12月は缶のパッケージが増える?アメリカのクリスマスから見えた「包装」の可能性
アメリカでクリスマスの時期にスーパーやショッピングモールなどに行くと、缶に入った商品が多いことに気が付きます。それも、年中お馴染みの商品が、中身は変わらず外装だけ缶になって売られているのです。
季節のイベントに合わせて限定商品が発売されるのは万国共通のことですが、パッケージの種類だけが変化するのは、アメリカのクリスマスならでは。今回は「パッケージが缶になる」現象に注目し、そこから見える包装の可能性について考えていきます。
クリスマス缶の歴史
新しいことを学ぶとき、まずは歴史から入る——というのが筆者のアプローチです。そこではじめに、クリスマス缶(英語ではChristmas tin)の歴史を見ていきましょう。
クリスマス缶の発祥は19世紀後半のイギリスです。1861年の法改正により、食料品を個別包装した状態で販売することが可能になりました(それまでは量り売りが基本)。その結果様々なパッケージが発明されるようになったのですが、当時イギリスは世界最大のスズの生産地であったため、ブリキの「缶」が多く使われるようになったのです。
特に長持ちしやすいもの、また長い期間にわたって外装が必要になるものに缶は向いているため、主にビスケットやクッキー、キャンディーなどのお菓子や紅茶が、缶パッケージの主用途となりました。
この缶は、1868年にイギリスのビスケットメーカーHuntley & Palmersによって作られました。缶がクリスマスと結び付けられるようになったのは、第一次世界大戦中のことです。1914年、当時17歳のメアリー王女(国王ジョージ5世の長女)が、西部戦線で戦う大英帝国軍の兵士にクリスマスプレゼントを贈ることを提案。こうして作られたのが「プリンセス・メアリー・クリスマス・ギフト」と呼ばれる缶の小箱でした。
中には、タバコやライター、鉛筆、チョコレート、キャンディー、そしてクリスマスカードなどが入っていたそうです。
その後イギリスではスズの産出が激減し、缶の人気は衰えます。また第二次世界大戦中には物資不足のため缶はほとんど作られなくなりました。しかしクリスマスの時期にだけは、古き良き時代を彷彿させる缶パッケージの伝統が残ったのです。また、20世紀後半には、この風習はアメリカやカナダにも広まりました。
アメリカにおけるクリスマス缶の現状
今日のアメリカでは、多種多様な商品のクリスマス缶が発売されていますが、やはり伝統的なクッキーやビスケット、お菓子などが最も一般的です。
アメリカならではと言えるのが、ポップコーンのクリスマス缶です。アメリカでは、ふわふわのポップコーンが雪のイメージに似ていることから、冬に食べたり、ポップコーンでクリスマスツリーの飾り付けをすることがよくあります。
缶の中には仕切りがあり、3~4種類の異なる味のポップコーンが入っています。クリスマスシーズンだけで、毎年450万個を超えるポップコーン缶が売れているそう。(参考URL)
クリスマスの缶パッケージがこれだけ人気なのは一体なぜなのでしょうか?その理由は、単なる「包装」の用途を超えた缶の可能性にあると筆者は考えます。
一般的に、消費者が商品を購入する際、目当てとするのは商品そのものですよね。パッケージには、商品を新鮮に保ったり、商品のイメージを伝えたりする機能こそありますが、中身を使い終えたら捨ててしまうのが普通です。しかし、缶のパッケージは違います。以下では、缶パッケージのユニークな特性を見ていきましょう。
①プレゼントとして利用&再利用できる
クリスマスは何と言ってもプレゼントの季節。アメリカ中がショッピングムードになるのもこの時期です。家族やパートナー、親しい友人などには、比較的大きなものを贈ることが多いですが、意外と必要になるのが「カジュアルな」ギフト。パーティーの手土産や職場でシェアするものとして便利なのが、缶に入ったお菓子です。ラッピングに手間をかけることなく、そのまま渡すだけで様になります。
しかし、クリスマス缶がユニークなのは、もらって終わりではないこと。中のお菓子を食べ終えたら、缶を再度ギフトボックスとして再利用できるんです!
