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リサイクルの進まないアメリカ社会

以前パケトラでは、プレミアムレポート「プラスチックパッケージのリサイクルに苦しむアメリカ社会」が公開されました。アメリカではプラスチック容器のリサイクルが思うように進んでおらず、リサイクル率が日本の85%に対して20%程度と低い値に留まっていることが紹介されています。

プラスチックに限らず、アメリカではどうしてもリサイクルが進展せず、循環型社会への移行が難航しています。環境保護庁(Environmental Protection Agency、 以下EPA)によると、2019年時点の全体的なリサイクル率は32%。1960年代からの上昇率は7%以下と、50年以上たってもほとんど変化がありません(参照:America Recycles Day: November 15, 2021.)

近年アメリカではニューヨーク州がレジ袋を廃止したり、スターバックスがプラスチックストローを廃止するなど、少しずつ「リデュース」を意識した改革が増えてきています。パケトラでも「サンフランシスコ市と住人が本気で挑む、脱プラスチック -「マイストロー」の時代は来るのか」の記事でサンフランシスコ市の取り組みを紹介しています。

ニューヨークなどの都市部では確かに、リサイクル用のゴミ箱が増えていたり、ゴミを減らすことを意識したパッケージが取り入れられていたりと、ここ数年で変化があるように感じられます。

しかし、筆者の住む田舎の地域では、事情が大きく異なります。日常生活とリサイクルは大きく切り離されており、「これではリサイクルが進まないのも当然だな」と感じることも。

アメリカでは人口の20%程度がいわゆる地方(Rural area)に居住していると言われます(参照:Urban Areas Facts。この都市部と地方のリサイクルカルチャーの違いから、アメリカのリサイクル制度の問題点が見えてくるのではないでしょうか。

この記事では、筆者の住むニューヨーク州中部におけるリサイクルの実情を紹介します。

Photo:ニューヨーク州オチゴ郡の風景。畑や牧草地が広がり、人口はまだらです。人口密度は22.5人/㎢と、北海道の約3分の1程度。

「ごみの分別」は制度化されていない

この地域では、そもそもごみの分別が実施されていません。週に1度のごみ収集日に、捨てたいものを袋に入れて家の前に出しておきます。袋の中に入るものであれば、中身は何であっても構いません。月に2回ある「粗大ごみの日」には、家具や家電を回収してもらうこともできます。

ごみの回収は、水道やガスと同じように、新しく引っ越した時に契約します。料金は1袋(40ガロン≒148L)あたり約3ドル(約360円)で、年末にまとめて支払う仕組みです。つまり、出したごみが多いほど支払う金額も大きくなります。

資源ごみ(ペットボトルやカン、ビンなど)の戸別収集は行われていないため、リサイクルするためには自分で回収場所まで持っていく必要があります。

資源ごみは「リサイクル」と「リターン」の2種類

ニューヨーク州では、ペットボトルとアルミ缶に対してデポジット制度を導入しています。これは、対象となる飲料品を購入したときに、容器1つに対し$0.05(約6円)を預かり金として徴収する仕組みです。容器を後ほど変換すれば、デポジットが返金されます。

Photo:容器にはデポジットを導入している州と預かり金額が記載されています。

デポジットがついていない資源ごみ(スチール缶、ビン、段ボール、プラスチック容器など)は、別途ごみ集積場(英語ではTransfer Station)に持って行かなければいけません。

我が家ではリサイクル品をまとめて自宅に保管し、2〜3か月に1回ほど一定の量たまってからそれぞれの回収場所に持っていくようにしています。

時間がかかる容器の返還作業

デポジット容器は、スーパーマーケットに設置されている機械を使って返還します。容器を1つ1つ手作業で投入口に入れていかなければいけないので、時間がかかるのが難点です。

Photo:最近新しくなった機械。これまでは故障が多く、たくさんの苦情が寄せられていたそうです。

Photo:回収後はこのような引換券が発行され、これをレジで提示すると、買い物の金額から割り引きされます。

コロナの影響で、接触防止のためこの機械は1年以上利用ができなくなっていましたが、最近ようやく復活しました。

スーパーの機械を利用する以外にも、デポジットを回収・計算・返金までをまとめて行ってくれる業者(英語ではRedemption Center)を利用する方法もあります。ここでは、自分の名前を書いた袋にリサイクル品を入れて、引き渡すだけ。あとは業者が回収・分別・計算してくれます。返金分は自分の「アカウント」に加算され、年に1度などまとめて受け取ることができます。筆者は約1年で14ドル(約1,680円)分の返金を受け取ることができました。

