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パッケージで消費者を「教育」する?!アメリカで見つけた「エシカル」製品のパッケージデザイン事情

Photo:地元のスーパーに並ぶ多種多様なパスタ。

ある日、スーパーマーケットで買い物をしていると、夫がふとこう言いました。「若い頃(90年代)とスーパー自体は変わってないのに、並んでる商品が全然違う。」具体的に何が違うのか聞いてみると、「取り扱われている商品の種類が圧倒的に多いように感じる」とのこと。

確かに今日では、パスタ1つをとっても、様々な形、ブランド、グルテンフリー、プロテイン+、野菜ペーストを使ったもの、ひよこ豆やレンズ豆のパスタ、さらに生パスタなど、数えきれないほどの種類があります。

これは単に夫の個人的な感覚ではありません。アメリカの平均的なスーパーマーケットが取り扱う商品の数は、1990年代が7,000種だったのに対し、現在では40,000~50,000種にまで増えたそうです。

商品の数が増えると、消費者にはより一層の「選択力」が求められるようになります。またマーケターの側も、自社製品を購入してもらうために今まで以上に策略を練る必要が出てきます。

広がる「エシカル消費」

そんな商品を選ぶ基準として、過去5年ほど前から一般的になりつつあるのが「エシカル」という概念です。日本語に訳すと「倫理的」という言葉になり、若干何を意味するのか分かりにくいかもしれません。エシカルな消費行動とは「人・社会・地球環境・地域など等への影響を考慮した商品を購入すること」だと言うことができます。

例えば、発展途上国の生産した商品を適正な価格で購入するフェアトレード商品を選ぶこと。有害な化学物質を使わずに栽培されたオーガニック商品を買うこと。これらは、どれもエシカル消費の一例といえます。

2020年に行われたある統計によると、66%の消費者が「エシカル・サステイナブルな商品のために、少し高めの金額を払っても構わない」と答えたそうです。

私は、以前からエシカル消費というトレンドがあるのは知っていましたが、改めてこの点に注目してアメリカのスーパーを見渡してみると、面白いことに気が付きました。それは、企業がチャリティーに貢献していることをアピールする商品が多いことです。

ブランドのチャリティー貢献

いくつか例を見てみましょう。

Photo:「Feeding America」という団体と連携して、貧困層に食事を届ける活動を行っていることを記したレモンパウダーの箱。

Photo:箱の側面を丸ごと使って、この慈善活動について説明しています。

Photo:こちらのティーブランドは、収益の1%を茶プランテーション労働者の子どもの教育に充てる「TEAch Me」というプログラムを展開しています。

このように慈善事業に貢献するブランドが多いのは、もちろんアメリカが「チャリティー大国」であることに関係していると思われます。アメリカでは寄付や慈善の文化が広く浸透しており、特に裕福な個人・企業であればあるほど、その富を社会に還元することが求められます。

しかしそれに加えて、近年では「安心・安全で環境にやさしい商品を提供するのは当たり前」という感覚が浸透していることも理由の1つではないかと考えられます。言い換えればオーガニックやフェアトレードなどに加えて、さらに+αのイニシアティブを取ることが求められているのかもしれません。

Photo:俳優のポール・ニューマンが設立した食品ブランド「Newman's Own」は、収益の100%をチャリティーに寄付することで有名です。

上記の「Newman's Own」という会社は、このトレンドの草分け・代表的な存在です。コーヒーやサラダドレッシング、さらにドッグフードまで、販売している商品は多種多様。1982年の設立以来、なんと収益全てを何千ものチャリティー団体に寄付しています。これまでに寄付した金額は約525万米ドル(約5億5千万円)を超えているそう。アメリカではしばしば「エシカル企業のあるべき姿」と呼ばれています。

Photo:熊のロゴが有名なブランド「Kodiak Cakes」は、グリズリーベアーに代表される野生動物を保護する活動に貢献。

スペースを大きく使ってアピール

もう一つ気付くのは、パッケージで自社の貢献を大々的にアピールしていること。食品パッケージのスペースは限られているにもかかわらず、一面丸ごと使ってチャリティーの内容を説明している商品がたくさんあります。

Photo:とあるアルコール飲料の箱。商品の味やイメージよりも「河川の再生」をミッションに掲げていることを表面に打ち出しています。

Photo:上記の箱の裏面。商品情報に関する最低限の内容を載せ、残りのスペースを大きく使ってこの事業について解説しています。

この箱に書かれた内容をまとめると、次のようになります。

Coorsは自然豊かなコロラド州生まれの企業です。今日、アメリカの77%の河川が干ばつの危機に瀕しています。私たちは、これらの河川に豊かな水を戻すことをミッションに掲げています。この箱1つにつき、500ガロン(約1900リットル)の水が、我が国の河川に戻ります。

Coorsはアメリカを代表するビール製造会社。このキャンペーンは大々的に展開されており、筆者もテレビやインターネットで広告を見かけました。商品そのものよりも、商品購入を通してどのような社会貢献ができるか、を前面にした広告は珍しいですね。

Photo:「この商品は地球を守るのに役立っている」と表面に大きなメッセージが。

上のマカロニ&チーズも似たように、表面と裏面にサステイナブルな農業を支援する内容を詳しく説明しています。

パッケージで消費者を「教育」する?!

最後にもう一つ、筆者が面白いと感じたパッケージの使い方を紹介します。こちらの「Endangered Species(絶滅危惧種)」という名前のチョコレートブランド。

Photo:「絶滅危惧種」というブランド名から、野生動物を保全する活動に関わっていることが想像できます。

Photo:裏面には「チンパンジーと我が社の約束についてもっと知るにはパッケージをオープン」と書かれています。

指示に従ってパッケージを開けてみると・・・

Photo:包装紙の裏側全体に、絶滅危惧種であるチンパンジーを守るために、企業側が行っていることが説明しされています。

これによると、「Endangered Species Chocolate」は毎年、収益の10%を野生動物の保護を行う団体に寄付しているとのこと。さらに私たち消費者にできることとして、エシカル消費を促す内容も書かれています。

ここから見えるのは、消費者を「教育」することもエシカルな企業倫理の一環である、ということです。社会や地球が抱える問題に関する意識を高め、さらなる行動を促すことも、収益を慈善団体に寄付するのと同じだけ重要なことであるといえます。

確かに、曖昧に「環境にやさしい」と言われるよりも、具体的にどう環境にやさしいのか、実際にどう社会に貢献することができるのか説明があるほうが「信頼できる会社なのかな」という気持ちになりますね。このようにパッケージをスペースを教育に使うというトレンドは、これからさらにエシカル消費が広まるにつれ普及していくのかもしれません。

参考記事
Grocery stores carry 40,000 more items than they did in the 1990s
Ethical Consumerism: What Is It and How Can It Benefit Your Business?

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