市場はエシカル&サステナブルへ
毎日の暮らしの中で、自分が口にしているものがどこから来て、いらなくなったパッケージがどこに行くのか。地球全体でそんなことを考えていかなくてはならない時代になりました。
イギリスではパンデミック以降、小さな地域社会に少なくとも1〜2軒の独立系の自然食料品店が元気よく創業し、すでに地域社会の一員となっています。それらのお店がうたっているのは、エコ・エシカル・サステナブル・ナチュラル・オーガニック・プラントベース。ひと昔前なら特別なものだったこれらのキーワードが、現在はブランドを立ち上げる際に欠かせない要素となっています。
背景にはCO2削減目標への対応があり、政府が方針を打ち出してガイドラインを急ピッチで作成していることがありますが、結果的にそうすることが人の健康に不可欠であると誰もが気づき始めているからなのでしょう。
イギリスではその一環として、2022年4月1日から商品パッケージへのプラスチック使用に規制をかける税金が導入されたばかり。このプラスチック包装税はプラスチック包装材の製造業者と輸入業者に対するもので、包装材に対して再生プラスチックを少なくとも30パーセント以上使用すると税金はかかりませんが、でなければ税金を課するというものです。大手スーパーではこの法律を受けて、すでにプラスチック包装材の回収所を設置するなどの対応が取られています。

北ロンドンの庶民的なエリアに、つい1カ月ほど前に誕生したオーガニック食料品店。
商品責任はライフサイクルで
商品の包装材をどのように廃棄すべきか、リサイクルすべきかについては、包装材の製造業者が各メーカーに対して情報提供することが義務付けられています。
ただし、商品メーカーがその情報をどのように消費者に伝えるかについては政府ガイドラインが今のところないので、各メーカーに委ねられているのが現状です。たいていの場合は日本と同様、廃棄情報がマークとしてパッケージに記載されているので、消費者はそれを見て判断するのが一般的。しかしそのやり方も、いよいよ来年から2024年にかけて大きく変わってきそうです。
イギリス政府では現在、パッケージ業者だけでなく商品メーカーに対しても廃棄時のコストを負担するなど商品のライフサイクルに責任を持つよう指導し、2024年頃を目処にガイドラインを適用する予定です。
目標は、包装を必要最低限にすること、パッケージにはリサイクル素材の利用を増やすこと、リサイクルできる素材でパッケージを作ること。
結果として、ゴミを減らしていくことにあります。商品のライフサイクル全般で企業責任が公に問われる世の中になっていくわけですね。

イギリスのリサイクル・マークの一部。万国共通のものもあれば違うものもあります。
サステナブルなパッケージへの置き換え
イギリスの包装製造業は、GDP約1兆7千億円規模の産業です。もともと包装を簡易に済ませる傾向の強かったイギリスですが、4年前から持続可能なパッケージの開発に政府から特別投資がされており、世界のエコ・パッケージ・リーダーとして認識されています。
例えば「London Bio Packaging」という会社はもともと生分解性の高いエコ・パッケージを作っていましたが、政府の投資を受けてバイオ・プラスチック(生物ベースのポリマー)を使った素材や、古いパッケージ(RPET)のリサイクル素材を使った飲食パッケージを開発し、成功を収めています。そして、これは今イギリスで進んでいる持続可能なパッケージ開発のほんの一例なのです。
スーパーなどで見られる商品に話を戻すと、数々のナチュラル系商品ブランドでは早々にエコ・パッケージを取り入れるなど企業努力が続いています。以下、その例を少し見ていきます。
プラスチック包装が一般的なパスタ類ですが、「Biona」という英国企業のようにプラスチックが混在しない紙製の包装を採用している会社も増えつつあります。
Bionaは30年以上前にロンドンで創業したオーガニック食品ブランドの黎明期を飾った会社。今では大手スーパーでもごく一般的に取り扱っています。商品を見せるための窓に透明フィルムを使うデザインは一般的ですが、この商品では生分解性のあるコーンスターチを使った素材を採用。
同じBionaでも、こちらのラザニアのパッケージの窓部分にはプラスチック素材PP5(ポリプロピレンの意)が使われていることが明示されています。紙部分もPAP21(混合紙)であることが明示されています。商品によって素材にバラつきがあるのは、現在どのブランドも代替えパッケージを模索している途上だからだと思います。ちなみにBionaの液状食品は全て瓶詰めされます。
英国発の自然食品ブランド「Easy Bean」も最近、自然食品店でよく見かけます。この豆を使ったスナック菓子のパッケージの底に、リサイクル素材を使用していること、食品を包むフィルムも生分解性があるリサイクル可能な素材であることが明記されています。

