ビジネスパーソンが読むメディア。マーケティング、セールスプロモーション、パッケージの企画・開発に役立つアイデアと最新の情報を、世界中から配信。

イギリス人が愛すスーパーマーケット&パッケージ

英国ブランドの威力:新旧の融合

これからロンドンや英国のパッケージ/プロモーション情報をお届けしていく、ロンドン在住ライターの江國まゆです。

私が20年の間、英国に住んでいていつも感じるのは、「なんて自国ブランディングのうまい国なんだろう!」ということ。英王室、ユニオンジャック、007、紅茶、ビートルズ、ハリー・ポッター、赤い2階建てバス・・・人によってイメージはさまざまですが、こういったパワフルなアイコンを効果的に使って、英国という国を他国にアピールすることに非常に長けていると感じます。

2012年のロンドン・オリンピックの開会式を見れば、一目瞭然ですよね。本物の女王陛下がバッキンガム宮殿を出発し、007のエスコートでヘリコプターに乗って会場に降り立つという演出がなされたのですから! 英国には「これはダメ」というタブーが比較的少なく、クリエイティブなことを自由に形にしやすい国だと思います。

写真: 異なる価値観を持つお互いを尊重する風土が育っているロンドンは、真のメトロポリタン都市。

その一方で、歴史あるものや伝統も、とても大切にします。この点は日本と同じ、いえ、古いものの保護という観点ではある意味で過敏とさえ言えるかもしれません。

例えばロンドンは世界的な先進都市ですが、街の中心部は何世紀も前に作られた建物で構成されています。歴史的建造物は保護指定されると「Listed Building」と呼ばれ、簡単に改築したり取り壊したりすることができない法律になっています。一般住宅でも、このListed Buildingである場合に屋内の構造を変更したいときは自治体に申請し、許可を得なければなりません(許可がおりない場合もしばしば)。

こうして古い建物を守っていくことで街並に重厚な統一感が生まれ、都市のアイデンティティが確立されていきます。このような取り組みは地方自治体が率先しているだけでなく、一般の人も積極的に参加しているように感じます。

写真: ロンドン中心部、ピカデリー・サーカスからのびる目抜き通り。

写真:リージェント・ストリートの街並は19世紀から変わっていません。

例えば再開発の波で公共の古い建物が取り壊されそうになると、すぐさま署名運動が起こって取り壊し差し止め要求が出され、聞き入れられると建物を温存しつついかに現代に沿った利用をしていくかという課題にシフトしていきます。保全のために寄付をする個人や企業も現れます。イギリス人たちは、古い建物が大好きなのです!

というわけで建物の外観は100年以上前のまま、でも、インテリアは新旧折衷(建築当初の特徴を残そうという努力が多くなされます)、水回りや電気系統などは現代仕様というのがロンドンのオフィス、店舗や住宅の特徴です。歴史的建造物の保護はほんの一例で、古く伝統あるものを尊重しつつも、新しいアイデアを積極的に取り入れていくのがロンドン・スタイルと言っていいと思います。相反するものがうまく共存できる街なんですね。

階級とは棲み分けのこと

一見して相反するものが矛盾なく共存しているのは街だけではありません。イギリス人たちの性質も大雑把に言ってそんな傾向にあります。何かにつけエキセントリックだけれど保守的。科学技術の研究は盛ん、でもガーデニングやピクニックなど自然に親しむことも大好き。理論派なのに幽霊には寛容……。

そんなイギリス人が形成する社会は、階級社会であるとよく言われます。ここでの階級社会とは、「クラス=階級」に分かれているという意味です。

写真: かつて庶民の街として知られていたイースト・ロンドン。こちらは日曜日だけ開かれるフラワー・マーケットの風景。ロンドンは全体の地価が上がり、今ではイースト・ロンドンもすっかり高級エリアに。

21世紀にもなって、そんな!?と思われるかもしれませんが、これはもう一昔前の上下関係という意味の“階級”というよりも、生き方・考え方・価値観・習慣の根本的な違い・区別と言い切ってしまってもいいほど、ナチュラルに棲み分けがなされています。その違いは購入するモノや休暇先の選び方、日常的に利用するスーパーマーケットの選び方など、生活のさまざまな場面で見られます。

だから、と言っていいと思うのですが、英国のスーパーはテスコ、セインズベリーズ、アズダ、モリソンズなどの庶民派スーパーマーケットから、ウェイトローズやマークス&スペンサーといった高級志向スーパーまで、ブランド・カラーもさまざま。

写真: マークス&スペンサー(M&S)のマーブル・アーチにある旗艦店。M&Sは食料品だけでなく衣類やインテリア雑貨も充実しており、地元の人から旅行者まで利用客の層もバラエティ豊か。

ミドルクラスのロンドナーが利用するスーパー

ミドルクラスを自認するロンドナーなら、きっと利用するのはウェイトローズマークス&スペンサー(M&S)です。この二つのスーパーの商品パッケージは全般的にナチュラル志向で、素材にはプラスチックだけでなく、紙、瓶やスチールを用い、文字やデザインはあくまでシンプルにまとめたものが多く、上質を演出します。

例えばマークス&スペンサーのスナック菓子の棚を見ると、こんな感じ。すっきりとしたデザインでしょう? ミドルクラスの人びとは、本物&自然派の人が多いからです。

写真: 味もよくてなにかと重宝するM&Sのスナック類。ビスケットの棚も要チェック!

