけでなく、個性的で新鮮なビジュアルイメージを作り上げることに成功しているのです。大衆文化の流れをくみ取り、見る人の注目を一瞬で惹きつける力強いデザイン———ここには、参考にできるパッケージデザインのヒントがたくさん隠されています。

[参考記事]
■The History of Packaging (Digimarc)
https://www.digimarc.com/quality-management-system/resources/history-of-packaging
■フレキソ印刷って何ですか?(井上工業所)
https://ino-ue.jp/gimon_kaiketsu/quest_45.php

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