この商品はUK初、完全フェアトレードのデリ食品。
Easy Beanのデリ商品はポリプロピレンの容器と再生紙のスリーブから成り、両者ともにリサイクル可能な素材として選ばれています。
一方、ヴィーガン食品ブランド「Profusion」のパッケージはとてもポップでカッコよく、裏側に「リサイクル可能な100%再生エネルギーで作られている」とうたわれているのですが、これが商品のことなのかパッケージのことなのか不明なこと、また商品を見せる窓の部分の素材名が明記されておらず、言葉足らずな印象を受けました。おそらく分別なしに廃棄してもリサイクル可能だという意味だと思うのですが、政府のガイドラインが徹底するに従って、素材明記も進むのではないかと思われます。
バラエティに富むヴィーガン商品
さて、英国内の自然食品市場で今、急成長しているカテゴリーがあるとしたら、それはヴィーガン市場をおいて他にありません。イギリスはヨーロッパ内で最も進んでいるヴィーガン大国の一つで、商品開発も先駆け的なものがたくさんあります。統計によると10代から20代前半のZ世代のヴィーガン率は非常に高く、今後彼らが成長するに連れて、ヴィーガン市場も拡大していくと見られています。
ヴィーガン商品は至るところにありますが、イギリス人の生活に欠かせないのがチョコレート。例えば英国発ヴィーガン菓子ブランド「Gnaw」の包装紙は、そのまま捨てても土に還るコンポスタブル(堆肥にできる)な素材です。

惹きつけられる絵柄の手作りヴィーガン・チョコレート。牛乳の代わりにオート麦ミルクが使われています。
またヴィーガン・チーズの棚は、自然食品店だけでなく通常のスーパーでもかつてなく賑やか。ある程度の高級感を出すためにシールではなく紙のスリーブを付けるのがお約束です。
ロンドン発の「Honestly Tasty」は、商品の鮮度を保つためにリサイクル可能なプラスチック・パッケージを採用。将来的にはさらにサステナブルな素材に移行する考えをウェブサイトで表明しています。
同じくロンドン発ヴィーガン・チーズの「Palace Culture」は、オーガニック認証を得ているナッツを使った商品と明るく楽しいグラフィックが印象的。同じくリサイクル可能なプラスチック・パッケージを採用しており、紙の部分はコンポスタブル素材。ギリシャを拠点にした「VioLife」もプラスチックはリサイクル可能なものを使用しています。

Palace Cultureはこのイラストが特徴

VioLifeでは紙スリーブを留めるのにミシン目のようなデザインを採用しているのが特徴的でした
個人的にパッケージが気になった英国発のヴィーガン・バター「Mergulo」を購入してみました。カシューナッツとココナッツ・オイルを主原料として作られています。
Merguloは紙のボックス型パッケージを採用しているのですが、日本ではあまり見ない展開図ではないですか? バターそのものも薄い紙で包んだりせず、直に箱に入っているところに、イギリス人らしい簡易精神を感じます! お味の方は好みだと思うのですが、柔らかさやテクスチャーは本物のバターには叶わないかな?
環境に配慮したパッケージ
今回のリサーチで気づいたのは、 自然食品店に足を運べば、一見プラスチックのようにも見える商品パッケージ素材も、実は生分解性であったり、リサイクル可能であるものがほとんどなので、安心して商品を購入できるということ。消費者としてはパッケージ素材を調べたりする手間が省けます。
消費者が意識を高め、商品を選んでいくことで、さらに企業も地球環境を汚さない選択をしてくれるのだろうという認識を深めました。これからも消費者として注意深く見守っていきたい領域です。
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