私もマークス&スペンサー(M&S)はちょっと贅沢な日常のおやつを買ったり、日本へのお土産ものを探したりするときに利用します。マークス・スペンサー(M&S)は商品の9割方が自社開発のプライベート・ブランドなので、世界各地のものが何でも手に入る日本(!)の人達へのお土産ものを選ぶとき、とっても重宝するのです。

生鮮食品はあまりマークス&スペンサー(M&S)では買わないのですが、ここの商品棚(ディスプレイ)をチェックするのは大好き。季節によってパッケージデザインが変わる缶入りビスケットや、世界各国の食材がぎっしり並んでいて、ただ見ているだけでも飽きません。

写真: 調理キットから調味料まで、各国の食材がズラリ! この棚を見ているとき、イギリス人女性が店員さんに「日本のパン粉はおいてますか?」と聞いていました。そういえば最近テレビの料理番組で日本のパン粉を使った料理が紹介されていたなぁって・・・。

マークス&スペンサー(M&S)では並んでいる商品を見ても、買い物をしている人を観察していても、明らかにターゲット層はロウアーミドル・クラス以上だと分かります。

その中でも具体的にどういった層かと言うと、「料理をする時間が少ない共働きの家庭」「料理が苦手な独身者や料理に自信のない主婦たち」あるいは「グルメな缶詰やソース類に興味のある料理好きたち」がメイン・ターゲット 。なぜなら商品棚には調理済みの惣菜はもちろん、オーブンに入れて焼くだけ、フライパンで焼くだけの調理済み食品、電子レンジでチンするだけのレトルト食品、出来合いのソースやスープなどで埋め尽くされているからです! 金融街シティにあるマークス&スペンサー(M&S)では、ランチ時間になると惣菜を買い求める人であふれかえります。

写真: 家庭で食べるためにM&Sのレトルト商品を購入する消費者は「ちょっとぜいたくをしている」と認識しているのでは。

こういった消費者層に、もう一つ共通する点があります。それは彼らが英国料理だけでなく、他国の料理にも大きな関心を持っているということです。

面白いと思うのは、英国で階級社会の両端を形成するアッパークラスとワーキングクラスの二層は、食べ慣れた英国料理がいちばんで、よくて親しみのあるフランス料理、あとは簡単なパスタやピザにしか興味がない傾向が強いのに比べて、旅行を何よりの楽しみとしているミドルクラスの人びとは、世界各国の料理に興味津々の傾向にあることです。

M&Sでは、英国風ロースト料理やフィッシュ&チップスはもちろん、イタリアン、インディアン、スパニッシュ、中華、中東、南米、タイやベトナムにいたるまでバラエティに富んだ調理済み商品を取り揃え、ターゲット層の目を引きます。

こういった調理済み/半調理済み食品は、たいてい紙のパッケージでカバーされた長方形の食品用プラスチックトレイに入って冷蔵棚に置かれていますが、常温の棚にも面白い商品レンジがあるのを発見しました。「温めるだけの調理済み食品には罪悪感あるなぁ。ちょっとくらいなら調理してみてもいいけど……」と考える人達が、こっそりと利用しているのかな〜?という楽しげなパッケージのシリーズです。

写真:これだけ豊富な調理キットの開発に力を入れているのは、英国内のスーパーでもM&Sだけ。新商品のフォロワーもいるのかもしれません。

写真:出来上がりのイメージがパッケージに印刷されているので、パッと見てイメージが簡単にできますね。

写真:こちらは南米、メキシコ料理の商品パッケージ。常温の棚だけでもこういった商品がずらりとディスプレイされているとついつい見入ってしまいます。

ターゲットの生活習慣をよく知る商品レンジ

パドタイ・ヌードルやインド料理、メキシコのタコスなど、エスニック料理を簡単ステップで調理できる食材キットです。原色をふんだんに使ったパッケージデザイン、目を引くでしょう? 亜熱帯を思わせるエキゾチックな色合いで、旅行好きでトレンドを追うターゲット層にどんぴしゃアピールします。

どんなお味なのか……牛乳パックのようなパッケージに入ったファンキーなパドタイと、パンジャーブ地方のピラフが簡単に作れるというヒンドゥー語をデザインに取り入れたホットな色合いのキットを試してみました。

まずはパドタイ。こちらはパッケージに2人前と書かれてあったので、大量に調理するのが面倒くさいなと思ったら、ちゃんと1人前ずつ別包装になっていて素晴らしい。願わくば、ピーナッツも個別包装だとよかったのにな・・・なんて(笑)。