例えばこちらのクッキー缶。クッキーの情報は紙ラベルに記載されており、缶自体には商品情報などは一切なし。そのため、中にプレゼントを入れて人に贈っても違和感はありません。
サイズもぴったりで、華やかなデザインのためラッピング不要でお手軽です。重さもあり、しっかりとした作りの缶は高級感を演出することができます。それに何度でも使うことができるため、環境にも優しいギフトボックスと言えるでしょう。
②クリスマス・ストッキング(靴下)に入れるミニギフト
アメリカでは、サンタクロースから子どもに対し、クリスマスプレゼントに加えて靴下にお菓子を詰めて渡す習慣があります。暖炉の上に大きな靴下がかかっているイメージを、皆さんも映画などで見たことがあるのではないでしょうか。
英語では「クリスマス・ストッキング」と呼ばれるこの靴下、実は意外と大きい!そのため、ぱんぱんに詰めるのはなかなか大変です。それに、子どもにあまり沢山のお菓子を食べて欲しくないと思う親も多いはず。そこで活躍するのが、クリスマス缶なのです。
中に入っているのはシート状のガム10枚と、あまり多くはありません。しかし場所を取るため、ストッキングを満たしやすくなります。見た目も可愛く、ガムの持ち運びに便利な缶がついてくるのも嬉しいです。
手のひらに乗る小さめサイズのクリスマス缶が多いのは、ストッキングに入れることを想定しているため。中に入っているお菓子に比べて缶は一回り大きく作られており、簡単にストッキングを満たすことができます。
こちらの缶には、クッキーがたったの1枚しか入っていません!開けると少し残念な感じがするのですが、ストッキングを詰めるのにはぴったり。さらに、近年はお菓子以外のものをストッキングに入れる人も増えています。それに伴い、こんな商品も缶に。
絆創膏も、缶にするとなんだかおしゃれに見えますね。普段だったら絆創膏をプレゼントしようと考える人は少ないと思いますが、このような特別なパッケージに入っていたら、意外とアリかもしれません。
③プレミア感あふれる缶はコレクションに最適
上の写真のように、普段パッケージにほとんど変化のない定番商品も、一年に一度この時期だけは特別な缶を発売します。このため、特に大手ブランドの缶にはプレミアがつくことも。クリスマス缶の中には、コレクションされることを意識したものも多くあります。こうなるともはやパッケージの域を超えていると言えますね。
例えば、スニッカーズお馴染みのブランドロゴ入りの缶は、内容量は同じですが通常の2倍程度の価格です。それでも買う人が多いのは、「1年に1度だけ」という特別感があるからではないでしょうか。この時期だけの限定商品。思わず集めたくなる、かっこいいデザインです。
オレオは、毎年新しいデザインの缶を発表することで有名。そのためコレクターも多く、オークションサイトeBayにはヴィンテージのオレオ缶が多数出品されています。
クリスマス缶の楽しさは、毎年デザインが変わること。「今年はどんな絵柄があるかな?」と、缶目当てでショッピングセンターを周る人も少なくありません。さらに、中身はいつもと同じ商品だからこそ、純粋にパッケージのデザインのみで購入を決定することができるのも、クリスマス缶ならではだと思います。
筆者が地元のリサイクルショップで見つけた、1992年限定クレヨラ(アメリカの大手文房具ブランド)のクリスマス缶。表面にはCollectible Holiday Tinと書かれており、コレクターをターゲットとしていることが分かります。クレヨラ・ベアのクリスマス飾りと、64色入りのクレヨンセット入りです。
④缶を使って自宅をおしゃれにデコレーション
そして最後に、クリスマス缶の大きな特徴は、クリスマスの時期が過ぎても使い続けることができるということです。ギフトボックスとして使われることを想定した缶は、華やかなデザインのものが多くなっています。小物入れなどとして部屋で使うだけで、簡単に自宅をおしゃれにデコレーションすることができます。
貯金箱や植木鉢として使ったり、アクセサリー類を収納したり、常備薬を入れて持ち運んだり、クリスマス缶を自宅で使う方法は無限大にあります。筆者は地元のカフェのお手洗いで、トイレブラシをクリスマス缶に立てて収納しているのを見かけたことがあります。遊び心溢れるデコレーションに、「こんな使い方もできるのか!」と驚きました。
パッケージも主役になることができる
アメリカのクリスマス缶の事例は、パッケージも主役になることができる、ということを教えてくれます。もちろん、パッケージというのは基本的に包装であり、あくまでメインである中の商品を引き立てるのが役目です。しかし、1年に1度だけ、クリスマスという特別な時期に、いつもは見過ごされがちなパッケージに焦点が当たるのは面白いことですよね。
クリスマスがますます大きなイベントになりつつある日本でも、このようなパッケージによるマーケティング戦略を展開することは可能でしょう。また、クリスマスに限らず、パッケージを主役とした商品で消費者の心を掴むことができるのではないかと思います。
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