しかし、クーパーズタウンに最も近いRedemption Centerでも、車で約1時間かかります。筆者は他の町に行くついでに利用するようにしていますが、やはり面倒な作業であることには変わりありません。

返還にかかる時間と手間に対して5セントのデポジット額は見合わない、と考える人も少なくありません。実はこの金額は1982年のデポジット導入時から変わっておらず、返還率も当時から60%程度で停滞したままです。10〜25セント(12~30円)の預り金を導入している州では返還率が80%を超えている例もあり、ニューヨーク州でもデポジットの増額が検討されています。(参照:Environmental Groups Want New York State's Bottle Deposit Doubled To 10 Cents - CBS New York

リサイクルに不便なごみ集積場

オチゴ郡には2つのごみ集積場があります。我が家から集積場までは車で20分くらい。もっと遠いところに住んでいると、リサイクルするためだけに30分以上も運転していかなければいけない、ということもありえます。

Photo:オチゴ郡北部の集積場。農場に囲まれた丘の上にポツンと位置しています。

Photo:集積場入口の看板。農道と間違えるような小さな道をまがり、丘を上った先にあります。場所を知らないとリサイクルセンターがあることには気がつきません。

集積場を利用できるのは、午前中のみ。平日は朝7時から正午まで、土曜日は朝8時から正午までオープンしています。仕事などで朝が忙しい人にとっては、不便な時間設定です。

Photo:外に配置されたコンテナに資源ごみをまとめていれます。

集積場にはいくつかの大きなコンテナが配置してあり、その横に車を止めて、リサイクル品を中に入れます。写真を撮った日は雪が降っており、気温はマイナス5度。風も強い中で、外に出てリサイクルをするのはなかなか大変です。

Photo:コンテナの中。カンやプラスチック、段ボール、紙類などが一緒になっています。

効率が良い?悪い?シングルストリーム回収

回収方法はシングルストリームと呼ばれ、分別せずにリサイクル品をまとめて一緒に回収する方法です。プレミアムレポートでも解説されていますが、これは全てのリサイクル可能な資源ごみを一緒に回収して、資源回収施設で機械を使って分別する方法のこと。市民の負担を減らし、自動化されたより効率的な分別を目指す目的があり、アメリカで一般的なリサイクル方法となっています。

シングルストリーム回収は、機械が資源ごみを細かく区分するため、人間による分別よりも品質の高い再生品を作ることができる、といったメリットがあると言われています。リサイクル品から作られたマテリアルの品質が良いほど高い価格で売却することができるので、コスト面でも好まれています。

しかし実際には、そもそも資源ごみではない異物混入が多く、再生品の品質悪化を招いています。さらにこういった異物は機械を傷つけてしまい、設備の劣化を進めてしまっているのが現実です。

Photo:資源ごみに多くの異物が混ざっています。

上の写真を見ただけでも、プラスチックフィルム、アルミホイル、中にプラスチックが貼られた紙封筒、さらに一般ごみのようなものが混ざっているのが見えます。

私はクーパーズタウンに住んで4年が経ちますが「ごみの分別方法」や「資源ごみにいれていいもの・いけないもの」に関する広報を見たことがありません。日本では、例えば地方情報誌や看板に貼られたポスター、また行政が配布するごみの分別に関する資料などを通して、ゴミの分け方に関する教育が行き届いています。しかしクーパーズタウンでは、多くの人が正しい分別方法を知らないのが現状です。

Photo:2021年9月から、ガラスだけ別に区分するようになりました。

リサイクルの進まないアメリカ社会

クーパーズタウンはもちろん1つの例に過ぎませんが、このようにリサイクルを簡単にするための仕組みが整っていないことが分かります。

  • 資源ごみの戸別回収がない
  • デポジット額が少ない
  • リターン・リサイクルともに時間と手間がかかる
  • 分別に関する情報が普及していない

アメリカのリサイクル率がほとんど改善しないのは、ほとんど市民の良心だけに頼っているからだと、筆者は感じます。リサイクルを普及させていくには、誰もが簡単にリサイクルできる環境づくりを整備していくことが重要なのではないでしょうか?

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