写真:パドタイのパッケージ&中の商品。開けやすいパッケージで食べる前に余計なマイナス要因がなかったのも戦略の一つかな。

好感が持てたのは、パッケージの利便性です。商品の取り出し部分のデザイン(機能性)で合わせ部分などがいい加減なことが多い英国のパッケージデザイン事情にあって、かなりきちっと開け閉じができる使い勝手のよい機能性があるパッケージデザインです。また正面には中身が見えるようにタイの仏教寺院の塔を思わせる穴を開けていることで印刷だけではないデザインの演出が施されているのもこのパッケージの憎いところでした。

写真:実際に作ってみたタイ料理の「パドタイ」です。

最初から投入することになっていた海老は 火を通しすぎると固くなるかと思い、別に調理してから後で加えましたが、そのほかはレシピ通りに・・・お味のほうは、完全に現地イギリス人の舌をターゲットにしている!?そして開発に関わっているのもイギリス人だけ!?(笑) 麺がクタクタでソースが甘すぎると感じたのですが・・・。

オプショナルで最後に加えることになっているニョクマムの量を増やし、熱湯に2分浸すことになっている麺も1分だけ浸すことにして、次回は挑戦したいと思います。あ、シャキっと感を出すためにはモヤシも最後に加えないと(笑)。

写真:ピラフのパッケージ&中の商品。こちらも何かを型どったデザイン性のある穴をあけています。

写真:パンジャーブ地方のピラフはなかなかイケました!

難を言うと、全体的に塩気が足りないので、最初に鶏もも肉にスパイスをまぶして焼く際、スパイスの前に適度に塩もしたほうが、よりお味が引き締まるのではと思いました。とはいえ風味豊かなピラフライス、悪くなかったですよ。

今回、初めてこういったキットを使って調理してみて思ったのですが、結局、食材はフレッシュなものを全部用意することになるし、自分で調理するので、「変わった料理を自分で作っている感」は満載です。こういった慣れない料理作りでは調味料の配合がポイントのはずなので、そこを簡単にしているキットだけに、調理が得意ではない人が恋人を家に呼んだときに重宝しそうです ^^

選ぶスーパーで分かるロンドナーの生活

英国には他にも、前述したウェイトローズという高級スーパーがあります。王室御用達で味と品質にこだわりがあるため、ロウアーミドルからアッパークラスまで、ある程度収入のある客層に向けたブランド。チャールズ皇太子創設のオーガニック・ブランド、ダッチー・オリジナルの商品のほか、UKを問わずヨーロッパ各地から一流ブランドの菓子類やお茶、ジャム類を多数扱っている、在英日本人が大好きなスーパーでもあります。

写真: ロンドン北部郊外にあるウェイトローズ。生鮮食品はここで買うと間違いなし。

ウェイトローズがエシカルやオーガニックといった食の安全性やサステナビリティ、実質的な品質に多く気を使っているのに対して、M&Sは高級感を演出しているわりにオーガニック商品は少なく、野菜や果物も見た目重視。あくまで忙しい現代人の利便性に応えることが第一だと感じます。

顧客層はグルメ志向だけれど環境に必ずしも敏感なわけではないのかも。ぜいたくで楽しい気分にしてくれるM&S商品のパッケージ・デザインは、「夢を見させる」ことがテーマなのかもしれませんね。

高級スーパーばかり取り上げましたが、他にも庶民派スーパーのテスコやアズダ、モリソンズなども英国の庶民生活を語るうえではずせません。また機会あれば商品などもからめてご紹介できればと思います。

ロンドナーが好むパッケージ

ミドルクラスの人びとはシンプルで高級感のあるパッケージを好みます。紙や瓶など自然素材を使ったパッケージも、風合いだけでなくリサイクル可能という点でも特に好まれます。またデザインの傾向としては、食品に関しては線画を使ったパッケージデザインが多いように感じます。植物や動物を象った、有機的なイラストを効果的に使うといった感じ。また日本ではあまり見かけませんが、アルファベット文字を組み合わせた手の込んだデザインも、パターンとしてあると思います。

こちらはクラシックなテイストを得意とするロンドンを拠点としたパッケージのデザイン事務所。「Stranger & Stranger」のボトル・デザイン集。

クラシカルな伝統の英国、一癖ある独特のダークな雰囲気を演出するが得意なんですが、「アルファベットを素材としてデザインする」という意味がお分かりいただけるでしょうか。日本では日本酒のレーベル・デザイン(ラベル)は毛筆文字が多いですが、あれとはちょっと違いますよね。

ワーキングクラスの人びとは、プラスチックのパッケージなども特に気にせずお得なものを購入していると思います。
パッケージデザインも一目を引く色を多用した分かりやすいもの。典型的なのは、人気定番スナック菓子のお徳用袋などですね。

ちなみにユーザビリティという意味では、通常のプロダクトのパッケージは機能性においては日本に比べて何年も遅れていると感じます。イギリス人は一般的に言ってさほど手先が器用ではないのですが、デザインはまったく別として、機能性の高い「開けやすい箱」「きちんと閉まるお菓子のパッケージ」といったものには、めったに出会えません・・・。

▼パケトラおすすめの関連記事

思わずコレクションしたくなる、ロンドンの紙製パッケージ

コスメ・パッケージ、ロンドンではどんな傾向が主流?

このライターの記事

Top